花を楽しむことがウェルビーイングの向上につながるのはなぜ?──LiLiCoさん・幸福学研究の前野隆司さん対談【前編】
花を部屋に飾ったり、贈りあったりすることで生まれるハッピーな感情に、覚えがある人も多いのでは? 実はウェルビーイング(well-being:心、体、社会生活が充足した状態を表す概念)の観点からも、花の持つ力が注目されています。
今回は、家には必ず花を飾っている、というほど花を愛するLiLiCoさんと、日本における幸福学(well-being study)の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司さんの初対談が実現。テーマは、「お花とウェルビーイングのいい関係」です。
花とウェルビーイングの意外な関係
──前野先生は幸福学をご専門として、長年発信されてきましたが、その中で花とウェルビーイングの関係について触れたことはありますか?
前野:実は、初めてなんです。花に限らず、自然と触れる人は幸せだという研究はたくさんあるんですよ。自然を感じられる公園を散歩すると幸福を感じられる、また、自然が溢れた地域に住む人は幸せだ、という研究結果もあります。
前野:また、花を贈る行為は「人を喜ばせてあげたい」という思いからくるもので、幸福の要素である「利他性」も網羅していますね。
恋愛のような、人と人との出会いを仲立ちする場所にも使われることがありますから、ドラマチックで素敵なイメージが掻き立てられます。
LiLiCo:わかります! 花によって、日常の中にドラマが生まれる感じがするんです。もう20年以上前のことですが、一緒にバンドをやっていた男性の友達とご飯を食べることになって、なんの恋愛感情もなかったのですが、会った瞬間に「今日よろしくね」と花をくれたんですよ。「この人、すっごく素敵!」と感動しました。
あの時、ドーパミンとかオキシトシンとか、いろんなものが放出されてたんじゃないかな。今でも忘れられないエピソードです。花って、記憶に残りますよね。
花は自分のメンタルのバロメーターにもなる
LiLiCo:私が育ったスウェーデンの家には大きな庭があって、野菜や花が育っていたのですが、小さい時にはそこから季節を感じていました。クロッカスが出てきたら「春が来たな」とかね。親がそういう機会を与えてくれたのはとても有難いことだと思います。
前野:僕は、実は写真が趣味なのですが特に花を撮るのが好きで、花好きの母から影響されたのかもしれません。僕が幼い頃、母は100種類以上の花を庭で育てていた時期もあって、それらを切ってきたものが家に飾られているのが自然でした。今でも、自分の家の庭や、近所の遊歩道などでよく花を気にかけています。
LiLiCo:道端の花からもたくさんの気づきがありますよね。道を歩いているときに花を見て「綺麗だな」と思えなかったら疲れてるってことで、自分のメンタルのバロメーターにもなる。花って本当にいろんなことを人間に教えてくれるような気がしています。
映画『ミッドサマー』で一躍有名になったスウェーデンの夏至祭で、人々が花冠を被るのは、花が人間に幸せと知恵を授けてくれるという考えがあるからなんです。
「謙虚さがいきすぎて自信喪失」になりがちな日本人
──LiLiCoさんの出身であるスウェーデンは、幸福度が高い国として知られていますね。日本は最近、徐々に順位をあげてきていますが、依然として低いままです。前野先生は幸福度の国際比較をどうご覧になっていますか?
前野:日本人の幸福度が低い理由は二つあって、一つは、アンケートという形式で調査をしているから。個人主義の欧米の方は強気に答える傾向があって、「10点満点中いくつか答えてください」と聞かれるとけっこう高い数値をつけるんです。一方、日本を含む東アジアの人々は低めに点数を出します。よく言えば謙虚とも取れる特性です。
ただ二つ目のポイントは、(日本人の)自己肯定感が低いということ。「あの人と比べて自分は……」と他者と比較しがちで、謙虚さがいきすぎて自信喪失になってしまってるんですね。
私が幸福の四つの因子と呼んでいるのが、①「やってみよう」因子、②「ありがとう」因子、③「なんとかなる」因子、④「ありのままに」因子ですが、日本人は特に③と④が弱い。人の目を気にせず自分らしく生きるというのが難しいんでしょう。「人と比べない」ということも、幸福のための大切な要素です。
──幸福学についてお話を聞けば聞くほど、その大切な要素をLiLiCoさんはまさに体現されている気がしますね!
LiLiCo:日本は人と比べがちで「出る杭は打たれる」文化ですが、私はとにかく、やりたいことをやらずに死ぬ前「あれをやっておけばよかったな!」と後悔する人生が絶対いやなんです。洋服のブランドや雑貨のセレクトショップをやったり、プロレスデビューしたりしてると、「LiLiCoさんってどこに向かってるんですか」って本当に聞かれます。「やってみたら失敗した、でもやってみてよかった、万歳!」のポーズのまま棺桶に入りたいですよ。全長2m50cmになるので、特注の棺桶も作ります(笑)。
世間や他人の目に縛られてしまって、やりたいことができないという人も多い気がします。でもね、日本も変わってきています。一番嬉しいのは、ここ5年くらいでベビーカーを押す男性をたくさん見かけるようになったこと! 子育ては女性だけの仕事じゃないって、街を歩いているだけでもわかるようになりました。
日本で男性の方が幸福度が低いのはなぜ?
前野:幸福度に関する調査でいうと、日本は男女の幸福度の格差が大きいことでも知られています。女性の方が高いんです。
LiLiCo:えっ、そうなんですか!? 面白い結果ですね。
──男性優位な社会なのに男性の幸福度が低いとは皮肉なことですね……。
前野:男性だからこそ強いられる規範意識や、働き方の問題と深い関わりがあるのでしょう。ただしLiLiCoさんがおっしゃっているように、徐々に変化してきてはいます。企業に定年まで滅私奉公するのではなく、ベンチャーを起こしたり、Iターンしたり、農業を始めたり、これまでにない働き方を実践する男性たちが増えてきている。日本はとても変化がゆっくりなのですが。
LiLiCo:でも変わる勇気を持つことは大事ですね。
──男女のお話で思い出されたのですが、花の国日本協議会[1] で推進している、バレンタインに花を贈ろうという「フラワーバレンタイン」の企画で、いろんな方のSNS投稿を拝見していた時、父親が母親に花を贈っている様子を見た娘さんが「うちのパパやるじゃん」と誇らしげに投稿が印象的だったんです。男性は、特に年配の方ほど花を贈ることに照れてしまう人が多い中、これは素敵なエピソードだなと。
前野:恥ずかしがって渡すのがまたいいのに(笑)。
LiLiCo:そういえば、うちの主人は外でめちゃくちゃ私の話をするらしくて、よく「ずっとLiLiCoさんの話してますよ」って言われるんです。でも私の前では何も言わないから、なんで? と本人に聞いたら「照れくさいから」って。
その照れくさいという小さな気持ちのせいで日本の男性は50%くらい奥さんの信頼を失ってますよ!(笑)照れくさいだけで大切な気持ちを伝えるチャンスをふいにして、「自分を止めてる」だけですから。
前野:コミュニケーションに苦手意識がある男性こそ「花に語ってもらう」というアクションにチャレンジしてみて欲しいですよね。欧米の男性の方が気軽に花贈りを楽しんでいる印象がありますが、どうでしょう。
LiLiCo:楽しんでると思いますよ。六本木で外国人の男性が花束を抱えて歩いているのなんか見ると、「ああ、これから誰かに会うんだな!」って、私には全然関係のない人なのに素敵なものを見せてもらったことが本当に嬉しくて。隠し撮りしたいくらい微笑ましい気持ちになっちゃいます。
後編では、花が暮らしの中にもたらしてくれる効用をより深く紐解いていきます。生活に花を取り入れる際のアドバイスや、自己肯定感との意外な相関も?
〈企画・編集〉南麻理江(湯気)
〈インタビュー・テキスト〉清藤千秋(湯気)
〈撮影〉丹野雄二
〈協力〉パーク・コーポレーション、芽inc.、花の国日本協議会