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「何のための研修か」を問うためのインストラクショナルデザイン

最近、研修設計に関する興味深い動画を見ました。動画は2019年のLearning technologyというイベントの講演動画で、プレゼンテーターは研修コンサルタントで、人材育成に関する書籍の執筆・講演を行っているキャシー・ムーア氏です。Action Mappingという、企業内の職場における課題解決と人材育成を直接的に結びつけるためのインストラクショナルデザインモデルの提唱者でもあります。

この動画は、フィンランド在住のインストラクショナルデザイナーの友人から、「企業内の人材育成を検討する上で、興味深い洞察に満ちいている」と、確か1年くらい前におしえてもらったのだけど、なかなか時間がとれず、見れないままとなっていました。先日、遅い夏休みをいただいて時間ができたので、やっと見ることができました。

いくつか興味深いと思った点があったので、紹介しようと思います。

クライアントから「研修をやってほしい」というオーダーから始まる仕事はたいてい失敗する

キャシー氏はインタラクティブに、聞き手に問題を提起しながら、講演を進めていきます。なかには、いわゆる「吠える」ような、刺激的な問題提起も含まれますが、例やたとえが豊富で話には説得力があります。

問題提起の一つに、「クライアントはたいてい研修をやってほしい」というオーダーをしてくるが、その結果どうなるか?、というものがありました。このオーダーに基づいて行った研修は、たいてい退屈で、時間の無駄になるだろうと、彼女は指摘しています。

クライアントは知識を受講者に授けてほしいと依頼してきます。たとえば、会社の方針が変わるので、あるいは会社でこうしたことが問題になっているので、手順や知識を社員へインプットしてほしいと依頼してきます。

この方法は大人に対して適切な方法なのでしょうか?

確かに、子供であれば、情報を整理するスキルや具体的な事例とひもづけるほどの知識がなかったり、得た知識をどこで使うのかというイメージがなかったりするため、教師が子供を適切な方向へ導いてあげることができるようにたくさんの働きかけをする必要があるかもしれません。

しかし、大人はどうでしょうか? 大人は、きちんとリソースを提供すれば大抵の情報は読めばわかります。また、職場という、得た手順や知識を活かすフィールドも持っています。

そうだとすれば、知識のインプット、いわゆる「研修」のデザインよりも、

・職場の何が問題か? 経営はどこへ向かうのか?
・そのためにいまの職場で足りないことは何か? どんなパフォーマンスを期待するか?
・その達成を正しく導くために、どんなフィードバックの機会やリソースを提供すべきか?

等といったような「職場で学べる環境」をデザインしていく必要があるのではないでしょうか。

キャシー氏は平易な言葉で語りますが、そうした目からウロコの問題提起を行っているように思いました。

問題からぶれない本質的な視点

もう一点、キャシー氏の講演から私が学んだことは、解決すべき問題からぶれないようにするということです。

研修では、たいてい合格基準が定められています。研修にもよりますが、確認クイズで80%以上というものが多いのではないでしょうか。このテストに合格すれば、受講者は目標に達成したとみなし、研修の「修了」を認定するといった場合もあるようです。

しかし、キャシー氏は問いかけます。テストやクイズで測定できるもの/ しやすいものだからという理由で、研修のゴールと設定してはいないでしょうか?と。

研修が職場の問題解決を志向するものであるとすれば、On the jobの成果がどう変化したかに着目する必要があります。

確かに、仕事の成果を検証することは容易ではありません。関連部署にパフォーマンスデータの取得を依頼する必要があったり、そうしたデータが可視化されていなかったりする場合もあります。もし取れていないようであれば、職場の上長、あるいは受講者本人にインタビューやアンケートを行うなど、手法を工夫して、職場での問題が解決したかをみる必要があります。

キャシー氏は、問題の設定と、それが解決したかを検証することにより焦点を当てるよう提案しているように思います。

「研修」設計に求められるパラダイムシフト

ここまでのポイントは以下の2つです。

・知識のインプットは大人相手の場合、そこまで力を入れる必要があるのではないか。取り組む理由が明確でリソースのありかさえわかれば、自分で学ぶ
・職場の問題が解決したかをしつこく問うていく。測定しやすい知識テストではなく、職場のパフォーマンスを最終成果とすべきである。

これまでの研修が、知識を効果的、効率的、魅力的にインプットさせるための講義の提供ややアニメーションなどがこりにこった研修コンテンツの制作に相当な時間をかけていたとしたら、その時間を大幅に削減しましょう。そのかわりに、職場における問題の特定と、既存のリソースを含む介入策のコーディネート、問題が職場の実際の環境で解決されたかといった評価といった、より大きな枠組みづくりに時間を割きましょうと提案しています。

これによって、職場に貢献するための研修という位置づけを明確にする効果が期待できるように思います。一方で、これまでの研修担当者の仕事が、研修コンテンツの配信を旨とする、いわゆるトレーナーの仕事が中心であったとすれば、あるいは、年間計画に沿って研修を回すのが主な業務だったとすれば、大きな変革が迫られるでしょう。

まとめ

キャシー氏の講演動画に触発されて考えたことをまとめてみました。キャシー氏は「Map it」という、彼女が提唱するインストラクショナルデザインモデル、Action mappingの手法をまとめた書籍も出版しています。

今回まとめたような職場の課題からぶれずに人材育成施策をデザインするためのノウハウや 研修の戦略を練るための手法が、具体的に説明されており、いつか訳してみたいなと思う本の一つです。

また、機会があれば、この本の内容やAction mappingの手法も紹介してみようと思います。




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