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安倍元首相銃撃事件の衝撃 揺らぐ社会を救う「言葉」の力|【WEDGE OPINION SPECIAL INTERVIEW】

コロナ、戦争、安倍元首相への銃撃事件……。誰もが不安を感じざるを得ない今、私たちに必要なこととは何か──。日本思想史が専門の先﨑教授に聞いた。

先﨑彰容(Akinaka Senzaki)
日本大学危機管理学部 教授
東京大学文学部倫理学科卒、東北大学大学院博士課程を修了。フランス社会科学高等研究院に留学。専門は日本思想史。著書に『違和感の正体』、『バッシング論』、『国家の尊厳』(以上、新潮新書)の三部作が話題に。


編集部(以下、──)安倍晋三元首相が銃撃され死亡する事件は、国内のみならず世界にも衝撃を与えた。事件をどう受け止めているか。

先﨑 まず言えることは、今回の事件は、一国の権力の座にいた人の暗殺事件で、歴史の教科書にも将来載るであろう出来事であり、時代全体の雰囲気を大きく変える可能性があるということだ。

 在任日数からも明らかだが、間違いなく一時代を築いた人で、安倍元首相を批判することで言論が成り立ったこともあった。人物像については、評価の明暗がくっきりと分かれるが、私は良くも悪くもカリスマ性があり、ひとつの価値基準をつくった「辞書」のような存在であったと考えている。また、日本にとって〝軸〟となる人であり、居ることが当たり前という存在だった。そのため、居なくなることで不安を覚えた人も少なくないのではないか。

──事件が発生した社会的背景をどのように捉えているか。

先﨑 近年の時代の流れを整理しながら、どうしてこのようなことが起こったのかを考えたい。

 この数十年間、日本社会は長期的・慢性的な不況に陥っており、多くの国民は「給料が上がらない」「生活が苦しい」などの不平不満を感じていた。そこに到来したのがコロナ禍だった。度重なる外出自粛要請によって、人々の接触機会が奪われた。さらに、感染者数・重症者数・死亡者数を連呼し、恐怖を煽るかのような報道を毎日のように見せられた。いわば、国民は、「日本国という一室」に閉じ込められ、逃げ場のない中で、日々「感染者数パワハラ」を受け続ける状態が続いた。

 この状況に追い打ちをかけるように今年2月にはロシア・ウクライナ戦争が勃発した。これにより、日本人が長年考えたくないものとして目を背けてきた「戦争によって人を殺める」といったことがリアルな形で突き付けられ、さらなる不安にかられると同時に、戦争というものが現実味を帯びた危機として、眼前に広がったのである。

──歴史という時間軸の中で、現代社会と類似している時代はあるのか。

先﨑 現代は、……

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