次なる技術を作るのはGAFAではない|『WIRED』誌創刊編集長 ケヴィン・ケリー
私が未来の技術として最も注目しているのは自動運転だ。ただし完全な自動運転社会が実現するにはまだ20年以上は必要だろうと考えている。そこに至るには長くじっくりとしたプロセスが必要だからだ。
ウェイモ(グーグルの自動運転部門)が現在、自動運転では先行しているといわれる。自動車そのものを自動で走らせる技術はすでに存在するだろう。しかし、社会の中で自動運転を実現していくには、道路インフラそのものを作り替えていく必要がある。車のレーン、信号、自動運転タクシーのピックアップエリアなど、なすべきことは多い。
次の新しい技術を作るのは無名のスタートアップ
私は常々、次の時代を作る新しい技術はGAFAではなく無名のスタートアップから起こる、と主張している。GAFAそのものが古い技術や企業を変革するものだったが、巨大になればなるほど斬新な変化には対応しにくくなるためだ。
それは、自動車業界を見れば明白だ。新興企業であるテスラが今や電気自動車(EV)の中心になりつつある。中国では格安で性能も良いEVが作り出されている。こうした波に、既存の大企業が飲み込まれていくかもしれない。
話題の「メタバース」についても同じことが言える。フェイスブック(現メタ)が事業としては初めて参入したが、メタが行うメタバースが全体を席巻することはないだろう。パイオニアであってもメタバースの覇者にはなれない、というのが私の考えだ。
私が注目しているのは、AR(拡張現実)を使い、現実世界の上に仮想の情報空間を重ねていく「ミラーワールド」の存在だ。例えば、何かの製品をAR用のサングラスなどを通して見たときに、その製品情報が目の前に現れる。生産地、価格、素材、などさまざまな情報を瞬時に確認できる。
対人であっても、その人の名前、略歴などが見られるようになるかもしれない。他人に対して自分の情報をどのように公開するかにより、デジタルツインという概念にもつなげることができる。
個人的にはVR(仮想現実)を使ったメタバースよりも、こうしたミラーワールドの方が先に到来するし、広く普及するのではないか、と考えている。
もちろんメタバースそのものがまだ生まれたばかりの概念であり、定義も定まっていない部分がある。没入型のゴーグルを使ったVR空間のままでは多くの人をそこに引き寄せることは難しいが、ARと組み合わせて日常生活の中にメタバースの概念を持ち込む、つまりミラーワールドとのハイブリッドのようなものが生まれるかもしれない。
いずれにせよ、自動運転、メタバース、ミラーワールドといった新しい技術の普及にはまだ時間がかかり、それを一気に実現に向かわせるためには、今はまだ存在しない画期的なブレークスルー技術が必要になる。
次のiPhoneのような、世界を一気に変えるような新しい技術は、中国から生まれてくるのかもしれない。それは中国で次々に新しい企業が生まれ、新しい技術に挑戦し、今や世界の製造業の中心になりつつある、という事実から推測することだ。
だからといって既存の企業が駆逐されるわけではないし、GAFAはそれなりに大きな影響力を持つものとして残るだろう。しかし、現在のようなGAFAによる富の独占状態がそれほど長く続くとは考えていない。自動車業界においてGM、フォード、トヨタといった大企業が新興勢力に押されているように、やがて生まれる新しい技術によりGAFAもその地位を脅かされる時代が必ずやって来るだろう。
人の多様性がイノベーションを生む
GAFAはシリコンバレーから生まれたが、シリコンバレーの強みとは世界中から優秀な人材を集め、有用した結果だと言える。特にインド、中国などから高い技術を持つ人材を集めている。
移民を受け入れることで考え方などの多様性を高め、それぞれの文化を融合させることによりイノベーションを生み出すことに成功している。
同じ流れが中国の深圳でも見られる。中国は他国からの移民を受け入れているわけではないが、中国そのものが巨大な多言語コミュニティの集団とも言え、地方が違えば言語や風習も全く異なる。
深圳は完全に産業目的で新しく作られた都市であり、そこには全土から優秀な人材が集まっている。シリコンバレーと同様に多様性があり、それを集約することでより効率的な生産技術のイノベーションが生まれているのだ。
東京だけでなく、日本全体をイノベーション・ゾーンに
では、移民を受け入れておらず、単一民族国家の日本が今後イノベーションに取り組むためにはどうすれば良いのか?
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