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「切り捨てた何か」で作り出された非情の世界。あいみょんは逃げない

くりかえされる、何度も

「切り捨てた何かで」

手に入れた何かでも、拾い上げた何かでも、掴み取った何かでも、掬い取った何かでも、握りしめた何かでも、抱きしめた何かでも、集めて、積み上げた何かでも、作り上げた何かでも、見つけ出した何かでも、探し当てた何かでも、目にすることができた何かでも、耳にすることができた何かでも、出会うことができた何かでも、すれちがうことができた何かでも、思いがけなく再び出会うことができた、何かでも、なく。そうではなく、そうしたことではなく、そうしたものではなく、そうしたものごとでもない、何か。

捨てた何か、それも、「切り捨てた何か」で作られた「今」

わたしたちから切り離されたもの、世界から切り離されたもの、わたしたちから、世界から、切断され失われ棄てられたものたちによって生まれた「今」。わたしたちの今。その避けようのない痛み。必死に両手でその傷口を押さえようとも、その指の間からとめどもなく血が滴り落ちる今。切り捨てることによってしか得られることのない今。傷つけられなければ何かを失わなければ、手に入れることができないわたしたちの今。

その非情の世界

あいみょんの「さよならの今日に」が聴く人の魂を激しく強く揺さぶる理由は、わたしたちの世界の残酷なまでの非情さに、真正面から体ごとぶつかって行くリリックとメロディにある。あいみょんは目を背けない。あいみょんは見て見ぬふりをしない。あいみょんは耳をふさがない。あいみょんは振り返らない。あいみょんは顔を上げ前を向く。決してあいみょんは逃げない。

全てを切り裂く剃刀の疾風が渦を巻き吹き荒れる非情の世界の中で、「もう一度」の我が儘も情けも言わないと、それをきっぱりと拒否し、あいみょんは、「それでもどこかで今も求めているものがある」、「それでもどこかで今も望んでいる事がある」と繰り返す。今も求めて望んでいると、今も希望を求めていると、叫ぶ。切り捨てることによってしか、今がありえない世界だとしても。それでもと。そんな今の中で、「伝説のプロボクサー、謎に満ちたあいつ」、「不滅のロックスター、永遠のキング」の姿を思い浮かべながら。

明日を生きるために、明日を乗り越えるために、求めているものと望んでいるものを掴み取るために、終わってしまった今日にさよならを言う。さよなら切り捨てたものたちよ、さよなら今よ、さよなら今日よ。さよなら。

「さよならの今日に」

2020の絶望と暗黒の混沌の時間を私が生き延びることができたのは、この歌が存在していたからだ。何回聴いたのか。何度も何度もリプレイしこの歌のリリックとメロディを私の体に沁み込ませることで、私は辛うじてこの世界の混沌の濁流に押し流されることなく、この世界にしがみ付くことができた。

ありがとう、あいみょん、ありがとう

こころからの感謝と尊敬とオマージュを込めて、虚栄と夢と悪夢の街、渋谷の解体と再構築の光景を背景にして歌う、あいみょんの勇姿の動画をここにリンクすることにする。その戦う姿をこころに刻印するために。


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