シンガポール放浪記① クラークキー
シンガポールには、クラークキー(Clarke Quay)という街がある。
島内No. 1のパーティースポットで、ジャズミュージックの生演奏が聴けるパブからクラブ、居酒屋まで、様々な形でお酒を楽しむことができる。煌びやかなネオンの明かりから鳴り響く音楽まで、全てが人々をスーパーハイにすることに全力である、そんな場所。
そんな華やかなクラークキーで、はるばる日本からやって来た友達とお酒を飲む。勢いに任せて2人なのに3リットルのビールタワーを注文し、楽しかったのは最初だけで、ビールの無言の圧力と途方もない量に少し後悔する。
お腹が苦しくなったからお店を出て、街を歩く。シンガポール川にまたがるリードブリッジの上。路上ライブの音を背景に、柵に登っておしゃべりする。オアシスのDon't look back in angerをリクエストすると快く歌ってくれて、その即興ぶりと、ひとつの曲がいとも簡単に見知らぬ私たちをつないだ事実に感動する。
思い出に残そうと言ってふざけてラジオ収録という名の会話の録音を始める。お酒とラジオという建前のおかげで、ちょっとくすぐったくなるような話だって普段よりも自然にできる。需要と供給が気持ち良いくらい一致した結果、いつもは相手にしないような道を彷徨うおじいさんから、2ドルでポケットティッシュをいくつか買った。前を横切る日本の大学生みたいな男の子たちは泥酔していて、見知らぬ私たちを相手に長く付き合った彼女と別れてつらいんだという失恋話をこぼしている。
おしゃれなバーか、もしくはパリピなクラブを求めてやって来たのに。結局落ち着く先は外にむき出しになった橋の上だ。高級なイタリアンよりも大衆居酒屋でデートしたいように、おしゃれカフェで綺麗に盛られたランチプレートよりも焼肉食べ放題やラーメン屋の炒飯セットにそそられるように。結局どこにいたって何をしたって、私の感性は形を変えて存在し続けている。
誰かが言う良いものではなく、お金が語る価値ではなく、自分が楽しくて心地良いと思えるもの。大切にしたいと思えるもの。もしも何年後かにとんだお金持ちになったとしても、そんな感性を持ち続けられていたらいいなと願う。
おじいさんから買ったポケットティッシュ
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