見出し画像

【短歌】サーバールーム

幾重にも人拒む扉越えて入る サーバールームと黄泉との近似

サーバーのファン一斉に回る音の パイプオルガンのごとき荘厳

一日ひとひごと濃くなる皆の無精ひげ 新システムは今日も荒ぶる


ITエンジニア、それも直接サーバーを触るポジションでなければ出入りすることが基本ない場所、データセンターのサーバールームについて詠んでみたIT短歌+川柳っぽい短歌です。
ちょっと状況がマイナーなので、解説を入れてみます。


幾重にも人拒む扉越えて入る サーバールームと黄泉との近似

データセンターは、建物が丸ごと「人間用」ではなく「サーバー用」なので、色々と人間には過酷な環境となっています。具体的には「建物に窓がない」「椅子がほとんど存在しない」「足元から常時風が吹き上げてくる構造で、人間には寒い」などなど。フロアを出ればトイレや自販機、休憩スペースなどもあったりしますが、サーバールーム内はサーバーに必要なもの以外は照明ぐらいしか存在していないので、人間目線ではあり得ないほどの無機質・殺風景な空間が延々と広がっています。

中に入るためのセキュリティも非常に高く、事前に大量の申請書を提出した上で、警備員による何重ものチェック、金属探知機などの検査、更に何重ものオートロックのドアを通過しなければ、目的のサーバールームまで到達できないように作られています。

大量のサーバーがひしめいているために轟音や圧迫感も凄まじく、システムエンジニアとして初めて行ったときには「人間がいていい場所ではない」と怖さを感じるほどでした。その時の感覚を思い出して詠んだものです。

サーバーのファン一斉に回る音の パイプオルガンのごとき荘厳

すぐ隣で一緒に作業している人と会話をするにも、声を張り上げなければいけないほど、サーバールーム内は基本的に轟音です。びっしりと立ち並ぶサーバーラックのファン、室温を20℃前後に保ちつつサーバーを冷やすための空調の送風など、音を出す機構が大量にあるにもかかわらず、人間がいない前提なので「音を抑える」構造が全くないためです。

慣れない内は、この圧倒的な「ゴー」という音を怖くも感じましたが、慣れてくるとサーバー一つ一つのファンの音、それぞれの音程が微妙に異なる事に気付き、パイプオルガンみたいだなぁ、などと思う余裕が出来ました。

一日ひとひごと濃くなる皆の無精ひげ 新システムは今日も荒ぶる

新しいシステムには、とにかく障害がつきものです。システムエンジニアにとって、システムのリリース日は「〆切」であると同時に、そのプロジェクトにおける「最後の修羅場の幕開け」でもあります。

男性が9割以上を占める職場だったので、修羅場度合いを最も如実に示すのは、みんなの無精ひげの長さでした。帰宅できない、辛うじて帰宅できても、寝て起きて再び出社するのが精一杯で、髭を剃るまでの余裕はない。そんな環境で、化粧をしないのがデフォルトだった私は「男の人ってヒゲ剃らなきゃいけないの大変だよな」と、他人事のように眺めていました。
生理痛の時は逆に「男は良いよな男は!!」とキレていたので、そこはお互い様なのですが(笑)。

今はIT現場でも、当時ほどブラックな環境ではなくなってきている……とかつての同胞たちのために信じたいですが、きっと今も新システムは荒ぶるもののはずです。「システム障害」という単語を見かけた時は、どうかその言葉の裏で、大量の屍と化しているはずのSE達の冥福を祈ってやって頂ければと思います。みんな頑張れ、生きろ。


以上、システムエンジニア時代の話を記事に書いていて思い出した、IT短歌3首でした。
読んで頂けてありがとうございました!


この記事が参加している募集

今日の短歌

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?