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サンテグジュペリ『星の王子さま』を原文で読む(8)

BONNE ANNÉE 2022 ! 大変遅くなりましたが、皆さま新年あけましておめでとうございます。後厄年の御払いもすませ、今年は心機一転、より面白く勉強になるお話をお届けできるように頑張ります。

大きな砂漠の真ん中で出会った男の子はいったい何処から( d'où ) やって来たのか、主人公のパイロット(作者つまりサンテグジュペリの分身です)は気になります。と、男の子は砂漠に不時着した飛行機を見て、これは何、と話しかけます。

-Qu'est-ce que c'est que cette chose-là ?  -Ce n'est pas une chose. Ça vole. C'est un avion. C'est mon avion. / Et j'étais fier de lui apprendre que je volais. Alors il s'écria : -Comment ! tu es tombé du ciel !  -Oui, fis-je modestement. -Ah ! ça c'est drôle ! ...

(日本語訳)ーここにあるものは何? ーこれはものじゃないよ。これは飛ぶんだ。これは飛行機だよ。ぼくの飛行機だ。/ 彼(男の子)に自分が空を飛んでいるんだと言うのが、私はとても誇らしく思えました。すると、彼(男の子)は大きな声でこう言いました。ーええっ!おじさんも空から落ちてきたんだ!ーまあね、そう私は謙虚に答えました。ーああ、おかしな話だなあ!

冒頭のQu'est-ce que c'est~? は、「これは何だ」の意味ですね。さらにqueで後に続けて、que以下の物はなんだ、という意味の構文になっています。「もの」を意味するchoseの後に来る -là という言葉は「この」という意味で、ここでは近くにあることを強調するのに使います。要するに、男の子の指すものがすぐ目の前にあるからですね。j'étais fier de étre fier / fière de の一人称半過去形で、「わたしは(~したの)が誇らしかった」という意味になります。あと主人公が男の子の言葉に答える時にmodestement (謙虚に)という副詞がわざわざ使われているのは、実際に操縦に失敗して不時着したので、自分も空から落ちたことを素直に認めざるを得なかったからでしょう。

王子はたたみかけるようにこう尋ねます。

-Alors, toi aussi tu viens du ciel ! De quelle planète es-tu ? / J'entrevis aussitôt une lueur, dans le mystère de sa présence, et j'interrogeai brusquement : Tu viens donc d'une autre planète ? / Mais il ne me répondit pas. ... Il s'enfonça dans une rêverie qui dura longtemps.

(日本語訳)ーじゃあ、おじさんも空から来たんだね!どの星から来たの? / それを聞いた瞬間、いったいこの子が何者なのか、私ははっと気づきました。そしてすぐ、私は彼にたずねました。ーじゃあ、君はほかの星から来たのかい?/ けれども、彼は答えませんでした。(中略)彼(男の子)は、そのままずっと考えこんでいました。

実はこの文章には訳すのが難しい部分があります。まず二行目の  dans le mystère de sa présence は直訳すると「彼(男の子)の存在の謎の中で」、最後の行の  Il s'enfonça dans une rêverie qui dura longtemps. は「彼(男の子)はそれからずっと長く続いた夢想にふけった。」という意味になりますが、日本語として通りの良い文章に直すためまず前者は「彼の存在の謎中」という意味を「この子が何者かわからずにいた」と解釈し、後者は「長く続いた夢想にふけった」を「そのままずっと考えこんだ」と書き直して訳すことにしました。このようにフランス語には、名詞を主に使う表現や日本語に直すと詩的 ( poétique ) に過ぎる表現などが多いので、そのままでは読んでいて意味が取れない場合もあります。その時は前後の文脈から意味を考えるしかありません。なお、台詞以外の地の文では、動詞はすべて単純過去で書かれています。entrevis, interrogeai, répondit, s'enfonça, dura はそれぞれ entrevoir(かいま見る)、interroger(質問する)、répondre(答える)、s'enfoncer(入り込む、夢想にふける)、durer(長く続く)という動詞の一人称単純過去です。

ここで男の子が宇宙人であること、つまり他の星から来たことが判ってしまうのですが、男の子(星の王子さま)はそれまで無邪気に口をきいていた時とは打って変わり、急に口をとざして考えこみます(これが主人公の眼には rêverie のように見えたのです)。これは一体、何を意味しているのでしょう?

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