草加蓮

中学校のサッカー部顧問をやっています。モットーは、人間力を高める部活動!

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1章8節 本物と偽物

運動会までの日々はとても濃密だった。まず、学校行事の裏側でどれくらい教員が黒子として動くのかが、少しだけわかった。主になるのは体育科の浅岡と下田、そして敦の同期の本田である。だが例えばきちんと整列しろとか待機場所では黙れとか、そういったことはその場にいる教員の対応に任されていた。そしてその場で動けない教員は使えない、とレッテルを貼られていった。 全体練習の日のことである。敦が副担任で入っているクラスの担任を務める加藤は日差しが強いせいか、つばの広い帽子を被って日陰に座ってい

    • 1章7節 応援団の担当になる

      敦が移動教室の実地踏査から戻るとすぐに、運動会の準備が始まった。教員にも色々な仕事が割り振られ、敦は応援団の担当になった。 「今年は俺が主でやるけど、来年以降は芦田さんに任せたいと思ってる」 一緒に応援団の担当になった陣内が言った。あまりよく知らなかったが、陣内は教務主任という立場でこれは学校のナンバー3なのだという。管理職である校長と副校長の次に当たり、学校全体の予定を立てたり重要な書類を作ったりする。忙しいから担任ももてないんだよ、とこぼしていた。そんな人と組んだら学

      • 1章6節 徐々に見えてくる不穏

        ゴールデンウィークが終わる頃、敦は山梨県へ出張した。1年生が秋に行う移動教室の実地踏査である。同じ区内の全ての中学校で合同で行う実地踏査だったから、他校の教員と初めて交流をもつことになった。 「え、Z中は新採に実踏来させてるの?峯本さん何考えてんだよ」 そう言ったのは、同じ区内のK中学校からやって来た森田である。Z中学校の峯本校長とも知り合いだという森田は30代半ばの中堅で、人当たりのいい信頼できそうな人物だった。その森田から何とも心配になる言葉を投げかけられた。K中学校

        • 1章5節 力のない奴は足で稼げ!

          Z中学校で敦が驚いたことの1つは、香川達がほぼ毎日飲み会をやることだった。月曜から「飲みに行くよ芦田くん」と誘われる。部活の引率があったり授業の準備や朝の学習時間の課題作成とチェックなど、やるべきことは山ほどあったがそれでも連れて行かれる。断るとあからさまに機嫌が悪くなるため、敦はなるべく出席した。幸いなことにお金はほとんど香川らが出してくれた。お前に後輩ができたらそのとき奢ってやれという先輩達の言葉に、敦は『これが教師なんだ!』と侠気のようなものを当初は感じていた。 飲み

        1章8節 本物と偽物

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        • シェリー
          6本

        記事

          1章4節 ひと月目は怒濤のように

          4月6日から学校が始まり、敦は教師としてのスタートを切った。船出は文字通り、荒波に飲まれていた。 まず授業である。1年生の副担任となった敦は、基本的に香川と関根、そしてもう1人の講師である八谷と4人でチームを組んで1年生の授業を受け持つ。そして5月までは習熟度別学習はやらず、まずはクラス授業で中学校に慣れさせるということだった。この授業が、本当に上手くいかなかった。 最大の要因は、敦自身が全く先を見通して授業を計画できなかったことだ。この単元をこの時期までに終わらせるには

          1章4節 ひと月目は怒濤のように

          1章3節 これが現場なのか

          初出勤から3日目、この日初めて全ての教員が揃っての前日出勤だった。色々な会議があり、4月からZ中学校に赴任することになった教職員の挨拶も改めてここで行われた。 既に2日間勤務して、敦は気になったことがあった。初日、2人の50歳くらいのベテラン教員が声をかけてきたのだ。 「先生さぁ、部活のことなんだけどバスケットボール出来ない?」 決してバリバリのスポーツマンではない敦だが、サッカーは好きだった。学生時代に草サッカーチームを作り、運営に携わった経験もある。だがバスケットボ

          1章3節 これが現場なのか

          1章2節 伏線は最初から張られていた

          3月の後半に、敦は再びZ中学校に呼ばれた。押印しなくてはならない書類があるらしい。朝の8時半にと言われていたが、10分前には到着した。春休みに入っていて、学校はとても静かだった。再び大澤に用件を伝えると、大澤はああこの前のと覚えてくれていたようだった。 「ら、来月からよろしくお願いします!」 「あ?ああ、こちらこそよろしくお願いします」 前回は校長の峯本と話しただけだったが、ずっと笑顔だった峯本から学校現場に対する不安や心配がメディアの誇張だったのではないかとすら思えた

          1章2節 伏線は最初から張られていた

          1章1節 足を踏み入れた日

          2007年3月、芦田敦は採用の決まったX区立Z中学校の門をくぐった。正式な勤務は4月1日からだが、校長との面接があったのだ。敦は胸の高鳴りを止められずにいた。難関と言われた教員採用試験に一発で合格し、大学院を修了していよいよ社会人生活が始まるのだ。 「す、スミマセン。わたくし4月からこ、こちらでお世話になります芦田という者です。こう、校長先生にご挨拶にうかがいました!」 受付にて緊張のあまりどもりながらも名乗ると、大柄な男性が現れ、無表情で 「こっちだよ」 と言った。

          1章1節 足を踏み入れた日

          プロローグ

          「それではここからは、卒業生の保護者の皆さんにコメントを頂きましょう!私がマイクを持っていきますよー!」 2008年3月某日。都内の某ホテルのレストランで、X区立Z中学校の『卒業を祝う会』が行われた。午前中に卒業式があり、夕方から移動して会が行われる。人生で初の、『教師として迎える卒業式』を終えて26歳の新米教師・芦田敦はグッタリしていた。第一学年の副担任である敦が卒業式で与えられていたのは記録の仕事。ビデオカメラの確認とデジカメでの撮影を、式の間中繰り返した。仕事が大変だ

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