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1章5節 力のない奴は足で稼げ!

Z中学校で敦が驚いたことの1つは、香川達がほぼ毎日飲み会をやることだった。月曜から「飲みに行くよ芦田くん」と誘われる。部活の引率があったり授業の準備や朝の学習時間の課題作成とチェックなど、やるべきことは山ほどあったがそれでも連れて行かれる。断るとあからさまに機嫌が悪くなるため、敦はなるべく出席した。幸いなことにお金はほとんど香川らが出してくれた。お前に後輩ができたらそのとき奢ってやれという先輩達の

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プロローグ

「それではここからは、卒業生の保護者の皆さんにコメントを頂きましょう!私がマイクを持っていきますよー!」

2008年3月某日。都内の某ホテルのレストランで、X区立Z中学校の『卒業を祝う会』が行われた。午前中に卒業式があり、夕方から移動して会が行われる。人生で初の、『教師として迎える卒業式』を終えて26歳の新米教師・芦田敦はグッタリしていた。第一学年の副担任である敦が卒業式で与えられていたのは記録

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1章4節 ひと月目は怒濤のように

4月6日から学校が始まり、敦は教師としてのスタートを切った。船出は文字通り、荒波に飲まれていた。

まず授業である。1年生の副担任となった敦は、基本的に香川と関根、そしてもう1人の講師である八谷と4人でチームを組んで1年生の授業を受け持つ。そして5月までは習熟度別学習はやらず、まずはクラス授業で中学校に慣れさせるということだった。この授業が、本当に上手くいかなかった。

最大の要因は、敦自身が全く

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1章3節 これが現場なのか

初出勤から3日目、この日初めて全ての教員が揃っての前日出勤だった。色々な会議があり、4月からZ中学校に赴任することになった教職員の挨拶も改めてここで行われた。

既に2日間勤務して、敦は気になったことがあった。初日、2人の50歳くらいのベテラン教員が声をかけてきたのだ。

「先生さぁ、部活のことなんだけどバスケットボール出来ない?」

決してバリバリのスポーツマンではない敦だが、サッカーは好きだっ

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1章2節 伏線は最初から張られていた

3月の後半に、敦は再びZ中学校に呼ばれた。押印しなくてはならない書類があるらしい。朝の8時半にと言われていたが、10分前には到着した。春休みに入っていて、学校はとても静かだった。再び大澤に用件を伝えると、大澤はああこの前のと覚えてくれていたようだった。

「ら、来月からよろしくお願いします!」

「あ?ああ、こちらこそよろしくお願いします」

前回は校長の峯本と話しただけだったが、ずっと笑顔だった

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1章1節 足を踏み入れた日

2007年3月、芦田敦は採用の決まったX区立Z中学校の門をくぐった。正式な勤務は4月1日からだが、校長との面接があったのだ。敦は胸の高鳴りを止められずにいた。難関と言われた教員採用試験に一発で合格し、大学院を修了していよいよ社会人生活が始まるのだ。

「す、スミマセン。わたくし4月からこ、こちらでお世話になります芦田という者です。こう、校長先生にご挨拶にうかがいました!」

受付にて緊張のあまりど

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