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100年前のレシピ本を訳してみます9-B章スープ I.肉のスープ


さてここからレシピに入っていきます。まずはスープです。スープは6つのカテゴリーに分けられ、最初は肉のスープです。まずは肉のスープの基礎知識からです。

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1.肉のスープの調理における一般的なルール

スープ鍋

 スープを作るには、スープ専用の清潔な鍋が必要です。きちんと閉まる蓋が付いたアンベルクの琺瑯容器や、トリーア近くのマリーアヒュッテの酸化皮膜を施した鍋がすぐれています。さらによいのは密閉できるパパンのブイヨン鍋や、ウムバハの調理鍋で、両方とも濃厚なブイヨンを作るのに適しています。簡単で安くできる方法は、普通の鍋をしっかり閉めるようにすることですが、普通の鍋蓋の代わりに、アンベルクにあるバウマン社で製造している「クランプ蓋」を使うとよいです。
  エシェンバハの重ね蒸し鍋はとても便利なのでお勧めです。重ねた鍋の中にそれぞれスープ、肉、野菜を入れ、一度に蒸すことができます。ずっと見ていなくてもいいし、燃料や時間の節約にもなります。ただし琺瑯コーティングをしていないため若干焦げやすいので、丁寧に洗う必要があります。

パパンのブイヨン鍋は圧力調理器のことで、フランスの物理学者・発明家のドニ・パパンによって発明されました。画像はこちらをどうぞ。
バウマン社のものはこちらです。
エッシェンバッハの重ね蒸し鍋は要するに蒸籠のようなものです。

肉の選び方

 おいしい肉のスープを作るのに使う肉は新鮮でなければなりません。牛のモモの肉、尻尾の肉とうちももが濃厚なスープが取れる部位です。しかしどんな種類の肉、ジビエや鳥でも様々な味わいの肉のスープができます。鳥や子牛の肉など消化のよい食事が必要な病人には、スープもそれらの肉で作るとよいです。年老いた動物の肉は若い動物のそれよりも濃い味のブイヨンが取れます。

合う肉を選ぶ

 肉は入れずにスープだけを食卓に出す場合、肉はかろうじてスープを作る目的のみ果たし、煮だした後はパサパサに乾いてしまっても構わないので、脂身と骨がついていない腿の部分の肉を選びます。その肉はたとえば茹でハムやベーコンと合わせてみじん切りにして、フリカデレ(肉団子)やパンハスを作り、簡単な食事を作れます。しかしスープの後に、その肉も食べるのであれば、見苦しい部分は切り落として小さく切り、きちんとアクが取れるよう冷水に入れ、温かい竈のそばで1時間おき、その後煮ます。大きな肉、一番よいのは脇腹ですが、肉汁が出ないようスープが沸騰してから鍋に入れます。煮ることで肉の味が出てしまったら、リービッヒの肉エキスを加えて補いましょう。

 脇腹と訳したドイツ語は初めてみる言葉で、辞書にはなく、古い肉の専門書にあったのですが、正確にどの部位を指すのかが分かりませんが、大体その辺りで間違いないようです。
 パンハス(Panhas)は、ラインラントおよびルール地方のソーセージの一種です。コッホヴルストという、加熱した材料で作るソーセージのカテゴリーに属し、材料に蕎麦を使うという特殊なものです。画像はこちら。

肉の扱い方

 肉は軽く洗うだけにするか、または洗うのはできる限り避け、水にもあまり長く漬けないようにします。肉を出す時は、ブイヨンを煮詰めることをあらかじめ考慮し、それによって水の量を量ります。水を後から追加すると味がかなり逃げてしまいます。どうしても水を注ぎ足す必要がある時は、冷水でなく熱湯を使うようにします。

アクを取る

 透き通った味のよい肉のブイヨンを取りたければ、きちんとアクを取るのを怠ってはいけません。味が失われるから、とアク取りを控えることが多々推奨されていますが、私はお勧めできません。タンパク質は人間の体にほぼ役に立ちませんし、濁ったスープは、(よい肉のスープの主な特徴である)透き通ったスープほど食欲をそそりません。しかしアク取りはすぐにはせず、肉を30分ほどゆっくり煮込んでからにします。そうするとアクの泡は、濁りの少ないタンパク質だけになるからです。アクの取り方は、スプーンで冷水をブイヨンに注いで、上がってくるアクの泡をすぐにすくい取るようにします。-タンパク質が固まらない、密閉できるスープ鍋の場合はアク取りは必要ありません。

タンパク質の栄養価はこの当時まだ知られていなかったのでしょうか。

塩をする

 水に塩が含まれると、肉用塩の浸出が妨げられるため、肉に塩をするのはアクを取った後にし、必要な量の塩だけ感じられるようにします。長時間加熱すると水分が飛んでしまい、それによりスープが煮詰まって塩味が増すことを想定しておきましょう。塩味がきつすぎるスープは料理人にとって不名誉であり、無知や注意散漫さを露呈することになります。もし、恋する相手のことばかり考えるあまりうわの空になり、何度も塩の樽に手を伸ばし、塩を入れ過ぎてしまったら、浸透装置*)(C章「塩ゆで野菜」参照)で失敗を修正できます。

ここで面白いなと思ったのは、恋をしてうわの空になり、塩を入れ過ぎてしまう、というところです。今でもドイツでは、料理がしょっぱいというと、「きっと料理人は恋をしているんだ」と言います。この当時からすでに言われていたのですね。

*) (ブラウンシュヴァイクの化学者マイアー博士がこの浸透装置を開発し、その仕組みが書いてあるのですが、よく理解できていないのでその文は一旦省略します。)
塩を抜きたい食品をこの装置に入れて冷水をかぶるくらいに注ぎ、脱塩器内の水位と合わせます。6~8時間後に余分な塩分がパーチメント紙を通して外側の容器に排出されます。脱塩した野菜や肉は、浸透装置内で浸していた水に入れたまま調理します。

スープの調理

 肉のブイヨンがゆっくり沸騰してきたら、常にしっかり蓋をして(肉の香りが逃げないように)程よい温かさのこんろでゆっくりと火を止めずに煮ます。ただし煮すぎないよう必ず気を付けます。木炭や泥炭の上、褐炭の中、あるいは干し草箱の中や自動調理器で調理したブイヨンは最も美味です。一時間の調理後、念を入れてブイヨンを濾して肉についたアクをさっと洗い落し、沈殿物が除かれたブイヨンに戻し、まんべんなく洗った鍋に入れて再度火にかけ、選んだ根菜を加えます。
  自動調理器とは、ここ最近日本でも人気の保温調理器と同じ仕組みのものです。長時間煮込む必要のあるものは、最初加熱した後、自動調理器へ入れておくだけでできあがるというものです。炭や干し草箱に入れるというのも、その保温機能を利用するということでしょう。
  この自動調理器ですが、発明したのは1829年スイスのヴァットヴィルという町に生まれたスザンナ・ミュラーという女性です。農家出身で、4歳の頃から家の様々な仕事を手伝い、学校は農閑期の冬にしか通えなかったそうです。
  16歳の頃母が亡くなり家事一切を請け負うものの、19歳で背骨が曲がり、父親から逃げるようにしてチューリッヒへ出ます。ペンションを開き、1885年に「スザンナ・ミュラーの自動調理器」を発明、特許を取得します。
その後特許に抵触するのをうまく回避しながら模倣された商品が多数出回り、長いこと訴訟が続いていましたが、1905年にスザンナは亡くなります。
  自動調理器の仕組みが狙われやすかったのには理由があります。貧しい家庭でも使えるように、スザンナは自動調理器の作り方を書いて発表したのです。1860年から始まった、『働き者の小さなお母さんー成人した娘が実践的な生活を送るために持たせるもの』というスザンナ自身が発行した月刊誌は、大好評で1964年まで30版を重ね、20万部を売り上げました。スザンナ自身が幼少の頃から身につけてきたあらゆる家事について書かれたものだそうです。これも機会があれば見てみたいです。
下に写真のリンクを入れておきます。

スープに入れる材料、スープ用ハーブ

 根セロリをひとかけ、肉のブイヨンで煮るとよい味がつきます。根セロリを多く使いたい時は、まずお湯で茹でてからスープに加えることをお勧めします。そうすると肉の味より根セロリの風味が勝ってしまうのを防げます。そのためどんな肉のスープでも、スープ野菜、つまりセロリの葉の入れ過ぎはスープのよい味を奪ってしまうので気を付けましょう。薄めの肉スープ、エンドウ豆のスープ、ジャガイモのスープにはそうしたハーブはよく合います。生または軽くローストした玉ねぎを加えると、黄色い色がついて香味料にもなります。

パセリの根とごぼう

は、アクを取って1時間経った肉のブイヨンに入れます。柔らかくなるまで30分ほどかかります。ポロネギやアスパラガスも同様で、根セロリは1時間弱くらいです。

意外に思うかもしれませんが、ドイツでもゴボウを食べます。今でもスープや温野菜などにして食べます。日本のものより中は白くて味は淡泊です。

とろみをつけるもの

 肉やジャガイモのスープにとろみをつけるのに小麦粉を使いたい時は、まずバターで黄色くなるまで炒めます(A章4番参照)。あるいはこうする代わりに新鮮なバターと小麦粉を練り合わせてもよいです。これを小さく丸め、ブイヨンを濾した後に入れます。完全に溶けたらスープにしっかりとした味をいきわたらせます。小麦粉をそのままスープに溶かし入れるのは避けましょう。簡単なジャガイモスープさえ味が落ちてしまいます。
  大人数の会食用にしっかり濃厚なブイヨンを作り、他にもいろいろな料理が続く場合は、香味野菜は入れずに澄ましブイヨンとして出します。小さなクレーセ(団子)、新鮮なアスパラガスかカリフラワーを少々なら入れても構いません。普段の食事ならスープをルーでとろみをつけ、米、ひきわり麦、パスタ、サゴなどを具として加え栄養価を高めます。サゴやいろいろな形のパスタは濃厚なブイヨンに入れるのが一般的です。

グラウペン、米、サゴパール、いろいろな形のパスタの分量と調理時間

 グラウペン(精麦大麦・小麦)と米でスープにとろみをつけたい時は、大さじ山盛り2杯が4人分にあたり、サゴパールやパスタを透き通ったブイヨンの具にする時は半量になります。グラウペンと本物のサゴの場合は2.5~3時間、米は1時間、いろいろな形のまたは糸状のパスタは半時間、スープの中で加熱します。パスタを買う時は黄色に着色したものは避けましょう。卵を使っていると思われかねないからです。サフランで着色したものは、有害なこともあります。

サフランはこの当時有害と思われていたのでしょうか、それともサフランそのものより、加工方法や使う量などに問題があったのでしょうか・・・まだちょっとわかりません。

クレーセ(団子)

クレーセをスープに入れて調理したい時は、その前に肉を取り出し、スープをよそう時まで熱湯にかざした器に入れておきます。きちんと透明なスープにしたければ、塩少々と肉エキスを少々入れたお湯で茹で、玉杓子ですくって直接スープ皿に入れる方がいいです。茹でたお湯はスープや野菜を茹でるのに使えます。

スープの調味料

 薄い肉のスープをしっかりとよい味に仕上げるには、盛り付ける前にナイフの先ほどの量のリービッヒの肉エキス、または最近出回っているマギーの固形ブイヨンを加えしっかり煮込みます。両方とも、肉がなくても美味しいスープができるので、料理の際に困ったときは助かります。肉のスープや(塩漬け用の)塩汁入りスープ、何も入っていないスープが薄くても、このどちらかを少し使うだけで、たちまちしっかりとした肉のスープに変わります。この後お伝えするスープや様々な料理の作り方が示すとおり、肉を入れなくてもいつでも美味しいブイヨンなどが作れます。
  最近ではリービッヒ社が肉エキスの他にも、オキソ・ブイヨンという名の液状のインスタント肉ブイヨンを出しています。すぐにスープを作りたい時はいつでも頼りになる、一目置くべき製品です。このオキソ・ブイヨンは、熱湯で薄めるだけで美味しい肉のスープになります。固形のタイプもあります。

塩汁入りスープはどういうものかよくわかりません。レシピとして後で出てくるかもしれません。オキソ(Oxo)はイギリスのブランドですが、元々はリービッヒの肉エキスを売る会社からの流れです。詳しくは「100年前の料理本を訳してみます4」をご参照ください。オキソ・ブイヨンですが、こんな広告を見つけました。そしてどうも専用のカップもあったようです。

2.手早くできるブイヨン

 スープカップに新鮮な卵黄一個、塩、メースをほんの少し、味の良い新鮮なバターをヘーゼルナッツ半分ほど、ただしこれは無くてもよいです、そしてリービッヒの肉エキスを小さじ半分をよく混ぜ、熱湯を1/4l少しずつ注ぎます。バターの代わりにヘーゼルナッツ程の量の牛の骨髄をよりお勧めします。細かく刻んでブイヨンにする熱湯で10分ゆで、濾しながら肉エキスに注ぎます。
  あるいはカップに熱湯を注いで牛の骨髄、肉エキスと塩を入れて混ぜただけでも十分です。さらに手早く簡単なのは、オキソ・ブイヨンとお湯を混ぜるだけで作る肉のブイヨンです。
  リービッヒの肉エキスあるいはマギー固形ブイヨンを、カラスムギの粥または大麦粥に加え、とろみをつけずまたは水分も多すぎないようにし、熱湯でかき混ぜるのではなく、味のよくしっかりした飲み物を加えると栄養も取れ、病人にも向いています。

3.肉エキスを使った簡単なスープ8人分

 ここでは一人あたり1/4lとし、煮詰まるため水を少々加えます。つまり3リットル弱くらいのお湯を沸かし、脂身のない良質の牛の赤身肉1/2キロを洗って加えます。アクを丁寧にすくい取ります。そして玉ねぎのみじん切り、大きな根セロリを4分の1(小さいものは半分)、大さじ山盛り4杯の白い上質のグラウペン(精麦)を加え、2時間半、しっかり蓋をして弱すぎずかつ強すぎないよう煮込みます。
  盛り付ける際は新鮮な卵黄1個を溶いたものと、好みによってナツメグ少々、塩、リービッヒの肉エキス小さじ摺り切り1杯をスープ鉢に入れ、卵が固まらないよう、スープを強くかき混ぜながら少しずつ注ぎ入れます。

4.透き通った牛肉のスープ

 少人数分なら一人につき375g、大勢の場合は一人につき250gの肉をスープ用に用意します(老齢の鶏を一緒に煮込むとより美味しくなります、その分牛肉の量は減らします)。スープの肉を食卓に出さないのではあれば、細かく刻んで、肉250gあたり0.5リットルの水と一緒に火にかけます。肉を半時間ほど静かに煮たら、アクを丁寧にすくい取ります。そこへ皮を剥いて小さく切った根セロリ、ポロネギの白い部分、きれいに洗って縦半分に切った黄色の根菜(ニンジン)、必要量の塩を入れ、肉にきちんと火を通します。そして、底に沈殿物が溜まってブイヨンが透明になったら、目の細かい濾し器に通し、きれいなスープ鍋に移します。再度火にかけ団子やアスパラガスの穂先、小分けにしたカリフラワーを加えます。エビをスープ鉢に並べてもいいです。ただしエビは肉質が固くなるので煮込んではいけません。米を入れる時は一人当たり大さじ半分をブイヨンに加え茹でてもよいです。その際肉の量を少し多めに計算し、米粒が残る程度にしっかり火を通します。好みでパルメザンチーズをおろしたものをかけてスープに添えます。
  透明なスープに好ましい具はトマト(愛のリンゴ)です。切ったトマトをブイヨンで柔らかく火を通し、濾し器で濾してマギーエキスを数滴加え、器によそります。
  若い牛のスープは2~3時間、老齢の牛、特に胸肉は4時間じっくりと煮込みます。

トマトはドイツ語でTomateですが、Liebesapfel(愛のリンゴ)とも呼ばれていました。古めかしい名前で今ではほとんど使いません。

5.手早く作る牛のスープ

 6~8人分には肉750gを小さいサイコロ型が薄いスライスに切ります。小麦粉大さじ数杯を、卵半分ほどの量の良質のバターできつね色に炒め、切った肉、小さく切った玉ねぎと黄色い根菜(ニンジン)、8等分に切った小ぶりの根セロリ1個を入れてしばらく炒めます。そこへ食べる量より若干多めの塩を入れたお湯を注ぎ、蓋をして1時間煮込みます。その後濾し器に通します。米をスープの具にする場合は、単独で炊いて、盛り付ける前にセロリと共にスープに加え、好みでパセリのみじん切りを散らします。

6.透き通った茶色の牛のスープ

 この茶色のブイヨンの作り方はAの33番に記してあります。12人ほどの大人数の場合は牛肉を2.5~3㎏、生ハムを250g用意します。キノコや粗挽き麦または白パンの団子を入れて火を通します。好みでサゴパールを入れてもよいです。

7.グラウペン(精麦)または米を入れた牛肉のスープ

 ブイヨンの作り方は1.の通りにし、30分たったら濾します。小さい鉄鍋にバターを熱し、4人分なら小麦粉大さじ山盛り1杯を入れて黄色く照りが出るまで炒め、どろどろになった小麦粉を沈殿物を丁寧に除いたスープと肉と合わせて再度火にかけます。グラウペンをスープで煮る時は、好みの根菜と一緒にそのままスープに入れます。ただし米は1.で説明した通り、1時間だけ加熱します。食卓に出す1時間前にアスパラガスやコールラビを新鮮なうちにスープに入れて煮込みます。カリフラワーでもよいですが、煮崩れない程度に下茹でをしておきます。アスパラガスは湯がく必要はありません。食卓に出す直前に若いセロリの葉をみじん切りにしたもの、またはメースを細かく砕いて(挽いて)スープ鉢に入れ、好みで団子をスープの中で煮込みます。
  注:肉団子は、薄目のスープには何よりもお勧めです。しかしスープは薄すぎてもいけません。あまり強く燻製されていないシュラックヴルストを1スライス一緒に入れると味がよりよくなります。それでもやはりリービッヒの肉エキスかオキソ・ブイヨンを加えるのは望ましいです。バターで炒めた小麦粉もあるとなおよいですが、これは食卓に出す1時間前になってから加えます。セロリの味が好きならきれいに洗って皮を剥いた根セロリを1,2個スープに入れて柔らかく煮込み、それから薄くスライスします。冷ましてからオイル、酢、コショウ、塩で和え、スープ用の肉や肉料理に添えます。

シュラックヴルスト(Schlackwurst)とは、ソーセージの1種で、牛と豚の挽肉が材料です。カルダモン、ショウガ、マスタードを味付けに使い、ハチミツなどの甘みを加えるものもあるそうです。腸詰にした後、24時間低温燻製にします。

8.フランス風スープ

 季節に応じて様々な野菜を使います。夏ならエンドウ豆、アスパラガス、カリフラワー、コールラビ、ニンジン、秋にはカブ、セロリ、サボイキャベツ、コールラビ、を小さく切り、新鮮なバターでしんなり炒めます。ここに濃い肉のスープを注ぎ、野菜に火が通るまで煮込みます。ナツメグとみじん切りのパセリで味付けし、キノコや卵の団子、または白パンのスライスをトーストしたものと添えます。

どの辺がフランス風なのかがちょっとわかりません。野菜を多種使うところでしょうか。団子はドイツ、オーストリアのものだと思います。

9.牛タンのスープ

 牛タンはしかるべき下ごしらえをすれば、そのスープが他の肉のスープより食欲をそそらないということはありません。舌は大きいほど有利です。舌をきれいにするには、まず骨についている黄色っぽいスポンジのような肉を切り落として温かいお湯にタンを浸し、塩で力強く擦ってねばねばしたものをしっかり洗い流します。そして舌を、かぶるくらいの水に入れ、適量の塩を入れて火にかけ、3~3.5時間火を止めずにゆっくり煮込みます。このスープを使って40番または44番のようにジャガイモのスープが作れます。リービッヒの肉エキスまたはマギーの固形ブイヨンを使えば薄い牛タンのブイヨンからも他のどんなスープも作れますし、牛肉のブイヨンにやや近いものができます。
  少人数なら牛タンは異なる料理に使えます。スープで煮た後の温かい牛タンは、サボイキャベツや白キャベツのよい付け合せになります。残った部分は切って、塩、卵、潰したラスクの衣をつけてきつね色に揚げたり、芽キャベツ、アスパラガス、ほうれん草、カリフラワーその他の野菜を合わせていただきます。またはフリカッセにも使えますが、牛タンスープをとった後、フリカッセに使う分は涼しいところに置いておかなくてはなりません。しかし2日目にフリカッセを作ることもよくあり、その際はレモンスライスをいくつかスープの中に入れておくようにします。-対してパセリソースまたはローマ風ソースをカットした牛タンに合わせると、主菜の前のちょうどよい一皿になります。

10.オックステールスープ

 牛テールを2本、2本指の幅に切り、きれいに洗って冷水に入れ火にかけます。沸騰寸前になったら再度冷水で洗います。きれいに洗ったスープ鍋に玉ねぎ数個、小さく切ったニンジン、パセリの根、ポロネギ、セロリと、月桂樹の葉を一枚、コショウを6~8粒入れ、バターひとかけらと塩少々も加えて10分しんなりさせたら、肉のスープと白ワインを各1.5リットルずつ注ぎ、テールとベーコン数枚、生ハムのくずを入れゆっくりと柔らかく煮込みます。肉をスープから取り出し、スープを濾して余分な脂を取り除き、マデイラ酒をグラス1杯と出来上がりの分量に合う肉のスープを入れ(2.5~3リットル)、テールを戻し入れて柔らかく煮込みます。若い野菜を数種、エンドウ豆やアスパラガス、ニンジンなどを別の鍋でブイヨンで煮てスープ鉢に入れ、カイエンペッパーとマギー調味料で味付けしたスープを熱いうちに注ぎ入れます。簡単な食事の場合は、野菜の代わりにテール肉を細かく切ったものと多めのニンジンを具にしてもよいでしょう。スープの具としてぜひお薦めしたいのは、別途煮ておいた豚の腎臓を薄く切ったものと、小さく丸めた肉団子です。
  英国風は、厚く切った牛テールをハム数枚とともにまず炒め、その後薄く切った牛テールと牛肉少々を、豚の腎臓でとった熱いスープに入れます。このスープには香味野菜は入れず、代わりに月桂樹の葉を一枚、メースとショウガ一つだけで味付けします。小麦粉をバターで茶色く炒めたルーでとろみをつけ、マデイラ酒とマッシュルーム醤油小さじ1杯を加えるか、その2つの代わりに市販されているウースターシャーソース少々とマギー調味料小さじ半分を使うことも多々あります。
  牛テールの代わりに子牛のテールを使い、香辛料の量を抑えてベーコン、ハムを使わずに作るとやわらかな味になります。

11.肉の焼き汁ソースのスープ

 みじん切りにした玉ねぎをたっぷりのバターでしんなりするまで炒め、小麦粉大さじ1~2杯を加えて黄色く炒めます。できあがりのスープの量より若干多めの熱湯を注ぎ入れます。米と切った根セロリを入れて柔らかく煮たら、肉汁のブイヨンを注ぎ入れます。米の代わりにバターでローストした粗挽き麦、または市販のすぐれたクノールのスープの具(浮き身)をどれか使ってもよいでしょう。肉汁で取ったスープを使う際気を付けるべきは、どれも単独で十分美味ですが、酸っぱくなりかけていないかどうかです。その場合はマギーの固形ブイヨンで代用しましょう。

12.子牛肉のスープ

 子牛肉は4番の通りに作りますが、成牛よりあっさりしているので、人数分より多めに使います。よく洗い、塩少々を入れた水に入れて煮立たせ、きちんとアクを取ったら、30分後にブイヨンを濾します。7番の通りに小麦粉をバターで炒め、子牛肉のブイヨンを注ぎ入れ、パセリの根、もしあればゴボウを数本入れ、食卓に出す1時間前に茹でた米を入れます。もしくはアスパラガスや茹でたカリフラワーなど季節のものや、盛り付ける10分前に肉その他で作った団子をスープで煮るのもよいでしょう。子牛肉にスベリヒユの葉かスイバを入れるのが好きな人もいます。米の代わりに粗挽き粉をスープに入れて煮れば小麦粉(ルー)は必要ありませんし、ブイヨンを濾した後(1.スープの調理参照)新鮮なバターをひとかけら加えます。盛り付ける際、ナツメグやパセリのみじん切りを加え、卵黄も一個入れると美味ですが、固まりすぎないようにします。スープの後、スープを取った肉も食べるなら、1番にあるとおり、ホースラディッシュソースを添えるか、塩コショウを加えた卵を攪拌し、肉にからめてバターで焼きます。
  スープの調理時間は1時間半から2時間です。

スベリヒユは古代バビロニアから知られている野菜だそうです。ドイツでも中世では薬効のある草とされ、サラダに使うことが多いです。
スイバは日本にもありますね。噛むと酸っぱいことから「酸い葉」の名がついたそうです。

13.子牛頭のスープ

 十分に肥育された子牛の頭を水洗いし、鍋に浸るくらいの水と一緒に入れ、塩少々を加えて柔らかく茹でます。茹で汁は濾します。10人分なら小麦粉100gをバターで黄色く炒め、子牛頭のブイヨンを5.5ℓを少しずつ注ぎ入れます。あとで煮詰まりすぎてしまったら水を足します。煮立ったらマギー調味料10滴、酢を大さじ3杯、酸味を和らげる程度の砂糖で味付けします。盛り付ける際、卵黄5個をスープに入れて混ぜ、バターでローストした白パン200gほどを入れるか、スープに添えます。
  その間に子牛の頭を割り、脳をスープ鉢に入れ、肉を骨から外して切り、バターで炒めたら、茹でたジャガイモ、漬けたキュウリを添えて、スープの後の一皿にします。
  煮た脳はスライスし、塩コショウを振って卵をからませ、ラスクの粉をまぶしてバターで焼いてもよいです。

14.子牛の胸腺のスープ

 胸腺はAの42番の通りに下ごしらえし、小さいサイコロに切ってバターと小麦粉で黄色く炒めたら子牛肉のブイヨンでしばらく煮込み、塩少々を振ってパセリのみじん切りかメースを加え、卵黄を混ぜ込みます。これは病人にもおすすめのスープですが、スパイスは入れずに小麦粉をバター少々で白っぽく炒めたらスープ1/2ℓに対しリービッヒの肉エキス5gを入れます。

15. 王女のスープ

 子牛の胸腺を3つ、Aの42番にしたがって下ごしらえし、薄めの肉のスープで15分煮ます。胸腺2つを細かく切り、溶かしバターで数分間弱火で炒めたら、固ゆで卵の黄身5個と一緒におろして一つのまとまりにします。肉のブイヨンにトーストした白パンを100g入れて煮溶かし、胸腺と卵の生地も入れて30分静かに煮込みます。固ゆで卵3個と、残りの胸腺一つをサイコロに切り、スープ鉢に入れて小さなグラスに1杯のマデイラ酒をふりかけます。スープをカイエンペッパーで味付けし、粒状の肉ブイヨン小さじ1杯を加え、切った卵と胸腺に注ぎかけます。

なぜ「王女の」なのかはちょっとわかりません。卵がたくさん使われているので、ちょっと贅沢な、ということでしょうか。

レシピを見ていると、そんなに塩は入れていませんね。ドイツでスープを食べると塩味が強いと感じることがよくあるので、ちょっと意外です。

16. 子牛のテールスープ

 子牛のテールを2~3本、2ℓのお湯に塩をいれて柔らかく茹でます。茶色のルーを濾したブイヨンで溶いて軽くとろみのあるスープにし、冷ました子牛のテールと別途茹でたカリフラワーの小房を入れ、小さじ1杯のマギー調味料でスープを味付けします。
 小さな肉団子や、別途完全に茹でた小さい角切りにした豚の腎臓とその茹で汁をスープに加えてもいいです。甘いデザートをつければお腹を満たせる完全な食事になります。

17.雄羊肉のスープ

 肉は洗い、適度に塩を加えた熱湯に入れ火にかけます。スープのアクを取り、小さい根セロリ、若いコールラビ一つ、細かく切った玉ねぎ、A章の4番の通りバターで炒めた小麦粉、グラウペン、または湯がいた米を加え、しっかり蓋をしてゆっくり煮込みます。脂が浮いてきたらすくい取ります。脂を入れたまま長時間煮ると、スープに不快な味が付いてしまいます。
 ジャガイモの団子をブイヨンで茹でたり、卵黄をナツメグかパセリのみじん切りと一緒にスープに入れかき混ぜてもよいです。
 調理時間はおよそ3時間です。

18. 良質の鶏スープ

 5人分を作るには、大きく脂ののった鶏を、前日にD章の248番の通りに、きちんと丁寧に羽根をむしって内臓を取り出し、冷水でしっかり洗い、内部も丁寧に洗います。スープに強い雑味をつける鶏もあるので、冷水に15分ほど浸けておくことをおすすめします。足は切ってお湯でゆがき、皮を剥き、つま先を切除し、何か所か折ったら、心臓、胃と一緒に鶏と合わせておきます。レバーはとっておき、スープの煮込み終了3分前に入れて煮ます。家庭のご主人が喜ぶスープの具になります。
  鶏を3ℓの冷水、老齢の鶏なら軟水に入れ、塩少々を入れて火にかけます。アクをすくい取り、スープの濾し方、小麦粉のルーの作り方については7番の通りにします。クルミ大の新鮮なバターをスープに加えたら、蓋をして火を止めずにゆっくり3時間ほど煮込みます。好みで米、グラウペン、またはパスタを入れて茹でます。根菜でこのスープに合うのはパセリの根、ゴボウ、カリフラワー、アスパラガスで、スープを濾した後に入れて30分茹でます。セロリ、ポロネギ、玉ねぎは鶏の繊細な風味を損ねます。ザリガニの団子(クレーセ、Q章2番)やザリガニバター(A章14番にレシピがあります)は美味な鶏のスープにとてもお勧めですし、白パンやセモリナ粉の団子、卵の浮き身などもいいでしょう。スープの味付けは、鶏のスープにとりわけよく合うメースを使い、パセリのみじん切りと新鮮な卵黄1~2個を攪拌してスープに溶き入れます。
  このレシピ通りに麺や米などを入れず、脂を取り除きルーでとろみをつけ、あるいはグラス1杯の白ワインで溶いた卵黄を溶き入れた透明な鶏のスープを作り、焼いた鶏の肉を裏濾ししたものをスープの中で加熱すると、素晴らしい「女王のスープ」ができます。-カールスバート(カルロヴィ・ヴァリ)風はこのスープに卵黄を溶き入れるのではなく、固ゆでの卵黄をいくつかすりおろして、裏ごしした鶏のミンチと混ぜ、スープの中で茹でます。洗練された料理にするには、皿によそう前にスパークリングワインをグラス1杯加えます。
  鶏はR章46番の鶏のソースを添えてもいいですし、あるいは、もし胸肉をスープに使ったなら、鶏肉のロールに使えます。
美食家でさえ本物と区別がつかないほど美味しい「女王のスープもどき」は、子牛肉のスープに、ナイフの先ほどの砂糖と刻んだスイートアーモンドを5粒加え、本物のスープ同様に仕上げます。肉がとても筋っぽい場合は使わずに、いく分多めのルーを入れて、団子とアスパラガスを切ったもの、子牛の胸腺を加えます。

19. ウィンザースープ

(洗練された会食用のスープ、10人分)バター200gを溶かし、牛肉500g、子牛肉375g、生ハム100gを玉ねぎ1個、ニンジン1本、根セロリ半分をきつね色に炒め、薄めの肉のブイヨン3~4ℓを注ぎ、胸肉を取り除いた使用後の鶏を入れ、全体をじっくり3時間煮込みます。その間に細かく刻んだ胸肉と卵2個、おろしたパン、塩、パセリのみじん切り少々で小さな団子を作り、盛り付けの直前に塩を入れたお湯で茹でます。同様に小さく割ったマカロニも塩を入れたお湯で茹で、バター20gとシェリー酒大さじ2杯で炒め、濾してルーでとろみをつけたスープに鶏団子と一緒に入れます。好みでスープにシェリー酒をグラス数杯入れてもいいですし、マカロニの代わりに、炊いた米を器に入れて山型に型抜きしたものをスープに添えてもいいです。

ウィンザーというからにはイギリスのスープですよね。私は初耳だったので、イギリスにもあるのか検索してみました。
 日本語の情報もいくつかある中、知人のイギリス料理や菓子に詳しい羽根則子さんのブログに書いてあるのを発見しました。
こちらをどうぞ
 別名「ブラウン・ウィンザースープ」とも呼ばれるそうで、画像検索をすると確かにスープというよりはシチューのような茶色い色の料理です。
 英語のウィキペディアを見てみると、ヴィクトリア朝、エドワード朝時代に人気のあったスープだそうで、ジョージ4世のお抱えシェフで、あの有名なったA1ソースを発明したヘンダーソン・ウィリアム・ブランドという人が1834年に作ったウィンザー風ヴァーミセリ・スープのが始まりと言われているそうです。
 その11年後、ヴィクトリア女王のお抱えシェフ、フランカテッリが出版したThe Modern Cookという料理本に似たようなウィンザー風子牛足のスープというレシピが登場します。このレシピは他のシェフにもいろいろとアレンジされ作られていきます。かの有名なオーギュスト・エスコフィエもサヴォイ・ホテルで作ったそうです。
 1920年代に入ると、ウィンザースープも飽きられたのか、人気が落ちていきます。「ブラウン」が付くのはこの頃からだそうです。現在にいたるまでこのスープについてはいろいろな逸話もあるようです。
 この料理本が出版されたのは1915年なので、まだウィンザースープの評判がよかった時代だったということですね。だから載せているわけなのでしょうが。ちょっと食べてみたいです。

20. ホロホロ鳥のスープ

 老齢のホロホロ鳥1羽と牛肉1㎏、子牛肉500gと3リトルの水に入れて茹で、アクをよくすくい取り、塩で味付けします。スープはゆっくり3時間煮込みますが、その間にホロホロ鳥に火が通ったら取り出します。
出来上がったスープは濾して、バター70gと小麦粉50gで薄い色のルーを作りスープにとろみをつけます。折れたアスパラガス1㎏分を裏ごしし、卵黄6個とクリーム大さじ1杯と合わせてかき混ぜ、盛り付ける前にスープに入れて混ぜます。カイエンペッパー少々で味付けし、細切りにしたホロホロ鳥の肉を入れます。このスープは特に洗練された会食用のスープです。

ホロホロ鳥は日本では珍しいと思いますが、ドイツでは今でもレシピがありますし、国内で飼育もされています。アフリカ原産です。

21.ビスマルクスープ

 洗練された会食用のスープ 濃い肉のブイヨンを作ります。その間に大きな根セロリをスライスし、100gのバター、サイコロに切った生ハム125gと一緒に20分間じっくり炒め、小麦粉60gを振ってよく混ぜ、肉のブイヨン2.5ℓに加えます。45分間ゆっくり煮込んで濾し、脂肪を取り除きます。スープは軽くとろみをつけるため、生クリーム大さじ3を入れて溶いた卵黄3個を混ぜ入れ、塩、マギー調味料10滴、コショウで味付けします。牛の骨髄あるいはパルメザンチーズをカットしたものをスープに添えます。

ビスマルクの名前が付くものはいろいろありますが、必ずしもビスマルクが食べたとか、ビスマルクに何等かの由来があるとは限りません。ビスマルクの名にあやかって付けたり、ビスマルクが好んだといわれるものを使ってビスマルクの名前を入れたり、など様々です。
ビスマスクスープにもいろいろなレシピがあるようですが、1978年に出版されたLexikon der Küche(料理事典)第18版によると、ビスマスクスープには2種類あり、一つは透き通ったコンソメタイプで、「クズウコン(マランタ)の粉でかるくとろみをつけたビーフブイヨン。ポートワインで味付けし、マッシュルームとチェスターチーズのみじん切りを添える」とあります。ビーフブイヨンであること、チーズが入ることが共通していますね。
2つ目はとろみを付けたスープで、「子牛の頭でとったスープ、エビのピューレを混ぜ、白パンをサイコロに切ってローストしたものを添える」となっています。

22.牡蠣のスープ

 12人用には牛肉を3㎏、スープ用ハーブをいくつかを入れて美味しいブイヨンを6リットル作ります。脂をすくい取り、濾して沈殿物を分離し、きれいに洗った鍋に入れ再度加熱します。大さじ4杯の小麦粉をバター125gで炒めたルーでとろみをつけます。その間に肉団子を24個作り、牡蠣48個を殻から外します。牡蠣の汁はエラとともに煮立たせて濾し、ブイヨンに加えます。
  肉団子をブイヨンで数分茹で、卵黄4個、メース少々、ライン地方ワイングラス1杯を混ぜ合わせ、絶えずかき混ぜながら少しずつ煮立ったブイヨンで溶きます。それをダマにならないよう、強くかき混ぜながらスープに加えます。煮立たせたら鍋を火から下ろし、そこで牡蠣を入れます。牡蠣は煮立たせると固くなるからです。すぐにスープを盛り付けます。バターでトーストした白パンのスライスを添えます。

23.カイザー(皇帝)スープ

 野鳥とウサギを使った肉のピューレスープ(高齢者や虚弱体質の人の体力強化用)
 牛肉かリービッヒの肉エキスで作った茶色のブイヨンに、キジ1羽、ヨーロッパヤマウズラ2羽、シギ1羽、ウサギ1羽を入れて煮ます。火が通ったら肉を取り出し、いく分冷まします。肉をすべて骨から外し、細かく刻み、再度肉のブイヨンに入れて1時間煮ます。その後目の細かい濾し器に通します。皮と筋を取り除いた良い肉は石の乳鉢でできるだけ細かくすりつぶし、濾して3ℓほどの肉ブイヨンと混ぜ必要に応じ塩とバターを加え、しばしば火を強めながら木べらで煮立たせないよう加熱します。スープに若干とろみをつけるため、白パンのくず60gをブイヨンで湿らせ、肉と細かくすりつぶします。この消化のよいスープには、美味な野鳥の繊維のない肉の力と汁が入り、牛肉の最上のエキスと調和しています。

シギはドイツでも食べたことがありませんが、レシピを検索すると少しですが出て来ますね。北ヨーロッパでは昔よく食べられたそうです。

24.ザリガニのスープ

 1番(肉のスープの調理における一般的なルール)の通りに牛肉のブイヨンを作り、12人分の30~40匹のザリガニをF章(魚貝類)168番(ザリガニ)の通りに調理したものを、沸騰した湯に入れ15分茹でます。そしてザリガニの肉をハサミや尻尾から取り、殻を乳鉢でざっくりすりつぶし、新鮮なバター125gでバターの色が赤くなり、沸々と温度が上がるまで炒めます。そこへ大さじ4杯の小麦粉を入れ、バターと合わせスープにとろみを付けます。肉のブイヨン6リットルを注ぎ入れ全体をモスリンの布巾をかけた濾し器を通します。盛り付ける時に、ザリガニの団子とA章42番の子牛の膵臓を再度煮立たせたスープに入れます。さやえんどう、アスパラガスの穂先、またはカリフラワーはザリガニスープの浮き実としてとても喜ばれます。このスープは、会食用のスープにはどれも当てはまりますが、あまりとろみを付けない方がよいです。ザリガニの尾は盛り付けの時にスープ型に入れます。

25.ブレーメン風鰻のスープ

 3ℓのスープを用意するため、大さじ2杯のグラウペン(精麦)を1時間お湯で茹で、必要量のブイヨンを注ぎ、次を加えます:さやから出した若いエンドウ豆、根菜、カリフラワー、アスパラガス、小ぶりのジャガイモ(最後の3つは別途茹でてから)、小さく切ったチシャ、セロリ、ポロネギ、パセリ、スベリヒユ、エストラゴン、塩、すりつぶした白コショウ。ただし強いハーブは少な目に使います。これらすべてを半時間煮たら、きれいにして塩を入れたお湯で茹で、5㎝長さに切った鰻を加え、柔らかくなりすぎない程度に煮ます。魚で作った棒状の団子をスープで数分間煮て、卵黄数個、生クリーム、タイムの葉のみじん切り、レモン汁数滴を混ぜ入れ、すぐに盛り付けます。

26.ハンブルク風洗練された鰻のスープ

 1㎏あるいはそれ以上の太い鰻を、できれば前日に塩で擦って水で洗い、適度な大きさに切り、頭と尾を切り取って白ワイン、極少々のワイン酢、塩、白黒コショウ、月桂樹の葉1、2枚と一緒に火が通るまで煮ます。
洋ナシも前日に白ワインとシナモンでコンポートのように、ただし砂糖は加えずに煮詰め、両方とも涼しいところに置いておきます。
  スープを食べる日に、1、1.5、あるいは2㎏の良質の牛肉を、肉4分の1に対し0.5リットルの水で茹でます。アクを取り、1時間経ったら、スープ皿一杯の黄色いの根菜(ニンジン)を小さいサイコロに切ったもの、その半量のパセリの根を同様に小さいサイコロに切ったもの、そして根セロリを加えます。さらに片手一杯ほどのパセリの葉、同量のパセリ、マジョラム数本、タイムも同様、ベンケイソウ、ミツバグサ、エストラゴン、スイバ、セージ、ポロネギをすべてみじん切りにしてスープに加え、2時間煮た後、鞘から出した若いエンドウ豆をスープ皿1杯、スベリヒユ一つかみ、カリフラワーを加えます。盛り付ける前に調理さじ1杯の小麦粉を十分な量のバターで炒め、コショウ少々とともにスープに溶き入れます。スープ型に温めておいた鰻を必要なだけ、そして相応量の洋ナシ入れ、スープを注ぎ入れます。食べなかった分は、魚臭くならないよう、具を取り出して、地下室で別々に保存し、翌日以降食べる時に再度合わせます。Q章(団子と詰め物)2番(ザリガニおよび鰻のスープ用団子)の団子を加えてもよいです。

こんなサイトを見つけました。それによるとブレーメン風とハンブルク風の違いは、ブレーメン風はちゃんと鰻を使うのに対し、ハンブルク風は骨と野菜で取るスープだとあります。「Aal」はドイツ語で鰻を意味しますが、ハンブルク風では鰻ではなく、残り物を全て入れたスープ(aalens was noch da is')のaalを指すのだということです。
でもこのレシピではちゃんと鰻を使っていますね。時代とともにレシピも変わったのか、それとも両方あるということなのか分かりません。

27.魚のスープ

 良質のカワカマスまたは鯉、川魚ならどれでもよいので、一口大に切って小麦粉をまぶし、カットした白パンと共にバターで炒めます。根菜類と玉ねぎを入れて作ったブイヨンあるいは鞘から出した若いエンドウ豆を茹でた汁を注ぎ、しばらく煮ます。盛り付ける前に濾し、再度加熱してパセリのみじん切りを加えて盛り付けます。角切りにしてバターで炒めた白パンもスープに添えます。
  ブイヨンがあらかじめできていれば、このスープは1時間で調理できます。
  一般的な魚のスープにするには、良質な川魚を煮た茹で汁を使えば十分です。最も良い方法は、クノールのエンドウ豆粉か若いライ麦の粉を使い、マギーブイヨンのキューブ2個を溶かしたものでさらに味を付けることです。

クノールのエンドウ豆粉(Erbsenmehl)ですが、クノール社のサイトを見てもありません。今は製造していないようです。

28.フネガイ*のスープ

 新鮮なフナガイを洗い、キャセロールにバターを熱して貝を入れ、蓋をして鍋を振りながら貝がすべて開くまで約10分加熱します。身を貝からはずし、汁は濾して、汁にパセリのみじん切り、マギーブイヨンで作った肉のブイヨン1リℓ、しんなり炒めた玉ねぎのみじん切りを合わせます。ブイヨンが煮立ってきたら軽めの白ワインをグラス1杯注ぎ入れ、新鮮なバター1かけを溶かします。貝の身をスープに入れ、ローストした小パンの角切りを添えます。

* 元のドイツ語はSeemuschelで、独和大辞典によるとフネガイと出て来ます。でもDUDENにこの言葉はなく、ウィキペディアでもフネガイ科を指すのは別の言葉なので、もしかすると単純に「海の貝」という意味かもしれません。

29.ブレーマーハーフェン風海魚のスープ

 安価で新鮮な小ぶりの海魚を丁寧に洗い、骨を外します。魚の半身は骨とともに2.5ℓの水に入れスープ用香味野菜、スパイス、月桂樹の葉1枚、ローストした玉ねぎを加えて1時間煮込んだら、できたスープを濾します。バターで小麦粉を炒めて作ったルーを濾したスープに溶かして加熱し、とろみをつけ、マギー調味料小さじ1を加え、別途茹でたカリフラワーと取っておいた魚の身でQ章にならって作った魚団子を入れます。

現在でもブレーマーハーフェン風魚のスープという料理はあります。たとえばこちらのレシピでは、タイセイヨウアカウオ、シロイトダラ、クロジマナガダラなどと書かれています。

30.ウミガメスープもどき(ウミガメスープに似せたスープ)

 24~30人分には牛肉4~5㎏、根菜、玉ねぎ、エストラゴン、オールスパイス、丁子2,3本を入れて力強いスープを作ります。同時にごく新鮮で大きい、毛を焼去した子牛の頭、豚の鼻、耳、雄牛の上あご、子牛の舌を火にかけ、すべて火が通るまで煮ますが柔らかくしすぎてはいけません。冷ました牛肉は小さい長方形に切り、きれいにした子牛の舌も同様にし、両方ともブイヨンに入れ、小さいソーセージ、ナイフの先ほどのカイエンペッパー、一口大に切った子牛の胸腺(A章42番参照)を入れます。そして子牛の頭でとったブイヨンを十分な量用意し、バターで茶色に炒めた小麦粉のルーでとろみをつけます。これらすべてを15分煮たら、子牛肉の団子を子牛肉の頭のブイヨンか塩を入れたお湯で数分茹で、固ゆでして小さく切った卵数個、水に浸してさっと湯がき血管を取り除いてお酢を入れたお湯で茹でた後にスライスし、卵とパン粉をつけてバターで焼いた子牛の脳みそ、さらにイギリスの醤油大さじ1~2杯、マデイラ酒一瓶の半量、もしあれば牡蠣をスープに加えます。マデイラ酒と牡蠣は煮込み過ぎてはいけません。そうしたらスープを盛り付けます。とても洗練されたスープにしたい場合は、カメの卵を模した団子を作って入れます。固ゆで卵の黄身3個分、バター50g、塩、ナツメグ少々を混ぜ、小さな団子にし沸騰したお湯で数分茹でます。
  ブイヨンも子牛の頭も、食べる前の日に作っておいても何ら問題はありません。
  簡単なウミガメスープもどきを作るには、子牛の頭を、スープ用香味野菜、ニンジン、雄牛の顎肉とともに柔らかく煮込み、茶色のルーでとろみをつけ、ブイヨン1ℓにつきリービッヒの肉エキス10gを入れ、エストラゴン、子牛の頭肉を細かく刻んだもの、アラク酒グラス1杯、グラーヴワイン1/2本、固ゆで卵の角切りを入れます。

肉やその他の部位、香辛料など多数の材料が使われますが、本物のウミガメスープの味にどのくらい近づけているのでしょうか。これも気になるレシピです。

31.野ウサギのスープ

 野ウサギを洗う時、まずは血を取っておきます。骨を砕き、肉を切り分けます-背中は除いて。牛肉1.5㎏、ハム100g、スパイス、根菜、スープ用香味野菜と一緒に3時間じっくり煮込みます。その間に背中をバターでジューシーに炒めて肉を切り分け、それをスープ型に入れます。スープは濾し、茶色のルーでとろみをつけ、力強くかき混ぜながら血、ポートワイングラス2杯、カイエンペッパー少々と塩を加えます。よく火を通し、スープを盛り付けます。
  イギリスでは野ウサギのスープはウサギだけで作ります。その場合煮るのは2時間を見ておけばよいでしょう。このスープを作るには、背中以外の野ウサギ丸ごとを細かく切って、ニンジン、小さく切ったハム、スープ用香味野菜、スパイスをバターで茶色く炒め、肉エキスのブイヨンを注ぎ、上のように煮込みます。背中も焼いて小さく切り、湿らせて柔らかくした小型パン、ポートワイン250mlと混ぜ、できたブイヨンで煮ます。米を炊いて山型に盛り付けたものを添えることが多いです。
中程度の大きさの野ウサギ一羽で6~7人分のスープが取れます。

32.野ウサギの骨、ジビエの骨または焼いた肉の骨のスープ

 まず使う肉からついている肉を取り外し、細かく刻んで、湿らせて水気を絞った白パン、新鮮なバター少々、卵数個、塩、コショウ、ナツメグと混ぜ合わせ、小さな団子を作り、できたスープに入れて茹でます(経験の浅い主婦は、まず団子が固くあるいは柔らかくなり過ぎたか確認し、固い場合は卵かクリームを、柔らかい場合はパンを削りおろして加えます)。この間に骨を細かく砕き、乾燥ハム、玉ねぎ、ニンジン、パセリの根、根セロリと共にバターで炒め、小麦粉大さじ数杯を振りかけて茶色く炒め、スープに必要な量の熱湯と、ソースの残りを状態がまだよければ加えます。これを2時間煮込み、目がごく細かい濾し器に通し、砕いた骨が残るようにします。濾したスープは、沈殿物は混ざらないように静かに鍋に注ぎ戻します。団子を入れて火を通し、粒状の肉ブイヨンで濃さをつけ、マデイラ酒、カイエンペッパー、塩で味付けします。骨に肉が全くついていなければ、茶色のルーでスープにとろみをつけ、粗挽き粉の団子やキャベツの芯をスープで煮ます。簡素にしたい場合は骨を炒めるのを省略し、骨は塩、スパイス、たくさんの香味野菜を入れたお湯でじっくり長時間煮込みます。ただいずれにしてもマギー調味料とマギーの固形ブイヨンを加えるのはお勧めです。

33.イエウサギのスープ

 D章IV部(家ウサギ)77および78番参照

D章にたどり着けるのはいつになるのか・・・気長にお待ちください。

34.ヤマウズラのスープ

 野ウサギのスープと同様に作ります。団子の代わりに胸肉を細切りにし、スープに入れてもよいです。

この鳥の名前はドイツ語でFeldhuhnというのですが、独和大辞典だとシャコ(鷓鴣)(ヤマウズラの類)とあり、ウィキペディアでシャコを検索するとコモンシャコ(Francolinus pintadeanus)にあたり、これをドイツ語ページで見るとPerlfrankolinとなっています。Feldhuhnをドイツウィキペディアで検索すると、Fasanenartige(=キジ科)になっており、Langenscheidt独和辞典で引くと英語ではpartridge、これは日本語でヤマウズラというそうです。
ということでヤマウズラとしておきました。

35.ノハラツグミのスープ

 1人分につきノハラツグミ1羽用意します。ノハラツグミは塩少々を入れた多めのバターで蓋をしてゆっくり柔らかく炒めます。胸肉を薄くスライスし、置いておきます。骨は乳鉢で砕いて潰し、根セロリのスライス数枚、ニンジン、玉ねぎを、鶏を炒めたバターでしんなり炒め、小麦粉大さじ1を加えてしばらく混ぜ、美味しいブイヨンを注いで1時間ゆっくり煮込みます。浮いた脂をすくい、スープを濾したら再度加熱し、胸肉を入れて盛り付けます。小型パンのスライスをトーストしたものを添えます。調理時間は2時間半です。

これまた聞いたことのない名前の鳥ですが、原書にはKramtsvogelとあります。これはKrammetsvogelとつづる方が多かったようなのですが、現在はWacholderdrosselが正式名です。Drosselはツグミ、Wachholderはジュニパーのことです。この鳥はジュニパーベリーが好物なことからこの名前がつきました。で、原書にあるKramtsvogel(またはKrammetsvogel)は、ジュニパーを意味する古い言葉Krammetに由来しているそうです。

36.ジャコバン風スープ

 落とし卵(L章 卵、牛乳、粉、米、トウモロコシの料理 参照)を、スープ皿に小型パンのスライスのトーストを置き、その上に乗せます。オキソ・ブイヨンで手早く作った熱々の濃いブイヨンを注ぎ、焼いた鶏の切ったものを入れます。

  ジャコバンといえば、フランス革命後恐怖政治を行ったジャコバン派のことしか思い浮かびませんが、それとスープがどう結びつくのかが分かりません。検索すると少しですが、「Potage ou jacobine」または「Soupe à la jacobine」というのが見つかりました。フランスのウィクショナリーを見ると、 à la jacobine(ジャコバン風)というのは、「アーモンドのブイヨン、ウズラのミンチ、卵、チーズを使ったスープ」とありました。さらに検索すると、このスープ名のジャコバンは、ドミニコ会士のことだそうです。フランス語ではドミニコ会修道士をジャコバンと呼ぶそうなのですが、パリ・サントノレ通りのジャコバン修道院に由来しているそうです。で、この修道院を本拠地としたことから恐怖政治を行った政治結社の名前がジャコバン派となったということなのですね。
  ただ、それでもまだこのスープに直接結びつくストーリーが見つかりません。フランス語ならもっと調べればあるのでしょうか・・・
  上にリンクを貼ったPotage ou jacobineは、「鯉または鰻、バター、白ワイン、マッシュルーム、パンの耳、魚の茹で汁、ミラノのチーズ、レモン汁とスライス」が材料に挙げられています。こちらのサイトでも、アーモンドの煮汁、ウズラ、チーズが出て来ますし、別のシェフは「鳩、パルメザンチーズ、焼いたパン」を挙げています。
  フランス料理の歴史に詳しい方、よかったら教えてください。




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