100年前のレシピ本を訳してみます21・B.スープ①
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100年前のレシピ本を訳してみます21・B.スープ①

さてここからレシピに入っていきます。まずはスープです。スープは6つのカテゴリーに分けられ、最初は肉のスープですが、2~3回に分けて投稿すると思います。まずは肉のスープの基礎知識からです。

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B. スープ

1.肉のスープの調理における一般的なルール

スープ鍋 スープを作るには、スープ専用の清潔な鍋が必要です。きちんと閉まる蓋が付いたアンベルクの琺瑯容器や、トリーア近くのマリーアヒュッテの酸化皮膜を施した鍋がすぐれています。さらによいのは密閉できるパパンのブイヨン鍋や、ウムバハの調理鍋で、両方とも濃厚なブイヨンを作るのに適しています。簡単で安くできる方法は、普通の鍋をしっかり閉めるようにすることですが、普通の鍋蓋の代わりに、アンベルクにあるバウマン社で製造している「クランプ蓋」を使うとよいです。
  エシェンバハの重ね蒸し鍋はとても便利なのでお勧めです。重ねた鍋の中にそれぞれスープ、肉、野菜を入れ、一度に蒸すことができます。ずっと見ていなくてもいいし、燃料や時間の節約にもなります。ただし琺瑯コーティングをしていないため若干焦げやすいので、丁寧に洗う必要があります。
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パパンのブイヨン鍋は圧力調理器のことで、フランスの物理学者・発明家のドニ・パパンによって発明されました。画像はこちらをどうぞ。
バウマン社のものはこちらです。
エッシェンバッハの重ね蒸し鍋は要するに蒸籠のようなものです。
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肉の選び方 おいしい肉のスープを作るのに使う肉は新鮮でなければなりません。牛のモモの肉、尻尾の肉とうちももが濃厚なスープが取れる部位です。しかしどんな種類の肉、ジビエや鳥でも様々な味わいの肉のスープができます。鳥や子牛の肉など消化のよい食事が必要な病人には、スープもそれらの肉で作るとよいです。年老いた動物の肉は若い動物のそれよりも濃い味のブイヨンが取れます。

合う肉を選ぶ 肉は入れずにスープだけを食卓に出す場合、肉はかろうじてスープを作る目的のみ果たし、煮だした後はパサパサに乾いてしまっても構わないので、脂身と骨がついていない腿の部分の肉を選びます。その肉はたとえば茹でハムやベーコンと合わせてみじん切りにして、フリカデレ(肉団子)やパンハスを作り、簡単な食事を作れます。しかしスープの後に、その肉も食べるのであれば、見苦しい部分は切り落として小さく切り、きちんとアクが取れるよう冷水に入れ、温かい竈のそばで1時間おき、その後煮ます。大きな肉、一番よいのは脇腹ですが、肉汁が出ないようスープが沸騰してから鍋に入れます。煮ることで肉の味が出てしまったら、リービッヒの肉エキスを加えて補いましょう。

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 脇腹と訳したドイツ語は初めてみる言葉で、辞書にはなく、古い肉の専門書にあったのですが、正確にどの部位を指すのかが分かりませんが、大体その辺りで間違いないようです。
 パンハス(Panhas)は、ラインラントおよびルール地方のソーセージの一種です。コッホヴルストという、加熱した材料で作るソーセージのカテゴリーに属し、材料に蕎麦を使うという特殊なものです。画像はこちら。

画像1

                      CC-by-sa-2.0
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肉の扱い方
 肉は軽く洗うだけにするか、または洗うのはできる限り避け、水にもあまり長く漬けないようにします。肉を出す時は、ブイヨンを煮詰めることをあらかじめ考慮し、それによって水の量を量ります。水を後から追加すると味がかなり逃げてしまいます。どうしても水を注ぎ足す必要がある時は、冷水でなく熱湯を使うようにします。

アクを取る 透き通った味のよい肉のブイヨンを取りたければ、きちんとアクを取るのを怠ってはいけません。味が失われるから、とアク取りを控えることが多々推奨されていますが、私はお勧めできません。タンパク質は人間の体にほぼ役に立ちませんし、濁ったスープは、(よい肉のスープの主な特徴である)透き通ったスープほど食欲をそそりません。しかしアク取りはすぐにはせず、肉を30分ほどゆっくり煮込んでからにします。そうするとアクの泡は、濁りの少ないタンパク質だけになるからです。アクの取り方は、スプーンで冷水をブイヨンに注いで、上がってくるアクの泡をすぐにすくい取るようにします。-タンパク質が固まらない、密閉できるスープ鍋の場合はアク取りは必要ありません。

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タンパク質の栄養価はこの当時まだ知られていなかったのでしょうか。
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塩をする 水に塩が含まれると、肉用塩の浸出が妨げられるため、肉に塩をするのはアクを取った後にし、必要な量の塩だけ感じられるようにします。長時間加熱すると水分が飛んでしまい、それによりスープが煮詰まって塩味が増すことを想定しておきましょう。塩味がきつすぎるスープは料理人にとって不名誉であり、無知や注意散漫さを露呈することになります。もし、恋する相手のことばかり考えるあまりうわの空になり、何度も塩の樽に手を伸ばし、塩を入れ過ぎてしまったら、浸透装置*)(C章「塩ゆで野菜」参照)で失敗を修正できます。
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  ここで面白いなと思ったのは、恋をしてうわの空になり、塩を入れ過ぎてしまう、というところです。今でもドイツでは、料理がしょっぱいというと、「きっと料理人は恋をしているんだ」と言います。この当時からすでに言われていたのですね。
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*) (ブラウンシュヴァイクの化学者マイアー博士がこの浸透装置を開発し、その仕組みが書いてあるのですが、よく理解できていないのでその文は一旦省略します。)
塩を抜きたい食品をこの装置に入れて冷水をかぶるくらいに注ぎ、脱塩器内の水位と合わせます。6~8時間後に余分な塩分がパーチメント紙を通して外側の容器に排出されます。脱塩した野菜や肉は、浸透装置内で浸していた水に入れたまま調理します。

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スープの調理 肉のブイヨンがゆっくり沸騰してきたら、常にしっかり蓋をして(肉の香りが逃げないように)程よい温かさのこんろでゆっくりと火を止めずに煮ます。ただし煮すぎないよう必ず気を付けます。木炭や泥炭の上、褐炭の中、あるいは干し草箱の中や自動調理器で調理したブイヨンは最も美味です。一時間の調理後、念を入れてブイヨンを濾して肉についたアクをさっと洗い落し、沈殿物が除かれたブイヨンに戻し、まんべんなく洗った鍋に入れて再度火にかけ、選んだ根菜を加えます。

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  自動調理器とは、ここ最近日本でも人気の保温調理器と同じ仕組みのものです。長時間煮込む必要のあるものは、最初加熱した後、自動調理器へ入れておくだけでできあがるというものです。炭や干し草箱に入れるというのも、その保温機能を利用するということでしょう。
  この自動調理器ですが、発明したのは1829年スイスのヴァットヴィルという町に生まれたスザンナ・ミュラーという女性です。農家出身で、4歳の頃から家の様々な仕事を手伝い、学校は農閑期の冬にしか通えなかったそうです。
  16歳の頃母が亡くなり家事一切を請け負うものの、19歳で背骨が曲がり、父親から逃げるようにしてチューリッヒへ出ます。ペンションを開き、1885年に「スザンナ・ミュラーの自動調理器」を発明、特許を取得します。
その後特許に抵触するのをうまく回避しながら模倣された商品が多数出回り、長いこと訴訟が続いていましたが、1905年にスザンナは亡くなります。
  自動調理器の仕組みが狙われやすかったのには理由があります。貧しい家庭でも使えるように、スザンナは自動調理器の作り方を書いて発表したのです。1860年から始まった、『働き者の小さなお母さんー成人した娘が実践的な生活を送るために持たせるもの』というスザンナ自身が発行した月刊誌は、大好評で1964年まで30版を重ね、20万部を売り上げました。スザンナ自身が幼少の頃から身につけてきたあらゆる家事について書かれたものだそうです。これも機会があれば見てみたいです。

  自動調理器のイラストはこちらで見れます。
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スープに入れる材料、スープ用ハーブ 根セロリをひとかけ、肉のブイヨンで煮るとよい味がつきます。根セロリを多く使いたい時は、まずお湯で茹でてからスープに加えることをお勧めします。そうすると肉の味より根セロリの風味が勝ってしまうのを防げます。そのためどんな肉のスープでも、スープ野菜、つまりセロリの葉の入れ過ぎはスープのよい味を奪ってしまうので気を付けましょう。薄めの肉スープ、エンドウ豆のスープ、ジャガイモのスープにはそうしたハーブはよく合います。生または軽くローストした玉ねぎを加えると、黄色い色がついて香味料にもなります。

パセリの根とごぼうは、アクを取って1時間経った肉のブイヨンに入れます。柔らかくなるまで30分ほどかかります。ポロネギやアスパラガスも同様で、根セロリは1時間弱くらいです。
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意外に思うかもしれませんが、ドイツでもゴボウを食べます。今でもスープや温野菜などにして食べます。日本のものより中は白くて味は淡泊です。
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とろみをつけるもの 肉やジャガイモのスープにとろみをつけるのに小麦粉を使いたい時は、まずバターで黄色くなるまで炒めます(A章4番参照)。あるいはこうする代わりに新鮮なバターと小麦粉を練り合わせてもよいです。これを小さく丸め、ブイヨンを濾した後に入れます。完全に溶けたらスープにしっかりとした味をいきわたらせます。小麦粉をそのままスープに溶かし入れるのは避けましょう。簡単なジャガイモスープさえ味が落ちてしまいます。
  大人数の会食用にしっかり濃厚なブイヨンを作り、他にもいろいろな料理が続く場合は、香味野菜は入れずに澄ましブイヨンとして出します。小さなクレーセ(団子)、新鮮なアスパラガスかカリフラワーを少々なら入れても構いません。普段の食事ならスープをルーでとろみをつけ、米、ひきわり麦、パスタ、サゴなどを具として加え栄養価を高めます。サゴやいろいろな形のパスタは濃厚なブイヨンに入れるのが一般的です。

グラウペン、米、サゴパール、いろいろな形のパスタの分量と調理時間 グラウペン(精麦大麦・小麦)と米でスープにとろみをつけたい時は、大さじ山盛り2杯が4人分にあたり、サゴパールやパスタを透き通ったブイヨンの具にする時は半量になります。グラウペンと本物のサゴの場合は2.5~3時間、米は1時間、いろいろな形のまたは糸状のパスタは半時間、スープの中で加熱します。パスタを買う時は黄色に着色したものは避けましょう。卵を使っていると思われかねないからです。サフランで着色したものは、有害なこともあります。
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サフランはこの当時有害と思われていたのでしょうか、それともサフランそのものより、加工方法や使う量などに問題があったのでしょうか・・・まだちょっとわかりません。
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クレーセ(団子)クレーセをスープに入れて調理したい時は、その前に肉を取り出し、スープをよそう時まで熱湯にかざした器に入れておきます。きちんと透明なスープにしたければ、塩少々と肉エキスを少々入れたお湯で茹で、玉杓子ですくって直接スープ皿に入れる方がいいです。茹でたお湯はスープや野菜を茹でるのに使えます。

スープの調味料 薄い肉のスープをしっかりとよい味に仕上げるには、盛り付ける前にナイフの先ほどの量のリービッヒの肉エキス、または最近出回っているマギーの固形ブイヨンを加えしっかり煮込みます。両方とも、肉がなくても美味しいスープができるので、料理の際に困ったときは助かります。肉のスープや(塩漬け用の)塩汁入りスープ、何も入っていないスープが薄くても、このどちらかを少し使うだけで、たちまちしっかりとした肉のスープに変わります。この後お伝えするスープや様々な料理の作り方が示すとおり、肉を入れなくてもいつでも美味しいブイヨンなどが作れます。
  最近ではリービッヒ社が肉エキスの他にも、オキソ・ブイヨンという名の液状のインスタント肉ブイヨンを出しています。すぐにスープを作りたい時はいつでも頼りになる、一目置くべき製品です。このオキソ・ブイヨンは、熱湯で薄めるだけで美味しい肉のスープになります。固形のタイプもあります。
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  塩汁入りスープはどういうものかよくわかりません。レシピとして後で出てくるかもしれません。
  オキソ(Oxo)はイギリスのブランドですが、元々はリービッヒの肉エキスを売る会社からの流れです。詳しくは「100年前の料理本を訳してみます4」をご参照ください。
  オキソ・ブイヨンですが、こんな広告を見つけました。
  そしてどうも専用のカップもあったようです。
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次回は簡単な肉のスープから、いろいろな肉や肉の部位を使ったスープのレシピです。

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