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【日本人は何を食べていた?】日本に家畜はいなかったって、ホント? ②


【明治時代】 文明開化の幕開けは、肉食解禁!

本日のお題、私たち日本人は何を食べてきたのか? その②となります。
①がまだの方は、こちらからお読みください。

明治時代といえば、文明開化の幕開け。1853年のペリー来航により、約200年も続いた鎖国は終わりを告げました。鎖国の間に熟成された日本独自の食文化に、大きな変化が起こります。牛肉の登場です。

肉食禁止令によってタブーとされていた肉食が、解禁となったのです。1872年、明治天皇が公式に牛肉を召し上がったことが、肉食解禁のお墨付きとなりました。

食べ方はというと、すき焼きの原型のような、”牛鍋”が一般的でした。おうちごはんというより、外食がメインだったようですね。

鉄鍋を使って、牛肉とネギを割り下(調味料やだし汁で割った下地のこと)で煮て、さらに味噌で味つけして食べるのだそう。

ちなみにこれは猪鍋の調理法と同じだったようで、洋の食材である牛肉を、日本風にアレンジした料理といえます。日本人は創意工夫が得意なんですね。

牛肉以外にも、イギリスやフランス料理など、さまざまな西洋料理が日本にもたらされました。最初は、宮中晩餐会や外国人居留地の西洋料理店で出されるだけ、ごく一部の階層に向けたものでした。

それが次第に市民にも広がり、街のレストランで出されるようになります。いまも上野にある精養軒などが、正統派フランス料理店として有名だったそうですよ。

面白いのが、コース料理として出されていたものが、単品の洋食へと変化していったこと。例えばトンカツは、もともとは骨付き肉に衣をつけてバターで焼いた料理でした。それが日本で手に入りやすい豚肉にかわり、調理方法もバターで両面焼く料理から、天ぷらのように油で揚げるものへと変化。それが、ポークカツレツやトンカツ、と呼ばれるようになったとか。

ところで、明治の三大洋食って何かご存知ですか? それは…、
◎カレー
◎コロッケ
◎トンカツ だそう!
(※トンカツの代わりに、オムライスという説もある)

これらを見て、気づくことはありませんか?
そうです、どれもご飯と相性バツグンな料理なんですね。

日本のカレーはご飯にかけるものですし、コロッケ、トンカツといえば、千切りキャベツにウスターソース、そしてご飯にお味噌汁といった定食の人気メニュー。

エビフライやハンバーグもそうですし、オムライス、ハヤシライスなどもそうです。どれも、日本人の食文化、お米と相性がいいものへと変化を遂げたからこそ、こんなにも受け入れられたんですね。

こうした食の西洋化は、富国強兵をスローガンに掲げる政府主導によるものでした。西欧諸国に追いつくため、国を豊かにし、強い軍隊を作ることは明治政府の急務。西洋人と比べて体格的に見劣りする日本人を強化するために、彼らと同じ肉食が必要だと考えたようです。

【戦後〜近代】 食の欧米化がすすみ、今や美食大国に


そんな異国の豊かさに触れた直後、日本は大戦に突入します。この時代はグルメなんていってられません。日本中が食うや食わずの貧しさに包まれ、主食であるはずのご飯さへも事欠く始末。

お米の代用品として普及したのは、麦や大豆のほか、さつまいもやじゃがいも、里芋やかぼちゃなど。それらの実だけではなく葉っぱや茎、さらに畑の作物だけでは足りないときは野草を採取するなどして、何とか飢えをしのいでいました。

例えば、さつまいもを入れた麦ごはんや、野草のお味噌汁といった具合。しかもおかゆや雑炊にしてかさ増しをし、少量でおなかいっぱいになるよう工夫していたといいます。

この時代でも、1日3合はご飯を食べていたという日本人です。戦時中のお米不足はどれほど辛かったことでしょう。

戦後はますます食の欧米化がすすみます。さながら文明開化パート2といった感じでしょうか。ここにきて一般庶民の家庭にも、西洋料理が広く浸透したようです。

きっかけとなったのは、学校給食の再開でした。戦後、酷い食糧難に襲われていた日本。米国の援助により、パンとミルクによる給食がはじまります。これにより、子どもたちの栄養状態が改善したのは事実です。ですがその反面、お米中心だった日本の食生活を大きく変えることになりました。

ちなみに、米国による援助の目的は、国内の小麦の備蓄を減らして小麦価格を安定させること。また、日本にパン食を定着させ、将来的に米国から小麦を輸入させることだったとか。

高度経済成長とともに、家庭料理も一変。テレビや女性誌などのメディアにより、ハンバーグやクリームシチューといった洋食が、新しい日本の家庭料理として紹介されました。

今までなかった小麦粉、肉、牛乳、卵を大量に使う料理が、次々と日本の食卓に浸透していきます。

デパ地下やコンビニなどの登場により、さらに家庭料理のバリエーションも広がります。洋食のみならず、中華料理や韓国料理などあらゆる料理が定着しました。

ハレの日、特別な日だけだった外食も、ファーストフードや安価なレストランの登場でまるで日常食のようになりました。今や東京は、ミシュランの星が世界一輝く都市といわれるまでに…。

【まとめ】 食とは、周りの環境を食べること


というわけで、ざっと日本の食の歴史をみてきましたが、いかがでしたか?
簡単にまとめると、こんな感じでしょうか?

◎日本人の食のはじまりは、水田稲作文化である。つまりお米が主食!
◎和食の原型は、一汁三菜。ご飯中心に、野菜と少量の魚介類(淡水魚含む)
◎ハレ(行事)とケ(日常)があり、食生活にメリハリがあった
◎畜産の文化はなし。狩猟で得た獣肉を食べていたが、仏教伝来以降は肉食タブー
◎明治から昭和にかけて食が欧米化。従来の日本食から大きく変わった

こう見てきて私が思うのは、近代化とともに豊かにはなりましたが、日本人の食は日本の風土から離れてしまったなぁということです。

食とは、周りの環境を食べることです。
自分の住んでいる土地が育んできた食材、先人たちが繋いできた文化をいただくことだと思います。それが、味覚にも体にもあっているからです。

事実、肉食が増え、動物性脂肪を取りすぎた結果、ガンや心筋梗塞などの生活習慣病は増加し、いまや日本人の死因の6割を占めるまでに。これは、私たち日本人が急激な欧米化に適応できていないこと、また、動物性タンパクの過剰な接種は体にあってないことの証明に他なりません。

肉食解禁のおり、こうなることを予言した人物がいました。明治時代の医師であり薬剤師だった、石塚左玄(いしづか・さげん)です。日本型の玄米菜食こそが我々日本人の体にあっている、食で健康を取り戻そう!と「食養生」なる考えを広めました。世界的に有名なマクロビオティックは、この食養生のメソッドを発展させたものです。

食とは、周りの環境を食べること。その文脈で語るなら、私たち日本人は、稲作文化とともに歩んできました。お米と、水田に住む淡水魚や日本列島を取り囲む豊かな海の水産物、そして大豆や野菜を食べてきた民族です。決して、家畜を飼育して、その乳やお肉を食べてきた民族ではりません。小麦粉、肉、牛乳、卵を大量に消費する食文化にはないのです。

タイトルの疑問に答えると、日本には家畜を育てる文化はありませんでした。肉を食べるとしても狩猟で得たシカやイノシシなどが中心。仏教伝来以降は肉食禁止令によりお肉自体が敬遠されていましたよね。

水資源が豊富な日本は、農耕文化向きなんです。逆にいうと、牛や羊など家畜を飼育して生活する牧畜は不向き。牧畜文化が広まったのは、穀物収穫に適さない土地です。人間が食べられない草を家畜に与え、その乳やお肉を食用とすることで生命を維持してきたのです。

現在では日本でも畜産業は行われていますが、そのエサとなる大量の飼料は輸入でまかなわれています。なぜなら国土が狭く、山や川の多い日本では広大な農地の確保は難しいからです。そのシワ寄せが他国にいっていることも付け加えておきましょう。

和食は絶滅危惧種。昔ながらの食文化を守りたい!


ご飯中心に、野菜や大豆食品、それに少しの魚介のおかず。これこそが日本の風土が育んできた昔ながらの和食であり、日本人の味覚と体にあった食事だと思うのです。

おまけに、環境を食べることは地産地消でサステナブルにもつながり、さらに輸送におけるCO2も削減できます。昔ながらの和食だと思っていましたが、実は地球環境にも優しい、未来食だったんですね。

しかも和食は、いまや世界中から注目の的です。先日お伺いしたお料理教室でも、日本料理を学びに来る海外のシェフが多いと聞きました。動物性タンパク質や油の使用が少ない和食は、ヘルシーで健康によいと海外でも人気なんだとか。季節ごとに変わる食材や、美しい盛り付けにも魅せられるそうですよ。

そんな和食は、2013年、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。これは、一見喜ばしいことのようですが、見方を変えれば保護が必要な文化である、つまり絶滅危惧種ということです。懐石などの日本料理ではなく、普段の昔ながらの和食は食卓から消えつつあります。

日本の風土と先人たちが繋いできた食文化、これがなくなってしまうなんて悲しくないですか? 世界から称賛されているのに、肝心の私たち日本人が食べなくなってしまうなんて…。

この事実を知ったとき、昔ながらの和食を大切にしていこうと強く思いました。ヴィーガンを目指していたこともありますが、日本人が脈々と紡いできた食文化を守っていきたいと思ったんです。

なので、私の食生活はこうです。
普段のケの食事は、菜食よりの一汁三菜。ご飯中心に、野菜や大豆食品をいただきます。分づき米にお味噌汁、自家製ぬか漬け、そして納豆に野菜の炊合せやきんぴら、といった具合。

そして、ハレの日は、美食大国の日本を満喫。日本料理を中心に、ときにはイタリアンやフレンチなどをいただくことも。可能な限り、お肉はお魚への変更をお願いして、魚介類をメインにいただきます。

昔ながらの和食を楽しみつつ、ハレ(特別な日)とケ(日常)という日本人ならではの考え方を利用して、たまにはご馳走をいただく。そんな日本人らしい食生活を皆さんもはじめてみませんか?

体が健康になるとともに、日本人としての誇らしさや懐かしさを感じること請け合いです。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【参考文献】
・ 国立科学博物館 特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」公式ガイドブック
・石毛直道『日本の食文化史 旧石器時代から現代まで』岩波書店 2015年





























































 













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