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短編小説

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短編集です。
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#小説

なにがブリリアントや

ある賞の公募に応募して、その為に11月までに書いた詩なるものを幾つか読み直していた。応募数に制限はないのだけども、読み直していくうちに応募するに値するように思われる作品はたったの数点で、その数点の作品なるものの中でも一つはなんだか読み手の同情を誘うようないやらしいものだし、それ以外のも鵜の真似をする烏というか、形式だけに拘った付け焼き刃の突貫工事、作品を成り立たせる主軸のこれ心許ない気色甚だしく、

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草稿

草稿

早春の東雲 晩夏の暮夜 晩秋の薄暮 杪冬の明昼、往年の四季に惑わされ醜くも生きてきたけれど、生きる事が人生に於けるプライオリティだというある偉い人の陳述を読んで、それでも四季のあることに感謝しなければならないと思うと、窮屈な気持ちで、僕はやるせなくなります。

早春の東雲 晩夏の暮夜 晩秋の薄暮 杪冬の明昼、冴えない小説の書き出しの為に生涯をかけて製造した銀弾四発を空に向けて放ったような思いである

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夏の幻影

夏の幻影

9月17日 木曜日

私がこの手帳に初めて付けた日記の一節に、このような事が記されておりました。

"自身の思いを書き留める事が、私の憂鬱を形作るもの一部になるのは、当分先であろうが、"と

しかし、明らかに、この現在書いております文章が、紙の上に乗るのは久しいことでありまして、私は全く口が上手いものだと、感心さえしております。さて、このようなナマケモノの私が再び日記をつけようと思い立ったのは、ど

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朧気な男

朧気な男

男は不毛な思案に明け暮れていた。先程から、もう何分、何時間、何年と、熟慮を尽くしている。男の前には背の低い安物の長机があり、その机の上に深緑の布生地で覆われた手帳と先の丸い6Bの鉛筆が、丁度手帳と机の段差にもたれ掛かるように転がっている。どうやら今夜も又、全く無意義な、無稽の思惟に没頭しているようである。この男はよく、哲学的思考実験などと、称して、『恐怖と好意の差異とは?』やら、『執拗な憎悪は嫌悪

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