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【#Real Voice 2022】 「災難だらけの一年。強くなれました。」 2年・伊勢航

「伊勢、マジで来年絶対悪いことあるよ」

去年最後のインカレでメンバー入りしてピッチ内外で調子が良かった自分に、同期で色々なことについてよく語り合う仲の光田(2年・光田脩人)がシーズン終了後に言ってきた。その時は「ふーん、気をつけるわ」と軽く流した。

だが、今年は光田の予言通り苦しいことばかりだった。

苦しいことが多すぎて、あげたらキリがない。
その中でも、シーズン序盤とシーズン終盤の苦しみが特に印象に残っている。



2022年シーズンが始まると同時に、精神的に追い詰められる日々が続いた。

学年内での問題が多発し、先輩からは問題を解決しろと厳しく言われる。
「そんなもんわかっとるわ、こっちも必死やねん」と心の中では思いつつも、学年内での立場を考えるとその思いをぐっと堪えてただ我慢するしかなかった。

正直サッカーどころではなかった。
アップが始まっても、パスコンの練習をやっても、最後の紅白戦の場面でも、常に頭の中はピッチ外の問題をどう解決するかしか考えていなかった。

「俺、今全くサッカーに集中できてないです」
練習後徹くん(4年・柴田徹)に弱音を吐いたその日の夜、寮で話を聞いてもらった。少しスッキリした。

翌日の練習、また学年でミスが起こった。

2年・4年の合同ミーティングが行われる。
自分の中でその時までギリギリに張り詰められていた糸が切れた。
ミーティングが終わった直後、自分でもよくわからない感情が湧き出してきて、涙が止まらなかった。
2年・4年合同ミーティングの後、2年だけのミーティングも行ったがそこでも泣いた。溢れ出す感情を抑えられなかった。

私は普段ピッチを離れればあまり感情を表に出さないタイプなので、この時自分がいかに追い詰められていたのかを理解した。

公平(2年・北村公平)に自分が抱えていた思いを聞いてもらった。
学年ミーティングで、同期が悪い現状を良くしようとする発言をしてくれる。
学年の一人一人が発言を行動に移していく。

自分1人で抱えすぎて他人に頼らなすぎていた。もっと周りの人に任せるようにしよう。
こう考えることによって、肩の荷が降りてシーズン序盤の苦しさは徐々に消えていった。


その後も
関東リーグ最初の頃メンバーには選ばれても、90分間ベンチを温めること
やっとスタメンとして出場したと思ったら怪我で離脱したこと
早慶戦前に心身ともに充実した状態のときにまた怪我したこと
などなど
試合に出られないことや中学以来の怪我など、サッカー人生初の挫折を味わった。挫折の中でもその時はサッカーに対する熱はまだまだあった。



だが、シーズン終盤に入ってきた時にもう1度大きな壁にぶち当たった。
それは全くと言っていいほどサッカーに対するモチベーションが湧いてこなかったこと。

ある日にいきなりサッカーに対する熱がなくなったわけではない。
試合に出られない、メンバーにすら入れない、ピッチ外で負担が大きくなってピッチ内に割く時間が短くなっていたことなど、様々な要因が積み重なって徐々にサッカー熱が冷めていっていた。

そして決定的だったのが関東リーグ後期の順天堂大学との試合でメンバーから外れたことだった。
その時はコンディションが良く、その前の法政大学と筑波大学との試合で途中出場していて、次はもっと出場時間を増やしてチームの勝利に貢献したいとかなり意気込んでいた。
高いモチベーションがあった中でメンバーから外れたため、落ち込んで怒りや悔しさといった感情を抱くはずだった。

しかしメンバーから外れた直後、自分でも驚くほどその事実を受け入れて何も感情を抱かなかった。
メンバー発表の後まきや(2年・成定真生也)と話していた時に、無意識に「自分がメンバー入るよりも、チームが勝てばそれでいいんだよ」と口にした。
まきやは「その発言できるの凄いね」と褒めてくれた。

だが、私はその発言を無意識的に口にした自分に失望した。
サッカー選手として持っていなければならない大切なものをその時失った気がした。

高校までガンバでプレーしていたときなら試合に出られないことを受け入れることは出来なかっただろう。
ピッチに立っているみんなは全部のプレーでミスをしろ。負けてしまえ。
悪態はつかないだろうが、自分の代わりに試合に出ている選手のことをよく思わなかっただろう。
あの頃は敵・味方関係なく反骨心や敵対心を持って、サッカーに打ち込んでいた。
ハングリー精神・強烈な負けん気があったからこそ常に試合に出続けてきたし、サッカーを武器に早稲田大学ア式蹴球部に辿り着くことができたと思う。

ア式蹴球部に来てからいい意味でも悪い意味でも丸くなった気がする。
他大学の部活とは違った特殊な組織で、個人と同じくらいもしくはそれ以上に組織にフォーカスするア式。
自分の感情を押し殺して、組織のために行動しなければならないことが多々ある。
1年生のときは、監督に直接文句を言いにいったり寮生の間に流行らせてしまうほど「気悪いわ」を連発したりするなど人間的に荒削りだった。
だが、自分の都合だけで行動したり発言したりする人間はア式内で強く非難され、常に組織のための言動が要求される。
一つ一つの出来事にいちいち感情を抱くことはエネルギーが必要だ。
自分でも気付かぬ内に、喜怒哀楽の感情表現が少なくなっていた。
いつの間にか感情のない冷たい人間になっていた。
3歳からずっと夢だったプロサッカー選手になることを諦めようと考えることもよくあった。


このような状態の自分に感情を取り戻させ、再びプロサッカー選手になりたいと強く思わせてくれた生くん(4年・生方聖己)に本当に感謝したい。
狂人という言葉がふさわしく頭のネジが外れまくっている変態だが、この人のサッカーに対する熱すぎる想いが私に大きな刺激を与えた。
鬱になってサッカーから1度遠ざかっても再びトップチームに這い上がる姿、試合のメンバーから外れて大号泣する姿、それでも翌日には切り替えてサッカーに真摯に打ち込む姿。
順天堂大学の試合のメンバー発表後に失ったものを、生くんのサッカーに取り組む姿を見て取り戻すことができた。
生くんありがとう、まだまだサッカー追求しよう。

ユースの同期がJ2リーグの終盤に突如覚醒して、得点を決めまくっていた姿。

降格してしまったものの、可能性がある最後の1秒まで戦っていた選手・スタッフ・全員の姿。

みんなの必死になって戦っている姿を見てまだまだ自分もやらないといけないと思った。
こんな簡単に夢を諦めたらいけないと思った。


最後に
先日ア式が最後に関東リーグを優勝した時の主将だった岡田くん(令和1年卒・岡田優希)と話す機会があった。
そのときにかけてもらった言葉が印象的だった。
「チーム→自分の考えで物事を見ると、自分に求められるものが見えてきてやるべきことが整理できると思うよ」
ア式に来てこの2年間、自分がどのようにチームに貢献するかを考え続けてきた。主語は常に自分だった。
だが主語をチームに変えてみて、チームが良い方向に進むために何が必要なのかを考えるとスッキリしたと同時に自分がやるべきことが見えてきた。



この1年間苦しいことが多くあったが、その苦しさのおかげで得たものは大きい。
周りの人にうまく頼ること。
考え方をほんの少し変えるだけで見えてくる景色が違うこと。
どんな災難が降り掛かってきてもポジティブに捉えてみること。

望んでいた結果とは程遠い2022シーズンだったが、多くの人のおかげで最後まで駆け抜けることができた。

1週間前から新チームが立ち上げられて、前に向かって進んでいる。
1年で関東1部に戻るために
強い早稲田を取り戻すために
そして何より、再びサッカー熱を取り戻しプロサッカー選手になりたい自分のために

2023年シーズンやるしかない。


変態ゴールキーパー生くん
◇伊勢航◇
学年:2年
学部:社会科学部
前所属チーム:ガンバ大阪ユース












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