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世紀末を流離うデ・ニーロ、それが「RONIN」。

「勝手にデ・ニーロ・ナイト」
第二夜は、ジャン・レノとの夢の共演、監督は「ブラック・サンデー」のジョン・フランケンハイマーが務めた1998年のアクション映画「RONIN」を取り上げたいと思う。
本作でデ・ニーロは、当時「レオン」で勢いに乗っていたジャン・レノに一歩も退かない 冷静な「ロウニン」に徹する。

<キャスト&スタッフ>
サム…ロバート・デ・ニーロ(佐々木勝彦)
ビンセント…ジャン・レノ(金尾哲夫)
ディアドラ…ナターシャ・マケルホーン(唐沢 潤)
監督:ジョン・フランケンハイマー
製作:フランク・マンキューソJr.
製作総指揮:ポール・ケルメンソン
●字幕翻訳:菊地浩司 ●吹替翻訳:岸田恵子
<ストーリー>
戦略、武器、監視、秘密任務……それぞれのプロフェッショナルが、主を持たない“浪人"として世界各国から集結した。ある謎のミッションを遂行するために。だがその任務には罠が仕掛けられていた。お互いを信じることのできないまま、男達は“浪人"としての信念に従い、決死の行動を開始する!

Amazon 公式サイトから引用

「浪人」?それとも「牢人」?


原題の「Ronin」は、言うまでもなく日本語の「ろうにん」からとられている。「ろうにん」の定義とはなんだろう?辞書を引いてみる。

① 律令制で、戸籍に記載された土地を離れた者。その多くは、調庸の負担にたえかねて耕作を放棄した農民。浮浪。浮浪人。
② (「牢人」とも書く)主家の没落などによって主従関係を断ち、代々の家禄その他の恩典を失った武士。江戸時代には幕府のたび重なる諸藩取りつぶしもあって大量に発生し、幕府はその処遇に苦慮した。
③ 進学や就職に失敗し、次の機会を待ってその準備をすること。また、その人。 ⇔ 現役 「二年-してやっと志望校に入る」

weblio 三省堂 大辞林より引用

本作の主役たちは、冷戦崩壊とともに主国から棄てられた元・スパイたち。
転々と放浪生活を続け、現役のスパイだった頃に培った自らの武力・知恵・胆力で生計を立てている。
雇い主から見ればただの「便利屋」。いつ殺されるか、いつ切り捨てられるか分からない、不安定な立場にいるフリーランスだ。

だが、彼らはただの「使いやすい、切り捨てやすい」労働力 で終わらない。
かつて、彼らは、それぞれの主人=祖国の為に戦った。
国のためなら命も賭さない、その気高い精神性は、
時代の変化とともに国から捨てられ、苦悶や滅失の底を随分と彷徨ったあとで
別の方向へと向かった。

国ではない。 いまは、おのれが、主人だ。
その矜持が踏みにじられるのが彼らにとって最大の侮辱:彼らは、怒る。
そしてそれを実行する。

だから、この場合、武士の誇りを失った江戸中期の「浪人」と書くよりは
武士の誇りを捨てない江戸初期の「牢人」と書いた方が、相応しいだろう。
真田幸村、後藤又兵衛、由井正雪のように、権力者の寝首を掻くのも厭わない。
我一人以外の周囲を鑑みない、不義不退転の精神を持っている。

まとめると
雇われる立場ながらも、他人に媚びず
自分自身にルールを課し、己の矜持を守って戦う「牢人」こそ「Ronin」。
まさしく、当時脂にのったデ・ニーロ&ジャン・レノに打ってつけの役柄だ。


裏切ったやつは許さない。牢人たちの矜持。


ときは冷戦終結後のパリ:各国で秘密任務に就いていた元スパイたちが集まる。互いの名前さえ知らない彼らは、ある女性からブリーフケースを奪う指令を受ける。サム(演技:デ・ニーロ)とヴィンセント(演:ジャン・レノ)にとって、それは難易度が高くても、無事果たすことのできるはずの任務だった。

だが、ブリーフケースの争奪戦を繰り広げるロシアマフィア・IRAら「ならず者」たちの密謀。加えて、仲間の裏切り。
結果として、サムとヴィンセントは「雇い主から切り捨てられる」という最大の辱めを受け、面目を失った。
サムとヴィンセントは、おのれの矜持を守るための反撃に出る。

だから、プジョー 406を使ったハンパないカーチェイスで、
パリ市中を悪びれず逃げる敵を、徹底的に追いかけるのだ。
彼らの追跡劇がパリの交通網を麻痺させ、無数の自動車を横転させる。
市中大混乱も構いはしない:ひとり、またひとりと、討ち果たしていく。
サムとヴィンセントも、眉一つ動かさない冷静極まりない表情で。

最後の戦いは、アイスショーの行われているスケートリンクで行われる。
氷上に踊るフィギュアスケート選手が、敵の手によって狙撃される。
たちまち大混乱、逃げ惑う群衆、その中で、ロシアンマフィア、IRA、牢人二人の三者の間で、ケースを巡る争奪戦が火ぶたを切る。
(この展開は「ブラック・サンデー」「影なき狙撃者」同様に監督の十八番。)
牢人二人は息ぴったり呼吸を合わせ敵と対峙、最終的には本懐を遂げる:ただふたりの勝利者となる。

ふたり互いにうなづきあった後、彼らは名もなく、何処ともなく姿を消す。
だが、崩れかかった時勢が生むのが、ナグレ牢人たち。
彼らは、いつ、また、どの時代に再び現れても、おかしくは、ない。
そういう余韻を与えて、映画は幕を閉じるのだ。

※Amazonプライムほか各種配信サイトで配信中。


※勝手にデ・ニーロ・ナイト インデックス

第一夜:暴れん坊のデ・ニーロ「マチェーテ」

第二夜:青い目をした牢人のデ・ニーロ「RONIN」

第三夜:働き方を考えさせるナイスミドルのデ・ニーロ「マイ・インターン」

第四夜:ナイトメアクリスマス夢見るデ・ニーロ「ウィザード・オブ・ライズ」

第五夜:役作りに七転八倒のデ・ニーロ「俺たちは天使じゃない」

第六夜:沈痛のデ・ニーロ「ディア・ハンター」

第七夜:ハメを外すデ・ニーロ「ダーティ・グランパ」「ラストベガス」

第八夜:華麗な空賊にして紳士にして女装癖のあるデ・ニーロ「スターダスト」

第九夜:自分探し真っ最中のデ・ニーロ「マラヴィータ」

第十夜:追憶のデ・ニーロ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」

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ドント・ウォーリー
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