湧澄嶺衣

ショートショートのSF小説を発信しています。 数分で読めるものを、更新しています。 拙…

湧澄嶺衣

ショートショートのSF小説を発信しています。 数分で読めるものを、更新しています。 拙い作品ばかりですが、お読みいただけたら幸いです!

最近の記事

踏切の向こう側

 あの日、私は普段とは違う旅先で一人、県境の街を歩いていた。都心での平凡な日常から少し離れて、自分の好奇心を満たすための短い旅行だった。私は古い鉄道の無人駅近くの踏切の前に立ち止まり、カメラを構えていた。遮断機が下りて、遠くから汽笛が聞こえてくる。汽笛の音が静かに街を包む中、私はふとその先に何があるのか知りたくなった。  遮断機が上がるのを待ち、列車が去った後の線路を越えると、異世界に迷い込んだような感覚に襲われた。タイヤ痕が続く道をたどり、知らない街の風景に目を奪われた。

    • 枝分かれする未来

       私は平凡な日常を愛していた。都内の静かなアパートでの生活は、読書や謎解き、写真撮影に没頭するには最適な場所だった。特に好きだったのはミステリー小説で、ページをめくるたびに謎が解けていく快感がたまらなかった。  そんなある日、私は行きつけの古本屋で一冊の古い本を手に入れた。表紙は擦り切れていたが、その中には未だ見ぬ世界が詰まっているような気がした。その本には、『機械人間・枝・変化』といった不思議に思えたキーワードが散りばめられていた。  好奇心が抑えきれず、本を手に取った

      • 白骨公園

         去年の春、私は一人旅に出た。行き先は、東京から少し離れた小さな町。この町には、昔から奇妙な噂が絶えない公園があった。その公園の名前は『静寂の園』と言った。私の好奇心は、その不思議で不気味な名前に引き寄せられ、一人調査を決意した。  町に到着し、早速静寂の園を訪れた。広い芝生が広がり、花々が咲き乱れていた。平日の昼下がり、人影はほとんど見当たらない。空は青く澄み渡り、鳥のさえずりが響いている。だが、その美しさの中にどこか異質なものを感じた。  公園の奥に進むと、古いベンチ

        • 窓に映る影の正体

           ふと走行中の電車の窓から外の景色に目をやると、いつもの街並みが不気味に歪んで見えた。今日は一段と疲れているのかしら。私はぼんやりとしたまま、通学鞄を膝に乗せて窓の外を眺め続けた。  次の駅に到着し、ドアが開くと同時に乗り込んできたのは、どこか異様な雰囲気を持つ男性だった。スーツ姿だが、明らかにこの世のものではないような気配を漂わせている。彼が私の前の座席に腰を下ろした瞬間、車内の温度が急激に下がったように感じた。 「寒くない?」  隣に座っていたクラスメイトの美奈が、

        踏切の向こう側

          見えない真実

          第一章 忘れられた図書館  去年の夏、私は東京の喧騒を離れて、小さな田舎町に足を運んだ。その町には不思議な噂があった。町外れにある古びた図書館には、『空と空をつなぐ道』と呼ばれる古代の道具が隠されているという。少し変わっているかもしれないが、世界に散らばる古代文字の解読が趣味の私は、遺跡や遺物が大好物だ。さっそく私はその話に興味を引かれ、図書館を訪れることにした。  図書館は静かで、ほこりっぽい空気が漂っていた。そこにいるのは私だけのように思えたが、奥の方から小さな物音が聞

          見えない真実

          夢幻の急行

           去年の夏、私は東京を離れ、とある温泉地への一人旅を決めた。日常の喧騒から逃れ、静かな時間を過ごすためだった。急行列車に揺られながら、車窓から見える風景は次第に都市の喧騒から緑豊かな山間へと変わっていった。  その温泉地には、秘湯と呼ばれる特別な温泉があり、露天風呂からは壮大な山々が一望できると聞いていた。到着した日は快晴で、澄んだ青空と緑のコントラストが美しかった。宿に荷物を置くと、早速その秘湯へと足を運んだ。  湯船に浸かりながら目を閉じると、日常の喧騒が遠く感じられ

          夢幻の急行

          森の郵便箱

           私は普通の少女だ。ミステリー小説を読むのが好きで、休みの日にはカメラを片手に地元の都心部を歩き回る。パン屋の前を通ると、焼きたての香ばしい匂いに引き寄せられる。日常は平穏そのもので、特に変わったことはない。  しかし、去年の夏休み、私は思いがけない冒険に巻き込まれた。  ある日、森の中で一枚の手紙を見つけた。手作りの木製のポストに入っていたその手紙には、古めかしいインクで書かれた招待状が入っていた。『森の奥深くへ来てください』とだけ書かれていた。好奇心旺盛な私は、すぐに

          森の郵便箱

          風の痕跡

           今年の旅先で、私は思いがけない体験をすることとなった。早朝の澄んだ空気の中、誰もいない静かな浜辺を歩いていた。冷たく清々しい風が私の髪を撫で、遠くから聞こえる波の音が心地よいリズムを奏でる。何気なく見下ろした砂浜には、妙な痕跡が続いていた。  その痕跡は、人間の足跡とは異なり、円形の凹みが一定の間隔で続いている。まるで誰かが大きな円柱を転がしたかのような痕跡だった。不思議に思い、その先を追いかけてみることにした。  痕跡を辿っていくと、やがて浜辺から森の中へと続いていっ

          風の痕跡

          クレーンの向こう側

           今年の夏、私は旅先で奇妙な出来事に遭遇した。それは、一見ただの事故のように思えたが、その出来事は私の好奇心を刺激し、平穏な日常を揺さぶるものだった。  旅先の近くのビルの建設現場で、大きなクレーンが倒れる事故が発生した。観光客で賑わう街の中で、一瞬にして凄惨な悲鳴とその後の静寂が訪れた。私はその場に居合わせ、思わずシャッターを切った。異様な光景がレンズに映る。何かが、ただの事故ではないと私の直感が告げていた。  建設現場に残された痕跡を追ううちに、私は謎めいた男性と出会

          クレーンの向こう側

          夜の霧と少年

           去年の夏、私は一人で旅に出た。普段は都心の喧騒の中で過ごしているが、時折、静かな場所でのんびりと過ごすことが好きだった。その日は特に暑く、涼しい山間の村を目指していた。  村に着くと、そこはまるで時が止まったかのような静寂に包まれていた。古びた木造の家々と、澄んだ小川の音が心地よい。私はカメラを手に、村を散策し始めた。  ふと、古びた神社の前で足を止めた。鳥居をくぐり、苔むした石段を登ると、境内には一体の石像があった。その石像は、鬼のような形相をしており、まるで生きてい

          夜の霧と少年

          幻影の帆

           旅の始まりは、去年の夏休みの終わりだった。私は都内在住で平凡な日常を送っていたが、読書と謎解きに夢中な私は、ある日、古い本屋で見つけた一冊の本に心を奪われた。その本は、古い時代を舞台にしたもので、表紙には『幻影の帆』という文字が刻まれていた。  本を開くと、そこには水兵たちの冒険物語が描かれていた。彼らは大砲を操り、刀を持ち、髷を結っていた。だが、物語の進行とともに、現実と夢の境界が曖昧になっていく。その本は、ただの小説ではなかった。まるで魔法のように、私はその世界に引き

          幻影の帆

          蜘蛛男と最後の糸

           去年の秋、あの時の記憶がまだ鮮明に残っている。私は旅先で訪れた公園の芝生に座っていた。私が物心つく頃に母が亡くなり、父と二人暮らしだった私は、普段の都心の喧騒から逃れ、しばしの静寂を楽しむために一人旅でここに来たのだ。秋の風が心地よく、読書に没頭するにはうってつけの場所だった。  その日も、いつものようにミステリー小説を手にしていた。主人公が追う謎の人物に、自分を重ね合わせるのが好きだった。だが、その日は何かが違った。ふと視線を上げると、芝生の上に奇妙な足跡が点々と続いて

          蜘蛛男と最後の糸

          光の紙飛行機

           去年の夏、私は日常からの逃避を求めて、一人旅に出た。行き先は郊外の静かな町。そこで私は、平凡な日々からは想像もつかない、不思議な体験をすることになる。  旅の初日は、早朝からの読書に始まり、昼には町の広い芝生広場でゆっくりとした時間を過ごした。芝生の広場には人影はなく、静寂が私を包んでいた。空は青く、風が心地よく吹いていた。  そのとき、ふと視界に一枚の紙飛行機が舞い込んできた。誰が飛ばしたのかは分からない。紙飛行機は、芝生の上を滑るように飛び、私の足元に落ちた。何とな

          光の紙飛行機

          渓流の旋律

           今年の夏、私はある小さな村へと旅に出た。都心から遠く離れたその場所は、自然豊かで静寂に包まれていた。目的地に着いたのは午後の早い時間で、陽の光が渓流を輝かせ、その澄んだ音が耳に心地よく響いていた。  私の名前はユキ、平凡な少女だが、ミステリー小説を読むのが大好きだ。謎めいた出来事やその解明には人一倍の好奇心を持っている。この旅も、そんな好奇心に駆られてのことだった。宿に着き、荷物を置くと、早速散策に出かけた。  渓流沿いを歩いていると、ふと目に留まったのは一軒の古びた家

          渓流の旋律

          風の影

           今年の早朝、私は見知らぬ町のバス停に立っていた。ここに来た理由は、数年前に読んだミステリー小説の舞台がこの町だと知ったからだ。小説の中では、この町で起こった不可解な事故が物語の鍵を握っていた。  旅の途中で見つけた小さなパン屋で買った温かいパンを手に持ちながら、私は町を歩き始めた。風が吹き抜けるたびに、過去と現在が交錯するような感覚に陥る。この町にはどこか妙な雰囲気が漂っていた。街灯の影が長く伸び、風に乗って遠くから聞こえる鐘の音が、不安と期待を煽る。  不意に、ある廃

          雨の痕跡

           今年の雨は特別だった。  旅先の街を歩いていると、ふいにバス停の前を通りかかった。あいにくの雨、傘を持たなかった私は、濡れながらも気にせず歩いていた。バス停には古びた木のベンチがあり、そこに奇妙なファイルが置かれていた。誰のものか分からないが、そのファイルは私を引き寄せるように佇んでいた。  ファイルを手に取ると、濡れているにもかかわらず、中の書類はまるで雨を弾くかのように乾いていた。中を覗くと、奇妙な写真や文章がびっしりと詰め込まれていた。ページをめくるごとに、目の前