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電柱の影、隠れた存在

 去年の夏、私は旅先で不思議な出来事に遭遇した。舞台は市街地から少し離れた小さな田舎町。写真を撮ることが趣味の私は、カメラを片手にその町の風景を撮影していた。静かで平和な場所だったが、その日は何か特別なことが起きる予感がしていた。

 バスを降りて町を歩き始めたとき、私の目に飛び込んできたのは、古びた電信柱の影に隠れるように立っていた小さな存在だった。一瞬、それが何なのか理解できなかった。電信柱の影にぼんやりと見えるその姿は、まるで小さな……おじさん?そんな馬鹿な、と思いつつも、好奇心に駆られて近づいてみることにした。

 近づくと、その存在は徐々に鮮明になり、確かに小さな老紳士の姿をしていた。彼はきちんとしたスーツを身にまとい、手には何やら古びた地図を握っていた。私が彼に声をかけようとした瞬間、彼は突然私の方を見て、にやりと笑った。

「こんにちは、若いお嬢さん。迷子かい?」

 驚いたが、私は彼に尋ねた。

「いえ、私はただ……あなたは誰ですか?」

 彼は不思議な笑みを浮かべて答えた。

「それは面白い質問だね」

「私はこの町の秘密を守る者だよ。君のような好奇心旺盛な人がここに来るとは珍しいことだ」

 その言葉に興味を引かれた私は、彼の話に耳を傾けることにした。彼は、この町には普通の人々には見えない秘密の場所があると言った。さらに、その秘密の場所は、特定の条件を満たした人だけが見つけることができるというのだ。

 私はその話に夢中になり、彼の案内で町を歩き回った。彼の話す言葉はまるで魔法のように私を引き込んでいった。やがて、私たちは古びた倉庫の前にたどり着いた。

「ここがその場所だよ」

 彼は言った。

「だが、君がその場所を見つけるためには一つの試練を乗り越えなければならない」

 私は彼の言葉に従い、倉庫の中に足を踏み入れた。そこには何もないかのように見えたが、ふと足元を見ると、小さな鍵が落ちていた。鍵を拾い上げると、倉庫の隅に小さな扉が現れた。心臓が高鳴るのを感じながら、その扉を開けると、そこには別世界が広がっていた。

 美しい庭園が広がり、そこには見たこともない花々が咲き誇っていた。さらに進むと、小さな湖があり、その中央にはピンク色の蓮の花が浮かんでいた。まるで夢の中にいるような光景だった。

 だが、その美しい景色に見とれていると、突然、背後から物音がした。振り返ると、そこにはあの小さな老紳士が立っていた。

「この世界は君に何を教えてくれたかい?」

 彼は尋ねた。

「美しさと神秘さ……それに、見えないものを信じることの大切さです」

 私は答えた。

 彼は満足そうに頷き言った。

「君はこの世界の秘密を知るにふさわしい。だが、もう一つの試練が残っている。それは、この場所を他の誰にも教えないことだ」

 私はその言葉に頷き、再び現実の世界に戻ることを決意した。だが、その瞬間、彼の姿が消え、周囲の景色も一変した。私は元の町に戻っていたが、心には不思議な感覚が残っていた。

 あの出来事が現実だったのか、夢だったのか。それは誰にもわからない。しかし、あの小さな老紳士との出会いは、私の心に深く刻まれたままだ。

 これが私の不思議な体験の物語だ。現実と夢の狭間で、私は何か大切なものを学んだ気がする。あの日以来、私は電信柱の影に隠れる小さな存在に再び会うことを夢見ている。

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