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窓に映る影の正体

 ふと走行中の電車の窓から外の景色に目をやると、いつもの街並みが不気味に歪んで見えた。今日は一段と疲れているのかしら。私はぼんやりとしたまま、通学鞄を膝に乗せて窓の外を眺め続けた。

 次の駅に到着し、ドアが開くと同時に乗り込んできたのは、どこか異様な雰囲気を持つ男性だった。スーツ姿だが、明らかにこの世のものではないような気配を漂わせている。彼が私の前の座席に腰を下ろした瞬間、車内の温度が急激に下がったように感じた。

「寒くない?」

 隣に座っていたクラスメイトの美奈が、私の顔を覗き込む。私は首を振り、答えた。

「ちょっと疲れてるだけ」

 しかし、その違和感は次第に大きくなっていった。男性の目がこちらをじっと見つめている。私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「なにか用ですか?」

 恐る恐る声をかけると、彼は微笑んだ。その笑顔は、人間のものとは思えないほど冷たかった。

「君には特別な能力があるようだね」

 彼は言った。

「だから君に警告しなければならない。君の周りに擬態した存在がいることを」

「擬態?」

 私は困惑し、顔をしかめた。まるでSF映画のような話だ。しかし、彼の言葉には奇妙な説得力があった。

「そう。彼らは普通の人間に見えるが、実際は……鬼や巨人だ。君がその正体を見破れる唯一の存在だ。」

 その時、電車が急停車し、車内の明かりが一瞬消えた。再び点灯した時、先ほどの男性の姿は消えていた。まるで幻だったかのように。

 不安が胸を締め付ける中、学校に到着した私は、普段と変わらない一日を過ごすことに努めた。しかし、彼の言葉が頭から離れない。クラスメイトや教師の中に、もしかしたら擬態した鬼や巨人がいるのかもしれない……。

 放課後、美奈と帰り道を歩いていると、彼女が突然立ち止まり、私に向き直った。

「ねえ、今日の朝の話、聞いてた?」

「え?どの話?」

 私は心ここにあらずの状態で聞き返した。

「電車の中で、その男の人。彼の言ってたこと」

 美奈の目が鋭く光った。

「実は、私も知ってるの。鬼や巨人のこと」

 驚きのあまり、私は言葉を失った。

「どうして……?」

「私も同じ能力を持っているから」

 彼女は微笑んだ。

「ずっと話そうと思ってたけど、タイミングがなくて。今こそ、その時が来たんだと思う」

 その瞬間、美奈の体が揺らめき、彼女の姿が変わり始めた。私は息を飲んだ。目の前に立っていたのは、巨大な鬼の姿だったのだ。

「でも安心して」

 彼女は言った。

「私は君の味方。真の敵は、もっと近くにいる」

 混乱と恐怖の中、私はなんとか自分を落ち着かせようとした。

「誰が敵なの?」

「君がずっと信じていた存在だよ」

 彼女は静かに言った。

「家族の中に擬態した巨人がいる。君の力を覚醒させるために、ずっと君を監視してきたんだ」

 信じられない。家族の中に……? 頭の中が真っ白になった。

 その夜、家に帰った私は、いつも通りの夕食をとりながら、家族の顔を観察した。父も母も弟も、何も変わらない普通の姿だった。しかし、彼らの中に擬態した巨人がいるかもしれないという恐怖が、私の心に暗い影を落とした。

「おやすみ」

 家族へそう言って部屋に戻ると、私は鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。彼の言葉が脳裏に蘇る。

「君がその正体を見破れる唯一の存在だ」

 これからどうすればいいのか、私にはわからない。でも一つだけ確かなことがある。私は、鬼や巨人の擬態を見破る力を持っている。これから先、どんな真実が待っているのか、覚悟を決めなければならない。

 翌朝、目が覚めると、私は新たな決意を胸に電車に乗った。通学の電車が、再び私を未知の世界へと連れて行く。

 そして、その日の放課後。美奈と共に駅のホームで電車を待っていると、ふいに彼女が私の耳元で囁いた。

「彼が君を見ている」

「誰が?」

 私が尋ねると、美奈はホームの向こう側を指差した。そこには、電車の窓に映った巨大な影があった。信じられないことに、それは父の姿をしていた。

「やっぱりね」

 美奈がつぶやく。

「準備はできてる?」

 私は深く息を吸い込み、頷いた。

「うん、できてる」

 電車のドアが開くと同時に、私は新たな戦いへと一歩踏み出した。


 電車のドアが開き、美奈と共に新たな戦いへと一歩を踏み出した。私たちは無言のまま、通学路を歩いたが、心の中は嵐のように荒れていた。父が巨人の擬態だったなんて、信じたくなかった。

「まずは、君の力を完全に覚醒させることが必要なの」

 美奈が言った。

「それには、もっと深く自分の内面を探る必要があるの」

「どうやって?」

 私は彼女を見上げた。

「瞑想と訓練。君の中には潜在的な力が眠っている。それを引き出すためには、集中と自己探求が不可欠なの」

 その晩、私は部屋の中で静かに目を閉じ、深呼吸を繰り返した。美奈の言葉を思い出しながら、自分の中にある何かを感じ取ろうとした。その時、ふと心の奥底に暖かい光が灯るのを感じた。

「これが、私の力…?」

 静かに呟いた瞬間、窓の外で何かが動いた。私はその動きを追うように、そっとカーテンを開けた。

 そこには、父が立っていた。彼の目が冷たく光り、その姿が少しずつ巨人の姿に変わり始めた。

「お前が覚醒する前に、片付ける必要がある」

 父が低い声で言った。私は恐怖で凍りついたが、同時に胸の奥で何かが燃え上がるのを感じた。

「父さん…どうして…?」

 私は震える声で尋ねた。

「お前は知らないだろうが、我々はずっとこの世界に潜んでいた。そして、お前の力は我々にとって脅威なんだ」

 その瞬間、美奈が部屋に飛び込んできた。

「戦つて、今すぐ!」

 私は深呼吸し、自分の中の力を呼び起こそうと集中した。目を閉じ、心の奥の光を引き寄せる。すると、体中に暖かいエネルギーが満ち溢れた。

「お父さん、もうあなたの思い通りにはさせない!」

 私は力強く叫び、手をかざすと、父の姿が一瞬で消え去った。

「今のは…?」

 私は呆然と立ち尽くした。

「まだ終わってないわ」

 美奈が言った。

「彼は一時的に退却しただけ。真の戦いはこれから」

 数日後、私は美奈と共に再び電車に乗った。今度は私たちが彼らを追跡する番だ。学校の屋上で、彼女と作戦を練りながら、私の中にある不安と希望が交錯する。

「次に彼らが動く場所は……」

 美奈が地図を広げた。

「ここ、廃工場だ」

「でも、どうして?」

 私は尋ねた。

「彼らはそこで何かを企んでいる。それを阻止しないと」

 その夜、私たちは廃工場に向かった。暗闇の中、静まり返った工場の中に足を踏み入れると、不気味な気配が漂っていた。

「ここにいる……」

 美奈が低く囁いた。

 私たちは慎重に進んだが、突然、巨大な影が私たちの前に現れた。それは父の姿をした巨人だった。

「ここまで来るとは思わなかった、お前の力を過小評価していたようだな」

 彼は冷笑を浮かべた。

「お父さん、やめて!」

 私は叫んだが、彼の目には冷たい光が宿っていた。

「もう遅い、お前の覚醒は我々にとって脅威だ。だからここで終わらせる」

 その時、私の中の力が一気に解放された。まるで体が光で満たされるかのように、強大なエネルギーが溢れ出した。私は両手を広げ、父に向けてその力を放った。

「もう終わりにしよう、お父さん」

 光の奔流が彼を包み込み、巨大な姿が徐々に消えていった。彼の目には一瞬だけ人間らしい悲しみが浮かんだが、次の瞬間には完全に消え去った。

「これで…終わりなの?」

 私は涙を流しながら呟いた。

 美奈がそっと肩に手を置いた。

「終ってないわ。だけど、一つの戦いは終わったわ」

 その後、私たちは静かに工場を後にした。私の中にはまだ多くの疑問が残っていたが、一つだけ確かなことがあった。私はこの力を使って、もっと多くの真実を明らかにし、家族の絆を守り抜く決意を固めたのだ。

 新たな一歩を踏み出すために、私は再び電車に乗り込んだ。この旅はまだ始まったばかりだった。

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