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光に消える男

 去年の春、私は都心から離れ、小さな町を訪れた。趣味の写真撮影を楽しむために、風光明媚な場所を探していたのだ。

 カメラを手に、静かな町を歩いていると、黒装束をまとった一人の男が目に入った。普通の人間にしか見えないが、何かが異質だった。

 その男は、日陰を選んで歩いているように見えた。興味をそそられ、私は彼を追うことにした。男は古びた教会の前で立ち止まり、中へと消えていった。私は好奇心に駆られ、後を追って教会の中に入った。

 教会の中は薄暗く、静寂に包まれていた。祭壇の前に立つ先ほどの男が振り返り、私に冷たい視線を向けた。「ここは立ち入り禁止だ」と言わんばかりに。

「失礼します。ただの旅行者です」

 私は自分から言い訳しながらも、彼に尋ねた。

「この町には何か特別なものがあるのでしょうか?」

 男はしばらく沈黙した後、重々しく答えた。

「この町には古くからの秘密がある。それを知る覚悟が、貴方にはあるのか?」

 思わず冷や汗が出た。しかし、その言葉に興味を引かれた私は、さらに話を聞くことにした。男は自らの過去と、この町の伝承を語り始めた。彼は吸血鬼であり、日の光を浴びることができない存在だという。普段は普通の人間として暮らしながらも、夜になるとその本性を現すのだ。

 話を聞いているうちに、私はふと疑問に思った。

「でも、あなたはさっきまで、日の光の中にいた」

 その瞬間、男の表情が一変した。彼の黒装束がふわりと宙に舞い、姿が消えたのだ。まるで幻だったかのように。

 私は呆然と立ち尽くし、その場を後にした。教会の外に出ると、まるで何事もなかったかのように、静かな風景が広がっていた。しかし、私は確かにあの男の存在を感じていた。

 それ以来、私は日常に戻ったあとも、その町の秘密を追い求めている。あの男が本当に吸血鬼だったのか、そしてなぜ日の光の中にいられたのか。謎は解けぬままだが、私はその答えを見つけるために、もう一度あの町を訪れることを決意している。


 そして、私は再び旅を始める。普通の人間にしか見えない謎の吸血鬼、その真実を解き明かすために。

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