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仕事と家庭の両立は難しかったので、両方「混ぜてみた」という話

「お先に失礼しまーす」

同僚たちがまだ外回りから戻っていない、少し閑散としたオフィスを出たのは、まだ日が明るい夕方4時頃でした。

長女のお迎えに向かう道すがら、私は考えていたことがありました。

「あのお客様、もう少し時間をかけてご提案書を作りたかったな…」

できる限りの成果を出そうとがんばっていても、時間には限りがあります。

時短勤務であるならなおさら。少ない時間の中で仕事をやりくりするためには、ある程度のところで見切りを付けねばなりませんでした。

お客様の笑顔に出会うのが大好きで、お客様に喜んでもらえることが自分の喜びでもあったから、寝る間も惜しんで仕事をがんばった

そんな時代があったからこそ、オフィス街を小走りで駅へと向かう“今の自分”にギャップを感じるのです。

私は考えていました。もう少し、仕事と家庭をうまく“両立”できないかな、と。


ワカルク代表・石川沙絵子へのロング・インタビューシリーズ。ワカルクのルーツでもある石川個人の人生観・仕事観や、ワカルクという会社に込められた想いなどを全6話でご紹介します。

※本インタビューは、社外ライターによる約5か月に渡る取材をもとに執筆/構成を行っています
(インタビュー/執筆:藤森ユウワ)


「家の外」で出会った先輩たちをお手本にした

まだ育休中だったころ。幸いなことに一人目の子はあまり手がかからず、「幼い乳飲み子を連れて」ではありましたが、育休中でもそれなりに外へ出かけることができました。

これから、子育てをしながらどういうキャリアを築いていけばいいのか。

セミナーや勉強会に参加してみたり、先輩ママに相談に乗ってもらったり…いろんな人と会って、いろんな話をしました

「育児や職場復帰をそんな大ごとに考えなくていいのよ」
「ちょっとくらい手を抜いたって、子どもは元気に育つのだから大丈夫」

そんな言葉をかけてくれた先輩たちをお手本

「できないことを嘆くより、できる方法を探そう」

自分を奮い立たせました。


「自分で時間をコントロールできる」環境へ移る

職場へ復帰して数か月がたったとき。

私は新卒から勤めていた社員数・数百名の会社を辞め、社員数・数名のベンチャー企業へと転職を決めました。

理由の一つは、時間の使い方を自分でコントロールしたかったからです。

夕方に一度仕事を抜けて、子どものお迎えに行き夕食とお風呂を済ませ、子どもを寝かしつけてから、リビングのテーブルでそっとパソコンを開いて仕事の続きを仕上げる

そんな働き方ができるのは、一人ひとりの責任も裁量も大きい小さな会社だからこそ。

夫はそのころ、ごく普通の会社勤めでしたが、同じように夕方に一度帰宅して、一緒に家事・育児をやり、終わったらまた仕事に戻るという、当時としては珍しいことをやっていました。

仕事も子育ても夫婦でともに戦うチーム戦。自分で言うのも何ですが、仕事と家庭をそれなりにうまく両立できていたんじゃないかと思います。


ブレーキを踏むのではなく「アクセルを緩める」

転職してから数年がたち、3人目の子どもが生まれて、家の中で大人の人数を子どもの人数が上回りました。

すると、どんなにうまく両立しようとしても、いよいよ物理的に工夫のしようがなくなってきました。

子育ては、予測不可能なできごとの連続であり、いくらスケジュールを立てても、なかなかその通りにはいかないものです。

子育てが落ち着くまでは仕事をいったんお休みして、落ち着いたら復帰するという選択肢もあったと思います。でも私は、お客様や会社の同僚になるべく迷惑をかけない方法として

「バッファ(余白)を少し多めに持ちながら仕事を続ける」

という選択肢を選びました。

「仕事のブレーキを踏むこと」ではなく「仕事のアクセルを緩めること」を選んだのです。

このころから、私は仕事と家庭は両立する物ではなく、共存するものというイメージを持つようになりました。


仕事と家庭を「分ける」方が、少数派なのかもしれない

仕事と家庭で時間が分かれる
夫と妻で役割が分かれる
現役と引退後で人生が分かれる

現代の日本には、さまざまな“分断”があります。

しかし、こうした分断は、昭和の時代に大量生産・大量消費を支える社会システムとして「その方が都合が良かったから」生み出されたものではないかと、社会学者で上智大学名誉教授の目黒依子さんは考察しています。


歴史的にみても、また現代の世界地図を広げながら考えてみても、女性の労働は、社会の維持にとって欠かすことのできない重要ものであることが理解されよう。現代日本の、家事や育児のみに専念する主婦というのは、女性全体からみれば、ほんの一部であることを、私たち主婦自身が頭に入れておく必要がありそうである。主婦という女のあり方は、女の歴史からみれば、傍役(わきやく)なのである。

目黒 依子『主婦ブルース : 女役割とは何か』 p.41〜42 (筑摩書房、1980年)


この本は、女性の社会進出が始まったばかりの1980年に主婦という観点から“女性の役割”について論じたものです。

それから半世紀近くがたった今を生きる私たちにとっても、なかなか興味深い内容です。

  • 夫の主担当は仕事 (副担当は家事育児)

  • 妻の主担当は家事育児 (副担当は仕事)

という分け方は、世界の長い歴史と多様な文化の中では、実は少数派なのかもしれません。


両立は難しいから共存させてみる

私の実家は、東京の下町で焼き鳥屋を営んでいました。“職”と“住”を隔てるものはたった1枚の「のれん」だけです。

私の祖母や母は、まさに先ほどの本が著されたころに、職住が混然一体となった生活を営んでいました。

それは、現代風に言うならば、「ワーク・ライフ・バランス」ならぬ

『ワーク・ライフ・ブレンド』

あるいは

『ワーク・イン・ライフ』

と言えるものかもしれません。


今の日本は長時間労働の是正が、働き方改革の主軸にあります。WorkとLifeは、本来切り分けられないものなのです。もちろん人間らしい暮らしは担保すべきですし、家庭を顧みずに働くのはあまりに不自然です。だからと言って、すべての人の働き方を時間で区切るような考えも、自然とは言えないでしょう。ワーク・ライフ・バランスではなく、「ワーク・イン・ライフ」こそ、企業と個人のパーパスに沿った形なのではないでしょうか。

名和高司さんに聞く:いま目指すべきパーパス経営。個人の志を組織の力にする人事の役割とは | 『日本の人事部』


だから、そんな祖母や母の背中を見て育った私は、仕事と家庭を“両立”ではなく“共存”だと捉えているのだと思います。

“両立”させようとすると、仕事と家庭はまったく別々の、独立したものになります。夫婦の関係性

「仕事がメインで家庭がサブの人」
「家庭がメインで仕事がサブの人」

のような役割として捉えてしまいます。

しかし、「仕事と家庭の両立は難しくてたいへんだ」と考えるよりも、

仕事も家庭も、私という人生のなかに共存しているもの」

と考える方が、現代の日本社会に合っているのではないかと思うのです。

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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

「仕事と家庭の両立が難しくて悩んでいる」

という方にとって、もし、このnoteがなにか少しでもお役に立てていたら嬉しいです。


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