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残暑が好き

夏、一日中クーラー18度にするのが好きだった
冷気を孕んだ寝室で、毛布に包まるのが好きだった
それを教えてくれた人が好きだった

クーラーガンガンでも
交わって汗びっしょりになって
少し休んで「寒い」って顔を顰める私に
「暑い」と裸で笑うあの人が好きだった

冷気を孕んだ寝室で、
疲れきった体を貴方の硬い腕と胸の中で休ませるのが好きだった

今、1人で
残暑の中
私はまだクーラーを消せずに毛布にくるまって
ズボンも履かずに髪も乾かさずに
セミと交代した鈴虫の声と
夏を吹き飛ばす強めの風の音に身を委ねて
眠気を待つ。

あの人がこの部屋を出て
もうすぐ初めての冬が来る。

何度も一緒に乗り越えたのに
今年は1人で乗り越えなければ行けない。
誰も私の車の雪を払ってくれないし
私は朝誰かの車のエンジンと暖房をつけに行かない。
寒いから上着着て、なんて、私は誰にも言わない。
冬がすぐそこまで来てる。

1人で迎える秋は、そこまで辛くなくて
寒くも無くて。
だけど、冬になったら私は木枯らしの中で
雪の中で、死んでしまうんじゃないかなって。

あなたの腕枕が恋しい。
恋しくてたまらない。

この前引っ張り出してきた
あなたが作業着にしてたミッキーのトレーナーの残り香が
私を冬に引っ張り込む。

あなたとの記憶なんか
いい思い出なんて全然浮かばないのに
どんな事をしてもどれだけ時間を共にしても
泣いてばかりで息が出来なかった筈なのに

あなたの腕と匂いだけが
タトゥーみたいに消えない。消える気配もない。

朝も、冬も、春も、来なくていいよ

私はずっと秋に居たいんだよ。

暑いと、クーラーの寒さを思い出すし
寒いと貴方と抱き合って寝たくなる

秋は、1人でも寝れるから。
暑くも寒くもないから寝やすいんだよ。

貴方との地獄の日々に戻りたいとは
1ミリも思わないけど

寝る時だけ、私に体を貸してほしい。
朝が来る前に
私の部屋を出て

また、私が眠くなったら
隣に来て、腕を貸して欲しい。

あなたに会いたいと、心から思うよ。

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