電話応対ってむずかしい?
2006年8月12日 (土)
1.無視できないもの
サービス業でトラブルが多いものの一つ、それは「電話応対」です―。
まあ、サービス業に限らず、およそ仕事を持っている方で、電話を無視できる人は居ないですよね。
職場にPCとネットが普及して、仕事上の案件をメールでやり取りできるとはいえ、やっぱり声でのコミュニケーションは不可欠ですし、直接「話す」ことでの安心感のようなものが、電話にはまだまだあるんじゃないかと思います。
電話でのやりとりだけで「ああ、ここは信用できるな」とか、「あれ?こんなことじゃちょっと心配だな…」とか思ったことがある人は、結構いるんじゃないかなぁ…。
もちろん会社のほうもわかっていて、どんな業種の新人研修にも、必ず電話の取り方・受け方・切り方が入っていると思いますが、初めのうちは誰でもぎこちないものですよね。
ケータイが爆発的に普及して、今や家族全員が持っていても不思議ではないくらいな昨今ですが、プライベートとビジネスの電話はまた別のお話のようで、友だちや家族との電話は苦じゃないけど、仕事の電話となると恐くて…という新人さんを何人も見てきました。
でもね、新人さんはまだ良いんですよ―。
だって、あからさまに受話器から、
「すみません、新人です!慣れてないんです!あっ!ごめんな
さいごめんなさい!」
ってオーラが出てますもんねぇ…。
一所懸命やればなんでも許されるとは思っていませんが、精一杯努力しています!ということは、ちゃんと相手にも伝わりますからね。
問題は、ある程度スキルを積んだ中堅さん以上のお話です。
「慣れ」が「油断」を呼ぶということ、自分の先入観で話を進めてしまうこと、そのあたりが一番の危険ゾーン。
そして、スキルとしての電話応対ではカバーできないもの、それが「相手のことを想像するという力」ですかね―。
2.過不足無く聞く
顔の見えない電話で、ビジネスの用件を過不足無く聞くというのは、意外に難しいことです。
かかってきた電話を受けた場合、
・先方が言いたいことを的確にキャッチしてそれに応え
・こちらからも確認したいことをわかりやすく伝えて明確な
答えをいただく
簡単にいえばそれだけのことなのですが、これがなかなか…。
ナンで料理屋のクセにそんなめんどくさいこと言うの?という人もいらっしゃるでしょう―。
でもお客様は、たかが料理屋にもいろんな用事で電話をかけて来るのです。
たとえばいくつか挙げてみると、こんな感じですかね…。
・予約をしたい
・会場を探していて、店のことを詳しく聞きたい
・祝い事や法事について、わからないことを聞きたい
・予約した席の詳細を決めたい
・予約の確認、変更、取り消しをしたい、etc…
もちろんこれらのことには、別にさまざまな内容が含まれます。
たとえば「予約をしたい」、たったこれだけのことでも、こちらからお聞きしたいことはこれだけあります。
・お客様が予約したい日、時間、人数、個室の希望を聞く
・料理の予算を聞き、ゲストが食べられないものやアレル
ギーの有無を聞く
・飲み物の銘柄指定の有無を聞く
・席の作り方、上座、下座の人数割り振りを聞く
・時間の制限があるかどうかを聞く
・お土産、配車の有無を聞く
・精算についての希望を聞く
その他にも、コンパニオンの有無、宿泊の有無などもありますが、これらを全部スムーズにお聞きするというのは、なかなか難しいものがあります。
なぜでしょうか?
たとえば、お客様が出先からの電話だったら、悠長に話をしている暇は無いかもしれませんし、予約の電話をくださった方と、実際の担当の方が違う場合もあります。
となると電話を受けた時点で、こちらの都合とばかりに延々と話をするわけにはいきませんよね。
その場合は、そのあたりを察してうまく後日へつなぐこと、これが大切です。
また、もしもお客様がきちんと話をしたいということであれば、先様の要望、疑問にお応えしながらこちらの知りたいことを確認していくことが必要なわけです。
電話の応対で必要なのは、
「相手の気持ちを察する=想像する力」
です。
家庭や個人での電話には必要ないかもしれませんが、会社の場合は、相手が何を求めて電話をしてきたのか、それを察して応対出来なければプロとはいえません-。
3.以心伝心と笑顔
顔の見えない電話ですが、お話をしているうちに不思議と互いに通じるものがあります。
新人さんに電話応対を教える時にはまず何よりも「笑顔で話しなさい」と教えるのですが、これは大切なポイントです。
よく研修で、「敬語に自信がありません」とか、「言葉遣いがあやしくて…」という言葉を聞くのですが、それよりも先に身につけていただきたいのが「笑顔で話す」ことであり、じつは、私が講師をするビジネスマナーの席上で、必ずお話することなのです。
たとえば、ちょっとクドいお話のお客様に「さっきも聞いたんだよね…くどいよまったく…」と思いながら応対していると、必ずそのうんざり感が口調に出ますし、高圧的な口調のお客様にがみがみと言われて、「なんなの、この人!チョームカつく!」と思いながら話をすると、いつのまにか逆に「なんだ、お前の態度は!」と怒られたりするものです。
また、忙しい時間帯に電話を受けて、「早くしてくれよ!忙しいんだよこっちは!!」と思っていると、どうしてもおざなりな応対になりがちですよね―。
まあ、こちらも人間ですから、相手が「負(マイナス)」の感情をぶつけてくると、相対的に同じ「負(マイナス)」の感情でもって返したくはなりますが、それではビジネスはうまくいきません―。
「負(マイナス)」の感情は、こちらが「正(プラス)」の感情でそっとキャッチし、相殺してニュートラルにするか、「正(プラス)」に引き上げるかが、プロの応対です。
そのためにも、まずは単純に「笑顔で話す」こと、これを練習するだけでずいぶん違いますよ。
だって、敬語を100覚えるよりも簡単でしょ?
誰にでも絶対出来ますよ―ただしヘラヘラしないよう、ちょっと気をつけさえすればねw
電話は顔が見えないぶん、声の調子でお互いを量り合うものですから、時として自分が想像も出来ないほどの悪印象を相手に与えてしまうことがあります。
身近で考えてみてください…彼氏彼女の電話での口調がすごく冷たく聞こえて、
「…怒ってるの?」
「え?怒ってないよ」
「…いいや、怒ってる」
「怒ってないってば!」
「それが怒ってるって言うの!」
「怒ってるのはそっちじゃん!!」
と、ワケのわからない泥沼になったことはありませんか?
じつは誰でも、自分が普通だと思っている口調って、わりと平坦でそっけない、ということが多いんですよね―。
面と向かって話している時は、顔の表情が相手にもわかりますからさほど感じないのですが、これが電話だと表情でのフォローがないために、上記のようなことになるわけです。
そのため、大げさだと思うほど満面の笑顔で話すことが、どうしても必要なのですね。
プロの電話オペレーターは、必ず自分の顔が見える位置に鏡を置いています。
訓練していつでも笑顔で明るく話すことが出来る人たちですが、それでもチェックを欠かさないためです。
さきほどは「簡単」と言いましたが、人間、慣れるまでは意識していないとなかなか笑顔で話すことが出来ません。
電話がちょっと苦手、という方は、特に意識して笑顔を作るようにしてみてください。
1週間意識していれば、絶対に応対が良くなり、お客様の反応が変わってきますよ。
なによりも、笑顔で話すと、声に張りが出ます。
また、口調が明るくなるので、「はい」という短い返事すらも、お客様の耳にはっきりと心地よく聞こえます。
そうなると、「この人は、こちらの用件を気持ちよく聞いてくれてるんだな」と感じてくださり、お客様の気持ちも明るくなります。
そうすれば、打合せも問い合わせも順調に進むというあんばいで―。
どうですか?良いことづくめでしょ♪
だとしたらしめたもの!
だって、自分の仕事がやりやすくなるじゃぁありませんか?
そう、誰のためでもない、自分のためだと思えば良いんですよ。
それでお客様からの好感度UPを図れるなら、一石二鳥というところです。
4.以心伝心と敬語
敬語には、
「丁寧語(ていねいご)」
「尊敬語(そんけいご)」
「謙譲語(けんじょうご)」
の三つがあります。
―で、もうこれだけで「うんざり…」というかたもいらっしゃるでしょうねぇ…。
・丁寧語→相手を尊敬する気持ちで、言葉を美化したことば
お…、ご…、~です、~ますを付けて表すことが
多い
”話を聞く”=”お話を聞きます”
・尊敬語→相手と相手にまつわる事項に敬意を表すことば
お…、ご…、~れる、~られるを付けて表すこと
が多い
”話を聞く”=”お話を聞かれる”
・謙譲語→自分と自分にまつわる事項をへりくだって表すこと
で、相手に敬意を表すことば
お…、ご…、~する、~いただく、~せていただく
”話を聞く”=”お話をうかがう”
”お話を聞かせていただく”
このように、敬語には基本のルールがあって、その勉強から入ることも大切ですが、実践としては「聞き耳を立てる」ことがおすすめです。
敬語をきちんと使ってるなぁ…と思う、先輩や同僚の話し方をちょっと注意して聞くようにすると、とても参考になりますよ。
まあ、ここで敬語について講義をするつもりは無いんですが、苦手なかたには、とりあえず丁寧語から入って、語尾に「です。ます。」を付けてみることをおすすめします。
あと大切なのは、「単語や紋切り型で話を終わらせないこと」でしょうか…。
「予約の件で電話をしたのですが…」
「予約?ああ、はい」
これではずいぶんぶっきらぼうに聞こえますよねぇ…。
「予約ですね、ありがとうございます」
こういうだけで、だいぶソフトな感じになります。
出来ることからやってみるといいんでしょうね、一夜漬けとかまず利かないですから。
しかし、敬語は確かに必要ですが、使い慣れないものを無理に使っての失敗など、かえって相手に失礼をすることもあります。
また、逆に、お客様によってはちょっとくだけた感じでのお話をさせていただいた方がいい場合もあります。
あんまり流暢に敬語をつかって話すと、いくら笑顔で話しても、相手によっては慇懃無礼(いんぎんぶれい)に聞こえることもあるんですよね―。
私は、前職で東京から帰ってきたばかりのとき、これで失敗しました。
電話で在所のおっさまと仕事の話をしていたら、おっさまがふと地元なまりになり、
「あんたの言い方、ちょっときっついんでねぇけ?
何でもデスマスで、澄ましてカッコつけるこたぁねぇべさ。
バカにされてるみてぇだ」
と言われてしまったのでした―。
もちろんすぐにお詫びをし、それからは今でもちょっとくだけてお話させていただいていますが、いや、この話はけして私が流暢にしゃべれるっていう話じゃぁないんですよ。
要は、その場その場で相手にあった応対をしなきゃね、って言う話なんです。
良い意味で「相手・人を見る」ってことですね。
これも、「以心伝心」の一つかなぁ…いや「魚心あれば水心」か……。
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