12酢物_

知りたい日本料理1-2料理の分類と調理法

2006年3月 8日 (水)/3月10日 (金)/3月21日 (火)

1.日本料理の分類

「食卓作法」の初めの方に、大雑把ではありましたが「日本料理の成り立ち」について書かせていただきました。

そして、現代につながる日本料理が、おおよそ江戸時代の400年間にほぼ完成したこと、大きい分類では六つに分かれることなどもお話ししました。

以下が、その時にご紹介した六つの料理です。

・本膳料理(ほんぜんりょうり)
・懐石料理(かいせきりょうり)
・会席料理(かいせきりょうり)
・精進料理(しょうじんりょうり)
・普茶料理(ふちゃりょうり)
・卓袱料理(しっぽくりょうり)
 (日本料理の食卓作法Ⅰ-A、Bをご参照ください)

細長い国土をもつ日本は、国内の東西で料理に特色が生まれ、東では江戸を中心とした「武家社会」の料理、西では大阪・京都の商人を中心とした「町人文化」の料理がそれぞれ発達しましたが、しかし、もちろん他の地域にも特色ある料理は数多くあります。

例えば京都の朝廷・公家の間でも、伝統的な料理として
「有職(ゆうそく)料理」
が受け継がれてきました。

以下に、その他の料理の一部を紹介しておきます。

・皿鉢料理(さわちりょうり)
・有職料理(ゆうそくりょうり)
・式正料理(しきしょうりょうり)
・半茶料理(はんちゃりょうり)
・仕出料理(しだしりょうり)
・台屋料理(たいやりょうり)
・見立料理(みたてりょうり)
・掛合料理(かけあいりょうり)
・江戸料理(えどりょうり)
・沖料理(おきりょうり)
・京料理(きょうりょうり)
・船料理(ふなりょうり)
・専門料理(せんもんりょうり)
  うなぎ・すし・そば・天ぷら・すっぽん・ふぐ
  なまず・さくら・ぼたん

この一つ一つの料理については、私もまだまだ勉強中のものがあります。

勉強が進んだら、少しずつご紹介をさせていただきますね。

2.日本料理の調理法・決まりごと

① 調理の基本は「五味」・「五色」・「五法」

日本料理は、この三つの決まりごとを基本として作られます。
「五味」(ごみ)とは、五つの味のことを表します。
     甘・鹹・辛・酸・苦  (鹹 かん→塩辛い味) 
「五色」(ごしょく)とは、食材の色を五つで表します。
     赤・黄・青・白・黒
「五法」(ごほう)とは、調理法を五つで表します。
     生・焼・煮・蒸・揚

この三つの「五」は、大陸からの影響で広まったと考えられていますが、大変理にかなった調理方法だと思います。

人間が感じる味、さまざまな食材、食材に合った数々の調理法、これらをまんべんなく組合わせ、バランスをとって料理を作ることは、食べる人の身体にも良いことですし、バリエーションも豊富になります。

②「陰陽説」「五行説」の影響

この「五味五色五法」は、大陸から入ってきた「陰陽説」「五行説」から導き出された料理法と言われています。

詳細は膨大な内容になるうえ、私の理解のはるか及ばないものもありますので、いささか乱暴に、小さく丸めてお伝えしますね。

中国から日本の中世に伝わったこの説は、当時の宇宙観をあらわした易学の一つです。

当時の日本社会にも政治、経済へと大きな影響を与えましたが、料理の世界にも浸透しました。

A.陰陽説(いんようせつ、うんようせつ、おんみょうせつ)
 
「陰陽」とは、天地間の万物を創り出す、相反する性質の二つの「気」のことを指します。

すべての物は、この二つの気の消長によって創られているとの考え方をします。

そのため、万物はすべて「陰」と「陽」に分けられます。
  
例えば…  
     「陽」→日・春・南・昼・男・奇数 etc…
     「陰」→月・秋・北・夜・女・偶数 etc…

これを料理に当てはめると、まず素材を形にしていくものとして、「包丁」に陰陽がつけられました。

和包丁は、ほとんどが「片刃」となっています。握りから見て、刃の付いている方(右側)を「陽」、刃の付いていない方(左側)が「陰」と定められました。

当然のように、これで形を成せば、それにも「陰陽」がつきます。

例えば、丸いもの(かぶ、いも、りんごなど)を包丁でむく場合、包丁の右側「陽」が必ずものに当たりますから、「丸いもの=陽」となりました。

そして、丸いものを四角く形作ろうと思うと、四面を切り落としますね―。

その場合、今度は必ず包丁の左側「陰」がものに当たりますから、これによって、「四角いもの=陰」となるわけです。

また、使い分けの言い方としては、「陽」側を「表包丁」、「陰」側を「裏包丁」などと呼んだりしました。

そうすると、盛り付けのための器の形、実際の盛り付けの品数なども、この影響を受けないはずがありません。

器では、浅いもの、丸いものは「陽」、深いもの、四角いものは「陰」と定まり、品数も奇数は「陽」で偶数は「陰」というわけです。

また、素材自体にも「陰陽」が定められました。

海の魚は「陽」、川の魚は「陰」と決まりましたが、川魚の中でも「鯉」だけは、海の魚の上位である「鯛」よりも上位とされ、また「鯨」は、すべての魚のなかで最上位とされました。
(鯨は、日本料理では魚として扱われました)

さらに、盛り付け自体にも、向かって「右が上位」で「左が下位」という決まりごとがありました。
(これも中国から入ったものですが、南面して太陽の昇る東が上位、と決まっていました。すなわち、向かって右が上位です。舞台の上手下手もこれによります。)

ですから、この「陰陽」と「上位下位」によって、日本料理はすべて定式が決まっていったわけですね。

この定式はのちに流儀がいくつも生まれ、それぞれの流儀によって差異が出てきますが、いずれにせよ基本はこの「陰陽説」から始まっています。

刺身を盛る時も、陽の数(奇数:三切れ、五切れ、七切れ)を、器の右奥を上位として高・中・低と左に行くに従い低くなるように盛り付けました。
(これとは別に「山水盛り」と言い、遠景・中景・近景と、山の峰々を仰ぎ見るように盛り付けるという方法もあります)

このように「陰陽説」は、日本料理の美意識や盛り付けの定義に、大きな影響を及ぼしました。

B.五行説(ごぎょうせつ)

陰陽説と同じく中国から伝わったこの説は、中国古代の自然哲学の一つです。

陰陽説ととともに、日本の政治経済のみならず、日常生活にも大きな影響を与えました。

天地間には「木火土金水」(もくかどごんすい)という五種類の「気」が循環しています。

その「気」は万物組成の元素であり、互いに影響しあって、「相生」「相剋」と言う関係になっています。

「相生」→「木」が燃えると「火」、「火」が燃え尽きて灰から「土」、「土」からは「金属」がうまれて「金」、「金」は夜露を集めて「水」、「水」は木を育てる、という循環。

「相剋」→「木」は「土」に、「土」は「水」に、「水」は「火」に、「火」は「金」に、「金」は「木」にそれぞれ剋つという対立。

その五種類の「気」を、味や色や調理法、季節に当てはめると下のようになります。

・五味
 「木」は「酸味」
 「火」は「苦味」
 「土」は「甘味」
 「金」は「辛味」
 「水」は「鹹味」

・五色
 「木」は「青」
 「火」は「赤」
 「土」は「黄」
 「金」は「白」
 「水」は「黒」

・五法
 「木」は「煮る」
 「火」は「焼く」
 「土」は「生食」
 「金」は「揚げる」
 「水」は「蒸す」

・季節
 「木」は「春」
 「火」は「夏」
 「土」は「土用」
 「金」は「秋」
 「水」は「冬」

五行説は、その他にも「方角」や「時間」「獣」など、それぞれ五種を当てはめた事象がありますが、こと料理に関しては、上記の「五味五色五法」と「季節」、これが大切な基本となりました。

この説をもとに食材を選び、それにふさわしい調理法と味付けを考え、献立を組み立てていく、そうすると色味も味もバランスも良い料理が作られる、このように伝わったのです。

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さて、こう見ていくと「日本料理」とは、「形式」を重んじる料理である、と言えるかもしれません。

なかなか言葉にしにくい「料理」というものを系統づけて表すとき、このような「法則」が必要だったとも考えられます。

ある意味でわかりやすい「陰陽」「上下」という二元論、それよりもちょっと複雑ですが「五行説」、これらを手がかり足がかりにしていけば、料理をきちんと系統立てて伝えていける、そういう事情もあったでしょう。

実際、料理人から料理人への伝承は、ほぼ「口伝」であったと言われています。

料理の流派はたくさんありましたが、文献などで料理の詳細が残っているのは、ごく一部だそうです。





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