箸

日本料理の食卓作法1-D

2006年4月29日 (土)~5月21日(日)

「箸」のお話

1.約30%

この数字は、世界中で「箸」を使って食事をする人たちの割合と言われています。

かたや、ナイフとフォークを使っている人たちも同じく約30%という数字だそうですが、これで合計60%、残りの40%の人たちは、手を使って食事をする「手食」というわけですね。

2.3,600年前

箸がいつごろから使われだしたのか、その正確な記録はありませんが、古代中国の「殷」(いん)ではすでにひろく使われていたといわれています。

紀元前16世紀ですから、今からざっと3,600年前、というわけですね。

箸の文化圏はその後中国の影響を受けたアジアの国々へ広がり、朝鮮半島、日本、東南アジアへと伝わっていきました。

ちなみに、ヨーロッパで「ナイフとフォーク」がセットで食卓に登場するのは、17世紀のイタリアが最初といわれていますから、今から約400年前の出来事です。

それまではどんな貴婦人も紳士も、パンを皿代わりとしてナイフと指で食事をしていました。

3.古事記と正倉院

日本にはいつごろ箸が伝わったでしょうか?

弥生時代の終わりごろから飛鳥時代にかけてのどこかで、という説が有力ですが、正確な記録はありません。

「古事記」には、スサノオノミコトが川上から流れてくる箸を見て、上流に人が住んでいるということを知るという記述があります。

また、奈良の正倉院には、当時「神器」として使われていた箸が今に伝えられています。

初めのころの「箸」は、人が食べるための道具ではありませんでした。

それは神様へ食物を捧げるため、人の手がふれないようにと考え出されたもので、形も現在のものとは違い、ピンセットのように竹を折り曲げて使う「竹折箸」だったと言われています。

4.アジア各地の箸

中国からアジア各地に伝わっていった「箸」ですが、それぞれの国で独自の発達をとげ、現在に至っています。

代表的な例をいくつかご紹介しましょう。

「中国」では…

箸&ちりれんげ、または金属製のスプーンを使います。

基本的に、汁物や炒飯などは箸と一緒にれんげやスプーンを使い、炒め物や蒸し物などの料理は箸を使って食べます。

テーブルにセットされる時は、箸やれんげ、スプーンなど、タテ置きにされることが多いようです。

日本のものと比べると、箸は長めで重いものが多いようですね。

しかも、手元から箸先までがほぼ同じ太さになっていますので、上手に使わないと食べにくいかもしれません。

昔、最上級の箸は無垢の象牙か、象牙に金を埋め込むなどして作られていましたが、現在では使用できませんので、水牛の角などを使っています。

一般的には、竹製のもの、硬い木製のもの、近年ではプラスティック製なども使われているようです。

「韓国」では…

金属製の箸(チョッカラ)&柄の長いスプーン(スッカラ)を使います。

チョッカラとスッカラは一組で「スジョ」と呼ばれ、箸だけ、スプーンだけで使われることはまずありません。

基本的には、ご飯と汁物、おかずでも汁気の多いものはスプーンを使って食べ、箸は、汁気の無いおかずを食べる時だけ使います。

「どちらかというと、メインはスプーンの方かな…?」と知人が言っておりましたが―。

テーブルにセットする時は、箸とスプーンをタテ置きにすることが多いようです。

箸は日本のものよりもやや長めで、中国のように同じ太さのものが多いようです。

箸もスプーンもほとんど金属で出来ていますが、最上級のものは金銀製です。

「ベトナム、タイなどの東南アジア」では…

やはり箸とスプーンをセットで使っています。

タイ米は粘りがあまり無く、ぽろぽろしていますから、箸では食べにくいのでスプーンをつかい、麺などは、箸を使って食べています。

ベトナムでは、フランス統治時代にフォーク&ナイフが入ってきましたので、箸&スプーンとともに使われることもあるようです。

5.日本の箸~箸文化の流れ~

中国から伝わった「箸」は、他のアジアの国々とは異なり、日本で独特の発達をとげました。

当初は、神様へ供物を奉げるとき、手づかみで汚さないようにするための「神器」として使われたわけですが、のちには奉げた供物を下げて、みんなで陪食するときにも次第に使われるようになりました。

中国から朝鮮半島を経て伝わった時期には諸説有りますが、弥生時代の終わりごろ~飛鳥時代にかけて使われだしたのは確かなようです。

その他、聖徳太子が遣隋使の返礼のため隋からの使者を招き、中国風の宴会を催したときにそこで箸とスプーンを使ったのが始めだとか、中国からの渡来人達が使っていたものが広まったとか、いろいろ説があるようです。

しかし、いずれにせよ当初は、前項でご紹介したアジア各国のように、「箸&スプーン」がセットで使われていました。

(今でも宮中の儀式の際には、当時のままの「懸盤かけばん→料理を載せる膳」に箸&スプーンの一式を備えたものが使われることがあります)

しかし、それから鎌倉~室町時代と下っていくに従い、次第にスプーンが消えていき、最終的には箸だけを使って食事をするようになったわけですが、これには箸の発達とともに、器の変遷も大きく影響をあたえています。

ピンセット状だった形も二本一対の棒状のものとなり、先が細くなり、現在使われているような形に変わっていったわけですね。

この、先細の形は日本独特のものです。

箸は、この形になることによって、より細かいものをつかめるようになりました。

そのために、スプーンが無くても米粒一つ一つをつまむことができ、箸だけで飲食が完了するという、独特の箸文化が形成されていったのです。

また日本では、用途によって箸の材料や形を変えるという独特の風習が生まれました。

主な材料は「木」です。日本では、調理や盛り付けに使う金属製の「真魚箸」(まなばし)を除いて、食事に使う箸はほとんどが木製なのです。

使われる「木」は、竹、柳、杉、檜、いちい、南天、黒檀、紫檀、桑などですが、さらに江戸時代になると、漆を塗り重ねて作られる「塗り箸」も登場しました。

6.口に入れない箸

日本の場合、箸はまず二つの用途に分けられ、一つは「取り箸」または「菜箸」と呼ばれ、もう一つは「手元箸」と呼ばれます。

「取り箸」「菜箸」とは、盛り付けられた料理を取り皿に取ったり、鍋に入れたりするのに使うものであり、これを使って物を食べるということは無く、禁忌とされました。

この二つに使われるのは、ほとんどが竹の箸です。

初期の箸、ピンセット状の「竹折箸」にも使われていますし、そもそも「箸」という漢字が「竹かんむり」ですから、まっすぐでしかも加工しやすい竹は、格好の材料だったと思われます。

しかし現在、普段使いの箸として竹を使うことはめったにありません。

「竹の毒が歯に悪い」などという人もいますが、竹に毒はありませんよね―。

では、何故でしょうか?

一つには、竹の箸を神聖視していた、ということが挙げられます。

竹の箸で神様に供物をささげると、神様はその箸に宿る、とされました。

神様が宿る大切な箸は、人が口にするものではない、と考えられたわけですね。

もう一つは、お客様をもてなすために料理を取り分けるとき、誰かの口に入ったかもしれないような箸では、相手に失礼になる、という考え方です。

神様に供え物をするような清い箸で、あなたのために料理を盛りますよという心が、なによりのもてなしと考えられたわけです。

竹の箸はこのような理由から、1,000年以上にわたって「取り箸」として使われてきたのです。

「取り箸」の代表的なものは懐石料理で使われていますが、茶懐石では青竹、すす竹、ふ入り竹などを使い、節の位置や形で、明確に用途が決まっています。

お茶の流派によって長さ、形、用途が少しづつ違うようですが、以下に一例を挙げてみますね。

<中節>なかふし
    箸の中ほどに節があり、先端が細くなっているもの
    ・用途→焼き物、八寸に使われる
    ・寸法→長さ九寸三分、幅は元で三分、先端が一分、
        厚み一分、節上三寸二分

<両細>りょうぼそ
    節が無く、元と先が両方細くなっているもの
    ・用途→精進もの、香の物に使われる
    ・寸法→長さ八寸、幅は中央で三分、両端で一分

<天節または止め節>
    節が元にあり、先端が細くなっているもの
    ・用途→預け鉢、強肴に使われる
    ・寸法→長さ八寸または七寸五分、幅は節のところで
        三分五厘、先端で一分、厚みは節のところで
        一分五厘、先端で一分

また、茶懐石ではこの他、黒文字(くろもじ)で作られた箸や楊枝も使われます。
   ※黒文字…クスノキ科の落葉低木。皮が黒く、独特の
        芳香がある。

一方、「菜箸」(さいばし)は、調理の時や取り分けに使われます。

竹の丸箸で先細りになっており、長いものと短いものがあります。

そういえば昔、台所でつまみ食いをする時、菜箸で食べるととても怒られました―。

「つまみ食いは、指でつまんでこっそり食べるモンだ!」

雷とともに、よくでっかいゲンコをもらったのですが、母よ、”指はOK”って、それもどうかと…。
いや、つまみ食いは指でたべるから美味しいんだな―。

その他、「口に入れない箸」としては、調理人の世界で使うものもあり、それぞれ「盛り付け箸」と「真魚箸」(まなばし)と言います。

「盛り付け箸」は天削げの丸竹箸で、先端がかなり細く作られ、繊細な料理の盛り付けがしやすくなっています。

一方「真魚箸」とは、主として「包丁式」で魚鳥をさばくときに使われる、手元だけ木製の、金属製の箸を言います。

両者とも、料理の流儀によって寸法や形が少しずつ違い、一種の様式を作り出しています。

7.口に運ぶ箸

「手元箸」(てもとばし)は、文字通り「手元でめいめいが使う箸」というものです。

家庭で使われる塗り箸や木製の箸、またお店で使われる割り箸なども、「手元箸」の一種です。

手元箸は、塗り箸のように洗って何度も使うものもありますが、お店や茶席、祝い事の席では、ほとんどが1度きりしか使わない、白木のものを用意します。

これは、「箸」が日本で神聖視されてきたことが理由です。

始めに神器として使われた箸は、神様が宿る依り代(よりしろ)の役目もありましたので、人が使うと、その人の魂が宿ると考えられました。

そのため、使いまわしをせず、1回ごとに新しい物を用意したのです。

箸を持って両手をあわせ「いただきます」という習慣や、使い終わった箸を焼いたり折ったりするのも、使った人の魂が宿っているので、他の人には使わせない、ということから始まったのでした。

家庭で、めいめいの箸が決まっているのも、同じような考え方です。

命の元である食べ物を口に運ぶ箸は、自分の魂が宿った分身と考えられ、大切にされたわけですね―。

日本は箸を使う国々のなかでも、独特の風習が生まれましたが、その一つに「家庭に自分専用の箸がある」というものがあります。

「これはお父さんの箸、おじいちゃんの箸、お母さん、お兄ちゃん、自分…」

というように、ご飯の支度を手伝いながら、お茶碗や箸を並べたことがある人も多いのではないでしょうか。

これは、命につながる食べ物を自分の口に運ぶ「箸」を大切にしてきた、日本人の心が生んだ美しい習慣だと思います。

手元箸は、形や材料からさまざまなものが作られました。
以下に紹介するのは、1回だけ使うことを前提とした白木の箸の一部です―。

<天削箸>てんそげばし…七寸五分~八寸
  ・杉でつくられ、先細で、元が斜めに削がれているもの。
   比較的大きめのものが多く、取り箸として使われること
   もある高級品。

<柳箸・雑煮箸・祝箸・丸箸>やなぎばし・ぞうにばし…八寸
  ・柳でつくられ、丸く削られ、両細で末広がりの長さ八寸
   のもの。
  ・柳は木地が白く、しなやかで折れにくいため、婚礼や正
   月などの祝い事に使われてきたハレの箸。
  ・特に正月の雑煮を祝うための「雑煮箸」は、太さも太く
   作られた。

<利久箸>りきゅうばし…七寸五分~八寸
  ・千利休が考案し、赤杉の柾目を生かしてつくられたやや
   横広で両細のもの。
  ・茶懐石で多く用いられ、割り箸様でなく、1本ずつ作ら
   れているものは特に高級品。

<元禄箸>げんろくばし…六寸~八寸
  ・多くは杉で作られる割り箸の一種で、角を削り、割れ目
   に溝を入れたもの。

<丁六>ちょうろく…六寸
  ・割り箸としては普及品でほとんど加工されておらず、長
   さも六寸程度の小型のもの。
  ・「ちょうど六寸」なので、「丁六」と呼ばれる。

その他、象牙、金属、塗り物などで作られ、洗って繰り返し使われるものがあります。

一般に使われるものは、木地に漆を塗って作る塗り箸、白木を磨いて作る箸、プラスチック箸などが多いでしょうか。

子供用として、箸先にすべり止めのみぞが掘ってあるものがあったり、箸使いを良くするために、手元に当たる部分に、指を当てるくぼみを付けたものなどもあります。

中には、漆を塗り重ねてから、下塗りが見えるまで磨くことを繰り返して美しい模様を付けたものや、象牙に貴金属を埋め込み、彫刻もほどこした豪華なものなど、美術工芸品に近いようなものもありますが、普段使いするにはちょっと高価ですね。

8.手量り(てばかり)

「咫」(あた)

この字が、画面上で表示されない場合があるかもしれません。

左に「尺」を書き、右払いを長めにとって、その上に「只」を乗せると、この字が出来ます。

これ、長さの単位なのですが、日常生活ではまずお目にかかれないものですね。

手のひらを広げ、親指と人差し指の角度がちょうど90°になるとき、親指の先から人指し指の先を結んだ長さ―。
(参考本によって「中指の先」という記載のものもあります)

または、手のひらの一番下から中指の先までの長さといわれている、それが「一咫」という単位です。

古来、長さの単位とは、人間の身体の部位を基準として決められました。

東洋での「寸」「尺」「尋」しかり、西洋での「インチ」「フィート」しかり―。

日本でも当然のように、身の回りの小物達が手量りで作られてきたわけですが、毎日毎日手に持ち、口に触れる食器類は特に、この「咫」という単位が基準となっています。

例えば自分の使いやすい箸を見つけるには、まずは手を測ってみましょう。

上で書いたようにして自分の「一咫」を測ったら、それを1.5倍にすると、自分にあったサイズになります。

私は15.5cmあったので、15.5×1.5≒23となり、23cm前後の箸が使いやすい、ということになります。

15cmの人は22.5cm、16cmの人は24cm、17cmの人は25.5cm前後の箸、ということになりますね。

一般的に会食で用意される箸は、天削箸や利久箸の場合、八寸(約24cm)です。

箸が作られだした頃の日本人の体格などを考えると、この寸法は男性を中心に、しかしほぼ誰にでも使いやすい長さで作られたということがわかります。

現在でも、だいたい女性用で20~23cm前後、男性用が23~25cm前後のものが多く作られていますから、メートル法もなんのその、りっぱに手量りが生きているというわけです。

個人差と好みもありますが、短すぎても長すぎても使いにくいものですから、上記で出した自分のサイズから、だいたい±2cm前後のものを選び、バランスと太さ、材質などを確認して購入すると良いと思います。

ちなみに……
「八咫」(やた)と書いて、長いもの、大きいものという意味になります。

「咫」(あた)なんて知らないよ!という人も、サッカーファンなら、日本代表の旗印に描かれている「三本足の鳥」を見たことがありますでしょう?

あの鳥は「八咫烏」(やたがらす)といって、大和朝廷の記紀に出てくる大きな烏です。

中国の伝説では、太陽の中にいる3本足の赤い鳥のことですね。

他にも、三種の神器の一つである「八咫鏡」(やたのかがみ)などに使われています。

……ちょっと余計なお話しでした!

9.箸上手は楽チン

日本の箸文化は、どんな食事でも箸一膳で食べ切ることが出来る、世界でも珍しいものです―。

まあ、もちろん分厚いステーキを切って食べるとか、物理的に無理なものもありますが、日常の食事ではそう困ることは無いと思います。

ただそこで問題なのは、「基本的な箸使いが出来ること」という条件が付くということでしょうか―。

どんな細かいものでも、きちんとした箸使いが出来れば、ちゃんと口に運ぶことが出来ます。

それは、言い換えると「ストレス無く食事が出来る」ということに他なりません。

こぼしたり、落としたりということを気にせず、楽に食事が出来ること―。

それは、料理の味と食材の質感を最大限に楽しむことが出来る、ということです。

また、どんな席に出ても人目を気にすることなく、ゆっくり食事を楽しむことが出来るということでもあるのです。

基本的な箸使いには強い力はいりませんし、指の柔軟体操も必要ありません。

長い間に、もっとも楽で使いやすく変化してきたはずの方法ですから、ちょっと練習して慣れてしまえば、こんなに楽チンな使い方は無いと思うのです。

―ちなみに私は、タイカレーを箸で食べ切ったことがあります。

そう、あのしゃばしゃばしたカレー&インディカ米。

いや別に、だからエライとか、そういうことではないのですよ。

ただ単に、カレーの他にも料理を食べる都合で、スプーンに持ち替えるのが面倒だっただけです…。
米粒一つ残さず完食しましたけどね、↑それで「マナー」ってどうよ、自分…。

≪基本的な箸の持ち方≫

まず、鉛筆を持つ要領で、上側の一本を持ちます。

中指の爪の横から第一関節の横あたりに箸を当てるようにし、人差し指の指先で押さえます。

動かすのは、親指を支点として、この上側の一本のみとなりますが、軽く人差し指に力を入れれば箸先が下がり、中指を軽く上に振れば箸先が上がります。

うまく持てないとか、こわばってしまう、という方はまず、この一本を上下に軽く動かす練習から始めると良いでしょう。

下側の一本は、薬指の第一関節の横あたりと、親指の付け根で挟んで固定します。

この一本は動かしません。

どうでしょう?こうすると、上下の箸先に角度が付いて、先端がきちんと合いませんか?

この状態なら、どんな細かいものもきちんと挟めますし、切ったり、すくったりもしやすくなります。

ぜひ、練習なさってみてください―。

ところで、箸をきれいに使うには、いくつかのポイントがあります。

<1> 箸は三手で取り上げるもの

自分の前に置いてある箸を取る時は、まず上から、右手の親指、人差し指、中指の3本で箸の中央をつかんで取り上げ、左手の指先を揃えて下から支えます。

そのまま右手を箸の頭へすべらせ、右端で手のひらを返して、箸を下から支えます。

箸を手元に引き寄せ、左手を離します。

※この三拍子がスムーズに出来るようになると、手元がとてもきれいにみえますよ♪

<2> 箸先から三分の二あたりを持つ

箸先を合せやすく、あまり力を入れなくても細かいものが楽に挟めるのは、この位置で箸を持つのがお勧めです。

真ん中当たりをがっちりと、力いっぱい握っている人も居ますが、見ているこちらの手がつりそうです。

ちゃんと箸を使おうと思うと手が疲れる、という方は特に、箸先からちょうど三分の二のところに親指があたるように持つとかなり楽になると思います。

<3> 箸先五分、長くて1寸

箸先は食事をしているうちに汚れますが、その汚れの付き具合はこの程度で…という目安です。

1寸は約3cm、五分は半分の約1.5cmです。

え?そんなに少し?と思われるかもしれませんが、実際にはちょっと気をつけるだけで出来ることです。

私個人としては、汚す汚さないがどうこうよりも、少し気を配ってみましょうね、ということだと思っています。

<4>割り箸の扱い・箸袋と箸の割り方

会食の席で、箸袋入りの割り箸と箸置きがあった場合、次のようにしていただくと良いでしょう。

箸袋から箸を取り出し、箸先が2~3cm左に出るようにして、いったん箸置きに置きます。

箸袋は、わになっている方を手前にし、会席盆の左外へ置きます。

(袋箸だけで箸置きが無い場合は、ちょっとくだけた席ですから、箸袋を折って、箸置き替りにすると便利です―)

割り箸を顔の前に立てて、パシッ!と勢いよく左右に割っている方をお見かけします。

さぁ食べるぞ~!!という気概を感じて、個人的には好意を持ちますが、万が一勢いあまって隣の人にぶつかってしまったり、箸先を向かいの方にむけてしまったりと、周りの方を不快にさせてしまうのはNGですよね。

そこで、スマートに割り箸を割るには、「上下」あるいは「前後」をお勧めします。

まず、右手で箸の中央を持って取り上げ、下から左手で受けます。

「上下」に割るには…

手元に引き寄せたら箸を起こし、下側の中央部を左手の親指、人指し指、中指でしっかり押さえたまま、右手の親指、人指し指、中指で、箸先から持ち上げるように力を加えて割ります。

「前後」に割るには…

手元に引き寄せたら、手前側の中央部を左手の親指、人指し指、中指でしっかり押さえたまま、右手の親指、人指し指、中指で、箸先から向こう側へ押し開くようにして割ります。

会食の席で用意されるのは、割り箸でも比較的高級な「天削箸」や「利久箸」ですから、そうそうささくれがひどい事は無いのですが、気になる時は指先でそっと取りましょう。

右手と左手に1本ずつ持って、チャンバラよろしくこすり合わせるのは、どうかご勘弁願います:笑

<5>箸が先か、器が先か

日本料理をいただくとき、大きさがだいたい手の中に収まるサイズの食器は、手に持って食べることが出来ます。

その場合、以下のように先に器を持ってから箸を持つのが基本となります。

1.両手で器を取り上げ、左の手のひらにしっかりと乗せま
  す。

2.右手の人差し指、中指、親指で、箸の中ほどを上から取り
  上げ、器を持った左手の人差し指と中指のあいだに軽く挟
  みます。

3.右手を箸にそわせたまま右へすべらせ、箸頭から下側へま
  わってそのまま持ち替えます。

4.左手から箸をはずして、料理をいただきます。

5.食べ終わった時、食べるのをいったん止める時は、逆の
  順番でまず箸を置き、それから両手で器を置くようにしま
  す。

例外的に、ご飯と味噌汁を交互に食べる時は、そのつど箸を置かずに持ったまま、飯椀や汁椀を持っても良いとされています。

しかしその際、自分が口をつけた箸先を相手に向けないように、充分注意しましょう。

以下は、その方法の一例です。

1.右手に箸を持ったまま飯椀を取り上げるときは、左手で
  取り上げます。

2.取り上げた左手の飯椀に、箸を左右水平に持った右手を
  持ち添えて、椀を左手のひらに安定させ、それから食べ
  始めます。

3.飯椀を左手で置き、右手の箸の先を自分に向けてからその
  右手で汁椀を取り上げ左手を添えて両手で汁を飲みます。
  汁の実を食べるときは、手前に向いていた箸を持ち替えて
  いただきます。

~箸使いのタブー集~

1.寄せ箸
  卓上の器に箸を引っ掛けて、自分の方へ引き寄せること。

ものぐさで見た目にもよくありませんし、器の底でテーブルや膳を傷つけたり、器をひっくり返したりしてしまうこともあります。

器の移動は、面倒がらずに箸を置き、両手で持ち上げて動かせば引きずり傷も防げます。

2.刺し箸
  器の中の食べ物に、箸先を突き刺して口へ運ぶこと。

見た目にも乱暴ですし、すべりやすい物を刺そうとして外れ、食べ物が器の外へ飛び出てしまうこともあります。

料理としては、箸で切れないほど固いものはほとんどありません。

器の中で小さく切ってから、一口ずつ口へ運べばスマートですね。

ぐさっ!がぶりっ!も美味しそうではあるのですが、時と場合を考えましょう:笑

3.舐め箸・ねぶり箸
  箸だけを口に入れて、箸先を舐めてしまうこと。

料理をとらずに、箸だけを口に入れて舐めている姿は、子供っぽくて物欲しげです。

自分ではまったく気付かずに「ついクセで」やっている方が多いようですので、気をつけましょう。

4.せせり箸
  箸を楊枝代わりにして、歯の隙間などをこそげること。

「せせる」とは、細かい場所に詰まったものをこそげ取る、という意味です。

人前で楊枝を使うのもお勧めしませんのに、箸でこれをやってしまっては台無しです。

割り箸よりも、塗り箸など先の細い箸をお使いの時に、時々お見受けします。

見た目にとても感じが悪いので、どうかご遠慮ください。

5.もぎ箸・横箸
  箸先についたご飯粒などを、箸を横ぐわえにして歯でしご
  きとること。

白状します。私は自宅でご飯を食べるとき、これやります…。
しかし、さすがに人前でする度胸はありません―:笑

なぜなら、その時の自分の顔を鏡で見たことがあるからです。

歯をむき出してガリガリッと箸をかじっているかのような、すんごい顔でしたよ。

そんなわけで、みなさんにもお勧めしません。

6.迷い箸
  卓上の料理の上で、どれを食べようかと迷って、箸をうろ
  うろさせること。

誰かが、口に入れた箸で料理の上をうろうろさせていたら、ちょっとイヤかもしれません。

特に人数分の盛り込み料理が大皿や鉢に盛られている場合、迷われていると他の方も取りにくいですよね。

迷うのは箸を置いたままでも充分迷えますから、気持ちが決まったら箸を取ってお料理をどうぞ―。

7.押し込み箸
  たくさんの食べ物を、口に箸で押し込むように食べるこ
  と。

いくら美味しくても、一杯に詰め込んでは味もわかりにくいでしょう。

子供っぽく見られますし、「意地汚~い」なんて言われちゃうかもしれません。

食べ物に足が生えて逃げるわけではありませんし、ゆっくりと、自分の口に合った量で味わって食べてみてください。

8.人差し指・振り上げ箸
  手に持った箸で、同席の人を指し示したり、身振り手振り
  をすること。

先のとがった箸を他人に向けるのは危ないですし、相手に失礼ですよね。

ましてや、すでに使って箸先が汚れたものをうっかり振り回して、隣のひとにでも触れてしまったらどうでしょう?

もし、自分がされたら…と想像してみてください。

自分がされてイヤなことは、他の人もきっとイヤだと思います。

9.握り箸
  箸を2本まとめて握りこんで使うこと。

うーん、どうも食べにくいのでは……しかし、これでずっと食べてきたからOK!という方がおいでかもしれません。

やめていただきたい一番の理由は、「危ないから」です―。
箸を握りこんで、箸頭に親指をあてると、そのまま凶器になります。

「そんな飛躍的な話…」と思うかもしれませんが、互いの安全を確保するのも会食の大切な一面なのです。

洋食のマナーでも、ナイフ・フォークを握って使うのはタブーですが、同じ意味ですね。

10.拾い箸
   食べ物を箸から箸へ直接受け渡すこと。

斎場で「お骨拾い」をするとき、二人がそれぞれ箸を持って一緒にお骨を拾うことから、食べ物でこれをするのは大変に縁起が悪いこととされています。

面倒でも、ちょっと小皿に移してから手渡すようにしてはいかがでしょうか?

11.涙箸
   箸でとった食べ物から、汁気がぽたぽたと卓上や膳の上
   に落ちること。

自分の器から物を食べるとき、汁気の多いものは器を持って受けながら食べると良いのですが、それをしないとこのようになります。

落ちた汁気がはねて衣服を汚すのも嫌なものですから、少し気をつけると防げます。

また、遠くの器から食べ物を取って自分のところへ運ぶまでに、卓上やお膳に点々と汁が落ちるのは、だらしない感じでちょっと見苦しいですよね…。

やはり受け皿や懐紙などをうまく使って、受けながらいただくとこぼれなくて済みます。

ちょっとの気遣いで、好感度UPですよ。

12.とんとん箸
   箸先を揃えるのに、卓上や膳上にとんとんと打ちつける
   こと。

白状第2弾―。私、これやっちゃってました。

初めて知ったとき、「えっ?ダメなのっ?!」とビックリしたことの一つです:笑

ダメな理由は、第一に、箸を大切に思う心から出たことです。
もともと神器から始まっている「箸」は、命=食物を口=身体に入れる、神聖なものです。

その最も大切な「口に入れる箸先」を、卓上などに打ちつけるのは良くない、大切に扱うべきだということですね。

第二は、箸先で卓上や会席盆などを傷つけるかもしれないということと、口に入れるものを卓上などに触れさせるのは不衛生だ、ということです。

13.ほじり箸・さぐり箸
   器に盛られた料理を上から順番に取るのではなく、
   下のほうを掘り返すようにして取ったり、自分の好きな
   ものだけをさぐり出して取ったりすること。

日本料理の盛り付けは、手前からまたは上から順番に取っていくと崩れなくてすむように出来ています。

人数分の盛り込みになっている場合は特に、1人分ずつ取りやすいよう工夫してありますから、それに応じて自分の皿へ取り分ければよいのですね。

その場合、自分の箸はもちろん、取り箸が添えられているときでも、自分が食べる分以外にはなるべく触らないようにして取るのがコツです。

どうしても嫌いなものがあった場合は、自分の取り皿にとってから残すようにします。

気取らない席なら、同席の人にすすめて食べてもらうようにしても良いのですが、その場合はまず「食べられないものがあるので、もし良かったら」と断り、先にそれを取っていただいてから残りを自分でとるようにすると良いでしょう。

14.空箸(そらはし・からばし)
   料理に一度箸をつけたのに、食べないこと。

「えぇ~、あたしってぇ~、あんまり食べないヒトなんですよねぇぇ~」

……はい、食べる食べないは個人差がありますから、私のように他人の3倍食べるのもいれば、小鳥のエサほども召し上がらない方もおいででございましょう―。

しかし、皿の上の料理をつつき回してぐちゃぐちゃに、あるいは箸先で細かくし(ある意味箸使いが上手なのかも:笑)そのあげくにほとんど食べないのは、いかがなものでしょうねぇ…。

食べられない場合は、つつき回さずにどうか下げてもらってください。

自分で金を払っているのだから、どうしようと勝手かもしれませんが、ちょっと考えてみていただきたいのです―。

15.突き立て箸・仏箸
   ご飯に箸を突き立てること。

亡くなった方へのお供え「枕飯」と同じになりますので、これはとても感じが悪いですよね。

ウチで会食をされたご家族の子供達が、面白がってやってしまったのですが、おじいちゃんおばあちゃんにこっぴどく叱られていました。

やっていいことと悪いこと、子供でもちゃんと説明すればわかります―。

16.渡し箸
   器に箸を渡して置くこと。

これをする方、多いですよね…。

実はこれをすると「料理はもういりませんよ」という意味になるのですが、「えっ?何で?」というリアクションがほとんどだと思います。

器の上に箸を渡すのは「これ以上器の中には食べ物を入れません」という意思表示になり、すなわち「もういりません」ということになるわけですね。

食事中に箸を置くのは「箸置きに」が基本です。

箸置きが無い場合は、膳や折敷(おしき)、会席盆の右ふち、あるいは左ふちにかけて置きますが、礼儀作法の流派、懐石料理はお茶の流派によって若干の違いが有ります。

17.重ね箸
   同じ物ばかりを続けて食べること。

これは別名を「ばっかり食べ」とも言います。

一品ずつ出てくるコースの料理なら順番に食べれば良いのですが、大皿盛りの料理がいくつか出ている時や、おかずとご飯が並んでいる時は、交互に食べると良いですね。

好きだからと同じ料理ばかり食べては、他の人の分が無くなってしまいますしし、おかずとご飯は交互に食べることによって、口の中の味覚が鈍くならず、美味しく食べられるようになっているのです。

18.ずぼら箸
   片手で箸と器を両方持つこと。

ある意味で器用とも言えますが、うっかり器を落とす確率は高くなりますし、箸先が何かに引っかかってしまうことも考えられます。

器は箸をいったん置いて、なるべく両手で持ちましょう。

19.紅箸
   箸先に口紅が染み付くこと。

ごめんなさい、私が知る限り、これは圧倒的にある年代以上の方に多いのです。

むしろ若い女性たちのほうが、こうならないように気を使っているのですよ。

けっこうはっきりと赤い紅が付いている箸が多いのですが、ちょっと見苦しいですね―。

食事をはじめる前に、口元を押さえておくだけでずいぶん違うのですが…。

そしてこういう場合、食事を終えてから、その場所での化粧直しが始まる確率が、かなり高いです…。

20.喰い付き箸
   箸先をくわえたまま手を離し、そのまま器などを持った
   りすること。

木枯らし紋次郎じゃあるまいし―と打ってから、あれ?このネタは年齢制限有りだなと気付きました:笑

笑い話はさておき、第一にくわえ箸はものぐさです。

ましてや、そのままでもし何かの拍子に前のめりになったらどうなりますか?

惨事は簡単に起きるのですよ。特に動きの激しい子供さんには、充分注意してくださいね。

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