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旧木街

余白を飛ばして訪れた

若葉の頃に暮らした街は

涙と汗を噛むほどに色気を増し

老艶に象った古い木窓の群列体


錫色に並ぶ扉の奥では

宵に酔った赤らめ頬のおじちゃんが

酒樽に腰掛け流暢に笑いをばら撒いている


無我に飛び込む社会の油で

べたべたになった私の心は

赤らむ街を抜け歩くだけで

ポッと安心

ポッととぬくい



この場所一帯消えるんだ

次の冬には消えるんだ

老いた飲み屋や食堂は

触るな危険の解体群像


おじちゃんどこで笑うんだ

おじちゃんなにに腰掛ける


私が勝手に包まれた青春の葉はもう枯れる

緑の苗木を植えるため

ここいら旧木薙ぎ倒す


仕方ないのは仕方がない

私にとっては生活ではなく

時折巡るノスタルジー


そうやって街も脱皮を繋いで

強固な生命になっていくものなのだと

おじちゃんには悪いが

勝手に答えを出しては

のぼりの列車の扉を潜った


古き良きは潔さに負けるものだと

青春の列車はきりきりと唸った

下駄を擦る音が聴こえないのと同じこと

それならいっそ新風乱れろ 潔く



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