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詩集 幻人録

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2021年12月の記事一覧

魔物

魔物

私の心が大波に揺られて溺れて水浸し

鬱の魔物は水面で
滑っとどろんと顔をだし
大きく開口した魔物は私を
夕飯として丸飲み鵜呑み

それでも言うの
あなたは言うの
魔物なんざいないのいないの気の迷い

そういって私の靴を磨き
シャツにアイロンをかけては
微笑みと神妙の丁度真ん中の顔をして
豊かな箪笥の引き出しを
そっと開けては色とりどりの召し物を用意した

私が今溺れているのは
私の冷や汗からでき

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波

泳ぐはちっとの荒波よ
冷たいみぞれの水面よ
痛いは身体
苦心は灯台に置いてきた

服が重くてとられた波に
詫びゆく想いが絡みあう

陸は見えずと
果てのない

ばあばの詩が聴こえる方角

しゃきっとしなくしゃ
いけないよ
しゃきっと歩いて
いけないよ

聴こえるうちに
帰りましょう

冷たい荒波潜りましょう
私は帰る
なにがあっても
私はばあばの詩の方

方位磁石はヨーソロ ヨーソロ

シャボン玉

シャボン玉

愛の不思議は
色じゃない
温度も痛みも
嘘でもない

愛の不思議は
形崩れて
透明シャボンで飛ぶところ

私が絵を描き
色を塗り
額縁囲って
飾ってもなお

意味のない愛が
浮遊するだけの小部屋

命の祈りはますますと
愛の鎧を脱いでいく
がぎゃん がぢゃん
と崩れてく

鎧の中の透明人間は
愛そのもののシャボン玉

気がつきゃ私もシャボン玉

ミルフィーユ

ミルフィーユ

魂のミルフィーユ
重ねる程に強くなる
人間の持つ可憐さは
強さの中に共存する

魂の層は幾度となく織られ
涙と笑みのクリームで塗装される
少しばかりの木苺が
人生に花を添えると
甘さが増すとかなんだとか

この先も私は層を重ねては
泣きじゃくり
腹を壊すだろう
気分の良い日
食べましょう
自分の魂ミルフィーユ

ゆっくり振り返る
魂と思念の層を割って

たてがみ

私の髪の毛が
獅子のたてがみの様に伸びてしまったため
髪を切りに行きたいのだが
外には悪口の雨が降り
暴力的な風が吹くもんで
家の中からは出れやしない

私は自分のハサミでたてがみを削いだ

私は嫌なほどたてがみを切るのが下手なもんで
ぶら下がるコウモリの様な髪型になるもんで
これでは恥ずかしと頭を掻きむしった

慣れないことはするもんでない
少しの勇気が私にあれば
床屋までいく足があれば

ほん

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遠縁

遠縁

あなたが落とした想いなら
私が拾って集めましょう

大きな籠にひとつずつ
優しい球を入れていく

その籠が球でいっぱいになったら
私は集めた想いのひとつを

高く空に放り投げては
野鳥に託して運んでもらう

渡鳥ならなおのこと
遠くに運んでくれるだろう

あなたが落とした想いなら
きっとみんな感じてくれる

きっとみんなが食べてくれる

あなたはそういう
慈悲の想いを落とす人

ゆきんこ

ゆきんこ

ゆきんこは笑う
これは愛の写しみと

ゆきんこは踊る
喜びが積もっていくと

ゆきんこは泣いた
もっと遊びたいと

ゆきんこは謳う
ふれふれしんしんほわわわわ

ゆきんこに逢いたい
ゆきんこを抱きしめたい

だけどもノンノン
ゆきんこはすーすー溶けて掴めない

ゆきんこは怒る
脅威とはこのこと

ゆきんこは怖い
重たい足元
冷たい上空

ゆきんことの生活は
辛いけれどもあわよくば
白い私になれるか

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晴れ時々ハンカチ

晴れ時々ハンカチ

快晴の十五時
お出掛け中の雲は彼方の上空
みかん畑の色彩で
私の目のなか燃える様

もぎったみかんは卵の様に
そおっと籠に置き入れる

橙 群青 深緑

私がいるのはそんな世界

鼻を通った風の香は
揺さぶる私をピンとさせる
柑橘のそういうとこが好きだ

見上げた彼方の群青に
ヒラりと降っては落ちてくる

一枚 二枚と数えていけば
どんどん増える百のハンカチ

みかん畑の橙が
ハンカチ色の純白に

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添い

添い

木目の床は冷え込んで
迫り来る寒波の余波をしたためた

私は広くはないリビングの隅で
祈りのない世界の夢をみる

それは互いの行き来などない
揺らぐことのない空間

沼の波紋は円に成らず
アメーバの様に自由

しかし個を重んじるこの世界では
それはなんにでもないこと

祈りは他者の為
祈りとは健やか

私は空っ風が寒吹くなか
児童図書に想いを寄せる
そこにはまだ残っていたピュアリティが満映している

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