【インタビュー#10】子育てと教員の両立に悩む5年に終止符!決め手はシンプルな考え方。
第10回目のインタビューは、10歳と7歳の娘を育てながら大学教員として働くキャサリンさん(47歳)です。専門は栄養学で、保育士や看護師などを目指す学生達を教えながら研究をしています。
プライベートでは、自分と家族の希望で都心から山間部に移り住むこと10年!田舎ならではの真っ暗な夜にウッドデッキを外に出して、キャンドルを灯しながら家族と食事をすることが楽しみだそう。
そんな理想のライフスタイルを手に入れたように見えるキャサリンさんですが、つい2年ほど前までは、子育てに疲れ果て、仕事の成果も出せない5年間だったそうです。
そんな5年間をどう過ごしていたのか、抜け出すきっかけをインタビューしました!
”子育て優先”で本当に満足?研究者として評価ゼロのジレンマ
―つい最近まで、子育てと仕事の両立生活に四苦八苦だったと聞きました。
そうですね、次女が小学校に入学する2年前までは大変でした。努力しても成果が得られない感じです。仕事についてはモヤモヤが続いていました。
大学教員の仕事の成果で一番わかりやすいのは研究論文なんです。だけど、子育てをしながらだと時間が足りなくて、全く書けない日々が続きました。授業のノルマをこなしながら、会議や報告書を執筆するので精一杯。だけど本当は研究をしたい、論文を書きたいと思っていて、悶々とした日々が続いていました。
出産前は自分のために時間を使い放題だったんです。授業と会議が終わった後は好きなだけ研究に没頭できるから、満足するまで時間をかければいいという発想でしたね。
―出産前と後では、働き方が真逆になったんですね
時間の制約がある中で仕事の成果を出すことは本当に難しいって実感しました。だけど一方で、今は仕事が出来なくても、子育てを優先しなきゃとも思っていていました。でも当たり前ですが仕事に時間を割けない日々が続いたら、教員としての評価は悪くなってしまって。「私は研究成果を全く残せないな」と落ち込むことも多かったです。子どもとの時間を大切にしたいという思いと、教員として成果を残したい気持ちが振り子のように揺れ動いていました。
そんなとき、追い打ちをかけるようなショックな出来事があったんです。子育てで研究が進まない中、お世話になった方の退職なども重なって、この先どうしたらと悩んでいたとき、後輩と一緒に研究ができることになったんです。研究が進む糸口が見えたように感じて、素直に嬉しかったんです。だけど話を進めていくうちに、後輩から「あなたは私を利用することしか考えないんですか?」と言われてしまったんです。後輩に頼りながら進めたいと思っていたのは確か。でもそれは依存するという意味ではなく、ギブアンドテークの精神でお互いを補強しながら進めようという意味だったんですよね。だけど、そんな風に思われていたんだなと。
「子供を産んだのに、変わらないんですね」とも言われてしまったときは、”母親になること=完璧な人間に生まれ変わること”と言われているように感じて、つらい時期でした。
子育て支援センターで見た世界が仕事感を変えるきっかけに
―そこからどうやって立ち直ったのでしょうか
週末に通っていた子育て支援センターに救われたんです。当時よく通っていんですけど、ある時から月に2回、夜間(17:00~19:00)にもオープンしてくれるようになったんです。利用者のママが「子育ては、子育て支援センターが閉まった夕方以降が一番つらい」とSNSでつぶやいたのがきっかけだそうです。
夜間開放は仕事も上手くいかず子育ても試行錯誤で行き詰っていた私にとって、ありがたい存在でした。というのも、子育て支援センターの責任者の方が、子どもだけじゃなくて親のこともすごく気にかけてくれたんですよ。子育ての大変さに共感してくれるのはもちろん、冗談をいいながら励ましてくれたり、時には私の悩みも聴いてくれたりして。子育て支援センターにいると、子育てで時間に追い立てられることもないし、仕事の嫌なことも忘れて自分自身を楽しむ時間が持てたんです。
―キャサリンさんにとって癒しの場だったんですね
たった月2回の夜間開放だったけど、私にとっては大切な時間でした。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、私の未来を照らしてくれた気がしたんです。
というのも、夜間開放を利用しているうちに、ふと「私は子育て支援センターを親として利用するだけじゃなく、教員としても関わりがもてるんじゃないか」って閃いたんです。私の専門は栄養学なので、子育て支援センターに来る親たちに子供の食に関する情報を伝えられるかもと。
このアイディアが頭に浮かんだとき、もしかしたら両立の悩みは、親である自分と働いている自分をキッチリ区別しているのが原因かもと思ったんです。
例えば、「私は子どもが小さいから支援される側」「子どもがいるから仕事はできない」って考えると辛いですよね?だけど、子どもとの時間を犠牲にして、他人を支援したり仕事ばかりするのは違う。
だったら、自分ができることを誰かに提供しつつ、自分ができないことは出来る誰かに助けてもらう。そんなシンプルな考え方で良いし、そんな仕組さえ作ったらうまく回るんじゃないかって考えたんです。
それで子育て支援センターにお願いして、時々講師として活動させてもらうようになりました。そしたら、役に立ててる実感がもてて、ますます子育て支援センターにいる自分が楽しくなってきたんです。
あと、研究も個人研究からグループ研究に移行しました。ひとりで黙々と卓上で考えるものから、大勢でフィールドに出て地域の方とも交流する研究に舵を切ったことで、分担して研究を進めることができるようになり、育児と仕事の両立も楽になってきたんです。
自分を大切にしながら助け合う社会を創りたい
―相互に補い合う。素敵な考え方ですね
きっと子育て支援センターにいてホッとする時間ができたから気付けた考え方です。
私は昔から日記を書き続けているんですけど、大変だった時期の日記を見返すと自分のことは全く書いていないんです。子どものことばかり。きっと自分をなくしていたんです。その頃の自分に教えてあげたい。「もっと自分自身と向き合う時間を作ればいいよ」って。
そうそう、このあいだ夫に「もっと論文を書く時間が欲しいんだよね」とポロッと言ったんです。そしたら「夜より朝やるほうがいいんじゃない?まずは3ヵ月ぐらい、朝、早く出勤して2、3時間を研究に使ってみたら?子どもたちは自分が送って行くから」とアドバイスしてくれたんです。
びっくりしました。こんなこと言ってくれるんだって。もしかしたら大変だったあの時も、夫に相談してたら研究が進んでいたかもしれないって思いました。「子育て優先」と諦めるんではなく、頼ればよかったと気付いた瞬間でした。
―少しづつ生活が穏やかになった今、将来についてはどう考えていますか
私は、子育て支援センターでママの立場で助けを得ながら教員として貢献することで自分を取り戻しました。この経験があるから、ちょっと壮大だけど人の役割に区別をつけず、助け合える社会をつくりたいです。
たとえば、保育士が他人の子供と自分の子供を一緒に見ながら仕事ができる保育園をつくってみたいんです。教員として保育士の養成に関わる中で知ったことがあるんです。それはせっかく保育士になっても、自分の子どもを長時間他人に預けて他人の子どもを見ることに納得できず、退職する人が多いことです。
もし「保育士」「親」という役割に境界線を引かず、自分の子どもと他人の子どもを一緒に育てるような保育園を作れたら退職の問題は解決するんじゃないかって。
そんな夢を元教え子に伝えると「似たようなことをしている地域がありますよ」って情報をもらえたんです。実際に見学に行ったら、保育士の皆さんがすごく楽しそうに働いていました。
親としての自分も仕事をしているときの自分もhappyになれば心にゆとりが生まれる。そしたらその子どもは絶対happyになると思うんです。
自分でできることは限られてるし、まだまだ子育て真っ最中。だから今は夢をぼんやり見ている段階です。だけど、東京から田舎に移り住んだのも何かのご縁。親と教員としての自分を融合して、この大好きな地域でみんなが共生しながら楽しく暮らせる場所を創っていきたいんです。
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