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産地の未来は、夢を語ることから始まる|有限会社菊井鋏製作所 菊井健一さん

昨年11月に開催した和歌山ものづくり文化祭2022。
連載最終回の今回は満を持して、実行委員長も務めながら出展した有限会社菊井鋏製作所 代表取締役 菊井 健一さんのインタビューを紹介します。

(聞き手:和歌山ものづくり文化祭事務局 勢古遥)

新卒入庁2ヶ月目、勢古が取材しました!

―簡単に菊井さんの本業について教えてください。

金へんに大きいとかいて人がふたり(鋏)でハサミと読みます。
ウチは祖父の代から美容師さんのハサミだけを作り続けてきた、職人10名のニッチなものづくりの会社です。
僕も普段はラインに入って作業をしています。

―菊井さんは和歌山ものづくり文化祭の発起人でもあるということで、なぜもの文を開催しようと思ったのか教えてください。

和歌山は技術の高いものづくり企業がたくさんあって、魅力ある産地だと思うんです。
でも、悲しいことに、自社の名前が出せていないとか、いいもの作っているのに知られていない、そもそもOEM※1 だから自分たちの存在は表に出せない、みたいなところが多いんですよね。知られていないってさみしいなって。
そこで、自社だけだと力が弱いから、みんなで集まって文化祭みたいな場で知ってもらえたら、面で発信できることで影響力も強くなるし、なにかできるんじゃないか。と考えたのがきっかけです。

※1 OEM:Original Equipment Manufacturingの略。メーカーが自社のブランド名を出さず、相手先のブランドとして生産をおこなうこと。

―和歌山って、知らないだけで本当にものづくりの企業多いですよね。いろんなものづくりを知ってもらう機会になったと思います。
技術を見せるだけでなくワークショップを行うのにはどう言う意図があったのですか?

ただ単に見てもらいましょう、ものを売りましょうよりも、体験を通じて知ってもらうイベントをやりたいと最初から考えていました。体験を通じて五感を使って来場者に伝えるということと、事業者同士でも一か所に集まってワザの競い合いができるといいなあといった狙いがありました。
もの文のちょうど一年前、菊井鋏製作所として日本工芸産地博覧会2021っていうイベントに出展したんです。そこは、全国の工芸メーカーが集まって、ものづくりの体験ができる「一つの大きな産地」を万博記念公園に作ろう、というコンセプトでした。

イベントに出展するのも初めてだった僕たちにとっては、ここでの体験が強烈で。だから、得たものを和歌山に持ち帰ろうということで、体験にはこだわりました。
そうやって開催した和歌山ものづくり文化祭2022ですが、前例のないイベントだから最初は何人来るかもぜんぜん読めなかった。ところがフタを開けてみると2日間の来場者はのべ5803人。自分たちのものづくりって伝わるんだなあと感動しましたね。

―約6000人はヤバいですね。笑
そんな大盛り上がりだったもの文を開催するにあたって、また自社が出展するにあたって、主催者と出展企業という2つの側面があったと思います。大変ではなかったですか?

まぁ、大変じゃなかった、というと嘘になりますね。笑
一番困ったのは、気持ちの切り替え。自分が主催しているところに出展しているわけで、いろんなところで自分の気持ちのせめぎあいがありましたね。出展企業・主催者だけじゃなくて去年は事務局機能も担っていたし、ネゴシエーターとしても動いていたので、こっちの僕が言っていることとあっちで僕が思っていることが必ずしも一致しないことが多々あって。
「実行委員長としてはドリーマーでいたいのに、事務局としては現実的なリソースを考えなきゃいけない」みたいな、葛藤やせめぎあいは精神的にしんどい部分もありましたけど、だからこそ僕の言葉には説得力があって、いろんな人を巻き込んでいけたと思います。

―「参加企業」菊井鋏製作所としては、どんなことをやったんでしょう?

日本工芸産地博覧会のときからの鉄板ネタで挑みました。
アルミの棒をたたいてキーホルダーをつくるという、それ自体は単純なワークです。けど、アルミの棒をたたくために使うハンマーは職人が普段使っている道具。これがもう、大人も子供も夢中で楽しめるんです。笑
実際にアルミの棒をたたいてもらいながら、ハサミ職人がどんなふうに道具を使っているのか、金属をどういう風に加工していくのかを説明して、職人の疑似体験に落とし込んでいくのも魅力です。

―社内の取り組み方では、どんなふうに準備を進めたんでしょうか?

うちの会社、実はそんなに真面目な出展企業ではないんですよ。文化祭なんだから、ふざける奴がいてもいいんじゃないかと思って。笑
菊井鋏製作所は日本工芸産地博覧会を経験しているので、その経験を踏まえて、いい意味で少し肩の力を抜いて取り組んだと思っています。

僕自身は実行委員長だったので自社のブースはほったらかしていたんですけど、ええ塩梅のゆるさで若手が頑張ってくれたんです。大人になってからも本気でふざけることは大事だし、そういう機会って仕事の中でなかなか得られないので、すごくよい経験を積めました。

―若い社員さんにとってもいい機会ですね。
その後の変化とか、もの文の後で得られたものはありますか?

やっぱりいちばんよかったのは、ファクトリズムと泉州オープンファクトリーを和歌山に招いてのツアーを開催できたことですね。勢古さんも来てくれましたけど、あれは悲願が叶いました。

数年前からいろんな地域で地域一体型オープンファクトリーが盛り上がっているのを見ていて、うらやましいなと思っていたんです。だから、他地域との交流が今できていることが、めちゃくちゃ嬉しいです。もの文がなければファクトリズムと和歌山で何かしましょうなんてあり得なかったことで、このきっかけを作ったというのはすごく意味のあることだったと思います。
もの文に参加している事業者どうしも、いまではすごく仲が深まってるんです。でも、実は去年までほとんどお互いを知らなかった。たった一年で固い絆ができたというか、仲間意識が高まりましたね。

―利害関係がない異業種だからこそ意味のある絆ができるってことですね。

そういうこと。
もの文の参加事業者さんと飲みに行ったときに、ものづくり×カフェをしたいよねって話したり。他にも、異業種の若手職人が集う「ものづくり社員寮」を作れたらおもいろいよね、とか。アホなこと言うてるでしょ?笑
そういうのって、すぐに実現は難しいかもしれないけど、少なくともこうやって夢を語れるような関係性になれたことが大事だなと実感しています。5年とか10年とか経って、和歌山が今以上に「ものづくりの産地」ってなったときに、ここで語っている夢がこういう形で実現できたねって振り返っている未来があるかもしれません。

―夢を語り合える関係性が生まれたというのがいいですね。

今後続いていくことで、もっとたくさんの和歌山の事業者が夢を語れる場に育っていけばいいなと思っています。若い人がきて、産地が盛り上がって・・・なんて、そこからだと思うんですね。まずは僕らが夢を語れることが一番大事じゃないかなと思っています。

―さて、今年のもの文では、菊井鋏製作所がどんなことをするのか期待しちゃいます。どんなことを魅せようと考えていますか?

んー。どうしましょうかねえ。鉄板ネタがそろそろ飽きられるころじゃないかと不安です。笑
若い子に今年どうする?出す?と聞いてみたらやりましょうと言ってくれているし、ベースはあるので、あとはいかに遊び心を加えられるかでしょうね。

―菊井鋏製作所として、今後挑戦したいことはありますか?

BtoBの会社なので、今まで一般の人に知ってもらおうなんて考えずにやってきたし、工場に来てもらって何になるんやろうって思っていました。けど最近は考えが変わってきています。
僕らのエンドユーザーって、実は美容師さんじゃなくて、美容室で髪を切るお客さんなんですよね。つまり勢古さんも、ウチにとってはエンドユーザーさん。
僕らの仕事は、みんなが美容室にいって、髪を切った後に自分らしくなれるお手伝いだと最近は考えています。そのためには誰よりも美容師さんが自分らしく働けることが大切だから、いちばん大事な道具を通じてお手伝いする。
もの文のような活動を通じて、菊井鋏製作所の技術すごいな!だけでなく、このハサミを使っている美容師さんすごいな、って思ってもらえるのがゴールだと思っています。

―なるほど!そう考えると、菊井さんの商品がとても身近に感じられます。
次回のもの文も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

有限会社菊井鋏製作所
所在地 和歌山市小雑賀2丁目2番31号
会社HP https://www.scissors.co.jp

聞き手
勢古遥 和歌山ものづくり文化祭 事務局
和歌山県企業振興課。2023年入庁。大学は国際学部だったため商工に関しては全くの無知。事務局長・吉田先輩の弟子として日々勉強中。一応英語喋れる。休日は寝てるかスポーツ観戦。

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