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創作物(詩)

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2023年11月の記事一覧

【詩】鉢

  鉢

金魚を監禁していることが
人生の楽しみのすべてのような
顔を晒して路上を歩く
通りすがりの小人たちが
車椅子の上を飛び跳ねながら
面白おかしく蹂躙している、
老体を

小綺麗な広告産業からつまみ出されて食うに困って
やむを得ず金魚を貪っている
好きな数字が「1888」であるような顔を
晒して路上を歩いている
シワにまみれた小人たちが
三輪車を捨てて車椅子に
乗り換えながら蹂躙している、

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【詩】塩夏

  塩を揉み込んだ夏の日差しが
  勃起しながら遍在するのを
  黙って見過ごそう

干からびている湯船の底へと
次亜塩素酸ナトリウム
したたらせているチューブの先で
夏の気配が淀んでいる

 裸の背中をマッチで炙って
 太陽の下 さらし者にして
 火傷が日焼けに覆われ陵辱
 されるがままにまかせよう

見知らぬ誰かとサウナでおしゃべり
している気分を味わうつもりで
火事場で拾ったカセットテープを

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【詩】廃屋

  廃屋

盛大に発表されていく廃屋の数を水増しするための年月が
まるで歴史的な日々のように
生存圏を通過する

まるで
情緒であるかのような
廃れ具合の多数性

年月が
真新しい廃屋の奥の
ゴキブリ捕りを腐らせようと
ささやかな善意を振りまいている

新しい自由

新しい害虫

個性豊かな国民たちに
あてがうための廃屋以外
歴史の重みを語るものなど何一つない
新しい国

【詩】日向

  日向

灰色のカーテンの向こう側には窓などないと誰もが薄々気づいている密室で
通気口が
夕方の外気を
陽光がわりに差し入れる

風通しの良すぎる密室

自分のことを広大な空だと思い込んでいる天井

「歩行者」たちは
誰にも見せたことのない美しい靴底を
まるで大地であるかのような
床にへばりつけている

饒舌な外気

せめてもの夕方らしさ

まがい物の陽光は
灰色に染まることを
何もかもに強いて

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【詩】気候

  気候

よしんば人々を粉々にしていたからといって
俺が善良であることに変わりはない
わ行をうつむきながら復唱している釣り人から
せしめとった金で買ったゴム底の郵便船を
画鋲で穴だらけにしてから水に浮かべて客を呼んだからといって
少しも傷つかないことの最たるものこそが
この俺の善良さ
砂を弾いていく蜘蛛の踏みにじってきたむき出しのアスファルトを
思いながら踏みにじっていく俺の靴底の蜘蛛たちが

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【詩】死ね

 1
汗水たらして働いたかいがあって立派な棺桶を買えたらしく
隣人が
良い気分で死んでいる
私のような良い隣人に恵まれたことを
感謝しても良いでしょう、と
胡散臭い口を広げて
吐き出した日々を思い出す
まるで「生前」であるかのような「思い出」であるかのような
遺書のような詩情を漂わせている隣人の棺桶に
蹂躙されてきた何者かの覗き趣味を正当化してくれそうな
花のような穴を
あげるかのように
空けよう

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