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『夜と霧』を読んだら心が少し強くなったかもしれない #読書感想文

■ 概要

・ユダヤ人の心理学者である筆者がアウシュビッツ強制収容所に収容された期間の実体験を記した本
・ごく普通の被収容者としての体験を科学的知見に基づく分析で理解できる形にすることを目的としている
・ 死と隣り合わせの極限の状態において人間がどのような心理状況に至るのがが豊かな文章表現から感じ取ることができる

■ 要約

生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることに他ならないというメッセージが込められている。

よって苦しむことにも意味があり人生の一部であると筆者は捉えている。

そして、極限の状態で苦しむ人間の心理段階が、3つの段階に分けて記されている。

1.  施設に収容される段階
 ・きっと最後には助かるだろうという "恩赦妄想" に取り憑かれ、その妄想が崩れ去る
 ・やけくそになって乗り切ろうとするユーモアと待ち受けるのものが死であっても未来が気になる好奇心という2つの感情が湧いてくる
 ・人間はどこまでも慣れる生き物であるということを悟る
2. 収容生活そのものの段階
 ・不条理への憤怒が原因となる心の痛みが麻痺してくる
 ・生き延びることのみが生きる唯一の目的になる
 ・ただ "政治" と "宗教" への関心は残り続けた
 ・極限状態においても、精神的な自由だけは保ち他社への愛を祈る人間は存在する
3. 出所ないし解放の段階
 ・自由を手にしても、すぐに自由であることに対する実感は得られない
 ・自分たちが受けた不正を、不正でもって世に叩きつけようとする未成熟な人間の存在
 ・自分たちの極限が他者に理解されないという失意と不満を味わう

■ 感想

 いやはや「面白そうだし小説感覚で読もう!」くらいの感覚で割とライトにアマゾンでポチった本だったんだけど、案の定根源的なテーマが含まれていて、結局考えさせられる運命にありましたね笑

 うん、なんとなく予感はしていたんだけどな。
 いろいろな意味で重い本でした。全然ライトじゃなかった。

 さらっとテーマである「生きるとは」という問いに触れておきますが、正直自分なりに答えは出ているので改めて悩んだり何かを感じたりするようなことはなかったです。

 しかしながら、ここまで極限状態を生きた人間が叩き出したアンサーを聞くことで、自分の現実を生きていく上でのさらなるエネルギーを得られたことは事実です。

 自分の人生なんてこの人に比べればまだまだ甘いな、もう少し踏ん張っても自分の心は折れたりしない。そう思って生きていくことが本書の有用な活用方法なのではないでしょうか。

 続いて読み進めて僕的に面白かった部分について触れていこうと思っております。主に心に引っかかったポイントは2つあります。

1. 好奇心は根源的な欲求だ

 やはり1番「なるほどな」となったポイントは、極限の状態でも人間は好奇心を持ち続けると言う部分でしょうか。

 もし自分が死んだらどうなるのか。頭蓋骨が割れたらどうなるのか。体を燃やされたらどう感じるのか。現実世界では起こり得ないようなことが収容所では起こるわけですが、そんな極限状態でも残るくらい好奇心というのは強い欲求であるという認識が僕の中で強まりました。

 自分はかなり好奇心旺盛な部類でいろいろ外界の刺激からインスピレーションが湧くわけですが、これは人間の根源的な欲求であるんだなあという証左が得られましたので、引き続き存分に好奇心を発揮していこうと思っている所存です。

2. どんな集団においても善意と悪意が混在する

 これも個人的には非常に共感しました。本の中の事例で言うと、被収容者の中にも残酷な人間はいるし、監視側の人間にも心根に優しさを持っている人間がいると言う事です。

 これは集団にもいえますが、個人単位でも言えるのでないでしょうか。普段は情熱的に物事を進めていても、ストレスがかかると急に堕落したり粗野になってしまう経験が自分にもあります…。まあ、自分がまともな人間だと一応信じているので社会的モラルに反するようなことをこの年齢ではしませんが笑 

■ 最後に

 書いていて思いましたが、自分は割と素の人間の状態に近いのではないかと思い始めました笑 ここに書いてある様々な感情について、その程度の差はあれど日常の中で割と感じるものが多い気がします。

 つまり、何か感情が抑えきれなくなったときにこの本を読んで「静まれ私、この感情は科学的に証明できるものであるため解決可能なのだ。ほらこの本にも書いてある通り…」みたいな取扱説明書的な使い方ができるのかもしれないなーと思いました。そう考えると小説的価値も高く素敵な本ですね。

 感じたことはこんなもんでしょうか。読みながら「うわあ…」と心を痛めながら読み進みましたが、目新しい感情は読んでいてさほど多くなかった気もします。

 ショーシャンクの空だったり、グリーンマイルだったりこれ系の映画はそこそこに観たことがあるからかもしれませんね。裏を返して言えば、これらの名作と肩を並べるほどには辛い時の身の振り方についてかなり網羅的に書かれている本として非常に有能です。

 皆さんも一つお手元にとってみてはいかがでしょうか。
 いつかあなたの身を助ける一冊になるかもしれません。

 

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