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【危険なナレーター募集】あなたは応募していない?

フリーランスナレーターの有野優樹(ありのひろき)と申します。今回は“クラウドソーシング系の宅録”をメインに書いていきます。

ネットにはたくさんのお仕事募集がありますが、正直、プロのお仕事は少ないと感じています。理由は“安すぎる”から。

安さだけが問題ではないです。プロの相場感、やりとりに慣れてください。そうしなければ、自分の価値と、声のお仕事の価値を下げることになってしまいます。

フリーランスで声のお仕事を探していくための知識を約束しますので、約5000文字を読むだけのお時間をください。

【ネット募集】

クラウドソーシング系でご依頼を受けたことはほとんどありません。なので、今回の記事を書くにあたり検索をしてみました。すると、報酬が4桁が当たり前。へたするとお試しという名目で3桁の案件もありました。

オーディション情報が、学校や養成所に通っていなくても得られる時代。それ自体はいいことです。しかし、“プロを目指すなら”受けないことをお勧めします。

なぜか?ギャランティー設定と、お仕事形態がおかしいから。

では、なにがだめで、なにがいいのか?どんな募集に気をつけたほうがいいのか?

どうやって新しいお仕事を獲得したらいいのか?怪しい案件の見分け方は?経験談も踏まえてお話ししていきます。

【安価な案件は経験になりにくい】

動画広告、Web動画、企業VPなど、枠を持たないナレーション案件の募集がかなり増えてきました。(枠を持たないとはテレビなどの決まった枠で放送されるコンテンツのことを指します)

しかし、お仕事がたくさんあるのはいいことですが、クラウドソーシング系で募集されている案件は安価なものが多いです。新人だからという問題ではなく、そもそもの設定がおかしい。

まずはド新人ナレーターの相場感をお伝えします。(企業VP、商品・サービス紹介のナレーション)


【使用目的】

・条件

動画尺 3分以下
買取り
ホームページや公式YouTubeの掲載

25.000〜30.000円

おそらく相場より少ないくらいですが、ピヨピヨの新人で訓練をそれなりに積んできた者であれば、これくらいかと思います。声優(ランク制度)やもう少し詳しいことはこちらへ。


クラウドソーシング系のナレーション案件がどれだけ安価かご理解頂けたかと思います。

「安価でやってることを下に見てるのか!」と言われてしまうこともあるのですが、感情論で言っているのではなく“価格設定の事実”の話をしています。

「成長できている」「安いけど(そのYouTubeチャンネルなどを)応援したいから」など価格度外視な基準で見ているのであればいいんです。ですが、お仕事でやっていくことを考えるのであれば、お人好しでは生きていけません。

・その案件は堂々と公開できていますか?

・そのクライアント様からお仕事を受けたという方はいますか?


胸を張って「安かったですが経験になりました!」と話すことはできるでしょうか?質、読みのレベル、成長になるディレクションを受けられたかどうか、相場感のギャランティー、全てを含みます。

何度かやらせていただくうちに単価を上げてもらった、応援したくなった、人脈ができた、挙げようと思えば自分にとってのメリットが出てくるかと思いますが、単価も数十円〜数百円上がっただけ(どれだけ上がったかが問題ではないですが)でやはり、値段も質とやり取りの仕方もプロではありません。

声のお仕事をやる理由は“人脈やフォロワー数を増やしたり、いいねをもらいたいからなんでしょうか?

影響力(インフルエンサー)的なことを目指しているのであれば話は別です。求められる能力が変わってくるので。ですがどっちにしても、前提(安さ)に疑問をもたないことがおかしいのです。

『一本も経験がないより、実績があった方が‥。』


僕も一本もお仕事経験がないとき、一本をやらせて頂いたことをきっかけにとある制作会社様から不定期ではありますが、案件のご相談を頂けるようになりました。気持ちはわかります。ですが、それは安価なお仕事しか受けられない“自分の腕がないこと”と知識不足なのが問題なのです。


偉そうなことを言っているというコメント、ご感想を承知でお話しします。でもそうしないと“安価に加担する文化”はなくならないので。

なので「いや!それでもやるんだ!」と言う方は構いません。有野のこの記事はおかしいと言って、自分が正しいと思うことを発信してください。

しっかりとした訓練を積み、ボイスサンプルを作り営業をする。遠回りのようですが、目の前の案件につられて業界が安くなる未来に加担してしまうよりもよっぽどいいです。

「練習はしんどい、営業はめんどくさい。だから早くお仕事をやりたい‥。」

いつまでもお金を払ってレッスンする姿勢ではダメ。養成所巡りをして終わってしまいます。ですが、鼻濁音や無声音(無声化)、アクセント、腹式呼吸など基礎を知らない、知っているけどできないという例が多すぎることも事実です。「できなくてもお仕事をしているんだからいいじゃないか!」と、いわれたこともあり、なんとも歯痒い気持ちですが。


【怪しい案件の見極め方】

・詳細を述べず(又、質問に答えないで)とりあえず契約にサインを求めてくる

・今回は安いですがうまくいけば継続案件、単価アップのチャンスもありますという文言

・未経験でも可、遊び感覚でご応募くださいとラフさをアピールする


案件のご相談は、担当者様のお名前から始まり

『初めまして〇〇と申します。こちらのボイスサンプルを聞いて、こういう案件のご相談、ご依頼をさせていただきたくご連絡致しました。』

使用目的、ギャランティー、スタジオ収録の日程(宅録の場合納期)、ギャランティーの予算が合わない場合は応相談などの備考、と続きます。

これまであり得ない話をしすぎてしっかりしている風に聞こえていますが、これがお仕事を依頼するときの適当な文章だと思います。逆にいえば、これがなければ怪しい。

今回は安いですが継続案件も視野に〜と、安さを誤魔化すような守りの文言を言われたことは一度もありませんし、今回は予算が少なくて〜という文言を言っているところは、予算がある時を見たことがありません。

「有名作品に携わっていました!」と謳っていたり、「某大物声優をキャスティング、とある作品の音響監督を務めた!」など、ワクワクするような文言を出されているのですが、なぜ隠すのでしょうか。隠さないといけない理由があるのでしょうか。そのメディアを売りたいのであれば、名前を出した方がいいですよね。


と口だけで言っててもしょうがないので、試しにいくつかのオーディションを実際に受けにいってみました。結果から言うと

「あなたの声はいい声です!才能がありますが、まだこちらの思うようなレベルには達していないのでレッスンを受けてください。つきましては〇〇万円を〜(ボイスサンプル収録費、レッスン費、プロデュース費など)」

その文言、あなた以外にも送ってます。

喋るのは普段からしていることなので、楽そうに見えるかもしれません。「喋っているだけでお金をもらえていいですね」と言われたこともありましたが、喋っているだけでいいのであれば、なぜ学校や養成期間があるのでしょうか(養成所ビジネス感が強くなってしまっているのも現状です)

喋るだけで良いならばわざわざ役者やナレーターに頼まなくていいんです。自分達で喋ればいい。プロの方はサラッとやってのけてしまうので、自分にもできそうと勘違いしてしまいそうになりますが、そのなかに凄まじい技術が山ほどあります。

プロはそれを見せない。だから、凄いんです。これに気付けるのもプロしかいない。

くれぐれも、クラウドソーシング全部が全部怪しいと言っているわけではありませんよ。Twitterや、その他のサイトで応募されている案件でしっかりとしたものも多くありますし一部の話です。

YouTubeのグレーな動画や、既存の作品の(収益化されている)パロディ動画のようなもの、目の前の数千円に目が眩み、自分の声が使われたということに舞い上がり、視野を狭ばめないようにしてください。

ご依頼が来たとき、応募するとき「これは大丈夫かどうか?」の判断が自分でできないのであれば、相談をしたり、日本俳優連合さんに問い合わせてみたり、レッスンを受けているのであれば先生に聞いてみてください。

わからないなら、自分だけで決めない。これは絶対です。


【どこへ営業したらいいの?】


1.動画制作会社様

2.異業種

営業をかけるのは時間もかかり骨の折れる作業ですが、経験上スタジオ収録に呼んでいただけたり、実績公開をさせていただける案件が多かったので時間があるのであればおススメです。

SNSを充実させておくのも一つの営業方法。X(旧Twitter)の固定ポスト(ツイート)にボイスサンプルや、ホームページサイトを載せておきましょう。声優、ナレーターと言っているのに「ボイスサンプルや実績はどこから見ればいいの?」と思う方もチラホラ。

リンクイットにまとめてる方もいらっしゃいますが、たまにリンク切れのURLを貼ってる方もいるので、定期的に繋ぎ直しておいた方がいいですね。

『こんなナレーションやお芝居が得意です!』

と言ってまわるのもいいと思います。実績のないうちは、アピールできるものがあんまりないので、ボイスサンプルとできることを売りにしていきます。

結局、売りは自分で見つけるしかないんですよ。あの人にはアレがあって、自分にはない。武器の見つけ方もわからないから〜と言い訳をしていたってしょうがない。

僕はフリーになったとき最初にGoogleメールアドレスと、YouTubeアカウントを作りました。ボイスサンプルの掲載と、お仕事の問い合わせ口を作るためです。

「この人の声いい!お仕事を頼みたい!」と思っていただけたときに『この人にどう連絡をとったらいいの?』と思われてしまうと、せっかくのチャンスを逃してしまうことにもなります。

必ず、わかりやすい窓口を用意しておきましょう。

だから、大変なんです。研究して、ボイスサンプルを作って消してを繰り返し、何度もやってようやくお仕事につながる。そうやって使い物になる声ができていくんです。 


その技術、読みを体得するために養成所や学校に通って、金と時間をかけて勉強してきました。それを数百円、数千円で買い取ろうとすることが、良い仕事なんでしょうか?ぼくは、能力の不当な安買いと呼んでいます。

初めてギャランティーをもらったときには本当に嬉しかったです。どれも嬉しいものばかりですが、最初の喜びは格別でした。お金をいただく読みというのは知識と訓練が必要なんです。「すぐできますよ!」という言葉に惑わされずにちゃんと調べましょう。


【安価案件に応募しないこと】

「このくらいならいいかも‥。安いけど我慢してやろう‥。よくわからない媒体だけど依頼を断るのは申し訳ないから‥。」

ファスト映画にナレーションを当てた20代男性ナレーターが賠償金を払うという事件がありました。この男性は、「友達からの依頼だったから気軽にやった」と仰っていましたね。

安受けを繰り返していくと、安受けを繰り返す日々になりますし、このようなことに巻き込まれる危険性もあります。クライアント様のホームページが出てこなかったら少し用心したほうがいいかもしれませんね。


【相場感を請求できるほどの力をつける】


『これが相場だから!』と主張するのは当たり前ですが、請求できるほどのスキルがあることが前提になります。自分の価値を落とさないためにも“価格”を考えなくてはいけません。価格の前にしっかりと技術と腕を身につけること。

猪鹿蝶様のマネージャー様が仰られていたことなのですが“下がった価値をまた上げるのはすごく大変”なんです。一度数百円、数千円で受けてしまうとそこから“プロの価格”を目指すのは難しいでしょう。

宅録でチャンスが増えたことは良い事だと思います。ただ、始める敷居が低くなってしまったのも事実。声優、ナレーターというお仕事はとても楽しく、素敵なお仕事。ラフさに惑わされることなくしっかりと事前チェックを行ましょう。


ナレーター
有野優樹(ありのひろき)

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