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特別研究員コラム⑨:フィードバックは薬?毒?

 皆さん、こんにちは!いよいよ新年度が始まりましたね!昨年度を振り返り、フィードバックをしたり、されたりする時期でもありますよね。企業人事として働く中で、私は今まで様々な上司と部下のフィードバックの場面に立ち会ってきました。今回は、その中で、少し気になっていることを書いてみたいと思います。

9割はできている!のに、フィードバックされるのは、できていない1割の事ばかり、という不思議な現象

9 × 1 = 9          9 × 6 = 55
9 × 2 = 18         9 × 7 = 63
9 × 3 = 27         9 × 8 = 72
9 × 4 = 36         9 × 9 = 81
9 × 5 = 45

 もし皆さんが、部下から、もしくは同僚から、上記のような資料を渡されたら、どんなフィードバックをされますか?私が現場でよく目撃するのは、「お~い、9×6が間違ってるよ~」というフィードバックです。確かに、9×6が間違っています。けれども、正解している他の8つについては何も触れられていません。以前、VCラボ所長は「ポジティビティ比3:1」の記事のなかでネガティビティ・バイアスに触れていました。

 悲しいかな人間は、特に意識しないと、どうしてもネガティブなことに注目してしまう仕組みになっているんですね。
 しかし、自分がこのフィードバックを受けたら、次の成長につなげられるか?と想像してみると、できていないことだけ指摘されて嫌な気分になるとともに、何故間違えたか分からないため改善できない、という姿が思い浮かんできます。

フィードバックは何のためにするものなのか?

 フィードバックとは、相手の行動に対して改善点や評価を伝えることです。そのため、出来ていないことを評価し、伝えることは決して間違ったフィードバックではありません。しかしながら、なぜ出来ないのか分からないままであったり、できていることを肯定される機会のないフィードバックでは、かえって受けてのやる気を削いでしまうこともありますよね。せっかく部下を成長させるためにフィードバックしても、これでは上司にとっても部下にとっても毒にしかなりません。
 こんなことを考えている時に、「成長」につながるフィードバックがフィードバックする目的なんだよなと、ふと、当たり前のことを自分の思考の中で蔑ろにしていることに気が付きました。一般的に上司は部下よりも仕事ができるため、部下のできていない部分が気になってしまうという現象も大変理解できる一方で、出来ていることにも目を向けながら、部下の成長につながるフィードバックをするにはどうしたらよいのだろう、と考える時間が増えました。

今の時代でも色あせない、山本五十六流マネージメント

 そんなときにXを眺めていると、かの有名な山本五十六さんの言葉が表示されました。管理職の皆さんはご存じの方も多いと思います。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」

山本 五十六BOT

 OJTで部下と一緒に、説明しながら仕事をする。できるようになったら、一緒に喜び褒める。徐々に一人でもできるように手を引いていき、口を出さず見守る。できなかったところだけ、もう一度同じサイクルでサポートする。五十六さんの言葉から、頭の中に思い浮かんでくるシーンがあります。私が10年以上前に上司から受けたトレーニングシーンです。今まで私が自信を持てず、取り組めなかった大きな課題に、ほんの少しでも取り組む姿勢を見せると、満面の笑みで「素晴らしいっ!」と言って、拍手をしてくれた憧れの上司です。既に成人した大人の私でも、自分の成長を自分自身で喜ぶ以上に、喜んでくれる上司の存在は、とても大きなものでした。そしてその時、「案外自分が成長しているって、自分では気が付けないものだな」と思いました。
 そのシーンを思い出しながら、フィードバックはなんのためにするのか?もう一度今の自分に問いかけ、私の出した結論は、一人一人の部下の成長に合わせて、共に成長を分かち喜びながら、共に歩むということです。

現代版 五十六マネージメント

 先ほどもお伝えした通り、人間は「ネガティブな情報」に敏感に反応するようにできています。そして、「ポジティブな情報」は、ネガティブの3倍意識する必要がありましたね。できない事ばかり指摘するよりも、出来ていることが必ずあって、それを見ていてくれている人がいると感じるだけでも、上司に対して部下は信頼感を高めていきます。まさに五十六さんの云うところの「褒めてやらねば人は育たぬ」ですよね!
 五十六さんは、育成方法の具体的方法として、「やって見せたり、話し合って耳を傾け、任せ、承認する」とも云っています。これは、上司として、指示命令を出すことを優先するのではなく、部下の立場に立ち、部下がどんなサポートを必要としているのか耳を傾けるリーダーシップスタイルです。私の憧れの上司は、ご自身が主宰する管理職研修にオブザーバーとして私を参加させてくれました。そして、初めて自分で研修を担当した時、頭で想像していた手順が上手くこなせず、落ち込んでいた帰りの駅で、偶然会うふりをして「よく頑張りましたね」と笑顔で声をかけてくれました。きっと待っていてくれたんだと、今になって気が付きます。「どうでしたか、今日は?」と質問され、できなかったことばかり口にする私に、「それだけたくさん学んだんだったら、よかったじゃないですか。明日はどうしますか?」と聞いてくれました。間違った部下を叱るのではなく、まずは気づきがあったか話を聴きながら確認し、次に生かすことができるレベルまで整理されているのか話をさせる、そして、もう一度トライさせて任せる、という上司に育ててもらったのだな、と感謝しています。なぜなら、自分が管理職となった今、部下に対して、「間違ってもいいんだよ!初めてやるんだから。次はどうしようか?」と言葉をかけ、話を聴き、ともに考える姿勢を示すことが、お互いにとってとても大事だということを、身をもって知っているからです。

薬になるフィードバック

 せっかくなので、上司にとっても部下にとっても薬となるフィードバックにしたいですよね。自分が簡単にできてしまうことを他人ができないと、何でできないの?!と非難してしまいがちですが、出来ていることも沢山あることに目を向け、どんなサポートを提供するともっとできるようになるのか、部下の成長につながるフィードバックを部下と一緒に考えながら、共に成長する。かつて憧れの上司が見せてくれた優しい背中を、今も追い続けている自分に気が付き、改めて、良い上司と良いフィードバックとの出会いに感謝する日々です。


新年度スタート!の握手♪

特別研究員プロフィール
黒木 貴美子  (クロキ キミコ) 
ビジョン・クラフティング研究所 特別研究員
某大学院臨床心理学研究科、祝卒業!
精神保健福祉士