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青いセロファンをかけたかのような記憶

梅雨もそろそろ明けると昨日の天気予報が告げていた。
梅雨が明けたらもちろん夏だ。

残念ながら夏はあまり好きではない。
全身がしっとりし、じっとりし、そしてゆでだこのようになる。
とにかく暑さに弱いのだ。
弱すぎるといっていい。
それ自体冷たいはずのかき氷やプールも、どういうわけかひたすら暑い記憶としてしか残っていない。

夏が好き!という声はよく聞く。
ようやく夏! 待ってました夏!
本当に夏を愛していることが伝わってくる、心の奥底からの声々だ。
夏が開放的だからか、そんな声はかなり大きく響いて聞こえてくる。
ひょっとすると夏が好きではない自分が間違っているのかもしれない。
僕は代わりに、冬が好き…と小さな声で言ってみる。

夏の思い出を挙げるなら、多くの人と同じく「海」だ。
しかし、僕にとって海は、溺れて死にかけた場所であり、ネズミ花火がこちらに跳ねて火傷を負った場所なのだ。
高校の頃、肌が白いのが嫌で、夏休み中に生まれ変わってやろうと日焼けオイルを塗りたくり、漁港の傍の小さな砂浜で漁師に睨まれながら何日も寝転がって焼いた場所でもある。
それでも結局、誰よりも白い2学期を迎えた。
夏=海でも、陽気に繰り出そうという気にはなれそうもない。
沖縄の海を眺めればちょっとは変わるのだろうか。

唯一、七夕だけが涼しい記憶。

小学2年のあの日、教室で行った七夕行事の記憶についてこれまで何度も言語化を試みてきた。
しかしうまくいかない。
僕の中では教室全体にまるで青いセロファンをかけたかのような記憶なのだが、その空気感をどうにも文字にすることができないのだ。

でももし言語化できたら、僕の中からすっと出ていってしまいそう。
しばらくはこのまま記憶の中に留め、そっと持っておこう。
この青い記憶がなければ僕は暑い夏を乗り切れない。

(2023/7/13記)

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