おでんに温もりを感じるのは、心の原風景に触れるからかもしれない
冬の風物詩、おでん。
これが食卓に上ると冬を感じずにはいられない。
温かいメニューって他にもたくさんあるのに、なぜか冬らしさ断トツ。
しみじみとしたダシの旨さと控えめな甘さに、ほっこりホルモンが分泌されるのかもしれない。
そんなホルモンがあったとしてだけど。
おでんは「お田」と書き、室町時代には豆腐を焼いた〈焼き田楽〉のことを指したが、後にダシで煮込む〈煮込み田楽〉が江戸で人気となった。
関西では、この関東の煮込み田楽をそれまでのおでん(焼き田楽)と区別するために「関東煮(かんとだき)」と呼ぶ。
東京おでん
〈お多幸 新宿店〉には昔よく行った。
ずいぶん初期の投稿にもこの店は登場する。
さすが東京、真っ茶色…
初めて見たときはわが目を疑い、こんな辛そうなものが食べられるわけないと拒絶しそうになった。
食べてみたらそこまででもないのだけど。
©ことりっぷ
東京おでんには、関西にないちくわぶ、サメ軟骨の練り物・すじがある。
僕は偏食しないが、このちくわぶだけはちょっと苦手。
静岡おでん
東海地方はおでんを駄菓子屋で食べる風習がある。
タネは一つずつ串に刺し、そして東京に負けず劣らずダシは真っ黒だ。
サバやイワシの練り物・黒はんぺんは静岡おでんには欠かせない。
そしてできあがりに青のりと魚粉をかけるのも特徴。
見た目とは裏腹にまろやかな味だから、青のりや魚粉でしっかり系の味を足すのだろう。
静岡おでんが軒を並べる〈青葉おでん街〉。
おでんのはしご、楽しくて旨い。
大阪おでん
関西人にとってやはりおでんといえば、大阪のダシ香る関東煮。
日本一古いおでん屋とされる、道頓堀〈たこ梅 本店〉へ。
創業は弘化元(1844)年というから、龍馬も食べたかもしれない。
ほら、提灯に「関東煮」の文字が。
入店と同時に勧められる名物〈たこの甘露煮〉。
噛むたび染み出すタコの旨み。
関西の薄味おでん、ダシの色が東とはまるで違う。
素材の味を引きだす絶妙なダシが旨すぎて、いつも飲み干してしまう。
大阪おでんにはコロ(クジラの皮)、サエズリ(クジラの舌)が入るほか、がんもどきは関西では飛竜頭(ひろうす)と呼ぶ。
おっと、最大の特徴を忘れていた。
それは「笑い」だ。
このことも初期の投稿に書いている。
***
おでんは全国各地でそれぞれの味を取り込みながら独自に進化を遂げた。
以前紹介した姫路おでんもそう。
危うく画一的なコンビニおでんがご当地おでんを席巻するところだったが、すんでのところで絶えたのが嬉しい。
おでんに温もりを感じるのは、心の原風景に触れるからかもしれない。
(2021/11/30記)
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