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Childish Gambino 「Redbone」 と "woke"

いわゆる洋楽好き、あるいは洋画好きであれば一度は耳にしたことがあるであろう Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)のPファンクチューン「Redbone」(2016)。

Jordan Peele(ジョーダン・ピール)の初監督映画『Get Out(ゲット・アウト)』(2017) のオープニングシーンにも使われていたこの曲。

サビの歌詞を今一度見てみたい。

But stay woke
Ni**as creepin'
They gon' find you
Gon' catch you sleepin'
Now stay woke
Ni**as creepin'
Now don't you close your eyes

Redbone. Childish Gambino, Gary Mudbone Cooper, George Clinton, Bootsy Collins, Ludwig Göransson. 2016-11-17

「woke でいろ
あいつらが忍び寄る
お前を見つけにくる
寝ているときに捕まえにくる
今こそ woke でいろ
あいつらが忍び寄る
決して目を閉じるな」

"woke"(ウォーク)。日本語訳が難しい単語だが、私の好きな訳は「意識高い系」。

この言葉は元来、1940年代のアメリカのブラック・コミュニティから生まれ、単に "being politically conscious and aware(政治的に意識的でいること)" を意味していた。もっと具体的に言えば、"the politics of race, class, gender, systemic racism, ways that society is stratified and not equal(人種、階級、ジェンダー、制度的レイシズム、社会を階層的で非平等にしている様式)" に対して意識でいることを指す。

それが現在では、2010年代以降のアイデンティティ・ポリティクスや環境問題と結びつき、"too liberal or progressive(いきすぎたリベラルや革新主義)" な人たち、あるいはそういったイデオロギーを指す言葉になっている。

昨年の2023年には、"woke" を標的とした政治スローガンが米右翼から打ち出されたり、トランプ元大統領が "half the people can’t even define it(半分の人が("woke"を)定義すらできていない)" と批判し、"woke" のトレンド化と政治利用は過去最もヒートアップしている。

一方で、"wokeness(ウォークでいること)" や "wokeism(ウォーク主義)" といった派生語も生まれてきている今、"woke" を疑問視する声や、その形骸化を指摘する声も増えている。The New York Times(ニューヨーク・タイムズ誌)が昨年公開したポッドキャストにて、パーソナリティの一人がこんな持論を述べている。

I do think because of the pandemic, you were able to get the attention of legions of middle-of-the-road suburbanites whose kids were out of school, struggling to deal with the pandemic

The Woke Burnout Is Real - and Politics Is Catching Up. The New York Times. 2023-09-07.

「私が思うに、パンデミックのせいで、("woke" を展開することによって)学校を休んでいる子どもを抱え、パンデミックの対処に悩んでいる無数の中道派の注意を引くことができた」

たしかに個人的な体感としては、パンデミック以降に "woke" の「トレンド化」は急速に進んだように感じる。それは、グローバル規模の陰謀論とヘイトスピーチの急増と重なる。つまり、左翼から生まれた「トレンド」が "woke" で、右翼から生まれた「トレンド」が陰謀論、という見方もできるのではないだろうか。

"woke" が成し遂げたことは何だろうか。いつの時代も、カウンター・カルチャーの役割は世の中を「掻き乱すこと」ではあるが、"woke" の火が消えようとしている今、結果として何か残ったのだろうか。2024年、トランプ元大統領の再選はかなり現実味を帯びている。

話は最初に戻る。Childish Gambino(俳優名 Donald Glover(ドナルド・グローバー))は、昨年の2023年に公開されたコメディホラーシリーズ『Swarm(キラー・ビー)』をプロデュースしている。同シリーズは、明らかに Beyoncé(ビヨンセ)のパロディと思われるスーパースターを狂信的に応援するファンの女性が、摩訶不思議な事件に巻き込まれているという話で、随所で「熱狂的で有害なファンダム」が批判されている。

Donald Glover 自身も熱狂的な Beyoncé のファンダムの一部であることを最新のインタビューで認めていながら(ソースを見つけられませんでした)こういった作品を手がけたということは、彼なりの究極の自己批判であるとも捉えられる。

2023年は Beyoncé と Taylor Swift(テイラー・スウィフト)の年だったが、どちらも熱狂的なファンダムを抱えている(Beyhive(ビーハイブ)と Swifties(スウィフティーズ))。そしてそのどちらにも "woke" の土壌がある。かつて「"woke" でいろ」と歌った Childish Gambino が今度は、その集団を外側から客観視して警鐘を鳴らしている。

"woke" とは一体なんだったのか、いまだにわからない。少なくともリベラルは、"woke" とは別の道を早く探すべきな気がする。




その他 参考文献

What does the word 'woke' really mean, and where does it come from?. Domenico Montanaro. NPR. 2023-07-19.
https://www.npr.org/2023/07/19/1188543449/what-does-the-word-woke-really-mean-and-where-does-it-come-from

What Does ‘Woke’ Even Mean? How A Decades-Old Racial Justice Term Became Co-Opted By Politics. Conor Murray. Forbes. 2023-06-06.
https://www.forbes.com/sites/conormurray/2023/06/06/what-does-woke-even-mean-how-a-decades-old-racial-justice-term-became-co-opted-by-politics/?sh=3319a985513d

What does 'woke' mean? How ideology is being used ahead of 2024. USA TODAY. 2023-03-08.
https://www.youtube.com/watch?v=yJ_XqYw8swA

What is 'Woke?'. Bloomberg Television. 2023-06-09
https://www.youtube.com/watch?v=R-RKcZxWyWE



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