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スペイン サンティアゴ巡礼で走った日

サンティアゴ巡礼後半の朝、イラゴ峠のクルス・デ・フェロを通り過ぎ1人で歩いていると、目の前で男女がケンカをしていた。言い争った後、女性は先に歩き出し、男性はその場で地面の砂を蹴ったり、杖をゴルフのスイングのように振り回して憂さ晴らしをしているようだった。
巡礼カップルが痴話喧嘩でもしているのかな と思っていると、いきなり隣を歩いていた中年の女性に「あの人危ないわよ」と男の人を指差して声をかけられた。
私が「大丈夫でしょ」と答えたら「大丈夫なんかじゃないわよ!私と一緒に歩きましょう」と言われ 「え?」と思いながら何故か彼女と一緒に歩くことになった。

男性を通り越して歩き出したが、彼は私たちの後ろから歩く形になり、後ろから近づいて来る度に一緒に歩いている女性は小走りになる。どうやら彼と近くになるのを避けたいみたいだけど、降り道を何度も走らされて正直しんどい。
疲れてきて歩調を弱めると「急いで!」とせかされ「私何やってんだろ…」と思いつつも指示に従って行くと、マンハリンと言う小さな売店兼アルベルゲ(巡礼宿)にたどり着いた。


その場所には喧嘩をしていた相手の女性が居て、私と一緒に歩いていた女性が声をかけ何があったのか聞くと。
相手の男性は全く関係のない人で、ボン・ジョビの曲をラジカセで流しながら歩いていたから注意すると反論されたので喧嘩になったらしい。
彼女曰く、「この道は巡礼の道なのよ!」「それなのにボン・ジョビよ!ボン・ジョビ!」
そこに居た別の女の人も加わり、私以外の女性3人で「それは酷いわね!」とボン・ジョビを流してた男性を糾弾しはじめ、全く理解できない世界の話にポカンとして見ていたら、かの男性が歩いてきた。
彼女達は男性に向かって怒りをぶつけると、男性は「僕が何をしたって言うんだ?」といった話で言い争いを始めた。
あまりの騒ぎにアルベルゲに居た人が出てきて「まだ朝なのに、この騒ぎは何?静かにして」と注意したのを機にそっと彼女達から離れ別行動が出来るように建物の端で隠れた。

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しばらくするとボン・ジョビの彼と怒れる女性達は喧嘩をしながら先に歩いて行ったので、少しの間アルベルゲの動物達と戯れてから私も歩き出した。


しばらく歩くと山の中腹辺りの広場にキッチンカーのカフェがあり、そこでボン・ジョビの彼と女性陣と共に警察官が居るのを見かけた
何があったんだろうと思いながらも、野次馬になるのは嫌なのでその場を立ち去る。

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山を降りきり、モリナセカの町に出て今日のアルベルゲに着くと、なんとそこにはあのボン・ジョビの彼が居た。
彼はたぶん私の顔は覚えていないだろうけど、勇気を出して話しかけてみた。
「警察と一緒に居るのを見たんだけど」と言うと、彼は「あの女性達に顔写真を携帯で撮られたので消して欲しいとお願いしたが、聞き入れてもらえないので警察を呼んだんだ」とのこと。 そして「自分の両親はサウジアラビアの出身だけど今は家族でカナダに住んでいて、巡礼に来ている」と言うことを話ししてくれた。
確かにそう言われると彼はアラブ系の顔をしていた。
その時、もし彼が金髪のコーカソイド系青年で同じ行動をしたとしたら彼女達はどんな反応をしていただろう… と想像すると残念な思いしか浮かばなかった。
そして不幸にも妙な固定観念に囚われた彼女達に出会ってしまった彼が本当にかわいそうで、何と声をかけて良いのかわからず、またボキャブラリーのない私には「お気の毒に」としか言えなかった。


世界中からやって来るサンティアゴ巡礼の道には、巡礼者それぞれの背景があり、それぞれの熱い思いがあり、それぞれの正義がある。
カミーノで小さな世界の縮図を見た気がした、そんな日の思いで。

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