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土台人(トデイン)

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北朝鮮工作員と日本の土台人(とでいん)の暗躍に横山尚子が巻き込まれそうになるサスペンス
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土台人 最終話

土台人 最終話

あたしは、親友を売った。
なぜって?

それは、あたしが日本人だから。

会社の南さんは、いろいろ教えてくれた。
叔父とも相談して、あたしは、「きんちゃん」こと金明恵(キム・ミョンヘ)を警察に売った。

電話番号、家族歴・・・彼女について洗いざらい話した。
思ったより、彼女のことを警察は把握していたのには少し驚いた。
断片をつなぎ合わせると、きんちゃんはある暴力団の幹部の愛人だったというのだ。

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土台人 5

土台人 5

イ・ジョンキルのカリの張ったペニスがあたしの目の前にあった。
常夜灯の下でそれはゆらゆらと立ち上がっている。
「姐さん、また舐めてくれよ」
「はいよ。ここでこんなことばっかりしてていいのかな」
わたしは、つい冷めた口調になってしまう。
「いいやんけ。当分、表にはでられへんもん」
日本の警察がこの町内をマークしてきている。
今週に入って、一段と警察の目を感じるようになった。
「なあ、おかしいと思わへ

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土台人 4

土台人 4

あたしは、朝から会社の研究室で「重合実験」をしていた。
高分子化合物を作るには「重合反応」を起こさねばならない。
小さい分子が、いくつも鎖のようにつながって何十万、何百万の高分子化合物を形成する。
タイヤ一個が一つの分子だってこともありうるのだ。
(ゴムは高分子化合物です)

あたしの勤めている会社は、工業用の接着剤を作っている。
大学の先生の推薦でここに入社できた。
もう三年になる。

丸いフラ

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土台人 3

土台人 3

「小糠(こぬか)雨降る御堂筋・・・」
雨を見てると、この歌詞が頭に浮かぶ。

あたしは、読みかけの本を置いた。
アップダイクの「走れうさぎ」の主人公、ハリーの逃げるばかりの人生・・・

そういや、あたしも逃げてばかり。

電話が鳴った。
出ると、「きんちゃん」こと金明恵だった。
「もしもし、なおぼん?」
「どうしたん、突然、どっか行ってしまうから・・・」
「ごめんね。あたしはどうもないんよ。受信機

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土台人 2

土台人 2

夜はパブになる組事務所に二人の男がテーブルに向かい合って座っていた。
「おい、李(り)」
「へえ、大将」
大将と呼ばれた中年の男は指定暴力団「琴平会」の会頭の蒲生譲二だった。
「お前、きんじっせい(金日成)の手先て、ほんまけ?」
※金正恩の祖父が金日成

「おれは、そんなもんやないです。ただ向こうの工作員に連れてこられて・・・」
一方の青年は在日朝鮮人の李鐘吉(イ・ジョンキル)といった。
「手先や

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土台人(トデイン)1

土台人(トデイン)1

あたしは、狭い四畳半を見渡してタバコをくゆらしていた。
「この中百舌鳥(なかもず)のぼろアパートがこれからあたしの家になるんや」

なぜかというと、あたしが北鮮の工作員に「土台性」を認められ「土台人(トデイン)」に選ばれたからだ。
※土台とは北朝鮮の工作員が日本に潜入しやすいように下地を作る、文字通り日本で「土台」となる在日朝鮮人である。それなりの日本での地位や能力(土台性)がないとなれないのだ。

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