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土台人 最終話

あたしは、親友を売った。
なぜって?

それは、あたしが日本人だから。

会社の南さんは、いろいろ教えてくれた。
叔父とも相談して、あたしは、「きんちゃん」こと金明恵(キム・ミョンヘ)を警察に売った。

電話番号、家族歴・・・彼女について洗いざらい話した。
思ったより、彼女のことを警察は把握していたのには少し驚いた。
断片をつなぎ合わせると、きんちゃんはある暴力団の幹部の愛人だったというのだ。
きんちゃんの話の端々に男の人の影が感じられたけれど、それがその人だったのか?

つまり、大阪府警が、ある指定暴力団が北朝鮮とブラックな取引をしているというタレコミがあったので極秘に動いていたらしい。
それで、芋づる式にあたしの勤務している会社「京都化学工業株式会社」が捜査線上に上がったわけだ。
南さんの話で、当社会長が社会党(当時)議員と懇意にし、中共を介して北鮮企業と提携する計画を不審に思った捜査当局が興味を示していたということだった。
※中共(ちゅうきょう)とは中華人民共和国あるいは中国共産党の略、北鮮(ほくせん)とは朝鮮民主主義人民共和国の略で、当時はこのように言うことが多かった。

韓国系新聞社「東亜日報」もそれを把握し、あの日の経済面に大きく載ったということ。

あたしの証言は、それを裏付けただけだけど。

さっき警察から、金明恵と同胞の青年一人がアジトで拘束されたと電話があった。
あたしがあげた受信機「FRG-7」も押収したとのことだった。

「ごめんね、きんちゃん」
あたしは、心で詫びた。
「また、警察でいろいろ聞かれるやろな。あの受信機のこととか・・・」
そういう不安もあった。

「日本人やから、当然のことをしただけや」
そう思うしかなかった。
「あの子、下心があってあたしに近づいたんやな。それにしてもうちの会社、大丈夫なんかな?」
北系在日の山本部長と金子君の顔が浮かんだ。

翌日の京都新聞には、「琴平会」という指定暴力団幹部が北鮮に違法送金をしていたことが大きく書かれていた。

当時、世間知らずなあたしは「パチンコ業界」の多くが韓国・朝鮮系の在日によって経営され、朝鮮系店舗は北の集金マシンとして働いていることをそのときに知った。

大阪府警が「琴平会」事務所にガサ入れをしている映像がテレビで何度も流された。
社会党の下村康平衆議院議員が「うるさい!関係ない!知らん」と気色ばんで叫んでいる場面もあった。

未然にうちの会社は事件(?)から手を引いた形になって、うやむやになった。

あれから、あたしも四十になるまで、そこで勤め上げた。

ちょっと、やばかった昔の話でした。

きんちゃんはその後どうなったのかわからない。
たぶん、もう、あたしの前には現れないだろう。
一緒にいたイ・ジョンキルとかいう在日の青年は、数年前に強姦殺人を犯して服役中だそうだ。

蒲生譲二という幹部が逮捕されて「琴平会」はあの事件のあとすぐに解散した。
彼の愛人ががきんちゃんだったのかな?
逮捕された時の映像では、渋い、いい男だった。

あ、そうそう、金子君が最近、警察に事情聴取を受けたとか。
やっぱり拉致問題の関係者だったらしい。
もう、定年間近の南さんから聞いた。

月日の経つのは早いものだと実感した。

土台人(トデイン)は今も潜伏していると思う。
北朝鮮も世代交代してしまい、彼らの目的も変わってきているだろう。

あなたの隣にもいるよ。きっと。


(「土台人」は事実を基にしたフィクションです、登場人物や団体名は架空のものです)

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