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心霊現象再現ドラマ・『霊のうごめく家』3

 1992年の「恐怖ブーム」
 
 既にオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話 第二夜』がレンタルビデオ店に並んでいた1992年。7月29日付の朝日新聞夕刊は「夏の定番を超越 『怪談』は今や一年中ブーム」と題した記事が掲載した。夏季に限らず、一年を通じて小学生から高校生のあいだで「恐怖ブーム」が起きており、テレビ局は怪談映画や外国のホラー映画の放映、または番組製作に追われていると記事は伝える(※18)。
 
 記事のなかでは、フジテレビ系『世にも奇妙な物語』の高視聴率とともに、高橋洋と中田秀夫にとって最初の共同作業であったテレビ朝日系『本当にあった怖い話』にも言及している(※19)。『本当にあった怖い話』は、愛川欽也がホストを務め、視聴者が実際に体験した「不思議な怖い話」を募集して集められた約千五百通の手記のなかから、制作側が選んだ体験談を映像化したオムニバスドラマであった。

 記事で言及されているテレビ朝日系『本当にあった怖い話』だが、同年のオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』とタイトル表記が少し異なるだけでなく、番組コンセプトすら同じだ。オリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』は朝日ソノラマ、つまり朝日新聞社の系列会社から刊行されていた『月刊ハロウィン』増刊号として創刊された、同名の漫画雑誌が原作である。『月刊ハロウィン』が漫画家の手による完全な創作であるのに対して、『ほんとにあった怖い話』は読者から心霊体験を募り、その中から編集部が選んだ投稿を漫画化するのがコンセプトとしていた。
 
 テレビ朝日と朝日ソノラマの社員のあいだで、なんらかの情報交換があったのだろうか。それは定かではないにせよ、小中千昭と鶴田法男、高橋洋と中田秀夫がおなじ1992年に「心霊現象再現ドラマ」を手掛けているのは重要だ。小中千昭の『探求レポート!!』の脚本は、その当時に放送されていたバラエティ番組の「VTR」そのものだが、90年代のJホラーが生成されていく過程で「実話性」が重視されたもうひとつの理由に、オカルトブーム以降、一貫してテレビ番組に「再現映像」や心霊写真として登場し続けていた幽霊の存在があった。
 
 朝日ソノラマの『ほんとにあった怖い話』とテレビ朝日系『本当にあった怖い話』に共通しているのは、読者/視聴者が体験した心霊現象を募集、投稿された体験談の中から選考されたエピソードを漫画化/ドラマ化するコンセプトである。このコンセプトは、日本テレビ系において1970年に放送された『恐怖!!』を発展させ、1973年『お昼のワイドショー』内の企画として始まった『あなたの知らない世界』を嚆矢とする(※20)。日本テレビを中心とした民放テレビ局はオカルトブーム以降も、幽霊、超能力、UFO、未確認生物を番組のなかで取り扱う構成のバラエティ番組を放送しつづけていた。そのうちのひとつに、1991年3月28日の「木曜スペシャル」枠で放送された単発バラエティ番組『緊急リポート!!これが世界の怪奇現象だ』があった。新聞のラテ欄には「スタジオ騒然!!ビデオに写った巨大な顔!動く幽霊の姿公開」とある。後に触れるが、「ビデオに写った巨大な顔!」は図らずも、1999年からレンタルビデオ店の棚を賑わせた心霊ドキュメンタリーの生成に大きく貢献することになった。

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