島本葉

https://kakuyomu.jp/users/shimapon/works 普段はカクヨムで短編を書いています。 こちらでは、ちょっとした雑記とかエッセイのようなものを。

マガジン

  • 島本の葉っぱ

    習作の小片。 500字~1,000字程度のもので、シーンの切り取りのようなもの。

  • 僕と姪の梅しごと(短編小説)

    ママの大好きなものを一緒につくろうか 四歳になる姪っ子はとても可愛く、我が家の中心だ。 初夏のある日、忙しいママのために僕と姪っ子で梅ジュースを作ることにした。

  • 便りの先に(短編小説)

    ──これは郵便を通じた碁のお話 急逝した祖父に届いていた一通のはがき。 『白 八十二手 12の三』 そこに書かれていたのは、囲碁の着手だった。 十話完結です。

最近の記事

夏の共犯(掌編)【シロクマ文芸部】約1,100字

 夏は夜中に目を覚ましてしまうことが多い。冷房を入れようか、窓を少し開けて夜風で凌ごうか。そんな本格的な熱帯夜を迎えるという時期は特にだ。 「あっつー」  今日はなんとか耐えれるんじゃね? と冷房をケチったパターンだった。目が覚めると寝巻き替わりのTシャツはじんわりと汗を吸っていてちょい気持ち悪い。枕元のスマホを見ると、三時を少し過ぎたところだった。窓からは大して風も入ってきておらず、室内はムッとする空気が停滞しているようだった。  そのまま目を閉じても眠れる気がしなか

    • 小説:「僕と姪の梅しごと」(最終話 梅ジュースを飲もう)

       その日から、お風呂上がりには毎日一緒に瓶を揺らす母娘の姿があった。 「おいしくなぁれ」 「おいしくなぁれ!」  梅シロップを漬けた日、仕事から帰って来て果歩から話を聞いた姉さんは、懐かしいねと言って笑った。そして自分のために梅シロップを用意した優しい娘をギュッと抱きしめた。ママ、梅ジュース大好きなんだよ、ありがとう、と。  氷砂糖が溶け出した梅のエキスでほんのりと色づいていく。日に日に様子を変えていく梅シロップを見ながら、期待が膨らんでいく。僕たちだけではなく、姉さん

      • 小説:「僕と姪の梅しごと」(第四話 僕と姪の梅しごと)

         果歩と一緒に駅前のスーパーに出かけて、青梅や氷砂糖、保存容器など一揃えのものを購入してきた。小さい頃に祖母の家で作ったことがあるはずだが、流石に作り方を覚えていないので、レシピサイトで作り方や手順を調べて準備する。 「それでは、いまから梅シロップを作りたいと思います。準備はいいですか?」 「はい!」 「元気な返事ですね。よろしい」 「ふふー」  青梅、氷砂糖、煮沸消毒済みの保存容器、ヘタを取るための竹串や水洗い用のボウルと布巾。そしてプリントアウトしたレシピ。果歩と僕は

        • 小説:「僕と姪の梅しごと」(第三話 小さな背中と想い)

           土曜で仕事が休みだったので、お昼前まで布団でゴロゴロとしていた。喉が渇いたので階下に降りると、リビングで果歩がお絵かきをしている。  冷蔵庫から取り出した作り置きの麦茶をコップに注いで、一口飲んだ。 「あら、おはよう。《《おそ》》よう?」  背中から、ダイニングに戻ってきた母さんの声。   「おはよう。姉さんは?」  土曜日は姉も仕事が休みなので、よく果歩とでかけたりしているのだが、先程リビングにいた彼女は一人で遊んでいるようだった。 「それがねぇ、なんか会社から

        夏の共犯(掌編)【シロクマ文芸部】約1,100字

        • 小説:「僕と姪の梅しごと」(最終話 梅ジュースを飲もう)

        • 小説:「僕と姪の梅しごと」(第四話 僕と姪の梅しごと)

        • 小説:「僕と姪の梅しごと」(第三話 小さな背中と想い)

        マガジン

        • 島本の葉っぱ
          10本
        • 僕と姪の梅しごと(短編小説)
          5本
        • 便りの先に(短編小説)
          10本

        記事

          小説:「僕と姪の梅しごと」(第二話 母のスマホには孫の写真がいっぱいです)

          『納豆 5 お願いします』   仕事を終えてスマホを見ると、母からメッセージが入っていた。猫がお辞儀をするスタンプが添えられている。なんかまた新しいスタンプだ。使いこなしてるなあ。もともとはそんなに機械とかに強くない母なので、スマホのメッセージも最低限の文言だったのが、絵文字やらスタンプやらが最近良く並ぶ。それと写真。  了解したことと、今から帰ることを返信すると、お疲れ様のスタンプと写真が。  写真はリビングで撮影したようで、果歩が両手を上にしてピンと身体を伸ばしてい

          小説:「僕と姪の梅しごと」(第二話 母のスマホには孫の写真がいっぱいです)

          小説:「僕と姪の梅しごと」(第一話 果歩ちゃん)

          「あ、れーちゃんだ」 「おかえり、果歩ちゃん」  園バスのタラップから元気に降りてきた姪っ子が僕の方を見て嬉しそうに微笑んだ。同乗している先生に挨拶をして、走り去っていくバスに並んで手を振る。 「ばいばーい」  僕が片手を肩くらいまであげてひらひら振るのに対して、果歩は両手をあげて勢いよく振る。ぶんぶんと。 「今日はれーちゃんなの? ママは?」 「ちょっとお仕事が長引いてるんだって。もう少ししたら帰ってくるよ」  姉は急なトラブルですぐに帰れなくなったということで、

          小説:「僕と姪の梅しごと」(第一話 果歩ちゃん)

          水曜日のひとつ結び(掌編 約1,300字)

          水曜日のひとつ結び「おはよう、結愛《ゆあ》ちゃん」  松原先生はとても優しくて大好きな先生だ。園バスを降りるといつも下駄箱のところで立っていてくれて挨拶をする。  ──今日も髪型かわいいね。  その言葉を待ってみるけど、先生はもう次のお友達に挨拶をしていた。  よくわたしの髪型を褒めてくれる松原先生だけど、やっぱり水曜日はそのことに触れてくれないのだった。  ※  わたしの家は水曜日の朝が一番忙しい。  理由はママがいないからだ。看護師をしているママは、火曜日の夕方

          水曜日のひとつ結び(掌編 約1,300字)

          ラムネの音(掌編)【シロクマ文芸部】

           ラムネの音がカラリと爽やかな音を響かせるのを聞いて「うん、今のpはいいですね」とカトちゃんが言った。ソーダ味だと思われる水色のアイスを指揮棒に見立ててピシっと指す様は顧問の長谷川先生を思い起こさせる。 「やめてよ、カトちゃん。笑って力が入らないよ」  部活帰りのコンビニで私と同じく瓶ラムネを買った真希ちゃんが、ビー玉を押し込もうとして悪戦苦闘している。そう、思いの外開けるのに力がいるのだ。 「んっ!」  真希ちゃんが駐車場の車止めに立てて固定した瓶に手のひら全体で力

          ラムネの音(掌編)【シロクマ文芸部】

          便りの先に(その十)(最終話)

           脚付きの碁盤を部屋の真ん中に置いて、その前に腰を下ろす。手元には棋譜と今日届いたはがき。  碁笥を開けて黒石を掴み右上の星へ。次に白石を左上の小目。黒、右下小目。白、左下小目。もう何度も繰り返してきた手順なので、棋譜を確認する必要もない。黒は祖父の大迫吉郎。白は上総伸一さん。    お互いに様子を見合うような展開から、まず黒の祖父が動く。白の手に反発して、戦いを仕掛けにいったのだ。    白番の伸一さんはなんというか堂々としている。お手本のような打ち筋だ。決して無理をせずに

          便りの先に(その十)(最終話)

          便りの先に(その九)

          「まだ続いてるんだ?」    飲み干したジョッキを店員に渡して、おかわりを注文しながら葉月は少し驚いたように言った。   「うん。でももうすぐ終わりそう。年内か年明けかな」    今日は僕も葉月も就職が決まって落ち着いたので、お祝いということでモツ鍋屋に来ていた。旨味をたっぷりと吸い込んでくたりとしたキャベツを口に放り込むと、身体の中からぽかぽかと暖かくなる。寒くなると鍋が美味しい。    対局について葉月が驚くのも無理はないと思う。僕が打ち継いでから一年を越えて続く対局だ。

          便りの先に(その九)

          便りの先に(その八)

           夏の気候がやっと落ち着いてきたと思ったらもう十月だった。祖父が亡くなってからおよそ一年。つまりこの対局も僕が打ち継いで一年になる。    そういえば伸一さんは八月に退院したらしい。  郵便碁とは別に、暑中見舞いの絵手紙をもらったのだけど、みずみずしい真っ赤な西瓜の絵を見てちょっと泣きそうになったのは内緒だ。  対局はそのまま美咲さんが続けることになり、今の盤面はやや白番の美咲さんの方が有利な状況。昨日届いたはがきで、美咲さんが百七十二手目を打ったところだ。    かなり踏

          便りの先に(その八)

          便りの先に(その七)

           どうやら美咲さんは僕よりは歳が下のように感じる。  女の子らしいといえばよいのか、少し可愛い文字で色ペンも使われて。なんというか若々しくて気恥ずかしい気持ちがした。中学生か高校生か。その頃のクラスの女の子たちが、何やら手紙などを回していた記憶があるけれどこんな感じだったんだろうか?    対局者が女の子に変わったことを葉月さんに伝えると少しだけ機嫌が悪くなってちょっと嬉しかった。まぁ、会いたいとかそういうのではないので勘弁していただこう。    対局は大分進んで今は中盤戦

          便りの先に(その七)

          便りの先に(その六)

           夏を前にして、あれ? と思った。    普段だと僕がはがきを送ってから四、五日程度で返信が来るのだけど、上総さんからの返信が届かなかったのだ。  戦局はそれほど複雑ではなく、ほぼ一本道の手順だ。郵便碁でなければ、五秒で着手しても同じところに打つのではないかと思うような場面。それはつまり、碁が原因で返信が滞ってる訳では無いということだった。    一週間、十日と時間が過ぎ、今日こそはとポストを覗く日々が続く。直接の顔見知りでもなく、ただはがきを使って碁を打つだけの関係だ。本

          便りの先に(その六)

          便りの先に(その五)

           年が明けて気候が和らぎ、大学も無事に四年に進級した。必要な単位も少なくなってきたので、就活、バイト、講義と同じ内容でもこれまでとは少し配分が変わった生活スタイルになっている。    上総さんとの対局は変わらぬペースで続いていた。  手数は百五十二手。戦況は五分五分だろうか。途中は少し打ちにくいと感じていたが、相手の陣地のほころびに狙い目もあって楽しみな展開だった。   「せっかく高山にいるのに、会ってみなくていいの?」  そう。僕は今高山にいる。  最近の生活の変化として

          便りの先に(その五)

          便りの先に(その四)

          『大学三年生です。普段はネットで打っていて棋力は弱い三段くらいでしょうか(笑)  郵便碁は初めてですが、しっかり考えて着手するのも面白いですね。  黒 八十九手 5の七』 『今年も雪が降り始めました。冬も本番です。  白 九十四手 7の十二』 『神戸の海はとても穏やかです。そちらとはだいぶ気候も違いますね。写真は神戸港です。  黒 百三手 15の十』  週に一通か二通くらいのペースでゆっくりと打ち続ける。    上総さんは毎回見事な絵手紙を送ってくれるのだけど、僕はそん

          便りの先に(その四)

          便りの先に(その三)

           祖父の碁盤と碁石、絵手紙の入った文箱は僕が引き継ぐことになった。  住む人のいなくなった富山の家は近く処分することになるのだけど、それは落ち着いてからということに。神戸にはとりあえず父と僕が先に帰ることになった。田舎なので、町内会や寄合など色々と挨拶しなければいけないところがあるらしく、母だけはもう数日富山に残る必要があったのだ。    僕は富山から大阪への高速バスに乗り込むと、上総さんからの絵手紙の束を鞄から取り出した。碁盤や文箱などは流石に宅配を手配したが、絵手紙と棋

          便りの先に(その三)