便りの先に(その四)
『大学三年生です。普段はネットで打っていて棋力は弱い三段くらいでしょうか(笑)
郵便碁は初めてですが、しっかり考えて着手するのも面白いですね。
黒 八十九手 5の七』
『今年も雪が降り始めました。冬も本番です。
白 九十四手 7の十二』
『神戸の海はとても穏やかです。そちらとはだいぶ気候も違いますね。写真は神戸港です。
黒 百三手 15の十』
週に一通か二通くらいのペースでゆっくりと打ち続ける。
上総さんは毎回見事な絵手紙を送ってくれるのだけど、僕はそんな器用な事はできない。一度だけ見様見真似で絵を描いてみたものの、はがきを無駄にして終わった。色合いでかろうじて南瓜だと判別できる気はするが、母は笑いをこらえていたのでお察しだ。
知ってたけど、僕に絵のセンスはないのだ。書きそこねた一枚は文箱の底に封印した。
言葉を添えるにしても、はがきの裏面は結構広い。スペースを埋めるのが大変だったので、写真をシールにして貼ることにした。うんうん。これだと見栄えも整うし個性も出るので良いのではなかろうか。
対局は少し僕の着手が良くなかった。打ち継いだときよりも白が良い。上総さんは多分僕よりも強い人だ。年齢は聞いていないけど、添えられている言葉の書きぶりから、祖父と同じくらいかと想像していた。
高山市というと、祖父の住んでいた富山とはそれほど離れてはいない。けれど、二人は会ったことはないらしい。どこで知り合ったのかも、どのような経緯で碁を打ち始めたのかも判らなかった。
上総さんに問えば答えがあるかも知れないが、そんなことを知らなくても、碁が打てるというのは面白いと思う。
大学ではそろそろ就職活動に躍起になる友人も増えてきて、インターンが、説明会が、と慌ただしい。一方で上総さんとの対局は、そこだけゆっくり時間が流れているようで心地よかった。
今は百九手目を僕が着手したところだ。終局まであと百手くらいだろうか。
帰宅して欠かさずにポストを覗くのが、なんだかとてもくすぐったく感じるのだった。
まるで恋文を待つ乙女のように。
知らんけど。
(その五へ続く)
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