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小説:「僕と姪の梅しごと」(第一話 果歩ちゃん)

「あ、れーちゃんだ」
「おかえり、果歩ちゃん」

 園バスのタラップから元気に降りてきた姪っ子が僕の方を見て嬉しそうに微笑んだ。同乗している先生に挨拶をして、走り去っていくバスに並んで手を振る。

「ばいばーい」

 僕が片手を肩くらいまであげてひらひら振るのに対して、果歩は両手をあげて勢いよく振る。ぶんぶんと。

「今日はれーちゃんなの? ママは?」
「ちょっとお仕事が長引いてるんだって。もう少ししたら帰ってくるよ」

 姉は急なトラブルですぐに帰れなくなったということで、保育園のお迎えは代打で僕がやってきた。シフト勤務の仕事の関係で僕が今日は休みだということを把握していたらしい。

 お迎えは初めてではないものの少し緊張する。保護者を示すカードを首からぶら下げているし、事前に姉が連絡してるはずなので疑われることは無いのだろうけど。

「楽しかった? 何してきたの?」
「ダンスー!」

 くるくると踊るように飛び跳ねながら、帰路を並んで歩く。四歳になる姪っ子はとても快活で姉の子供のころの雰囲気を彷彿させる。

「あんまり回ったらあぶないよ」

 まだ小さな果歩を連れて姉が実家に戻ってきたのは、半年ほど前だったか。詳しい話は聞けていないものの、どうも旦那さんの方に問題があったようで「別れてきた」と悲壮感も感じさせずに笑っていた。

 それ以来、我が家はもう果歩を中心に回っている。父も母も孫がかわいくて仕方がないようで、じいじ、ばあばと頬が緩みっぱなしだった。

 ただ最近、というか実家に帰ってきて以降、姉が頑張りすぎている気がしている。果歩を保育園にあずけながらの仕事ぶり。休日も果歩と買い物に行ったりして、忙しい日々を過ごしていた。もともと活動的な性格の姉ではあるが、もう少し気を緩めたほうがと思わなくもない。

「ただいまー」

 園バスのバス停は歩いてすぐのところなので、程なく家に到着。

「おかえり、果歩ちゃん」
「ただいまー、ばあば!」

 でも、この天使さんのために頑張ろうという気持ちは、叔父の立場でもよく分かるのである。

(第二話へ続く)


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