ききゅう

科学・数学関連の、少し(だいぶ?)エンタメよりの記事を作成しています。 よろしくお願い…

ききゅう

科学・数学関連の、少し(だいぶ?)エンタメよりの記事を作成しています。 よろしくお願いいたします。 ※ページ内のテキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

マガジン

  • 神様のアルファベット

    高校生の大翔と陽菜は、ある日偶然から、自宅近くに知らない神社があるのを見つけた。 ほとんど存在を忘れられ荒れ放題になったその神社には、一風変わった身なりと権能の神様がいた・・・。

記事一覧

第18話 RSA暗号の解き方 ~その1~

「ほな、行きますよぉ。」  陽菜はトランプの山を構えて、指をずらした。左右$${26}$$枚ずつ、計$${52}$$枚のカードがパラパラとたがい違いにおり重なり、$${1}$$つの山に…

ききゅう
10時間前

第17話 RSA暗号の解き方 ~その0(ゼロ)~

「千坂、ようこそ文芸部へ! 君も晴れて、文芸部の部員や!!」 「残念ながら、帰宅部を辞めるつもりはないから、さっさと用件だけ言うてくれ。」 「用件? そんなん、文…

ききゅう
7日前
1

第16話 未明の怪異

 深夜。  塵劫神社の境内を懐中電灯の灯りが照らし出した。  境内の入り口の左端。真夜中だというのに、その人物は野球帽を目深に被っていた。  野球帽の人物は参道か…

ききゅう
4週間前
5

第15話 法律家のたしなみ 後編

「フェルマー? フェルマーって、たしか・・・。」 「昨日も名前出て来たえ。“フェルマーの小定理”ってな。」  吉栄光比売が、聞き覚えのある定理の名前を出す。大翔は…

ききゅう
1か月前
3

第14話 法律家のたしなみ 前編

「素因数分解?」  陽菜が小首をかしげた。 「おう。ネットで調べてみたらな、素因数分解ってめっちゃ難しいらしい。たとえば素数$${2}$$つのかけ算は割と簡単にできんね…

ききゅう
1か月前
5

第13話 見果てぬ夢

 視界のすぐ下を、地面が目にも止まらない速さで後ろへ流れる。四つん這いのまま全力疾走でもしているかのようだ。それとも、地面スレスレを滑空でもしているのだろうか。…

ききゅう
1か月前
4

第12話 数学が嫌いになった理由

 大翔は自室の机に向かい、腕組みをして考え込んでいた。  机の奥の方には、お菓子棚からとってきたジャガコリと、大きめのコップになみなみとついだほうじ茶。  長考に…

ききゅう
2か月前
4

第11話 くり返すあまり

「そうや、思い出した! あまりはくり返すねん!」 「うん? どういうこと?」 「見てみぃ!」  大翔はあらためて、数日前のメモを陽菜に示した。 「この前話したやろ。…

ききゅう
2か月前
4

第10話 情報を活かせるかどうかは工夫次第?

 叔父の豪との電話を終えた後、大翔は筆記用具をカバンに入れ、塵劫神社へ向かった。  家から神社の入り口までは100メートルほどしかないが、大翔は周囲を警戒しなが…

ききゅう
2か月前
3

第9話 戦国武将とトランプと暗号と

「え、暗号?」 「おう。RSA暗号、言うてな。インターネットのセキュリティを支える大事な技術や。」 「え、マジで?? どういうこと?」 「なんやお前、暗号に興味あるの…

ききゅう
3か月前
2

第8話 お釈迦さまの手の上で計算していたという話

「陽菜、俺とつき合うてくれ!!」  大翔は、清水の舞台から飛びおりる覚悟で頭を下げた。すると、彼女はニンマリと笑い、 「ええよぉ。ただし、これの数学の問題をぜんぶ…

ききゅう
3か月前
4

第7話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 後編

「ヨシザカエ様って、イヌ派ですか、ネコ派ですか?」 「はあ? なんえ、いきなり?」  大翔が「1人で問題をとく」と言って境内の入り口に座り込んでから、もうずいぶ…

ききゅう
3か月前
3

第6話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 前編

「回答に答えだけ書くな。必ず解き方を書け。」  中学のころから、数学を担当する教師はみな口を揃えてそう言った。いや、小学校の算数ですら、似たようなことを言われた…

ききゅう
4か月前
5

第5話 仕返し

 夜の9時すぎ。  大翔は自分の部屋で、ベッドの上にうつ伏せになっていた。胸元に引き寄せた枕にアゴを乗せ、口は半開き。手元には充電中のスマホ。 「そろそろ明日、ボ…

ききゅう
4か月前
8

第4話 幻覚

「なんや、食べへんのかいな?」  吉栄光比売が大翔に言った。 「いやだから、俺甘いのん苦手なんすよ。果物とか特に。」  彼が手に持っている菓子は、陽菜イチオシの、…

ききゅう
4か月前
13

第3話 最初の算額

次の数字を $${11}$$ でわったあまりを求めよ: 「大翔〜。この前の数学の小テスト、何点やった?」 「・・・51・・・。」 「そうか〜。51かぁ。・・・私、39・・・…

ききゅう
9か月前
17
第18話 RSA暗号の解き方 ~その1~

第18話 RSA暗号の解き方 ~その1~

「ほな、行きますよぉ。」
 陽菜はトランプの山を構えて、指をずらした。左右$${26}$$枚ずつ、計$${52}$$枚のカードがパラパラとたがい違いにおり重なり、$${1}$$つの山に戻った。
「ほーお! 器用なもんや!」
「えへへ・・・。」
 吉栄光比売にほめられ、彼女はてれ笑いした。

 月曜日の夕方、陽菜は1人で塵劫神社をおとずれていた。大翔は宿題を忘れて、放課後居残りである。

 吉栄光比

もっとみる
第17話 RSA暗号の解き方 ~その0(ゼロ)~

第17話 RSA暗号の解き方 ~その0(ゼロ)~

「千坂、ようこそ文芸部へ! 君も晴れて、文芸部の部員や!!」
「残念ながら、帰宅部を辞めるつもりはないから、さっさと用件だけ言うてくれ。」
「用件? そんなん、文芸部への勧誘に決まってるやろ。」
「帰宅部を辞めるつもりはない、言うてんねん。」

 週が明けた月曜日の昼休み。
 大翔は昼食をさっさと終えて、uPadでネットの記事を読みあさっていた。普段なら、好きなオンラインゲームの攻略サイトやマンガ

もっとみる
第16話 未明の怪異

第16話 未明の怪異

 深夜。
 塵劫神社の境内を懐中電灯の灯りが照らし出した。
 境内の入り口の左端。真夜中だというのに、その人物は野球帽を目深に被っていた。
 野球帽の人物は参道からすぐに離れ、絵馬殿へまっすぐ向かう。
 懐中電灯をすこし持ち上げると、下から2段目の同じ吊り金具に3枚、絵馬がかけられている。もっとも手前にかけられた絵馬には、新しい謎かけが書かれていた。

次の数を素因数分解せよ
$${4326528

もっとみる
第15話 法律家のたしなみ 後編

第15話 法律家のたしなみ 後編

「フェルマー? フェルマーって、たしか・・・。」
「昨日も名前出て来たえ。“フェルマーの小定理”ってな。」
 吉栄光比売が、聞き覚えのある定理の名前を出す。大翔は思わず、数学徒Xからの絵馬を見た。そこに書かれている“$${2^{2024}}$$を$${13}$$でわったあまり”を求める問題で、昨日お世話になった定理だ。大翔が考えた返事の問題はあまりを求めるものではないので、フェルマーは大翔の中では

もっとみる
第14話 法律家のたしなみ 前編

第14話 法律家のたしなみ 前編

「素因数分解?」
 陽菜が小首をかしげた。
「おう。ネットで調べてみたらな、素因数分解ってめっちゃ難しいらしい。たとえば素数$${2}$$つのかけ算は割と簡単にできんねんけど、逆にそれを分解しようとすると、数字のデカさによってはコンピューターでもごっつい時間かかるんやと。」
「まあ確かに、見た感じすごくメンドくさそうではあるけど・・・。」
 陽菜は、大翔が持って来た絵馬をしげしげと眺めた。

次の

もっとみる
第13話 見果てぬ夢

第13話 見果てぬ夢

 視界のすぐ下を、地面が目にも止まらない速さで後ろへ流れる。四つん這いのまま全力疾走でもしているかのようだ。それとも、地面スレスレを滑空でもしているのだろうか。
 ・・・いや、これはやはり地面を走っている。なぜなら、周りの風景が小刻みにゆれているから。
 小刻みにゆれながらも、視界の主は走っているその先にあるものを見すえて離さない。

 視界の真ん中には、一頭の牡鹿。足元にある何かを夢中で食べてい

もっとみる
第12話 数学が嫌いになった理由

第12話 数学が嫌いになった理由

 大翔は自室の机に向かい、腕組みをして考え込んでいた。
 机の奥の方には、お菓子棚からとってきたジャガコリと、大きめのコップになみなみとついだほうじ茶。
 長考にそなえた兵糧に囲われるようにして、彼の目の前には真新しい絵馬が2枚と、数時間前に彼がほぼ独力で解答した数学徒X からの宿題がならんでいた。

 大翔と陽菜が2、3日悩んでいたその宿題は、吉栄光比売にきっかけをあたえられるやいなや、あまりに

もっとみる
第11話 くり返すあまり

第11話 くり返すあまり

「そうや、思い出した! あまりはくり返すねん!」
「うん? どういうこと?」
「見てみぃ!」
 大翔はあらためて、数日前のメモを陽菜に示した。
「この前話したやろ。$${10}$$のナントカ乗を$${7}$$でわったあまりって、$${6}$$乗するごとに1周するねん。」

「てことは、やで? $${\textbf{2}}$$のナントカ乗も一緒ちゃうんか? $${2^{12}}$$を$${13}$$

もっとみる
第10話 情報を活かせるかどうかは工夫次第?

第10話 情報を活かせるかどうかは工夫次第?

 叔父の豪との電話を終えた後、大翔は筆記用具をカバンに入れ、塵劫神社へ向かった。
 家から神社の入り口までは100メートルほどしかないが、大翔は周囲を警戒しながらそこを歩いた。数日前に来たときは夕暮れ時で人目もなかったが、今は土曜の真っ昼間である。下手をすると、神社に入るところを誰かに見られるかもしれない。
「ちょっと、千坂さん? おたくの坊ちゃん、誰の家かもわからない茂みに勝手に入って行きまして

もっとみる
第9話 戦国武将とトランプと暗号と

第9話 戦国武将とトランプと暗号と

「え、暗号?」
「おう。RSA暗号、言うてな。インターネットのセキュリティを支える大事な技術や。」
「え、マジで?? どういうこと?」
「なんやお前、暗号に興味あるのんか?」
「うん、ちょっと。」

 大翔が最初に“暗号”という言葉と概念を知ったのは、幼い頃に見た何かの映画だった。タイトルはまったく覚えていないが、ニヒルなスパイが活躍するストーリーで、クライマックスで暗号を解読するシーンが出てきた

もっとみる
第8話 お釈迦さまの手の上で計算していたという話

第8話 お釈迦さまの手の上で計算していたという話

「陽菜、俺とつき合うてくれ!!」
 大翔は、清水の舞台から飛びおりる覚悟で頭を下げた。すると、彼女はニンマリと笑い、
「ええよぉ。ただし、これの数学の問題をぜんぶ解けたらな?」
と、2冊の本を渡してきた。どこかで見たことのある、ペーパーバックの分厚い赤いデザイン。
 その表紙には、「京都大学 理系」、「東京大学 理科」と書かれていた。

 ビクンとはねるようにして目を覚ますと、外はまだ真っ暗だった

もっとみる
第7話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 後編

第7話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 後編

「ヨシザカエ様って、イヌ派ですか、ネコ派ですか?」
「はあ? なんえ、いきなり?」

 大翔が「1人で問題をとく」と言って境内の入り口に座り込んでから、もうずいぶんたつ。神社に来た時は、夕焼けであたりいちめん朱色だったのに、今はだいぶむらさき色になってきている。
 幼ななじみは、ときどき消しゴムや新しいルーズリーフをとり出したり、シャーペンの芯をかえたりしてはいるが、腰を上げる様子はまったくない。

もっとみる
第6話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 前編

第6話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 前編

「回答に答えだけ書くな。必ず解き方を書け。」

 中学のころから、数学を担当する教師はみな口を揃えてそう言った。いや、小学校の算数ですら、似たようなことを言われたような気がする。
 それを聞いた時は、大翔にはその理由がわからなかったが、今なら理解できる。

$${2}$$

 絵馬の真ん中に放り出すように書き殴られた“答え”。
 解き方などどこにも書かれていない。はたしてこれが、ちゃんと解いて書い

もっとみる
第5話 仕返し

第5話 仕返し

 夜の9時すぎ。
 大翔は自分の部屋で、ベッドの上にうつ伏せになっていた。胸元に引き寄せた枕にアゴを乗せ、口は半開き。手元には充電中のスマホ。
「そろそろ明日、ボス討伐行こうぜ。9時集合な。」
 最近ハマっているオンラインゲームのグループで、昨日、そんな約束が交わされた。
 だがいざ集まってみると、メンバーのテンションはいずれも異様に低かった。
- はあ、なんでか全然やる気出ないわー
- 俺も 今

もっとみる
第4話 幻覚

第4話 幻覚

「なんや、食べへんのかいな?」
 吉栄光比売が大翔に言った。
「いやだから、俺甘いのん苦手なんすよ。果物とか特に。」
 彼が手に持っている菓子は、陽菜イチオシの、アテナ製菓のハムスター・フルーツ大福。普通の大福のあんこもだめなのに、中身がフルーツときては、ますます無理である。中にどんなフルーツが入っているかは「食べてみてのお楽しみ」らしいが、食べて何が出てこようが同じである。
 対照的に、陽菜は満

もっとみる
第3話 最初の算額

第3話 最初の算額

次の数字を $${11}$$ でわったあまりを求めよ:

「大翔〜。この前の数学の小テスト、何点やった?」
「・・・51・・・。」
「そうか〜。51かぁ。・・・私、39・・・。」
「悪っ。」
「ふええ・・・。」
「いや、つっこめよ。『お前も大して変わらへんやんけ』って。」
「50超えとるだけでもええやん・・・。もう、数学嫌いや・・・。」

 そう言って陽菜がふさぎ込んでいたのは、先月終わりのことだ

もっとみる