ききゅう

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科学・数学関連の、少し(だいぶ?)エンタメよりの記事を作成しています。 よろしくお願いいたします。 ※ページ内のテキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

マガジン

  • 神様のアルファベット

    高校生の大翔と陽菜は、ある日偶然から、自宅近くに知らない神社があるのを見つけた。 ほとんど存在を忘れられ荒れ放題になったその神社には、一風変わった身なりと権能の神様がいた・・・。

最近の記事

第22話 RSA暗号をひねり出す

 それは、昨日の朝のこと。  新しい絵馬をたずさえ、塵劫神社へ行くべく部屋を出ようとしたところで、大翔はちょっとした違和感を覚えた。 「・・・・・・。なぁんか、忘れてる気ぃするけど・・・。なんやったっけ?」  戸口で10秒ほど考えたもののどうしても思い出せず、その日はけっきょくそのまま終わっていた。  だが今朝、制服に着替えようとして、制服のハンガーにズボンの代わりにぶら下げていたはずのケサランパサランがいなくなっているのを見て、彼はようやく忘れ物を思い出した。  昨日神社へ

    • 第21話 法律家から“数学のサイクロプス”へ

      「“おいら”?」 「花魁とはちゃうで?」 「ああ・・・、そうじゃなくて・・・。」  陽菜が珍しくボケをかましてみたら、吉栄光比売がナナメ上のカン違いをしてきた。こちらとしては、やんちゃな少年キャラの一人称のつもりだったのだが・・・。 「レオンハルト・オイラー。瑞西の数学者で、徳川吉宗とおおよそ同時期の人間や。」 「はあ。」  吉宗と同じころと言われても、具体的にいつごろなのか、あまりピンとこない。江戸時代の真ん中あたり? 大翔ならすぐにわかるだろうか。 「あんたたち人間の数学

      • 第20話 回るあまりと循環するシャッフル

        「とりあえず、ここまでをおさらいしとこか。」  高木がホワイトボードをいったんぜんぶ消して、これまでの内容をまとめた。 「RSA暗号の背後にあるのは、数字が循環するっていう法則。“ある操作” ––– “シャッフル”って呼ぶとして ––– 平文を一定回数だけシャッフルしてやると、元の平文に戻るわけやな。」 「で、そのシャッフルには、平文と公開鍵$${N}$$を使うと。」 「あるいは、さっき君が証明してくれたとおり、『平文のかけ算だけ先に済ませて、あまりを求める計算は最後に

        • 第19話 数字をシャッフルする

          「なるほど。その“リフルシャッフル暗号”とやら、公開鍵暗号だけやなくて、RSA暗号のたとえにもなってるなぁ。」  高木が感心したように言った。 「うん? そうなん?」  大翔がけげんな顔をする。 「“リフルシャッフル暗号”のキモは、カードの束を一定回数シャッフルすると元のならびに戻るっていうことやん?」 「おう。」 「RSA暗号も、けっこうそれに似てるんよ。平文にある操作を一定回数くわえると、もとの平文に戻るねん。」 「平文はあくまでも数字なんやな?」 「そうでないといろい

        第22話 RSA暗号をひねり出す

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        • 神様のアルファベット
          22本

        記事

          第18話 トランプで実装する公開鍵暗号

          「ほな、行きますよぉ。」  陽菜はトランプの山を構えて、指をずらした。左右$${26}$$枚ずつ、計$${52}$$枚のカードがパラパラとたがい違いにおり重なり、$${1}$$つの山に戻った。 「ほーお! 器用なもんや!」 「えへへ・・・。」  吉栄光比売にほめられ、彼女はてれ笑いした。  月曜日の夕方、陽菜は1人で塵劫神社をおとずれていた。大翔は宿題を忘れて、放課後居残りである。  吉栄光比売は陽菜からトランプを受けとると、ためしに同じように山を2つにわってしならせた。

          第18話 トランプで実装する公開鍵暗号

          第17話 そもそも暗号って何かわかってる?

          「千坂、ようこそ文芸部へ! 君も晴れて、文芸部の部員や!!」 「残念ながら、帰宅部を辞めるつもりはないから、さっさと用件だけ言うてくれ。」 「用件? そんなん、文芸部への勧誘に決まってるやろ。」 「帰宅部を辞めるつもりはない、言うてんねん。」  週が明けた月曜日の昼休み。  大翔は昼食をさっさと終えて、uPadでネットの記事を読みあさっていた。普段なら、好きなオンラインゲームの攻略サイトやマンガの考察動画などを見るのだが、その日は違っていた。 「ああ〜もう、わからん!!」

          第17話 そもそも暗号って何かわかってる?

          第16話 未明の怪異

           深夜。  塵劫神社の境内を懐中電灯の灯りが照らし出した。  境内の入り口の左端。真夜中だというのに、その人物は野球帽を目深に被っていた。  野球帽の人物は参道からすぐに離れ、絵馬殿へまっすぐ向かう。  懐中電灯をすこし持ち上げると、下から2段目の同じ吊り金具に3枚、絵馬がかけられている。もっとも手前にかけられた絵馬には、新しい謎かけが書かれていた。 次の数を素因数分解せよ $${432652837}$$ 「・・・・・・。」  野球帽の人物がそれを見つめていると、背後から

          第16話 未明の怪異

          第15話 法律家のたしなみ 後編

          「フェルマー? フェルマーって、たしか・・・。」 「昨日も名前出て来たえ。“フェルマーの小定理”ってな。」  吉栄光比売が、聞き覚えのある定理の名前を出す。大翔は思わず、数学徒Xからの絵馬を見た。そこに書かれている“$${2^{2024}}$$を$${13}$$でわったあまり”を求める問題で、昨日お世話になった定理だ。大翔が考えた返事の問題はあまりを求めるものではないので、フェルマーは大翔の中では“終わった人”扱いになっていた。またしてもその名前に出くわすことになるとは・・・

          第15話 法律家のたしなみ 後編

          第14話 法律家のたしなみ 前編

          「素因数分解?」  陽菜が小首をかしげた。 「おう。ネットで調べてみたらな、素因数分解ってめっちゃ難しいらしい。たとえば素数$${2}$$つのかけ算は割と簡単にできんねんけど、逆にそれを分解しようとすると、数字のデカさによってはコンピューターでもごっつい時間かかるんやと。」 「まあ確かに、見た感じすごくメンドくさそうではあるけど・・・。」  陽菜は、大翔が持って来た絵馬をしげしげと眺めた。 次の数を素因数分解せよ $${432652837}$$  日曜日の昼過ぎ。塵劫神社

          第14話 法律家のたしなみ 前編

          第13話 見果てぬ夢

           視界のすぐ下を、地面が目にも止まらない速さで後ろへ流れる。四つん這いのまま全力疾走でもしているかのようだ。それとも、地面スレスレを滑空でもしているのだろうか。  ・・・いや、これはやはり地面を走っている。なぜなら、周りの風景が小刻みにゆれているから。  小刻みにゆれながらも、視界の主は走っているその先にあるものを見すえて離さない。  視界の真ん中には、一頭の牡鹿。足元にある何かを夢中で食べていて、こちらに気付く様子はない。しめた、絶好の好機だ。ほんのあと少し、あと数歩。一

          第13話 見果てぬ夢

          第12話 数学が嫌いになった理由

           大翔は自室の机に向かい、腕組みをして考え込んでいた。  机の奥の方には、お菓子棚からとってきたジャガコリと、大きめのコップになみなみとついだほうじ茶。  長考にそなえた兵糧に囲われるようにして、彼の目の前には真新しい絵馬が2枚と、数時間前に彼がほぼ独力で解答した数学徒X からの宿題がならんでいた。  大翔と陽菜が2、3日悩んでいたその宿題は、吉栄光比売にきっかけをあたえられるやいなや、あまりにもあっさりと解けてしまった。時間にすれば、30分かそこら。  だがその直後、彼は

          第12話 数学が嫌いになった理由

          第11話 くり返すあまり

          「そうや、思い出した! あまりはくり返すねん!」 「うん? どういうこと?」 「見てみぃ!」  大翔はあらためて、数日前のメモを陽菜に示した。 「この前話したやろ。$${10}$$のナントカ乗を$${7}$$でわったあまりって、$${6}$$乗するごとに1周するねん。」 「てことは、やで? $${\textbf{2}}$$のナントカ乗も一緒ちゃうんか? $${2^{12}}$$を$${13}$$でわったあまりが$${1}$$やったら、$${\textbf{12}}$$乗する

          第11話 くり返すあまり

          第10話 情報を活かせるかどうかは工夫次第?

           叔父の豪との電話を終えた後、大翔は筆記用具をカバンに入れ、塵劫神社へ向かった。  家から神社の入り口までは100メートルほどしかないが、大翔は周囲を警戒しながらそこを歩いた。数日前に来たときは夕暮れ時で人目もなかったが、今は土曜の真っ昼間である。下手をすると、神社に入るところを誰かに見られるかもしれない。 「ちょっと、千坂さん? おたくの坊ちゃん、誰の家かもわからない茂みに勝手に入って行きましてよ?」 などとタレ込まれてはコトだ。  数日前とは打って変わって、境内の中は明る

          第10話 情報を活かせるかどうかは工夫次第?

          第9話 戦国武将とトランプと暗号と

          「え、暗号?」 「おう。RSA暗号、言うてな。インターネットのセキュリティを支える大事な技術や。」 「え、マジで?? どういうこと?」 「なんやお前、暗号に興味あるのんか?」 「うん、ちょっと。」  大翔が最初に“暗号”という言葉と概念を知ったのは、幼い頃に見た何かの映画だった。タイトルはまったく覚えていないが、ニヒルなスパイが活躍するストーリーで、クライマックスで暗号を解読するシーンが出てきたのだ。敵国の警察の気配を感じながら、それまでに集めた情報をつなぎ合わせて、みごと

          第9話 戦国武将とトランプと暗号と

          第8話 お釈迦さまの手の上で計算していたという話

          「陽菜、俺とつき合うてくれ!!」  大翔は、清水の舞台から飛びおりる覚悟で頭を下げた。すると、彼女はニンマリと笑い、 「ええよぉ。ただし、これの数学の問題をぜんぶ解けたらな?」 と、2冊の本を渡してきた。どこかで見たことのある、ペーパーバックの分厚い赤いデザイン。  その表紙には、「京都大学 理系」、「東京大学 理科」と書かれていた。  ビクンとはねるようにして目を覚ますと、外はまだ真っ暗だった。 「夢か・・・。」  大翔はだるい体を動かし、枕元のスマホの待ち受け画面を開い

          第8話 お釈迦さまの手の上で計算していたという話

          第7話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 後編

          「ヨシザカエ様って、イヌ派ですか、ネコ派ですか?」 「はあ? なんえ、いきなり?」  大翔が「1人で問題をとく」と言って境内の入り口に座り込んでから、もうずいぶんたつ。神社に来た時は、夕焼けであたりいちめん朱色だったのに、今はだいぶむらさき色になってきている。  幼ななじみは、ときどき消しゴムや新しいルーズリーフをとり出したり、シャーペンの芯をかえたりしてはいるが、腰を上げる様子はまったくない。  最初はそんな彼を見まもりつつ、陽菜はまわりのケサランパサランにちょっかいを出

          第7話 問題を出したからには答えられなきゃウソだよね? 後編