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第16話 未明の怪異

 深夜。
 塵劫じんこう神社の境内を懐中電灯の灯りが照らし出した。
 境内の入り口の左端。真夜中だというのに、その人物は野球帽を目深まぶかに被っていた。
 野球帽の人物は参道からすぐに離れ、絵馬殿へまっすぐ向かう。
 懐中電灯をすこし持ち上げると、下から2段目の同じ吊り金具に3枚、絵馬がかけられている。もっとも手前にかけられた絵馬算額には、新しい謎かけが書かれていた。

次の数を素因数分解せよ
$${432652837}$$

「・・・・・・。」
 野球帽の人物がそれを見つめていると、背後から人がしゃべる声がボソボソと聞こえて来た。振り返ると、うっすらと別の灯りが近づいて来ているのが見える。彼(?)はとっさに新しい算額を持ったまま、絵馬殿の向こう側にある茂みに身を隠した。

「皆さん、見えておりますでしょうか? 大都会のはずれの山奥に、小さな神社が立ってます。すごくさびれてます・・・。」
 メガネをかけた小太りな男が、境内の入り口に立ってスマホを構えている。左手には懐中電灯。あろうことか、参道のど真ん中に仁王立ちである。
「鳥居もない、石柱もない。神社の名前もわかりません。完全に忘れられた神社です・・・。・・・はあ? 『絵馬がかかってるから忘れられてねぇ』?!」
 最初はひそひそ声でしゃべっていたのに、突然大声になる。
「うるせぇ、ばぁか! こんな寂れた神社に絵馬かけるヤツがいるかよ!!」
 これを聞いて、野球帽の男(?)は息を呑んだ。ひょっとしたら、こっちに来るかもしれない。
 だが、メガネの男が絵馬殿に向かってくる気配はない。
「ああ、うるせぇ、うるせぇ! たぶんアレだ。何十年も前のヤツが残ってんだろ! 行くぞ、次、次!」
 そうまくし立てて、メガネの男はそのまま参道に沿って奥へ進んで行ってしまった。さっきから一体、誰としゃべっているのだろうか?
「見てください。崩れかかった拝殿の裏に、やっぱりボロボロの本殿があります。普通の神社だと、ここまで入ってこれないこともすくなくありません!」
 またひそひそ声に戻ると、メガネの男は本殿の方へ遠慮なしに踏み込んでいく。
「・・・・・・!!」
 野球帽の男が歯ぎしりした。参道のど真ん中を通ったり大声でどなったりするなど、さきほどから無礼がすぎる。ここをどこだと思っているのか。だが、茂みに隠れた彼の歯ぎしりがメガネの男に聞こえるはずもなく、男は拝殿の裏に消えてしまった。

 バサバサバサ!!
「うわ?!」
 死角から何かに飛びかかられて、メガネの男は身を縮めた。すると、男のスマホの画面のチャット欄にコメントがパラパラと追加されていく。
- なんだ?
- どうしたw
- 演技まる出し草
「今、後ろから何かに飛びかかられました。一体、なんでしょう? あ、枝にフクロウが止まりました。たぶん、あいつだと思います。え、ちょ・・・。あのフクロウ、首がおかしいです。体は向こう向いてるのに、首だけこっち向いてます!!」
- いや、フクロウwww
- フクロウの首が180度以上曲がるのは常識
- これだから教養なしの迷惑系はよー
 男の慌て具合に対し、チャット欄のコメントは総じて冷めている。それに男が舌打ちしていると、フクロウはどこかへ飛んで行ってしまった。
「えっと、気を取り直して、本殿周りを調査してみたいと思います。・・・あ、見てください! 地下へ降りられる階段があります!」
 本殿の裏に、せまいが、人が1人通れる程度の大きさの穴が開いていて、本殿の真下に降りられるようになっている。
- マジか
- 急にガチっぽくなってきたw
- どうせ自分で掘ったんじゃねぇの? こいつそんなんばっかじゃん
「本殿の床下に、木製の扉がついてます。開けてみましょう・・・。お、意外にあっさり開きそうですっ。」
 木製の扉は、音も立てずに開いた。懐中電灯で内側を照らしたとたん、その灯りのど真ん中に何かが浮かび上がった。
「うわ?!」
 男は驚いて尻もちをついた。
- は?
- クジャク??
- 自演・・・はさすがにないか???
 扉の向こうには木造の廊下が続いていて、その入り口の真ん中でクジャクがこちらをまっすぐと見つめていた。
 クジャクのくちばしが、ゆっくりと動く。
「これより先は異界である。余所者よそものは立ち去るべし。」
「き、聞きましたか?! 今、クジャクが人の言葉をしゃべりました! 『これより先は異界である。余所者は立ち去るべし』と!」
- 空耳に決まってんだろw
- クジャクがしゃべるか
- セリフがテンプレすぎwwwwww
「今、聞こえただろぉ?! もっとちゃんと聞けって・・・。」
 男がチャット欄ともめているのをヨソに、クジャクが廊下から進み出て、男の体を足場にして上の地面に登った。そこから男を振り返り、
「忠告はしたぞ。」
とだけ言うと、そのまま飛び立んで夜の闇へ消えて行った。
「・・・・・・。聞こえた・・・よな?」
- 聞こえた・・・
- 俺も
- マ?
 スマホのマイク越しにも伝わったようで、チャット欄の空気が変わった。録音か腹話術を使ったトリックを疑うものもいたが、「それにしてはクジャクの動きが自然すぎる」とか「こいつに腹話術が使えるわけねぇ」という声に押されて消えた。
「活動を始めて1年。とうとうホンモノを見つけてしまったかもしれません・・・!」
- それは毎回言ってるw
「いや、今度こそ本物に違いないです! 中に入ってみます!」
- おいおい、画面揺れすぎ
- ビビってんのか?
- 手ぶれ補正入れろや
 安定しない画面に苦情が殺到したが、もはや男にはそれを見る余裕がなかった。やっとホンモノを掘り当てたという興奮と、「万が一のことがあったらどうしよう」という不安が彼を震えさせていた。

 暗い廊下を、懐中電灯の灯りを頼りに進む。木造の床がギシギシときしむ。廊下には曲がり角も分岐もなく、ひたすらまっすぐ道が続いていた。それも奇妙だが、もっと奇妙なことがあった。
「なんか歩きにくいと思ったら・・・。」
 男は一度立ち止まり、来た道を振り返り、灯りで照らしながら撮影する。
- なんだ、この廊下?
- 廊下か? 階段じゃねぇの?
- 階段にしちゃ、段がまばらすぎんか?
 廊下にはところどころ、下りの段差があるが、あまり等間隔になっていない。等間隔にならんでいるところがあるかと思えば、ずっと平らな部分もある。そうかと思えば、思い出したように1段だけ段差があったりする。
- 山道に作った通路ならともかく、なんで床張りの廊下がこんなにいびつなんだ??
- とりあえず、やらせじゃないのは確定
- せやな 手が混みすぎとるわ
 チャット欄もすっかり盛り上がっている。ここ半年ほどなかったことだ。
「とりあえず、まだ電波が通じているようで安心しました。」
- たしかにw
- 異界でもスマホ通じるんかw
- 普段の配信よりよっぽど安定しとるぞ
「うるせぇ。」
 軽口を叩いてはみたが、あおり多めのチャット欄が、今の彼には頼もしく思えた。
「足元に気を付けつつ、さらに奥へ行ってみます。」
- おう、がんばれ

 恐る恐る歩くこと、10分弱。
 とうとう、廊下のつきあたりに到着した。そこにはひときわ大きくて立派な観音開きの扉があり、その周りがちょっとした広間になっていた。そして、扉の左右には神社らしく、狛犬の像が置かれている。
- え、ヤバ
- まさか、このチャンネルでガチもの観られるとはw
- 何メートル歩いたよ? そんなデカい山じゃないだろ 普通に考えたら外に出るって
- マジもんの異界ってこと??
- 仮に異界じゃなかったとしても、シンプルに大発見やろ
「じゃっかん・・・、気分悪いです・・・。」
- またまたw
- ここまで来て余計な演出入れんな
「いや演出じゃなくって、緊張で・・・。」
- 緊張www
- いや、逆にリアル
- 霊の仕業とか言い出したら冷めたけどな
 実際彼の心臓は、周囲の音が聞こえづらくなるほどに脈打っていた。さながら、42.195キロを走り終えた後のようだ。しかしここで引き返してしまっては、せっかくのバズのチャンスをみすみす逃してしまうことになる。配信の同接者数は、普段の3倍はいる。
 深呼吸し、扉に手をかける。だが、押しても引いてもビクともしない。
- あかねぇの?
- どっかにカギ落ちてねぇか?
- ゲームちゃうねんぞ?
「いやそれ以前に、カギ穴自体、どこにもない・・・。」
 扉には取手こそあるものの、カギ穴はどこにも見当たらない。
- 向こう側にかんぬきがかかってるんじゃねぇか?
「いや。だとしたら、もうすこしガタガタ動くだろ。ホントに、1ミリも動かないぞ?」
- 謎すぎる
- もう終わる感じ?
- つまんね
「いや待て待て。なんか聞こえるぞ?」
 男が手を耳に当てて黙り込む。チャット欄も、めずらしく茶化さずに静まりかえった。
 ズルズルという、石か何かを引きずるような音が聞こえてくる。男は集中して音を聞き、その音がする方へ懐中電灯を向けた。
 それは、扉に向かって左側に建っていた狛犬の像だった。狛犬の首がゆっくりと動き、こちらを向いた。
「うわああっ・・・。」
- ウソだろ、マジか?!
- どうなってんだ!?
 狛犬が眉間にシワを寄せ、うなるような声で言った。
「これより先は神域である。余所者は即刻立ち去れ。」
「ま、またしゃべった!!」
- 絶対しゃべった!
- 口動いてたぞ!
 撮れ高としてはもう十分なようにも思えたが、一部の視聴者はさっき飽きかけていた。もうすこしねばらないと・・・。
「“神域”と言いましたね。俺はそこに用があります。ここを通してください。」
「グルルルル!!」
「ひいい!」
 密閉空間にいるせいか、狛犬のうなり声が四方八方から襲いかかってくる。
「うぬのごと不埒者ふらちものが神域に用とは、面白おもしろい。ここを通りたくば、われの謎かけに答えよ。さすればこの扉を開けてやろう。」
「な、謎かけ・・・。いいですよ、やります。」
 どんな謎かけかはわからないが、最悪わからなくても、こちらには100人以上の視聴者がいる。誰かは答えられるだろう。
「次の数の素因数とそのべきをすべて答えよ。その数は、

13939354309275076305593541747720291334531662830147943363047248480329561974512626616658680924736613963647277589558516987206394758266739014621473344017385833242053762368197390824641228346033530504061130540017885985989564258900510729551955657847775710841341664183340537910460641036921551170031066933259078130997520979044830218528069484887518971477603125205977292911646819723045428150832148157100019670776354078363790043169637784599072987867841182037027528650829815041176213599819507278988776775398578048149943510168930564569857184050640961277055716037811079693374590058330780187314847517479357781337146005404298159697499719924429483111291202434342510439892356690871130282241201940344178219176525008024329129928019648734226157588664838935565093209631427037042020753799699805987212280209554105114895734665415837773923883719668415760691771708224979201051816592213427588616149999331198111369831109089544122352053534600730062975541673673102841498587891273708065598009088187442207466447481077177755745678260891060022118115341909474432363751798479008171073253725478638325904860226770932772221713592503428968769201869777370016805704236471505922609001783897511239582841174365726013943131766907262197147698273626746960890716041174599757923689020927481392920398805795744863867436821181370119704822776734485506117032734793796151627589910290839390674035023120108052722440409615079113758487504705920287469462841794504814020684135547048414060976506485162235063748455383238281649132467503248900712819383026575100181190916950055534662415393695661145157902685475779624120941520508050373867203979245727182658438427823277520513357455340077880021182254834026189909020951256000592000872640099529854990213524065502155194921431724598973079754104400880187396424431876839496718173330519352471202858163723956039772563018458795583680135047657745729629287784771415902627804463087191843157028374798075554213965035391364048481838297742767050940848241731568711766850066069219960447772692572685947820099502600066985424662404749670309475294388918160580259861106021611837089296956411459


「・・・へ? ソイン・・・なに?」
- 素因数分解だよ、バカ!
- 数字、なんて言った?
- 聞き取れねぇよ、デカすぎて
- 誰か計算しろよ
- バカ言え、こんなもん解けたら数学者なるわ
- ああ? バカだと??
 “素因数分解”の意味すらわからない男はもちろん、チャット欄にいたっては答えるどころか、ささいな口論から炎上しかかっている。
 不意に、近くの床になにか重いものが落ちるドサッという音がした。男はあわてて音がした方、—— 扉の右側 —— へ懐中電灯を向けた。すると、そこにあるはずの狛犬の像がない。男は恐る恐る、懐中電灯を下へ向けた。
 浮かび上がったのは狛犬の像・・・ではなく、本物のライオンのようななめらかな獣の体。そしてその顔は狛犬でもライオンでもなく、人間の女性のそれだった。男の全身があわだつ。
「謎かけに答えよ。さもなくば・・・。」
 その、狛犬だったと思われるものはゆっくり男に近づき、まっすぐに男を見すえた。
「お主を引き裂いて、その身をくろうてくれようぞ!」
 とたん、狛犬のにたりと笑った口から先のわれた細い舌が踊り出し、瞳孔が針のように細くなった。
「うわああああ!!!」
- やばい、やばいって!!
- もういい、逃げろ ヤバい!
 来た道を全力で走って戻る。スマホも懐中電灯も、握っているだけで構えない。幸い道は一本だ。灯りがなくても戻れるはず。
 そう思ったとたん、何かにつまづいて転倒し、顔面をしたたか床に打ちつけた。むこうずねもどこかに打ち付けたようで、呼吸を忘れるほどの痛みが男を襲う。何につまづいたのかもわからないまま、ひざを抱えて声を押し殺してもだえていると、後方から「ひた、ひた」と足音が聞こえてきた。
 どっちだ? 左のヤツか? それとも・・・。決まっている。裸足のような足音がしているのだ、“女の方”だ。
 ヒトと爬虫類が入り混じったような、それでいて不気味なほどに端正な顔を思い出し、男は痛みをこらえて立ち上がった。
 走っても走っても、出口が見えてこない。そもそも痛みのせいでまともに走れていないような気もする。それに、とちゅうなんども転倒した。その間も、耳にまとわりつくように足音が聞こえてきた。恐怖で脚をもつれさせながら走り続ける。もうすでに、来た時以上の時間が経過していた。

 地面に棒で数字を書き連ねる。

$${432652837\div89=4861267\ \cdots\ 74}$$
$${432652837\div97=4460338\ \cdots\ 51}$$

「・・・・・・。」
 野球帽の男はすこしため息をつき、腕組みをした。
 そのとき、メガネの男が半狂乱になりながら境内を走って行った。
「?」
 メガネの男は参道をまっすぐ走り抜け、境内の入り口にいたって急に姿を消した。どうやら下り坂に対応できず、派手に転倒したようだ。坂の向こうから悲鳴が聞こえた。
 助けに行こうかと足を踏み出しかけたところで、彼は凍りついた。境内の入り口付近の中空がとつぜん輝き、その中から巫女装束に羽衣をまとった女神が現れたのだ。それに、大型犬ぐらいの大きさの獣が2頭付き従っている。彼女らはこちらには目もくれず、そのまま坂道を下って行った。
 彼はその様子を、ただ棒立ちになって見つめていた。

 神社への侵入者は、境内の入り口から二、三げんほどくだったところで仰向けに倒れて気絶していた。侵入者が使用していたすまほ●●●は、さらに半間ほど下に転がっていて、画面に蜘蛛くもの巣模様のひびが入っている。まだ配信は続いているようだったが、視聴者からの文章投稿●●●●は途絶えていた。あまりの恐怖映像にね、視聴を断念したのかもしれない。
流石さすがに、演出●●が過ぎたんちゃいますか?」
 吉栄光比売よしざかえひかるのひめの隣に立った狛犬が冗談混じりに言った。
「やり過ぎなくらいがちょうどええんや。こういうやからが二度とんようにしようとおもたらな。」
 狛犬にそう答えたのは吉栄光比売ではなく、彼女とよく似た顔をしたもう一頭の狛犬(?)だった。彼女(?)は倒れている侵入者の肩を前脚で引っ叩いた。
「やめなはれ。仮にも怪我人や。」
 吉栄光比売が狛犬女をたしなめる。
「やれやれ。いつの時代もこういう怖いもの知らずな不届者はおるんやな。そういう輩に限って肝っ玉が小さかったりするんやから、あきれたもんや。」
 吉栄光比売は侵入者のわきひざを付き、神通力で彼の傷を治し始めた。
「“怖いもの知らず”やからこそ、いざ、いう時に肝をつぶすんでしょうよ。『怖いものなんてこの世に存在せん、あり得へん』て思てるやろし。」
「そういう意味では、むしろ現代の方がこういう輩が増えたんでしょうな。どうやら、それで銭稼ぜにかせぎする手段もできたようですし。」
 狛犬男が、すまほ●●●の方をちらと見遣みやる。
「かなりの頭数あたまかずに見られてしまったしもたようです。どうどないなさいしはりますか?」
「どうするも何も、こうなった以上は後始末するしかしゃあない。」
 侵入者の治療を終えて、吉栄光比売は大儀そうに立ち上がると、すまほ●●●を取り上げた。
「あんまりこういうのは得意やないんやがな・・・。」
 彼女がすまほ●●●に手をかざすと、即座に配信が停止し、あーかいぶ●●●●●も削除された。それだけでなく、侵入者が使用しているおんらいんすとれーじ●●●●●●●●●●内の関連する情報も削除される。処理を終えてすまほ●●●を侵入者の体の上に放り投げると、吉栄光比売は今度は侵入者の頭に手をかざす。
「こやつが自宅で使つこてる端末にも情報があると、厄介やっかいですね。」
 狛犬女が眉をひそめて言った。
「その時はその時や。また別の手を考えるわさ。」
「しかし比売ひめがここまでせにゃならんとは・・・。面倒な時代になったものですな。」
あらゆる意味●●●●●●でな。あれ●●が外部に知れると、間違いなく人間共の社会が大混乱する。元はわらわの単なるたしなみやったんやけどなぁ・・・。」
「腹立たしいことです。」
「まぁ、ええ。人間共がかしこうなるならそれに越したことはない。」
 全ての処置を終え、吉栄光比売は立ち上がった。
「戻るえ。疲れたわ。」
「! 比売、しばしお待ちを。」
 狛犬男が鼻を境内に向けた。
「境内にまだ誰かおるようです。」
「なんやて?」
 一柱と二頭は絵馬殿の前までやってきた。狛犬男が後ろの茂みをしきりにぎ回るが、誰も見つからない。
「どうやら逃がしてもうたようです。この茂みをそのまま突破したんでしょう。無傷ではないでしょうね。」
「そうか。それなら、もうええ。」
「追わへんのですか?」
 狛犬女が吉栄光比売を見上げた。吉栄光比売はそれには答えず、すこし笑って言った。
大翔ひろとの言う数学徒●●●Xが現れよったわ。」
 周囲の地面にはおびただしい量の計算式がならび、絵馬殿からは大翔が奉納した算額だけがなくなっていた。

 その日、とある迷惑系の配信者が予定していた配信をしなかった●●●●●●●●●●●●●●ことについて、登録者の間で話題になることはなかった。その配信者はもともとそうしたことがよくあったが、そもそもその日の配信予定のことを誰も、本人すらもが覚えていなかった●●●●●●●●
 ただ本人や一部の登録者の頭の中には、正体不明の漠然とした恐怖だけがあった。以降、その日を境にその配信者のチャンネルは一気に失速して行ったのである。

To Be Continued…

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