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違和感があればそれを伝える。勇気は必要ない、日々の練習あるのみ。

第29回目は、カナダのヴィクトリアで文化コンサルタントとして活躍されているピアレスゆかりさんにお話を伺いました。ピアレスさんは今月27日からFXとディズニープラスで配信される「SHOGUN 将軍」で、文化コンサルタント兼通訳者としてディズニーと共同で言語や文化的理解の違いによって起こる現場での問題解決にも取り組まれていました。また、海外メディアにおける適切な日本文化への理解と表現を促進する活動もなさっています。そんなピアレスさんの生き方や想いを少しおすそ分けしてもらった記事がこちらです。

さまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ人々が集まる町、カナダ・バンクーバー。そこで活躍する日本人の方々とこれまでのステップや将来への展望を語り合う「カナダ・バンクーバーの今を生きる日本人」。それではどうぞ!

プロフィール
長崎県佐世保市出身で、カナダには1998年に移住。文化コンサルタントであり、ライター、ポッドキャストプロデューサーでもある。ビクトリア日系文化協会役員、全カナダ日系人協会(National Association of Japanese Canadians)の全国役員も務める。


文化コンサルタントはどんなプロフェッショナル?

写真提供@ピアレスさん
ウィニペグで開催された全カナダ日系人協会のカンファレンスにて、芸術文化教育委員会のメンバーと

──ゆかりさんは多才に幅広い活動をなさっていますが、ご紹介する際には何と表現するのが一番しっくりきますか?

今一番自分にしっくりするのはやっぱり文化コンサルタントですね。

──文化コンサルタントとは、例えば日本人が自覚する日本文化と海外の方が抱く日本文化とのギャップを埋めるような方でしょうか。


そうですね。

──具体的にはどのようにアプローチされるのですか?

文化コンサルタントと聞くと、例えば着物の着方を教えてくれる人、時代劇の時代考証でクレジットされたり、日本の伝統的な文化を教えてくれる人っていうのが一番わかりやすい定義だと思いますが、私がやっているのは文化的な違いから生じる文脈の相違を埋めることです。一般的に映画やテレビの世界でもやっぱり文化の差はあるんですよ。当たり前だけど、違う文化で育った人たちが一緒に仕事をすると齟齬が生じることがあります。例えば、日本文化を知らない海外スタッフが撮影で畳の上を土足で歩くと日本人スタッフや俳優さんは「えっ?!」って思うんだけど、その違和感をなかなか言わないんですよ。「それは違いますよ」って誰も言わないけど、でもやっぱりみんなモヤモヤしていて現場に気まずい雰囲気が流れたりします。SHOGUNという作品ではディズニーから連絡が来て、現場の問題相談兼解決に尽力してくれないかと依頼されました。

──人事ではないですよね?

人事ではなく、文化の違いから生じる気まずさや揉め事、はっきり言わないがために起こった勘違いなどを解決していきます。私自身もこういう問題への取り組みはとても必要だなと思っていて、それで少しずつ問題解決に向けた活動をしていってクライアントから声がかかるようになってきました。

──通訳さんとは役割が明確に違いますね。

そうですね。例えば通訳が5人いたとして通訳のAさんとBさんが揉めている時に、利益相反になるので通訳のCさんがそこに割って入って話を聞くことはできないじゃないですか。でも私は通訳のグループではなく、ディズニーから来た外部の人ということで事情を聞くことができました。外部の人だから切り込んでいける問題もあります。

──このお話を聞くまでは、ゆかりさんは日本人として対海外に向けてコンサルしていらっしゃると思っていたんですけど、それだけではなく海外にいる日本人のモヤモヤを解消するためにも動いてらっしゃる印象を受けますね。

実はそういうお仕事の方がニーズが多いです。海外では日本的な考え方や文化の違いを説明する人が必要なんです。ディズニーから声がかかった理由ははっきりと聞いたわけではないですけど、「ベスト・キッド」の続編で「コブラ会」というテレビシリーズがあるのを知っていますか?

──見てはいないんですけど、ゆかりさんのポッドキャストでタイトルは聞いたことがあります。

元々ベスト・キッドは日系で空手の達人Mr.ミヤギが、アメリカの少年に空手を教えるという話じゃないですか。だからその続編であるコブラ会でも日本文化はかなり話の中心にあるはずなのに、ドラマのワンシーンに映った石碑の日本語が滅茶苦茶だったり、それ以外にも違和感のある描写がいくつかあって、それについてSNSで声を上げたらCBCでインタビューされたんです。だからそういうのが個人的にもすごく気になるんですよ。
日本人スタッフを一人雇えば済む話なのに、それをやらないで適当にGoogle翻訳等で見様見真似で紙に書いて、それを手紙という劇中の小道具として使っているわけです。そういうことはやめましょうよ、という話です。もちろん予算の都合もあるから、日本からスタッフを全員連れてくることや日本のものを全部揃えることはできないというのはわかりますよ。でも海外メディアが発信している「なんちゃって日本文化」に対して、それはおかしいよって言うのも文化コンサルタントの仕事の一つだと私は思います。

──他文化へのリスペクトですね。

そういうのは結果的に日本文化を疎かにしている、もしくは日本人としてなんか馬鹿にされているような気がするから、そういうのをやめてくださいっていうのを発信しています。でも映像業界でもそういった文化に対する意識やリスペクトの機運が高まってきて、文化コンサルタントが活躍する機会はちょっとずつは増えてはきているんじゃないかなと思います。

外国人はみんな長身・金髪・鼻が高いは幻想

ーゆかりさんが思う「日本文化」を言語化していただくことはできますか?
難しいですよね。それは私達が自然に感じているものです。でもはっきりと意思や意見を言わないのは日本人独特の文化だと思います。他者に文句を言いたくない、不平不満を言いたくないというのも日本の文化。もちろんみんながそうではなく、そういう傾向があるという意味です。

──最初から文化コンサルタントとして始めたわけではなく、ご自身のアクションがきっかけで今の活躍があるんですね。

そうですね。

──人によっては「日本人は黒髪」のような外見的な偏見や先入観があるとよく聞きますが、日本人の内面的な部分について固定観念はあると思いますか?

内面にも固定観念はあると思います。日本人の女性はおとなしく男性の言うことをよく聞くとかですかね。でもそういうのってもう古いし、私がそれにはまってないんだよと夫にはよく言っていますね(笑)「君は伝統的で典型的なタイプの日本人女性じゃない」って言われますけど、そんなの当たり前じゃん、と(笑)

──文化や習慣は時代とともに変わると思います。私自身もそうですけど、暮らし方も随分と西洋化されています。

昔からの文化が悪いということではなく、やっぱりその物事の背景がすごく大事だと思います。日本人女性は専業主婦ばっかりじゃないよねと。女性でバリバリ仕事をしている人もいるし、主夫をしているお父さんもいるよっていうその気づきを与えるというのが仕事だと思うんです。だからこそ、当たり前だけど全部白黒で言い表せるわけじゃないです。100%の女性が専業主婦ではないし、かといって100%の女性がワーキングマザーのわけもない。その中間っていうのがあるわけですよね。それを説明するのも私たちの役割だと思います。

──海外の方たちは、それをどのように受け取っていらっしゃいましたか?

割と素直に「そうなんだね」って言ってくださいますね。やっぱり学ぼうと思ってる人は理解しようとしてくれますし、君は間違ってるとか言われたことはないです。「知らなかった」って言ってくれるから、そういう意味ではやりがいのある仕事ですよね。でも海外作品を制作する場合には、これが間違ってるのはわかるけど予算の都合上どうにもできないと言われることもあります。やっぱり海外にそういうスキルのある日本人が足りないのかもしれませんね。

──Netflixを見ているとアジア人の活躍がすごいですね。動画配信のコンテンツにいろんな国の資本が入ってきているということもあるでしょうし、オリジナルコンテンツが競争の鍵であればいろんな人種でいろんな文化が題材の作品がもっと増えていくのかもしれませんね。

でしょうね。だから文化コンサルタントと同じく、今ニーズが増えているのはインティマシー・コーディネーターです。

──インティマシー・コーディネーターとは?

例えばラブシーンのときにその演技指導をする人で、おそらく昔はいなかったんですよ。以前は大勢のスタッフを前に服を脱いだり、みんなの前で演技しないといけなかったのが、今はガイドラインができて、そういう時は必要最低限のスタッフしか入れなかったり、体同士が触れ合うときはそこにいろいろ貼ったりとかするそうです。私のPodcastでインティマシー・コーディネーターの方に来てもらったんですけど、仕事として増えてきているそうです。やっぱりみんなの意識が変わってきているのかなとも思います。

──ゆかりさんのポットキャストを拝聴していた時に、侍やヤクザじゃなくても普通の日本の日常を海外作品で見たいよねっていうお話をされてて、それは今どこがハードルになっているんでしょうか?

参考:Podcast 「はみだし系ライフの歩きかた」195話

松崎悠希さんとの対談の会ですね?やっぱり彼が言うのはハリウッドの意識っていうのを変えないといけないと。ハリウッドでは日本=侍・チャンバラ・着物っていうのがまだあるし、それを変えていかないといけないとは仰っていましたね。

──逆にアメリカではなくカナダだからこそ、より柔軟な変化が可能だということはありませんか?

それはあると思いますよ。バンクーバーにも日本人監督が数人いて、日本人の日常を題材にした作品を撮っている人たちもいますし、そういうフィルムメーカーが増えてくれば日本文化への印象は変わりやすいかもしれません。

誰が自分を定義するのか

写真提供@ピアレスさん
ビクトリア日系文化協会主催の日本文化祭にて、丸山総領事と


──ゆかりさんは、カナダの日系コミュニティにも深く拘っていらっしゃいますよね。

元々、私が住んでいるヴィクトリアにはヴィクトリア日系文化協会というのがあって、それは80%が日系カナダ人で日本文化が好きな人が集まる団体だから誰でも参加できます。そこで主催する日本祭でボランティアをしていて、そこの理事に入らないかと声をかけていただいたのがきっかけです。その理事はもう10年ぐらいやっています。全カナダ日系人協会(National Association of Japanese Canadians)の方は2022年から所属しています。

──NAJCは、主にどういうことに取り組む組織なんでしょうか?

日系カナダ人の社会を良くすることですね。例えば人種差別であったり人権やトランスジェンダーについても声明を発表することがあります。

──カナダにいる日本人ではなく、こちらで生まれた日系カナダ人の方とお話される機会も多いと思うんですが、みなさんはどんな悩みを抱えていらっしゃるのでしょうか?

日系カナダ人の中には日本語が話せない人もいます。そこで自分と日本の間に隔たりを感じたり、日本語が話せないからおばあちゃんと話せない、そもそも日本に行ったことのない人もいっぱいいますよね。
戦時中に強制収容された世代を私達のコミュニティでは一世と呼びますが、そのような背景からも日本人であることを隠して生きてきた人もたくさんいて、親から日本語を教えてもらえなかったり、世代的トラウマもあったりします。だから私が知っている日系カナダ人アーティストの中にも、自分を日系カナダ人と思ったことがなかったという人もいるし、私が自分のことを日系と呼んでもいいのか、日本のことを何も知らないし、日本人である祖父母の話を聞いたことない人たちもいて、アートをやっていても伝統的な日本とは関係ないのではないかと感じている人たちもいます。

──アイデンティティに関する悩みですね。それはでも自分の中で納得していくしかないんでしょうか。

そうですね。あなたはこうだから日系、あなたは駄目って誰にもジャッジできないですから。日系カナダ人と呼ばれるけど自分では日系カナダ人じゃないっていう人も中にはいるかも知れない。日本人から移民した人でカナダ人になった人とかもいるわけで、自分は日本人とも思ってないと言う人もいるでしょうし、そういうのは本当に人それぞれで誰が正しいとか答えはないですね。

環境ではなく自分がどう生きるか

写真提供@ピアレスさん
企画に関わった日系アーティストのシンポジウム 「芸:Art」シンポジウムにて

──今まで人のために長年活動されてきたゆかりさんですが、そんなゆかりさんの夢って何でしょうか?

何だろう・・・。

──ずっと続けてらっしゃるわけですから、何がゆかりさんの原動力なんだろうってすごく気になっていたんですよね。

自分を動かすモチベーションは何かといえば、みんなが生きやすいような社会を作るということかもしれません。私はブッククラブも開催していて、それは別に仕事というわけではなく何故やっているかというと、日本独特の息苦しさや生きにくさを少しでも失くしたいからです。全員が思い通りに海外に出られるわけじゃない、現実的にお金もかかるし、ご高齢の家族がいるんだったら勝手に置いて移住はできないですから。あと無責任にカナダに移住しておいでよとは言わない。ここは私の土地じゃないんですよ。だから良いところだから遊びにおいでとは言いますけど、もう絶対移住した方がいいよとは言わないですね。それらを考えると、その人がどこに住んでいようと、その場所でもっと生きやすくなればいいんじゃないかな思っていて、それは例えば同性婚の容認、入管問題であったり全部そこに繋がる気がします。

──今お聞きする中で思ったのが、ゆかりさんの今の活動のスタンスって「教える」じゃなくて、「伝える」もしくは一緒に「学んでいく」ことなのかなと感じました。その人にとってのベストが自分と必ずしも同じとは限らない、という前提のもとで選択肢を伝えているのかなと思いました。

そうですね。ブッククラブで言っているのは「この本を読めば、このブッククラブに参加すれば自分の人生が生きやすくなるんじゃなくて、これをきっかけにあなた自身が何かを始めてほしい。」ということです。やっぱり「何かを言う」というのが今の日本ではものすごくハードルが高いから、誰かに何歳までに子供を作らないといけないだとか、いつ結婚するのかと言われたときに「まだそんな質問するんですか」って言える人を増やしたいというのがありますよね。例えばハリウッドだったら、日本人だからってその侍の役ばっかりっておかしくないですかって言う人が増えるようにするとか、それは文化コンサルタントが言わなくてもアシスタントディレクターや脚本家が声を上げても良いわけです。だから自分の暮らしている場所で、そういう風に自分の気持ちを堂々と言える人を増やしたいというのが根本にあるんじゃないかなと思います。

──その考え方は、日本にいらっしゃる時からお持ちだったんですか?

こちらに来てからです。日本にいたときは夫婦別姓とかも考えなかったですし、結婚したら名字が変わるんでしょって思っていましたよね。でもカナダに来てからいろんな人に会って、いろんなことを読んだり見たりして変わりましたね。

──ゆかりさんのこれから目指していらっしゃることは果てのない旅のような

そうですね。自分も常に成長していて、行きたい方向はあるんだけどゴールはなくて、やってみたらこっちにも行ってみたいなってなることが結構多いです。5m先にこれがあって、15m先にまた違うものが見えてくるっていうのはあるわけです。色々とご相談をいただいて「こうしてみるのも良いんじゃない?」って言うと「それはゆかりさんだからできるんですよ」と言われるんですが、それは違うと言いたいです。本当は誰でもできるんです。ブッククラブで「今日は〇〇って言えました」とか聞くと嬉しいし、その人を褒めたくなるんです。もちろんいきなり100%にはなれないし、迎合しちゃったり変な言い方をしてしまったりとかは誰でもあるわけでしょう。だからもちろん毎日100%じゃないから日々練習しますね。間違ったり失敗しても明日頑張ればいいやというのが大事です。

あとは、人にたくさん会うことはすごく良いと思うんですよね。「ゆかりさんお金にならないのに、なんでそんなボランティアするんですか?」ってよく言われるんですけど、ボランティアはもちろんお金にならないけど、お金では買えないものをそこからたくさんもらったんです。私が生きる上で文脈とニュアンスは重要なキーワードで、ヴィクトリア日系文化協会で理事になって毎年の日本祭や餅つきも楽しいんだけど、NAJCで全国理事にならなければ見えなかったものもあったりして、そういう活動が繋がって今ではカナダの日系カナダ人や日本人のアーティスト人脈に強い自信があります。そういう事も含めてすごく感謝しているので、できればいろんな違う人たちと会ってみるっていうのはすごく大事だなと思いますね。


──今日こうしてゆかりさんとお会いできたことにも感謝です。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

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編集後記

実は、自分が取り組んでいるプロジェクトを進める中でゆかりさんのお名前を伺っていました。その時から誰かのために活動していらっしゃること、そして実績もある方であることだと認識していたのでこれはぜひお話を聞いてみたいと思い、失礼を承知でご連絡させていただきました。どこの馬の骨ともわからない私がご連絡するわけですし(笑)、お忙しい方ですからお返事が返ってこない可能性も覚悟していましたが、なんとお返事をくださりそして実際にお会いしてお話をさせていただけることになりました。

お会いする前にPodcastも拝聴させていただいて、なんて心地よい声なんだろうというのが印象にとても残っていました。ゆかりさんはご自身のチャンネルで配信もされていますが、社会問題からマインドセット、エンターテイメント業界の話題まで幅広いトピックを扱っていらっしゃるので、ぜひ皆さんも1度聞いてみてくださいね。

ゆかりさんのすごいなと思うところは気持ちを言語化する力、やりたいことを形にする力であったり周りを巻き込んでいく力です。他にもたくさんありますが、私自身が足りていないなと思う部分で何か一つでも吸収したいというのがインタビュー時の率直な私の気持ちでした。やりたいことはある、理想もある、行動もしている、でもそれが前に進んでいかない歯痒い現状から抜け出したかったんだと思います。進むべき方向に進んでいたら自然と人の縁が出来て物事は前に進んでいく、というメッセージを勝手ながら私はゆかりさんとのお話の中で受け取らせていただいて、猪突猛進タイプなので一旦立ち止まって俯瞰して見てみるきっかけになりました。

末筆ではありますが、この度インタビューを快諾してくださったピアレスさん、本当にありがとうございました。

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