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【海外生活】カナダでの国際結婚、夫の産後鬱を経験して【カナダ】

第27回目は、国際結婚、出産や育児、夫の産後鬱なども経験されて、それでも前向きに子育てに奮闘しているカナダ在住の日本人女性の方にインタビューしました。今回は匿名でのお届けとなりますので、ここではAさんとお呼びすることにします。またAさんはカナダでの養子プログラムを真剣に検討されていた経緯もあり、そのお話もお聞きしました。

さまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ人々が集まる町、カナダ・バンクーバー。そこで活躍する日本人の方々とこれまでのステップや将来への展望を語り合う「カナダ・バンクーバーの今を生きる日本人」。それではどうぞ!

※このインタビューの内容はAさんの経験談をもとに作成しています。カナダの養子に関する最新の情報は、必ず政府機関か専門家にご相談ください。


養子という選択肢

——カナダの養子制度を知るきっかけになったのは何でしたか?

私は持病の関係で子供が出来にくいと言われていたので、結婚して夫婦で子供の話をした時には養子を迎えるという選択肢がすでにありました。実際にそのプロセスも始めたんですが、やっぱり思った以上に費用がかかったんです。ちょっとこれは経済的に続けることができないから諦めて、そしたらその1ヶ月後に妊娠が発覚しました。でも妊娠がわかるまでカナダの養子や里子という制度を真剣に考えていました。

——差し支えなければなんですが、Aさんが検討されていたカナダの養子制度はどのようなものだったのか、わかる範囲で教えていただけますか?

私達の場合は、養子プログラムを開催してる団体に連絡を取って、そこからミーティングがあり、プロセスをどうやって進めていくかの話を聞きました。養子を迎えるにあたって勉強会があったり、家庭訪問があってこの家でいいか、どういう環境に両親が住んでるかなどの細かい審査がたくさんあって、それからウェイティングリストに登録します。カナダ国内だとプログラム授業料や諸々含めて300万くらいかかります。

——授業料というのは?

どうやってその養子を育てるかだったり、審査にかかる費用、家庭訪問にもお金がかかったりするのでその費用で総額300万円ほどかかるって言われました。ちなみに海外から養子を連れてくる場合には、その300万にビザの手続きなども加算されるので600万程の費用感でした。ただそれは新生児を養子に迎える場合です。新生児プログラムは、実母がすでに妊娠してる段階で、子供を育てないという選択をした家族がその子供をどこに養子に出すかを決めて、応募者は生まれて12ヶ月以内の新生児を養子に迎えられるというプログラムでした。だから選ぶのは妊娠してるお母さんなので、同じ金額を払ってもどんなに長くウェイティングリストに入っていても選ばれなければ一生選ばれないんです。ある意味「運」ですね。

ただ私達夫婦はそのプログラムに違和感がありました。説明会の段階で、新生児の養子プログラムの場合にはそれだけ費用がかかることは理解しました。でもすでに施設にいる子供達を養子にとる場合は費用がほとんどかからないんです。施設といっても、いろんな年齢の子がいる中でも障害を持っている子や虐待を受けた子が割合的に多く、親が育てられないとか、ネイティブで貧しくて育てられないとかそういった理由もあるそうです。なかには親の生活が安定したら迎えに来る前提で一時的に預かっている子供もいるし、そう言っていたけど結局誰も迎えに来なかったとケースもあるそうなんですが、ただそこで養子を迎える場合にはほとんどお金がかからない、なぜならその子達を養子に迎えたいっていう人が少ないからです。仮に障害があったり虐待された子を引き取る場合には、迎える家族ももっと心のケアとか基礎知識を勉強する必要があると思うし授業料だってかかるはずなのに、そうではなく新生児の場合に対しての方がそれだけの授業料がかかるっていうのが、人の売り買いを連想させたんですよね。

——新生児がブランド化されているんですね

同じ費用がかかるならわかるんです。養子を迎える家族も養子になる子供達もそれだけの勉強をしてくださいっていうのは納得できるけれど、新生児っていうのは人気でそれはもちろん小さければ小さいだけ良いとされるわけです。新生児を迎えるにはそれだけの費用を請求するのに、6歳とか10歳ぐらいの子、何か障害があったり虐待されたりとかそういう子たちに対しては、そこまでの費用もかからずに引き取ってくださいっていう現実に理不尽さを感じてしまったんです。それから夫ともすごく話し合って、結局私達は私が妊娠する可能性がある年齢までは、養子という選択肢は保留にしようという決断をしました。

ただ、もう妊娠はできません、でもまだやっぱり子供が欲しいなと思ったら新生児ではない選択肢を受け入れようかという話はしていました。それでもあの時、結果的に養子プログラムを進めなかったのは、もしも養子を引き取ったあとで自分の子供が生まれた場合に、私達は覚悟を持って受け入れてるからその子に障害があろうが何しようが受け入れるけど、私達が死んだ後には子供達が助け合って生きていかなきゃいけないと同時に、弟や妹に介護という義務がかかってくるわけです。でも、それはあくまで親が望んで決めたことであって、それを子供達に強いることは私たちの望みとは違うと思ったから、私は自分が妊娠できなくなるその時まで夫婦でまずトライしようと決めたんです。

——その養子プログラムは政府のプログラムだったんですか?

そうだと思います。カナダには養子を迎えているご家族もたくさんいます。それこそ国外からお迎えしているご家族もいます。私たちはその当時、フィリピンから養子を迎えることを検討していて、それはフィリピンが夫のルーツだったからです。フィリピンではフェイスブックで「赤ちゃんいりますか?」みたいなやりとりもあって、それで本当にたまたま夫の従兄弟が養子を迎えたんです。子供を経済的に支えられないとフェイスブックにアップされていたらしいんですけど、出生届を従兄弟の名前で出したらもう「今日からあなたが親です」と、それ以外には何の手続きも要らないっていうのがショックでしたよね。フィリピンもまだ貧しいからかそういうことも結構多いらしくって、でもそれはさすがにフィリピン国民じゃないと出生届が出せないから、カナダにいる私たちの場合は正規の手続きが必要だったんです。

SNS上で子猫みたいに子供がやりとりされるっていうのは、その子供達が幸せな家庭に行けるんだったらとも思いますけど、臓器売買やそういった犯罪に巻き込まれる可能性だってあるわけですから・・・。。自分達の知っている世界が本当に狭いなっていうのがよくわかりますよね。

子育てで初めて直面した文化の違い


——カナダで出産なさって、今は子育てに奮闘中ですね。出産も一大事だったのでは?

私は持病の薬を飲んでいるんですが、妊娠中にも体調であったりお薬がホルモンに作用するって言われて、お医者さんからはそれが原因でアップダウンが激しくなるからと言われていたんです。だから妊娠中も自分の気持ちが安定しない時期もあったし、それこそ漠然とした子育てへの不安や妊娠していることへの違和感がゼロではなくて、生まれてからちゃんとこの子を愛してあげられるかなって不安になることもあったんです。

それが今度は子供が産まれると産後ハイになったんです。産後1ヶ月はすごく疲れているのに全然眠くならないし不安もなくて、2人目もすぐ欲しい!みたいな状態だったんです。

ただ変化があったとすれば、夫婦喧嘩が増えたんですよね。やっぱり子供のことになるとお互い譲れない部分があって、ここにきて文化の違いがより顕著に現れるようになったんだと思います。私は日本のサイトを参考にするし彼はカナダのサイトを見て勉強するから、何を幼児期に食べさせるかその他にも些細な違いで喧嘩になっちゃった時に、私の身内は彼しかいないのにこんな喧嘩をして逃げ場もなかったんです。

でもそれは彼も同じで、結局私達は2人とも閉ざされた環境ですぐに頼れる第三者がいないことが不安だったのかもしれないですね。私が日本にいたなら実家に駆け込んで2−3日頭を冷やすっていうのもできたと思うんですけど、そうはいかないですから。

——今までは国際結婚でも文化の違いを感じていなかったけど、子供という新しい要素が2人の人生に加わったことで改めて文化の違いを感じたんですね。

最近は小さいことでも話し合いをして、お互い喧嘩が勃発する前に冷静に話し合って折り合いをつけるようにしています。私も少し考え方が変わって、日本版の参考書通りに完璧にやろうとするとちょっと細かすぎるかもしれないなと思うようにして、「これは駄目、あれも駄目、キッチン仕事で重いものは持っちゃ駄目」って書いてあったとしても、カナダの産婦人科に行ったら全然大丈夫だよ、お腹が張ったら休めばいいよって言われることもあるから、ルールではなくアドバイスだと思えるようになった気がします。

——旦那さんのご家族との文化的な違いもあるわけじゃないですか。向こうの親御さんには遠慮せずに甘えることはできていますか?
遠慮はしてないですね。ご両親はフィリピン人なんですけど、よく言えば大らかだし悪く言えばルーズな部分も多いと思うんです。日本人はホスピタリティを大事にしてるから、両親が来るときはいろいろ掃除したり準備したりするからいきなり突発的にこられると困りませんか?

——私も準備したい派ですね。両親はお酒を飲むのでお酒を買っておいたりとか。

都合がつきそうだから遊びに来るよって事前に教えて欲しいんだけど、でも向こうは気にしないんですよね。これは本当に文化の違いです。それを友達のフィリピン人の方に言うと、フィリピンは近くに来たらふらっと立ち寄って顔見せたりとか、そういうちょっとした交流が大事なんだよって教えてくれました。こういうギャップはありますけど、すごく良いご両親でお母さんも日本のドラマに出てくるような姑っぽい感じもないし、どっちかというと友達みたいな距離感でそれはすごく感謝してます。

ただ、妊娠中は精神的に余裕がなくて1人になりたかったんです。そのときに義母さんに家にいられると正直ちょっときつかった(苦笑)喧嘩もすごくしましたよね。私が悪阻の時に義母が良かれと思って、油多めで香辛料がぷんぷん匂う中華料理を買ってきた時には大喧嘩しました(笑)家中がきつい香辛料で臭いし、食べれないっていってるじゃん!って泣きながら自分の部屋に半日引きこもっていました。

あと申し訳なかったなと思うのが、子供が生まれたときに「この子は自分の子だ!」っていう、誰にも触られたくないっていう気持ちがすごく強くて。

——母親の防衛本能でしょうか。

そうなんですかね。生まれたとき、義母もその場にいてくれたんだけど、義母さんと子供との2ショット写真がないんです。撮る余裕がなかったというのもあるけど、なぜか触って欲しくなかったんです。夫にも触って欲しくなかったですし(笑)唯一、私の実母が抱っこする時だけ私も安心して任せられたんです。今はそんなことは全然なくて、むしろ抱っこしてもらえるなら大歓迎という感じなんですけど、生まれてすぐはどんなに疲れていても私がこの子を抱っこしなくちゃって思っていました。

——これからは言語も含めてお子さん自身もお父さんお母さんもいろんな選択が待っていますね。

正直にいえば日本語を喋って欲しいという気持ちもありますけど、でもどうしても彼が家にいる時はコミュニケーションは英語になります。私と子供2人きりの時も英語で話していることもあります。私自身が日本語を喋ってるときは頭が日本語モードになって、英語モードのときは英語だからミックスするのが苦手なんだと思います。

——私もいろんなお母さんとお話する機会があって、海外でその日本語を子供にも教えたいと思うと意識してやらないと子供も自然には覚えづらいというお話も聞きます。

私たちにはまだ先の話ではありますけど、お母さんがあまりにも日本語に関してストイックすぎて子供が話さなくなっちゃったっていう話も聞いたことがあって、お母さんとは絶対日本語で話すというルールがあると、日本語を喋りたくないからお母さんとは喋らない、お母さんとの喋り方がわからなくなっちゃったっていう話も聞いたりしてどうしようかなって思いますよね。

——私は言葉って文化な気がしていて。もちろん英語にも「context」はありますが、日本語は単語1つに感情や情緒が乗っていたり、他の言語だと名前がつかないようなものに名前がついたりして、それが日本語の美しさや複雑さを作っているんだと思いますし、オノマトペもそれと通じているのかなと思いますよね。

日本語ってすごく綺麗な言い回しが多くて、誰かが言っていたんですけど「木漏れ日」を英語では訳すことができないとか、そういう繊細さや日本の情緒みたいな部分を将来子供が汲み取ってくれたら嬉しいなと思いますよね。それと同時に、私が子供に対して喋ってる内容を彼が理解できた方が良いのかなとも思うんですよね。例えば、しつけで私が何をどういう風に子供に伝えているのかを父親にもわかってほしいなって。そうすると英語になるのかなとも思います。

——お子さんが一言目になんて発するんですかね?

それが密かに彼が「Can you say “DADA”?(パパって言ってごらん)」って刷り込んでるのを先日目撃したんですよ!こっそり抜け駆けしてるんです(笑)しかも私に聞こえないように小声で言っているから確信犯です(笑)

——旦那様はもうすっかりパパですか?

パパなんですけど、実は彼はしばらく産後鬱だったんです。それだけ密に育児に関わってるからこそなのかなとも思ったんですけど、彼はすごくイライラしていたし、それまでそんなにイライラしてる彼を見たことなくて、それこそ生後1ヶ月ぐらいのときに彼の気持ちがどん底まで落ちて泣きながら「どうやってこの子を愛していいかわからないし、愛せないことにも罪悪感を感じて苦しい」って言われたんです。

でも産後1ヶ月でそれを旦那に言われて、私の気持ちは考えたことあるのかって思ったし「だったらもうその子に触らないで!」って言いたかったけど、でもここで私がそういう態度をとったら彼は2度と本音を言ってくれなくなるだろうな、我慢することになってしまうだろうなと思って踏みとどまりました

「愛せないっていうけど、だってあなたはこの人に出会ってまだ1ヶ月しか経ってないんだよ?子供は泣くのが仕事だし、彼のいいところもまだ何も見てないよ」って伝えたんです。そんなに焦って愛がどうのって言わなくてもいいと私は思うよと、子供が産まれる前の人生に戻りたかったとしてもそれだけは叶えられないから、それだったらどうしたら少しでも気持ちが楽になるか2人で探していこうよって伝えました。

彼も「僕も望んで妊活していたわけだし、想像を絶する大変さで自分の中でもうまく対応できてないところがあるんだと思う」って言っています。今は子供が反応して笑ってくれたりするからすごくかわいがっていて面倒を見ています。男の人だろうが女の人だろうが、初めてのことだから戸惑うのが普通だと思いますし、今までがのほほんとしていたからこれが私達にとって初めての試練なのかなと思って一緒にうまく切り抜けていきたいなと思います。

編集後記

お話の中で「でもここで私がそういう態度をとったら彼は2度と本音を言ってくれなくなるだろうな、我慢することになってしまうだろうなと思った」という部分がありましたが、何度イメージしてみても同じシチュエーションで私からはこの言葉は出ないだろうなと思います。傷つくことを言われても相手を思いやることができるAさんすごいなぁと思ったと同時に、でもそれは彼女の優しさであって強さではないですし、自分ではなく自分たちの子供に対してネガティブな言葉を言われて傷つかない母親はいないです。
例えば、産後鬱はなかなか友達にも言いにくいだろうし家庭の中で解決しなきゃと思うかもしれませんが、世の中にはカウンセラーがいて第三者に頼ることも時には大切だと思います。旦那さんも辛いと思いますが、子供を育てながらパートナーのケアもしなきゃいけないと自分の心が疲弊してしまいます。世のお母さんは頑張り屋さんが多いので、どうかご自身が苦しい時には人を頼って欲しいと思います。

文化の違いということで言えば、私の夫はカナダ出身で父親がイングランド系カナダ人、母親が韓国人です。私がカナダへ来てから気がついたのは「カナダ人」を形容することがいかに難しいかと言うことです。「カナダ人」には私の夫のように生まれてからずっとカナダで暮らしているミックスもいれば、20歳から移住して市民権を持っているカナダ人もいます。わかりやすい例では、カナダの家庭料理は?と聞かれても、〇〇系カナダ人のようにどこがルーツかによって答えが全く違うわけです。「カナダ人は〜」と主語を大きくしてしまうことはなるべく避けるようになりましたが、今でも不意に使ってしまうことがあります。そして私が結婚して戸惑ったのは、Lady Firstと男性を立てる文化です。彼のお父さんはLady Firstなのですがお母さんは男性を立てる文化で育っています。私が階段を登るときに父に先にどうぞと言われて登ろうとすると、母に「男性が先よ」と言われたこともあります。文化の板挟みです(笑)その時は家庭内の力関係を考慮して、母親の考えを尊重しました(笑)

このように海外に暮らすと日々の小さなことから子育てといった大きなトピックに至るまで文化の違いを経験することになりますが、大切なのは相手の文化も尊重し、かといって自分の文化を疎かにせず考えを臆せずに共有することだと思います。これは国際結婚に限らず同じ日本人同士にも言えることで、すき焼きは甘口派か辛口派はできれば結婚する前に知っておきたいですよね。そこから始めてお互いに歩み寄るか否かの議論が生まれます。
私はカナダに来てからも食事の前には「いただきます」をします。そうすると、いろんな方が「それは何?どう言う意味があるの?」と興味を持ってくださいます。他民族の国で単一の「正しい文化」は存在しないと思います。「郷にいれば郷に従え」と言う言葉がありますが、カナダの場合は「郷」にあたるのが「自分が育った文化も尊重し、相手にも同じように生まれ育った文化があるということを尊重すること」だと私は理解しています。このおかげで日本の文化を改めて考えるきっかけにもなりましたし、何かを察するのではなく積極的に興味を持ち、コミュニケーションするようになりました。

末筆ではありますが、この度インタビューを快諾してくださったAさん、本当にありがとうございました。

最後まで読んでいただきありがとうございます!!

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カナダの日本人アーティストにインタビュー


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