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サンタさんへ こいつはあずかった 3/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

■河川敷・サッカーコート(試合中)

 天嵩の胸ポケットの中、10cmほどの大きさに縮んで収まっているマッシとコテッシ。

マッシ「コテッシ!」
コテッシ「はいっ!」

 コテッシ、ポケットからスタスタと出て垂直に駆け下り、天嵩の腰までたどり着く。どこからかコテッシと同じくらいの大きさのジェットエンジンを取り出し、噴出口の反対から出ているベルトをぐいぐい引っ張り出す。十分な長さが引き出せたら、輪っかを作って頭上に向かって思い切り投げ、天嵩の上半身をくぐらせる。天嵩の腕が輪の中に入らないようたぐり寄せ、腰の位置でその輪をキュッとベルトのように締める。

天嵩「わ!これ何?」

 腰がベルトで締められて初めて試合の展開から目を離しエルフを見やる天嵩。何事かと自分の腰に手をやる。コテッシ、気にせずエンジンの噴出口が天嵩の真後ろに向くように調整している。

コテッシ「準備完了!」
マッシ「よし!蒼井天嵩、よーい!」
天嵩「え!?」

 戸惑いつつ、条件反射で走り出すスタートの体勢に入ってしまう天嵩。

マッシ「ドン!」

 ボールに向かって走り出す天嵩。スタート直後に腰のジェットエンジンが点火され、加速される。つんのめるが、何とか踏ん張って走り続ける天嵩。

天嵩「うわあああああぁ!!」

 コテッシ、天嵩の右足に向かって強力磁石のような装置を投げてくっつける。試合の最前線に近づきボールが見えると、マッシもボーガンのようなものでボールを狙う。矢を放つとボールに命中し、矢の先端についていた装置がボールに取り付けられる。

マッシ「攻めろ!奪え!食らいつけ!」

 だんごになっている選手に何とか割って入り、ポン、とボールを蹴り上げる天嵩。右足の装置とボールの装置が磁石のように働き合い、ボールはどこに蹴っても天嵩の足に戻ってくる。見事なボールさばき(に見える)に唖然とする選手たち。ボールを独占したまま相手選手を何人も抜き、相手ゴールへ近づいていく天嵩。

マッシ「今だっ!!」

 思い切りボールを蹴る天嵩。ゴールから全然違う方向に蹴ってしまうが、ボールに取り付けた装置をコテッシがコントローラーで操作し向きを修正する。空中でありえない急カーブをし、キーパーの手をすり抜けてゴールネットを揺らすボール。
 唖然としてしばらく沈黙する選手と応援席。やばい、という顔をする天嵩とエルフたち。だが裏工作に気づく者はなく、やがて選手も応援席も歓声を上げ、天嵩の頭を撫でたり背中を叩いたりして賞賛する。ガッツポーズをするエルフたち。飛び上がって喜ぶ蒼井家。みんなの喜びようを見て浮かない顔をしている天嵩。
 一方、歓声湧き立つサッカーコートを河原の土手から見つめる人影。緑のセーラー服をまとった2人組の女性。1人は固い表情で睨むように、もう1人は身体を右へ左へゆらゆらさせながら、ウキウキとした表情で双眼鏡を使って群勢を見ている。

ハルカ「わぁ。すっごい盛り上がってる!」
アジュ「エルフの存在が露呈されかねない危険行為……あんなことして、あの2人、ただじゃ済まない」
ハルカ「でもあんなにキャーキャー言われて、ちょっと羨ましいな」
アジュ「(さらにキツい目になる)あなたの危険思想はおまわり班としてどうかと思う」
ハルカ「え〜だって〜、エルフっていっつもバレないようにバレないようにって気を遣ってばっかで、疲れちゃう……人間なんかよりよっぽどできること多いのに」
アジュ「人間がいなかったら私たちは存在できない!」
ハルカ「そうだけど……アジュ真面目〜。マジュメ!あはは」
アジュ「捕まる前に捕獲できなかったのは痛い。とにかく蒼井天嵩の目的を探らないと。蒼井天嵩の命令であんなことをさせられているのなら、エルフの能力を使って今後何をしでかすか」
ハルカ「40班が自分の意思でやってるかもね!脱走した目的と関係あるかも♪」
アジュ「……だとしたら尚更危険」

■蒼井家・2階 天嵩の部屋(夜)

 ベッドの上、頭の後ろで手を組み、むすっとした顔で寝転んでいる天嵩。マッシ・コテッシ、ハムスターゲージの中に再び収監されている。朝からずっと収監されているダンディは回転車でせっせと運動している。部屋に回転車の回転するカラカラという音がしばらく響く。

マッシ「蒼井天嵩。……蒼井天嵩!何だったんだ。試合に行って帰ってきただけで、結局何が欲しいのか言わないじゃないか。それになんだ、せっかく自分で決勝点を決めたっていうのに、さっきからそんな仏頂面をして」
天嵩「自分の決めた点?」

 天嵩、ガバッと起き上がる。

天嵩「お前らが決めた点だろ!」
コテッシ「いやいや、我々は少しアシストしただけで、ボールを蹴ったのはあなたですよ」
マッシ「そうさ、我々にはあんな重いボール蹴りようがないだろ」
コテッシ「そうですよ、蝶々くらいの大きさでしたからね、あの時」
マッシ「コテッシは蝶々というより芋虫だな」

 ハハハ、と笑い合うマッシとコテッシ。天嵩の怖い顔を見てすぐに真顔に戻る。

マッシ「悪かったよ。勘違いだったみたいだ。大好きなサッカーの試合で活躍したいというのが君の願いだと思い込んでしまった」

 エルフの顔を見てから、目を逸らし、自分の右耳を赤くなるほどつねる天嵩。全く空気を読まず天嵩にニコニコと話しかけるダンディ。

ダンディ「蒼井天嵩、タブレットの充電器どこかな?サンタレンジャーの続き見たいな」
天嵩「そう。そのためにズルいことするような、卑怯なヤツに見えるんだ、オレ」
マッシ「いや、そうは言っていないじゃないか……」

 天嵩、ベッドから立ち上がり、机の上のゲージに詰め寄り、机を両手の拳でバンと叩く。揺れるゲージに慄くエルフたち。

天嵩「そういうやつかもしれないね。オレって」

 顔が引きつるエルフたち。

■小学校・音楽室

 再びクリスマス会の練習時間。黒板には「クリスマス会まであと相変わらず渡辺先生は翔真のピアニカ練習にかかりきりになっており、それを良いことに好き放題している3年2組の児童たち。一部は翔真を見てコソコソと「まだできないの?」「練習進まないじゃん」などと話している。不機嫌そうな顔で腕を組んで後ろから翔真と渡辺先生をじっと見ている天嵩。

渡辺先生「そうそう、頭の中で歌いながら弾くのよね、そしたらスラスラ〜っと思い出せるからね……もう1回やってみましょうか、ね」
翔真「あの、先生……僕、大丈夫なので、みんなの練習を見てください……」
渡辺先生「なぁに、弱気なこと言って。そんなこと気にしなくて大丈夫よ、合奏の時間もちゃんととってますからね、さあ、あとひと頑張り!」

 組んでいた右手を口元に持ってくる天嵩。手の中にはマッシとコテッシ。

マッシ「蒼井天嵩、この間のことは謝るから……」
コテッシ「そうですよ、だからこんなことやめましょうよ」
天嵩「いいからやって」

 Youtuberごっこをして遊んでいた新木蓮(9)を含む男子グループ、一際盛り上がってうっかり机を倒してしまう。大きな音に驚いた渡辺先生、振り向く。

渡辺先生「こら、休み時間じゃないんですよ!遊んでる余裕があるくらいだから、みんな素敵な演奏できるんでしょうね?ほら、自分の机に座ってちゃんと練習するにゃ」
女子児童A「"にゃ"って何?」

 クスクス笑う児童たち。

渡辺先生「もう、すぐそうやって揚げ足とって。ちょっと言い間違えただけにゃ。……も、もういいからみんにゃ席に戻って、合奏するにゃ!」

 恥ずかしさと戸惑いを隠そうとするが誤魔化しきれない渡辺先生。子どもたちの笑い声は次第に大きくなっていく。にやにやしながら成り行きを見ている天嵩。

渡辺先生「にゃ、にゃにがどうにゃってるのか……」
男子生徒A「先生の方がふざけてんじゃん!」
渡辺先生「ふざけてにゃんかいにゃせん!!にゃいにゃいねぇ、あにゃにゃたちがにゃ〜んと練習しにゃいから……」

 騒ぎで収拾がつかなくなる教室。心が折れて半べその渡辺先生。

渡辺先生「先生ちょっと体調が……あの、今日はにゃいさん(解散)!にゃいさ〜ん!!」

 渡辺先生、教室をあたふたと出ていく。その背中を指さしたり、腹を抱えて笑ったりする児童たち。

蓮「よっしゃ!めっちゃ早く帰れんじゃん。さっさと行こーぜ。みにゃさ〜ん、にゃいさ〜ん!」

 騒がしく笑いながら続々と出ていく生徒たち。
 マッシ・コテッシ、天嵩のフードの中から顔を覗かせる。

コテッシ「人生でこんな悪事に手を染めたのは初めてです……胃が痛い……」
マッシ「ああ……」
コテッシ「(小声)マッシ、作戦を考え直しましょうよ……我々の計画に本当にあの少年は必要なんでしょうか?」
マッシ「必要だ。もうそのことは話し合ったはずだ」

 マッシ、天嵩に目をやる。相変わらずニヤニヤと笑っている天嵩。右手は耳をぐいぐいつねっている。

マッシ「蒼井天嵩、君の望みがこんなこととは思えないが……」
天嵩「そうだよ。こんなものじゃないよ」

 楽器を片付け、ランドセルを背負って教室を出ていく天嵩。

天嵩「まだやってほしいことがあるんだ」

■キューロランド・施設内(夜)

 閉園後、誰もいないキューロランド。警備員Aが懐中電灯で暗い館内を照らしながら見回りをしている。
 しばらく歩いていると、背後を何か小さな影がさっと過ぎる。警備員Aが気配を感じて振り向くが、誰もいないことを確認しまた歩き始める。
 突如、メインステージの方角でガコン!という大きな音が鳴り響く。音のした方へ走り出す警備員A。たどり着いてみると、メインステージ上の天井に大きな穴が空いており、水がダバダバとステージへ流れ込んでいる。
 またしても警備員の死角をさっと何かが走り抜ける。

警備員A「なんだこりゃ……!」

 警備員A、インカムのスイッチを押す。

警備員A「メインステージで問題発生、状況確認のご協力お願いできないでしょうか?」
警備員B「フェアリーエリアでも問題発生!どこからか水漏れしているようです!」
警備員A「えっ」

 フェアリーエリア、水浸しの床を見つめ呆然とする警備員B。

警備員B「水漏れというか……水浸しというか……池ができてます」

 あちこちでガコン!という音が次々と鳴り響き、そこかしこから水が噴射され館内はどこも水浸しになっていく。奔走する警備員たち。
 配管の上に立つ、体長15cmほどの生き物の後ろ姿が2つ。2本足で立ち、自分より大きく重そうなトンカチを背負っている。次のしゅんかん、サッと影が立ち去る。
 キューロランド館内、別のエリアに体長15cmサイズで駆け込んでくるアジュとハルカ。水浸しの館内を目を見開いて見渡す。

ハルカ「わ〜!派手にやったね!」
アジュ「一線を超えた……目的がなんであれ、これが正当な手段であるはずがない!」

 アジュ、怒りでそばにあった配管に裏拳打ちを入れて立ち去る。管がべこっと凹み、そこから水が噴き出す。何か言いたげな目でその穴を見つめるハルカだが、何も言わずアジュを追いかける。

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