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サンタさんへ こいつはあずかった 1/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

▼登場人物表はこちら

■1225本部・入口(夜・雪)

 一面の雪景色。空にはオーロラが輝いている。よく見ると白い毛皮のようなものに身を包んだ影が歩いている。
 雪の丘陵の中に、突如クリスマスツリーが見える。高さは10階建てビルに相当するほど大きく、赤や金色のオーナメントが燦然と輝いている。白い影はクリスマスツリーに向かって歩いていく。
 やがてツリーの根元にたどり着く。根元には大きな白クマが寝ている。

エルフA「やあ、起きてくれよ」

 白い影が声をかけると、白クマが薄目を開ける。声の主を確認し、大きなあくびをして面倒くさそうに退く。白クマが寝ていたツリーの根元には穴が空いている。

エルフA「どうも」

 白い影は穴の中に入り階段を降りていく。

■1225本部・ホール

 先ほどの彼は長い長い階段を降りきり、薄暗い廊下を歩きながら白い毛皮を脱ぐ。深緑色で厚手のスーツを着ている。いくつかのドアを通り過ぎ、最奥の大きな扉に向かう。扉の上にある、古いがよく磨かれた真鍮の大きな表札には"1225 Headquarters"と彫られている。
 ずっしりとした重い扉を開けると、10角形の形をした大きく薄暗いホールが広がっている。明かりは各壁面に1枚ずつある大きなモニターから発する光と足元の誘導灯のみ。モニターには世界の様々な地域が投影されている。ホール内では人々が歩き回ったり電子機器を操作したりと忙しくしており、皆一様に深緑色のスーツに身を包んでいる。
 各モニターの上には「North America」「Europe Ⅰ」「Europe Ⅱ」「Africa」など世界の地域名が刻まれており、人々は各モニターの前のテーブルでグループになって作業をしている。ある者はマイクで誰か遠隔の仲間に指示を出し、ある者は長い巻物のようなものに何やら書き綴っている。ホール内は様々な言語が飛び交いざわざわしている。
 各モニターの左隅には数秒ごとに切り替わる連絡事項の枠が表示されている。各地からの報告、子どもの写真と「Class adjustment : 【Paul Churchill】 Average to Excellent」など内容は様々。尋ね人の連絡もある(「MISSING : MASSI & COTESSI & DANDI」)。
 「Asia Ⅱ」のグループに通信が入る。応答のスイッチを押すと、通信相手の声がスピーカーから聞こえるようになる。

エルフB「日本第36班よりアジア第2支部、どうぞ!」
エルフC「こちらアジア第2支部」
エルフB「神奈川県横浜市、11歳、本田玲奈ちゃんのランク確認をお願いいたします」
エルフC「(後ろを振り向いて)神奈川県横浜市、11歳、本田玲奈ちゃんのランク確認です」
エルフD「(PCを操作して)えーっと……"Great"です」
エルフC「"Great"です、どうぞ」
エルフB「今しがた、喧嘩になった友人をジャングルジムから突き落とし怪我をさせ、泣いているその子を置いて逃げ去る姿を確認しました。"Good"へのランク修正を申請します」
エルフC「支部長(アジア支部長を振り返る)」
アジアⅡ支部長「(エルフDのPCを覗き込んでデータを確認し)……残念ね。プレゼントはあげられないわ。"Good"へ降格します」
エルフC「了解。(マイクに向かって)申請を承認しランク修正処理します」
アジアⅡ支部長「4月頃までは"Excellent"だったのにね……夏休みの宿題を友だちにやらせたところから調子を落としたわね」

 別の通信が入る。

エルフE「日本第39班よりアジア第2、どうぞ!」
エルフC「こちらアジア第2支部」
エルフE「先週から行方不明となっていた日本第40班の3名を確認しました!」
エルフC「えっ」
アジアⅡ支部長「(エルフCのマイクを奪って)確かなの?場所は?」
エルフE「東京都中野区、紅葉山公園付近です!追跡しますか?」
アジアⅡ支部長「いいえ、"しおり"をつけられなければ振り切られるだけだわ。おまわり班を行かせるから39班は通常業務に戻って」
エルフE「了解!」

 モニター前マイクを離れ、別の電話機をとりどこかへ発信するアジアⅡ支部長。通話相手の声は聞こえない。

アジアⅡ支部長「アジア第2支部です。行方不明になっていたエルフを日本で発見したんだけど、アジュとハルカは空いてる?……じゃあ、よろしく」
エルフD「管轄エリアからそんなに遠くに行ってなかったわけか。(小声で)なんで逃げたりしたんだろ」
エルフC「さあね。いずれにしろ、捕まるのは時間の問題だよな。うちの管轄内じゃ……(支部長をチラリと見やる)」

■小学校・音楽室

 音楽室。黒板には「クリスマス会 あと8日!! 14:40〜15:10 ピアニカ練習 15:10〜 合奏」と書いてあるが、ピアニカの練習に真面目に取り組んでいる児童は少ない。おしゃべりに夢中なグループ、Youtuberごっこをしてふざけているグループ、渡辺 江里子先生の似顔絵を書いて遊んでいる子。担任教諭の渡辺 江里子はピアニカが苦手な小川 翔真しょうま(9)をかがみ込んで指導しているが手間取っている様子。その様子を後ろの席からじっと見ている蒼井 天嵩てんた(9)。一応ちゃんと席に座っているが、足でサッカーボールをいじっている。

渡辺先生「ジングルベー、ジングルベー、す……までは同じ音なのよ。だから、そうね、ジングルベー、ジングルベー、す……ず!ず!でここに上がるのね……そう、ちょっと遠いんだけど、ここからここね……」
天嵩「(先生と翔真のところへ歩いていき)いつまでやるの?」
渡辺先生「(てんたを見上げて)い、いつまで?……あ、蒼井さんごめんねぇ、もう少し待っててね〜小川さん頑張ってるからね!!」
天嵩「頑張っても全然できるようにならないじゃん」

気まずそうにうつむく翔真。

渡辺先生「ンもう、蒼井さん、そんな風に言ったら……」
女子児童A「ちょっと天嵩!なんで頑張ってる人に向かってそんなひどいこと言うの?サイテー!」
天嵩「頑張らなくていいだろ。こんな簡単な曲も弾けないなら。お前らも練習してないんだから早く帰ればいいのに」

 児童が集まってきてブーイングの嵐が起こる。渡辺先生がなだめようとするが収まらない。翔真が立ち上がってピアニカを片付け始める。

渡辺先生「あら、小川くん、どうしたの?」
翔真「…ごめんなさい。家で練習してきます。今日は、もう帰ってもいいですか…」
渡辺先生「え、えぇ…」

 いそいそと教室を出ていく翔真。「あーあ」だの「うわー」だのと声を上げ、非難するように天嵩を見る生徒たち。

渡辺先生「さ、ほら、合奏の時間ですよ!みんな自分の席に行ってね、さぁ、さぁ!」
男子児童A「(天嵩の肩を叩いて)もうちょっと人の気持ち考えろよな」
女子児童B「こーゆーときっていっつも天嵩」
女子児童たち「ねー。」
天嵩「…」

 自分の右耳をぐいぐいとつねる天嵩。

■蒼井家・1階 リビング(朝)

×  ×  ×
(リビングで流れているアニメ「聖夜に成敗!プリティサンタ」のワンシーン)
   悪役バードッグ(犬の顔をした怪物)が
   手のひらサイズの星の精霊を鷲掴みに
   している。
バードッグ「はーっはっはっは!これで星の精霊も、お前の魔法も俺のもんだ!」
精霊「放せバードッグ!このっ!プリティサンタが来たらお前なんかやっつけてやるんだからな!」
バードッグ「プリティサンタがなんだって?あいつなら今頃オレ様が仕掛けた罠にまんまとハマって、今頃地球の裏側さ……」
プリティサンタ「地球の裏側からだって飛んでくるわ!」
精霊「! プリティサンタ!」
バードッグ「なに!?」
プリティサンタ「良い子にプレゼントを配るため、悪い子を懲らしめるためなら、地球の裏側からだって飛んでくるって言ったのよ……ソリに乗ってね!さあ、聖夜に成敗!ヨイコハット!」
精霊「ヨイコハット!!これを被せられると、どんな悪いやつでも良い子になっちゃうんだ!!」
バードッグ「(恍惚とした顔から、急にキリッとした表情)私は一体何をしていたのだろう……!プリティサンタさん、これまでの無礼をお許しください!」
プリティサンタ「リンリン問題解決!あなたが壊した街を直しに行こ。手伝ってくれるよね?」
バードッグ「喜んで!!」
×  ×  × 
 朝ご飯を食べながらぼんやりとアニメを見ている天嵩。天嵩の母・蒼井 優はお皿を片付けている。天嵩の父・蒼井 正人は天嵩の妹・蒼井 妃璃愛ゆりあの髪の毛を結んでいる。

優「こら、天嵩!口動かしてる?早く食べないと遅刻だよ!」
天嵩「んー」
妃璃愛「パパなんで2つ結びなの!三つ編みがいいって言った!」
正人「そうだったっけ?ごめんごめん!直しますよ〜」
妃璃愛「もう」

 天嵩の兄・蒼井 祐徠ゆうらが自室から出てくる。

祐徠「おはよう」
正人・優「祐徠、おはよう!」
祐徠「母さん、クリスマスの土曜日だけど、塾が休みになったよ。だから俺もキューロランド行けそうなんだけど、チケットまだ取れるかな?」
優「ほんと?やったー!じゃあこれで家族みんなで行けるね!よかったね妃璃愛、ゆう兄来れるって!」
妃璃愛「うれしい!」
正人「チケットはなんとかするよ。でもなんで休みになったんだ?」
祐徠「冬期講習の日程勘違いしてた。別のレベルの日程見てたんだ」
正人「へぇ」
天嵩「じゃあオレ行かなくていい?」
優「……えー?なんでそうなるの」
天嵩「サッカーの練習ある」

 優・正人、少し緊張した顔で目を見合わせる。優、天嵩の隣に座り、少し顔を寄せる。

優「天嵩……その日だけお休みしようってお話したよね?クリスマスだから、みんなでお出かけしようって……」
天嵩「でも行きたくない。オレのチケットを兄ちゃんが使えばいいじゃん。オレ留守番できるよ」
正人「チケットはまだ取れるから大丈夫だよ。その日は試合じゃなくて練習なんだろ?1日だけ付き合ってよ。天嵩を一人で置いていけないよ」
天嵩「置いていけばいいの!キューロランドなんか楽しくない」
優「えー、でも行ったことないでしょ?行ってみてさ、楽しいかどうか確かめてみようよ」
天嵩「サッカーは確かめなくても楽しいってわかってるんだからサッカーに行きたい」
正人「天嵩をサッカーに行かせるためにはママかパパのどっちかがキューロランドに行けなくなっちゃうだろ?」
天嵩「じゃあ父ちゃんが残れば。キューロランドなんか女が行くところだろ」
妃璃愛「イヤ!パパも来るの!パパ来ないの絶対イヤ!」
優「男でも女でも、大人でも子どもでも、誰が行っても楽しいよ!(妃璃愛に向き直って)大丈夫だよ、妃璃愛。パパも来るよ。天嵩も来るからね」
天嵩「行かねえよ!」
祐徠「いい加減にしろよ天嵩。行くって約束したんだろ。小学生のくせに4歳児と同じレベルのワガママ言うな」

 天嵩、食器を片付けに台所に向かった祐徠にスプーンを投げつける。はねた汁を拭きにいく正人。

優「こら!天嵩!それはダメだよ!」
祐徠「家族で決めたことをいつもお前がこうやって乱すんだよな。母さんたちの気持ち考えろよ。いちいち面倒くさいんだよ」
正人「祐徠、もう大丈夫、ありがとう。パパたちから話しておくから、もう行きな」
祐徠「……行ってきます」
優「あ、祐徠待って!お金入れといたからね(財布を渡す)」
祐徠「ありがと」
天嵩「またお小遣い?母ちゃん、オレずっともらってないよ」
優「何言ってんのよ、塾で夜ご飯買って食べるために渡してるの!お母さん火曜日と金曜日は遅番で夜のお弁当届けられないからって、この間も言ったでしょうが」
天嵩「ずるい」
優「ずるくない!天嵩にもちゃんとお小遣いあげてるじゃん!」
天嵩「ご飯代にしてはいっぱい入ってる」
祐徠「お前、人の財布勝手に見るなよな」
天嵩「兄ちゃんだけずるい!」
正人「ほら、天嵩、いいから早くご飯食べなさい」
祐徠「行ってきます」
優「行ってらっしゃい!気をつけてね」

 天嵩、むすっとした顔で兄の背中を睨む。

正人「よし、妃璃愛、そろそろ幼稚園行こう」
妃璃愛「パパ、だっこ」
正人「あれ?歩けなくなっちゃったのか〜?もうしょうがないな〜」

 天嵩、妃璃愛を抱き上げる正人を睨む。自分の右耳をぐいぐいつねっている。

■小学校・昇降口(夕)

 チャイムの音。靴箱で外履きに履き替える天嵩。隣にランドセルとピアニカを持った翔真がやってきて、靴を履き替える。ピアニカをチラリと見て、話しかけるか、少し迷う天嵩。

天嵩「翔真、」
翔真「なに?」
天嵩「……1人でピアニカ練習すんの?」
翔真「しないとね!みんなに迷惑かけちゃうし」
天嵩「……オレ……」
翔真「じゃあ、また月曜日ね!」

 走って帰っていく翔真。翔真の背中を見つめる天嵩。

天嵩「迷惑だなんて、言ってないのに」

■公園・広場(夕)

 ネットに入れたボールを延々蹴りながら下校する天嵩。
×  ×  ×
(フラッシュ 1)
男子児童A「(天嵩の肩を叩いて)もうちょっと人の気持ち考えろよな」
女子児童B「こーゆーときっていっつも天嵩」
女子児童たち「ねー。」
(フラッシュ 2)
祐徠「家族で決めたことをいつもお前がこうやって乱すんだよな。母さんたちの気持ち考えろよ。いちいち面倒くさいんだよ」
×  ×  ×

 天嵩、蹴る足に力が入り、ボールをボール入れのネットごと遠くへ飛ばしてしまう。追いかけてボールを拾い上げ、ふと目を上げると、公園の反対側で深緑色のスーツを着たおじさん3人がベンチに座っているのが目に入る。3人とも斜め右後ろに少し身体をひねっており少し様子がおかしい。それぞれ新聞を広げていたり缶コーヒーを口につけ飲む仕草をしたりして誤魔化してはいるが、明らかに何かをじっと観察している。
 彼らの背後には茂みがあり、その向こうにポストがある。小さい女の子が母親に抱き上げてもらい、カラフルな便箋をポストへ投函する。

少女A「サンタさん読んでくれるの?」
母親A「読んでくれるよ。お名前ちゃんと書いたでしょ?」
少女A「うん!」

 親子がポストから立ち去るのを確認すると、3人同時にパッと立ち上がり、そそくさとポストに向かって歩いていくおじさんたち。回り道もせず茂みに突っ込んでいく。ところが、ガサガサと音を立てて茂みに入り、かがみ込んだ瞬間に彼らの姿が見えなくなる。目をぱちくりさせ、訝しげに茂みに駆け寄る天嵩。
 覗き込むと、茂みの向こうから緑の小動物のような影が3つ、ポストに向かって猛進するのが見える。トタトタとポストに駆け寄り、その表面を垂直に駆け上がり、まず影のひとつがポストのてっぺんにたどり着き、通りを見渡して人目がないか確認している。体長15cmほどに縮んでいるが、よく見れば先ほどベンチで新聞を読んでいたおじさんである。服はスーツから緑色のサンタの様な格好に変わっており、緑の三角帽子も被っている。
 彼の合図を受けてもう一人がポストをよじ登り、投函口から身体をねじ込んでいる。お腹が入り口につっかえてしまった彼を3人目が後ろから足でげしげし蹴って押し込む。この2人もやはり先ほどベンチに座っていたおじさんたちらしい。スポンッ、パサッ、という音に続き、紙が擦れる音。どうやら中に着地したおじさんが手紙を漁っている。3人目がどこからか細い縄を取り出し、投函口から中にそれを垂らす。しばらく待ってからぐいぐい縄を引くと、先ほどの少女が投函した手紙が縄の先にくくりつけられているのが見えてきた。中に入っていたおじさんが後からよじ登って戻り、2人で手紙を引っ張り出し、ポストの上にいた見張り役に手渡す。
 ポストの上で合流した彼らは手紙を頭の上に平らに掲げ、3人で協力して運んでいく。3人の姿は手紙に隠れ、まるで手紙がポストの周りを這うようにしてひとりでに下りていくように見える。地面にたどり着くと、手紙は茂みに向かい、天嵩の方へやってくる。

■同・茂みの中(夕)

 茂みの中、枝や葉を避けながら上機嫌で手紙を運ぶエルフたち。先頭からマッシ、ダンディ、コテッシが縦に並んで小走りで進んでいく。

マッシ「首尾よし、首尾よし」
ダンディ「お手紙、ゲッツ!」
コテッシ「(息切れしながら)でも、どうやってもう一度投函するんです?私たち3人とも行くのなら……」
マッシ「さあ、どうしましょうかねぇ!誰か手伝ってくれるといいですけどね!人間の子どもとか……」
マッシ・コテッシ・ダンディ「「「うわああ!!」」」

 エルフたちは走るうちにいつの間にかネットの中へ手紙ごと突っ込んでいたらしい。突然そのネットがそのまま持ち上がり、ネットの中でもみくちゃになる。何事かと焦って周りを見回すと、3人の目の前に天嵩の大きな顔が現れる。
 小脇にサッカーボールを抱え、もう一方の手でボール入れのネットをしっかり握り、その中に捉えた生き物たちを不思議そうに見つめる天嵩。開いた口が塞がらないエルフたち。
 ニヤッと笑う天嵩。

■1225本部・ホール

  相変わらずガヤガヤと忙しいホール内。「Asia Ⅱ」のグループの受話器が鳴る。支部長の専用になっている端末らしく、他のエルフはチラリと見るが取ろうとしない。すぐに支部長がつかつかと歩いてきて電話を取る。

アジアⅡ支部長「はい、アジア第2支部。……さすが早かったじゃない。もうあの3人を捕まえたのね。……え?"捕まった"?」

 目を見開いて言葉を失う支部長。

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